第95話

「どういうことだ?俺のプロミネンスランスは確実にヒットしたはず…なんで死んでないどころか傷も治ってるんだよ?」


突き飛ばされたルービィ少年の様子を気にしながらも、全力の警戒心を目の前の小柄な少女へ向けて武器を構えるフォルフォー少年。

完全な不意打ちで、光源がアルルが持っていたカンテラしかない状況では相方が致命傷を受けたのかも分からない。

出来れば助けに入りたいところだが、それをするのは少しばかり難しい状況である。


「さて、どうしてでしょうね?」

「…まさかっ!あの別の空間にアイテムをしまうとか言う腕輪で自分自身が入って、攻撃を避け…」

「違いますね」

「あ、そう」


我ながら名推理に違いないとドヤ顔を晒す直前で否定されて少しばかり恥ずかしそうにするフォルフォー少年。


「…フォルフォー、多分、この子はさっきのアルルと名乗った女の子じゃない。仮に体が治ったにしても服装まで無傷なのはおかしいだろう?」

「ルービィッ!無事だったか」


無傷ではないが大きな怪我をせずに立ち上がるルービィ少年。


「ああ、ギリギリね。先ほどのポーションがどうだとかいう下りで、自分でも考え過ぎじゃないか、もしかしたらと警戒してしっかりと魔科学武器で防御できたのが良かった。でなければ死んでいたよ」


と、自らの剣を指して意味深なことを言うルービィ少年。


「…さすがに優秀過ぎませんか?」

「あの時に、君にとってはポーションを…正確にはこのダンジョンで得られたアイテムを使わせることに大きな意味があるんじゃないか?と考えた自分を褒めてやりたいね」

「ルービィ?どうしたんだよ、いきなり変なことを言い出して?」

「僕たちがポーションを使用している前提で何かしようとしたのは分かった。そして、それはポーションに何か細工をしていると言っているのと同義。かつ何かできるような人間はどんなやつかと考えたら、今の技術力でも再現できないと言われているポーションに手を加えられるのは製作者かその関係者くらいじゃないかと想定する。その場合、ダンジョンで得られたポーションがそうならば…今までの技術体系で全然説明できないダンジョンで得られたものは全てそうなんじゃないか?僕はそこまで考えたんだ」

「…赤髪の彼…フォルフォー、でしたか。彼に比べて貴方はだいぶ頭の回転が早いようで。見事な推理に脱帽です。答え合わせはいりますか?」

「いや、必要ないよ。

すでに自分で見つけてある。君のできることの見当もね」

「なんですって?」

「君が先刻、僕たちに見せたアイテム収納の腕輪。あれが証拠だ」

「…あれが何か?」

「あれはアイテム収納が可能な腕輪ではない」

「…」

「あんなコンパクトな腕輪にそんな機能をつけるなんて到底無理だと言う僕の見識に間違いは無かったんだよ。あれ、だけなんだろう?」

「…っ!!?」

「信じられないことだけれど、このダンジョンで手に入るアイテムは全て君が創り出しているんだ。そして生み出したものを無かったことにも自在にできる…これはこれで信じ難い超常の技だが、次元に干渉する小型装置を創り出したなんて話よりは余程現実的だね」

「…なかなか見識深いようで。誤魔化す意味は無さそうです。まあ、誤魔化せたところで意味はないのですけれど」

「…ここで殺すからかい?」

「ええ、その通り。

私の創ったこのダンジョンのこの部屋には貴方達が落ちてきた天井の穴以外に出口はありません。

私を倒せたとしても貴方達に待つのは餓死という名の死…であるはずですが、私の先輩達は人間を甘く見て死んでいったと言う話ですから手は抜かずに、しっかりとリソースを割いて始末することにします。例えばこんなふうに」


そうアルルが言い放つと同時に、まずフォルフォーが警戒のレベルを引き上げて剣をいつでも振れるように構える。


「どうした?フォルフォー、何をされたんだ?」

「ちげぇよ、ルービィ。

周りに神経使って注視してみろ。囲まれてる」

「なにっ?」


即座に気づいたのはフォルフォー少年だった。

無傷で元気に動いているアルルとは別の、初めに魔法で爆発四散したアルルの死体が僅かにいまだ燃えている火の光りと、その近くに転がるカンテラの灯りしかないため、部屋全てを照らしているとは言い難い、かなり薄暗い現状において、囲まれていることにすぐに気づいたフォルフォー少年。

それを見て、2人の少年を取り囲んだ新たな闖入者達は不意打ちは無理そうだと判断したのだろう。

ぞろぞろと暗がりから姿を見せる。

現れたのはゴブリンが数十体。

通常、猿の一種であるゴブリンは一箇所に沢山の群れで過ごすのが普通であるが、こと不思議なダンジョンにおいては普通では無い。

多くて3匹ほどしか集まらないリーフゴブリンが数十匹もいるのは異常、もとい、アルルがゴブリンに対して干渉し、自在に操ることができると言うことの証左である。


「リーフゴブリンの群れか。こんなに…どこから。いや、それよりもフォルフォー、攻撃を防具で受けるなよ。僕たちの着ているダンジョン産のアイテムを加工して作成した防具は使い物にならなくなってると考えろ」

「あいよ。で、どうするんだ?全部、叩きのめして良いのかよ?」

「…彼らを始末して、アルルを追い詰める。落ちてきた穴しか出口が無いと言ってはいるが、少なくとも彼女がやってきた道はあるはずだ。そして、それは素直に聞いたところで教えてくれるはずもなし。言い方は悪いが彼女を叩きのめして、追い詰めたところで交渉だ。なかなかどうして難しいことだけど」

「つまり?」

「今までの慎重路線はやめて、全力を出して良いってことだ」

「そいつはエクセルじゃねーか。援護は頼むぜ」

「分かってるとは思うが油断はするなよ。それとエクセルはエクセレントって言いたいのか?」


2人はいつも通りのやりとりを素早く済ませて、早速とばかりにゴブリンと殺し合いを始めた。

数分後。

立っているのはフォルフォー少年とルービィ少年の二人だけ。

総勢、60匹ほどいたゴブリン達を特に怪我なく、素早く仕留めることに成功。

それを見て眉を顰めるアルル。


「大人しく出口を教えてくれても良いんだぜ?」


武器についたゴブリンの血を払いながら余裕の挑発すらやってのけるフォルフォー少年。


「ゴブリンは決して弱くないんですけれど…無傷で切り抜けますか…しょうがありませんね。ゴブリンを作る材料も馬鹿になりませんし、私の体のスペアも無限にあるわけではありません。下手に私だけで始末しようとしても、無駄にリソースを消費しそうですね。私の無能を晒すようで嫌だったのですが助けを借りることにします」

「フォルフォー、何もさせるなっ!」

「分かってらぁっ!とっ捕まえて言うことを言うことを聞かせてやるぜ!!」


悪党みたいな言葉を吐きながら、アルルに躍りかかる。が。

一足遅かった。


「たすけて、キノコマン」

「…っ」


ゴブリンのように急に現れた異形がフォルフォー少年を殴り飛ばす。


「ぐはっ!?」

「フォルフォーッ!?」


アルルを守るように現れたのは四肢の付いたエリンギのような姿をしたキノコマンと呼ばれたモンスターであった。









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