第80話

おじいちゃんの家に遊びに行くと言う話から1週間が経過した。

おじいちゃん?

芋羊羹を貰いました、まる。


特筆すべきことはないので、特に語らんよ。


そんなことよりも大事なことがある。


はっきり言う。


魔王がまた倒された。


魔王クリエイターの画面が自動で開いたと思ったら、異形のヒトの項目が消えて、さらには魔王ゾンビとそれが創り出したであろうゾンビたちまで丸ごと死んでいた。


ど、どういうことだってばよ!?


ま、まて。まずは魔王ゾンビと異形のヒトに付けてた魔王蝶々が見た光景の記憶を見返してみよう。そうすれば何があったか分かるはず。

そうして見た結果が、こいつは色々とクるぜ、って感じの顛末であった。


「…か、可哀想なことをしてしまったな」


特に、異形のヒトと熱戦を繰り広げたアニーとやらは最終的に魔王ゾンビよりもゾンビな女性の死に様を晒している。惨すぎる。

見なきゃ良かったと後悔。

異形のヒトに至ってはそんなに僕に褒めて欲しかったのかと、一度呼び戻して褒めるくらいしてあげればと今更ながら罪悪感が…でもそんなこと一言も言われなかったし!いや、生まれてすぐの時は喋ることはできなかったか。相手方のアニーさんとやらにも罪悪感が…くっ!いや、気にしない。

気にしないでおく。努めて気にしないでおくさ。

気にしてもどうにもならんし。


まあ、そこは良い。

良くはないが、良いのだ。

問題は魔王ゾンビ、お前だよ。


ぶっちゃけ僕はお前に一番期待をしていた。

お前ならばこの人口過多かつ一部の技術力が地球よりも遥かに高みにある連中にも充分戦える。

なんならお前だけで大陸制覇できちゃうんじゃね?ぐらいに期待していた。

していたということにする。


しかしだ。

彼らは魔王蝶々の記憶を見る限り簡単にあっさりやられた。

いつの間にやら、やられてしまったのだ。


都市もろとも大爆破をされて。


まじかよ、とドン引きである。

なんでそんな暴挙に、いやまあ一番効率が良いのはわかる。

下手に交戦しても、魔王ゾンビが排出する強い雑魚敵なゾンビワーカーやら中ボス並みの戦闘力を持つゾンビソルジャーが沢山いる。倒してもその死体を材料に復活、倒された人間がいればその死体を材料に母数が増える。


下手に交戦するくらいならば纏めて焼き払った方が一番被害が少なく、実に効率的である。

感情を別にすればな!

しかも、敢えての都市丸ごと、そこに沢山の何も知らぬ人々を囮として残したまま。

魔王ゾンビによって二つ目あたりの街を潰した段階でそれを決めたらしく、その迷いの無い決断力の高さたるや恐怖を覚える。脱帽したよ。

さらに驚いたのがそれだけのことをしたのに民衆による反乱やら混乱の気配がまるでないことだ。

論理的に一番犠牲が少ない方法だと分かっていても、どこかしらから倫理感的な抗議の一つや二つは飛び交ってもおかしくないはず。

どういうこっちゃ?

魔王ゾンビに攻め込ませたユミール公国は狂人の集まりかな?

結束力の強い国らしいことは魔王蝶々を通して分かっていたが…

その強さのあまり、軍部がそう判断したのなら仕方ない、犠牲が多くなるくらいなら俺たちを犠牲にするのもやむを得なかったんだって感じだろうか?


なんにせよだ。


これで人類間引き用の魔王が軒並み全滅してしまった。


なるほど確かに。

人間というのを舐めていたのは認める。

でもおかしくないか?

生き残りやすさを示す生物強度が10の人間に対して、60とか90以上の魔王までやられてしまうなんて。

いや、人と言っても個体差や持っている道具の性能まで加味されてないだけかもしれないが。

にしても。

にしてもだよ。


いや、まあ元日本人の倫理観的に、人としても喜ばしいことではあるが、しかし、間引きを依頼されている側としては困る。

僕がもたもたするあまり転生時の声の主がどんな対応をするのかが怖い。

何もしなかった時は寿命が減っていたが、手こずってコイツじゃ無理だなと判断された時はどうなるのか?

なんにせよ、このまま創ったそばから魔王が討滅されていけばいずれそうした者が現れる前提の防衛体制まで用意されて、ますます間引きが難しくなる。


下手をすれば生み出している何かがいるということがバレる。というか国によっては疑い始めてる。

今まで影も形もなかった様様な敵対生物がポンと出るはずも無いのだから。

僕は思わず頭を抱えてしまった。

僕が使えないと判断されて別の人間が転生してくるなんてことになったら最悪だ。


母やリアちゃんを始めとした僕の周りの人間に危害が及びかねない。

僕の好きな人達の健やかな日々のためにもキッチリ間引かねばならぬ。


よし。

決めた。


本気で魔王達をクリエイトすることを。


なんだかんだで手を抜いていたことは否めない。

お試し感覚で創った魔王ヨトウガから始まり、それ以降の魔王達はまあ人類を間引くつもりで本気で創ってはいたが、どこかしらに真剣で無い部分は確かにあった。

なんせこちとら普通の家庭で、普通に育ってきた一般人なのだ。

僕が死んだ際に超常の神らしき存在から、記憶を無くして云々という、ある意味で命が掛かった状況でもなければ人殺しなどやるはずも無い。なんならそうであっても殺したく無いと考えるのは当たり前で、それでも自分が消えたく無いからとそうした忌避感やら倫理感を無視しやすいように、直接殺さずに済む魔王クリエイターの力を貰ったわけだ。

その魔王クリエイターもやはりどこか罪悪感が根底にあり、割とおざなりな魔王創造を行っていた。

色々な意味で現実から目を背けて、見て見ないふりをして、適当にやっていた結果が主要な魔王の全滅。

そこからの警戒態勢。


猛省すべきだ。


まず認識を改めることから始めよう。


そもそも人間相手に真っ向から勝負するのがバカだった。

地球でもそうだったではないか。

人間より優れた身体能力を持つ生き物は様々いれども、人間こそが食物連鎖の頂点に君臨していた。

知恵を持って、手と手を取り合い、様々な道具を生み出した結果だ。


僕もまたその例に倣う。

多少の作戦は必要だ。

魔王同士を連携させよう。

道具も用意すべきだ。


すまない、人類よ。

君たちは僕を本気にさせたのだ。

割と適当に魔王を作っていた僕とはお別れだ。

これでいけるだろ?ぐらいのテキトーな感覚で魔王を創ることはもう無い。

これから生み出す魔王は今までとは一味違う。


最強だ。

現状創れる最強の魔王達で人類を片っ端から殺しまわってくれる。

人類よ。重ねて、すまない。

僕の平穏のために死んでくれ。


文句ならばあの世で声の主に言ってください。


心の内から次から次へと湧き出てくる罪悪感に「どうせ僕がやらなくても別の何かが声の主から送り込まれるのだから」という、いつもの自己弁護をしつつ、ついでに聖女達も回収することに思い立つ。

魔王達がやられたことで復興や、堕とされた街を確認しにきた人間が一気に増えた。

つまり子供の面倒を見させていた聖女達との小競り合いが激増し始めた。


死に際の異形のヒトの言葉を、魔王蝶々の記録から知った僕は改めて自ら創り出した魔王を含めた生物達への接し方を考える。


今までの僕はあまりちゃんと接していなかった。

創られた生き物だからと、人を虐殺して回る生体兵器だからと、無意識に雑に扱っていた。

人形に接する感覚に近い。いや、なんなら汚れ仕事をさせている彼らを汚い存在として、敵を見る感覚に近かったやも。

頭の片隅にそうした存在と僕は別物であると追い込もうとしていた節があったのは認めよう。

超常の存在から貰った力で創った生物ゆえに、あの存在の仲間的な目で見ていた。

僕の力でそう創っておきながら、人を殺して回る兵器だからと薄ら疎ましく感じていたのは否めない。

なんと身勝手な。

彼らもまた僕の、ひいては超常の存在の被害者なのだ。

超常の存在が僕に強いたように、僕が彼らに人の間引きを強いている。

しかも、それは僕と違ってより命を危険に晒す必要のある命懸けの行いだ。

それを喋ることのできる魔王であった異形のヒトを見て、今更ながらに気付かされた。


これからはちゃんと優しくしてあげよう。

一個の生命として接しよう。

生み出した責任を。

僕の代わりに血を流すであろう彼らに対して。

僕の代わりに手を汚す彼らに報いよう。


改めてしっかりと自覚するのだ。僕は人類の敵であるということを。

あっちもこっちもと同情していたらキリがない。

そう強いられている以上、やることが決まっている以上、本気でやってさっさと終わらせて後はのんびりと過ごすのだ。


そう心に誓いながら死体が腐敗したり、片付けられる前に魔王蝶々を介して次々と死体を魔王へと創り替えていく。

今度は使い捨て、とまではいかないがシッカリと情を込めながら創っていく。

とはいえ、異形のヒトがいた大都市ランブルと焼き払われた魔王ゾンビ達や市民達、軍人達の焼け残りくらいしかないが。

タイミングが悪く、他の街の死体は既に腐敗したり聖女達が子供達への病気予防がてら撤去している。

だが、ひとまずは異形のヒトが死に際に殺した傭兵ギルドに所属していた人達の死体やら、焼け残った魔王ゾンビたちの死体だけでも充分だ。


さあ、まずはあつまれ。

僕の元へ…は困るので、なんだかんだで金を積んだらあっさり貰えた醤油を手に入れて帰路に着いている魔王エルルちゃんの元へ!

も、ダメだな。

移動し続けてるし、醤油を届けにここに来るし。

どうしよう。

どこに集まらせよう?

場所を用意できるスキルを作るかな?

いや、いっそのこと。



魔王達が集合できる家を創ろう。







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