Ⅴ章 謀略
第79話
あくる日のこと。
「エルル〜、明日はおじいちゃんが遊びに来なさいって言ってたから遊びに行くわよ〜」
畑仕事をした帰り。
洗面台で土で汚れた手を洗って、ゼルエルちゃんの体に着いた土なども洗っていると晩御飯の準備をしていたであろう母の声が台所から聞こえてきた。
おじいちゃん家か。
行くのは1ヶ月ぶりくらいだ。
前にチラッと話したが、母親の実家は豪農であり、その1人娘の子供、すなわち孫である僕に会う約束があったと覚えていた人はいるだろうか?
リアちゃんの性格の悪い母親であるレムザ・ホホイは貴族の血を引くが、急に立て続けで両親ともに故人となった際、本来ならばリアちゃんはホホイ家預かりとなるはずだった。しかし、僕としては貴族に引き取られたらリアちゃんと会えなくなったり、政略結婚のような望まぬ結婚を強いられるのでは?と心配になり、母にウチで引き取れないかという相談をしたのだ。辺境一の美人であるリリサさんと双璧をなす、顔だけリリサと名高いレムザの血を引いたなまじ可愛すぎるリアちゃん。
政略結婚の可能性はだいぶ高そうだ。
本来ならば無茶無謀であったそれは豪農であるおじいちゃんの助力を得て達成。その代わりに駆け落ちして絶縁した状態の…したつもりの母に顔を出しなさいと言う条件のもとリアちゃんを引き取ることに成功したのだが…
実はすでに何度も会っていたりする。
そのおじいちゃんがどんな人物かと言えば実に普通のおじいちゃんという感じ。
アニメや漫画に出てくる過剰な孫バカというわけではなく、かと言って僕の父親がアレだったからとその血を引く未だ子供の僕に鬱憤をぶつける程、幼稚というわけでもない。
そんなおじいちゃんと母の久方ぶりの顔合わせ。
初めは母の色々な事情もあり、久しぶりに会ったであろうおじいちゃんとの対面時には気まずそうに顔が強張っていたが、おじいちゃんの「色々と言いたいことはあるが…うむ。立派になったな」との言葉に号泣。
おじいちゃんの奥さんであるおばあちゃんと抱き合って泣きじゃくっていた。
聞いてもいないのにレムザから母の事情を聞かされていたのもあって僕も、ざっとした事情は知っている。知っているゆえに僕まで泣きそうになってしまった。というかちょっと泣いた。
また、母の養子となったリアちゃんにも優しい。
普通に分別あり、愛想ありの年配の男性、というのが僕の所感だ。
まあ、孫バカという程ではないが可愛がられていることには違いはなく、ちょくちょく遊びに行くことはあったのだが、一月も会わないと流石に遊びに来て欲しいと言ったところか。
僕の家とおじいちゃんの家が近い分、なおさらのこと。
「分かったぁっ」
母に返事をした後、手を洗い終えた僕の手を自然な動作でリアちゃんが拭いてくれた。
ん?と思った人もいるかもしれない。
リアちゃんに手を拭かせてんのか?手くらい自分で拭けよと思ったことだろう。
しかし、これはもちろん僕が頼んだことでは無い。
リアちゃんの自主性に任せた結果、いつのまにか、こうなったのだ。
と言うのも最近、気遣いのレベルが成長著しい彼女はやたらと僕の世話を焼きたがる。
僕が畑仕事から帰ってくると、いの一番に駆けつけて甲斐甲斐しく僕の世話をするのだ。
もちろん初めはそんなことさせるのは気が引けた。
しかし、彼女があまりにやりたいと言うので「お姉さんぶりたいのかな?」、「誰かの世話をするのも情操教育に良いかも?」と考え、付き合っていたら今に至る。
いくら頭が良くなる聡明スキルを与えたリアちゃんもやはり子供。
誰かの、何かの世話を焼きたがることもあるだろう、スキルありきでも子供らしい部分は消せないんだなぁ、とあまり良く考えずに任せていたら、彼女の些か過剰な世話が当たり前になりつつあるこの頃。
今みたいに手洗いのたびに手を拭いたりするのは流石に過剰すぎないかなと思うのだが…さて。
どう対応したらいいのか、まるで分からない。
このまま放置しててもいずれ落ち着く気もするし、逆にずっとこのままな気もする。
拒否するか、しないか。
色々と迷った結果、とりあえず様子見で良いかなと今日も僕はリアちゃんに奉仕されるのだ。
あ、ちなみに僕もやられてばかりでは申し訳ないと言うことで、彼女の要求は悪いことでも無い限り全て受け入れてきた。
ただ…
一緒に風呂に入って体の洗いっこだったり、添い寝だったり、抱きしめたりと彼女はやたらと接触を求めてくることが多い。
人との接触を求めがちなのは注いでいる愛情がまだまだ足りないのかな?とか子育ては難しいなぁとか、もろもろを考えつつ。
「自分と比較できないのがまた難しいよね」
「何の話?」
僕の子供時代とはまるで環境が違うために、普通の子供ならこうだろう?と言う予想ができない。
さらには彼女の身を守る力になればと聡明スキルを与えたせいで彼女の知能や情動とかの発育具合がよく分からんのも難点である。
リアちゃんに顔を拭いてもらいながら、思わず漏れた言葉に彼女がキョトンとする。
「リアちゃんがもっと幸せになるにはどうしたら良いかなって」
いっそのこと聡明スキルがあるから尚ややこしいことになっているに違いないと、ひとまずスキルを取り上げるか、と考えて魔王クリエイターを開くが思い直した。
確かスキルの回収は出来なかったはず。
ゼルエルちゃんで試した時はそうだった。
「…?
私は幸せだよ?」
何いってんの?と言う顔をしたリアちゃんを見て、まあ良いかなって気になったので気にしないことにした。
小難しく考えすぎていたのかもしれない。
思いやりを忘れずに普通に接していれば自然と立派なレディに成長するさ。
きっと。
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