Ⅳ章 熱戦

第59話

またか。


「ぐきゃぁっ!?」

「猪頭団がこんなメスガキ1人に壊滅させられるだとっ!?」

「逃げっ…あぴらひぃっ」


僕は魔王エルルちゃんの体で今日も盗賊退治をしていた。

東へとひたすら歩いていくのだが、いかんせん盗賊が多く、畑に害をなすことが分かっている以上無視して通り過ぎるのも気が引ける。

かと言って始末するにはなかなか手強いやつばかりで手間隙がかかって面倒で仕方なかった。

はっきり言って旅に出た当初の楽しさは大分減衰している。

最近では盗賊は襲ってきた連中を除いて無視しても良いかなと思いながら渋々始末しているくらいだ。

農家のせがれとしての義憤よりも怠さの方が優ってきた。

さらにその楽しさを阻害する出来事があった。

まさかの魔王ヨトウガの全滅の報だ。

いや、それ自体はあまり関係ないか。

問題は聖女達がまるで足りないということだ。

もとい街にいた人間ごと殺虫剤で全滅させられたのを魔王蝶々によって確認した後、少し考えて新しく魔王を送り込むことはしないでしばらくサドラン帝国は放置することにした。魔王ヨトウガによって壊滅させられた都市の生き残りである子供達を保護するための聖女達がまるで足らなかったからである。

人が多いだけに子供もたくさんいて、その面倒を見るための人手が全然足りない。

だったら沢山創れば?

となるだろうが、魔王クリエイターで何かしらの生物を作る際、携帯などでボタンひとつで電話したりするような気軽さではできないために大量生産が難しいのである。

一体一体にそれぞれの項目、すなわち姿や名前だったり、スキルだったりを一つ一つ設定していかなければならないのだ。

厳密に言えば設定と言えるほどシステマチックではなく、ゴミ箱に離れた場所からゴミを投げ入れるかのように感覚でこうフワッと創る。

雑に創っても一体につき5分くらいはかかる。

5分くらいならと思うかもしれないが、色々な項目を考えながらの5分だ。

ぶっちゃけ面倒くさい。

もう見ず知らずの子供なんてどうでも良くない?と思っちゃうくらいに。

しかし、もと日本人としてのプライドが「自分のせいで子供が路頭に迷ってるのに放置するのかね?」と囁いてくる。

いや、僕のせいというよりは僕に間引きを依頼した声の主のせいだが、まああの存在に文句を言ったところで歯牙にもかけないだろう。

魔王エルルちゃんを操作するための並列思考のスキルもあるし地道にやるしかないと諦めている。

そう考えると魔王ヨトウガには悪いが斃されて良かったのかも。

なまじ魔王蝶々でどうなってるのかを見てしまっているからなおさら子供達を放置できないし。

変わり果てた故郷やら死んでいく家族やら近所のおじさんおばさん達を目にしたキッズ達の様子たるや、同情の念を禁じ得ない。

僕の良心はボロボロだよ。

もとい超常の存在の命令による人類虐殺命令によって傷ついた僕の良心を慰めるための善行と思えば、多少の面倒くささなどへっちゃらさ。

ただ、まあ、へっちゃらとはいえ面倒なことには変わりない上に地道な聖女作成作業に並列思考の大半を持っていかれて魔王エルルちゃんとしての旅路が楽しめないのはどうにかしたいところ。

新たに高速思考というスキルも追加したのだが、あまり意味はなかった。

名前や容姿を思い浮かべる速度は上がっても魔王クリエイターが聖女達を創り出すいわゆる出力速度は変わらなかったからである。


ちなみに魔王ゾンビのように聖女や聖女見習いを生み出す肉塊みたいな魔王も創ってみたが、さすがの魔王クリエイターと言えども無から生き物を産み出す生物は創れないらしく、聖女肉塊と名付けた赤黒い肉塊の塊に目玉を一つだけと言った姿の魔王に聖女見習いを生み出すための餌になるものを与えなくては産み出すことが出来なかった。

魔王ヨトウガが堕とした街に直接送り込んで、死体の掃除がてら聖女を量産してもらおうかと考えたが当然ながら子供達の残る街中にそんなものを送り込むわけにはいかない。

自分達の親や近所の顔見知りの死体が赤黒い肉塊に取り込まれて人が産まれ出すなんて光景を見せられるわけがない。

いや、そもそもの見た目からして聖女肉塊自体が子供の目には優しくない見た目をしている。

魔王ゾンビの肉塊バージョンを見て、思いついた魔王であったためになんとなく魔王ゾンビ肉塊バージョンに近い見た目にしてしまったのが失敗である。

現在の聖女肉塊は已む無く創った場所にそのまま放置中。いずれ必要になる日も…あるかなぁ?


いっそのこと別の場所を用意して各場所の子供達を一纏めにしてしまおうかと思案中。


「おや?今回の盗賊団は当たりじゃん」


なんだかんだで良いこともないこともない。


盗賊団のアジトでの宝探しだ。


初めに出くわしたスズメ盗賊団とやらはアジトごと超水魔法ですり潰してしまったのだけれど、盗賊退治をしているうちにどんどん効率化していった僕はピンポイントにアジト内の盗賊達を始末していくことができるようになり、そこで気づいた。

盗賊と言うからには何かしらの盗品を蓄えている筈であり、それらをちょくちょく回収していくと結果的に僕は小金持ちとなったのである。

金はあるに越したことはない。

一応、当初の目的である醤油に関わる何かを手に入れるためにお金はそれなりの量を魔王エルルちゃんに持たせてはいたものの、プラベリアから東の黄泉国で一箇所のみで生産されている醤油は言わずもがな超希少。

そんな超希少品たる醤油が安く済むわけがないわけで、大量の金品は持っておくべきだと考えた結果、ちまちまと盗賊退治をしているわけである。

なんなら未だに盗賊退治しているのはこの理由が1番にあるからだ。

そうでなければ盗賊団とは名ばかりのボスキャラ率いる精鋭集団を倒して回るなんて面倒なことはしていなかったに違いない。


「ごふぅっ…よくもやってくれたなぁっ…クソガキがぁああぁああああっ!!」

「あれ?まだ生きてた?」


目の前の猪頭団とやらのボスのように強力な魔法を直撃させてもピンピンしているなんでしょっちゅうだ。

その辺の硬い岩盤が粉になる威力の魔法を受けて死んでないってどういうことなの?

今回は超振動、という攻撃魔法スキルを作って使ってみたのだが、これも盗賊団のボスを即死させるには至らないようである。

内臓に直接攻撃するような魔法ならどうだろうと使ってみたのだが、効果は薄いようだ。

なんなら超水魔法ですり潰した時よりも元気な気がする。


東にあるとか言う黄泉国に近づくほどに特にしぶとい盗賊が増えていっているけど、何か関係はあるだろうか?


「結局はこの手に限るみたい」

「この俺様の桜花神拳が貴様をっばぬぅっ?」


思いっきり殴れば、彼らは等しく沈黙し2度と喋れなくなった。

殴るのは感触がアレで、極力避けたいのだけど東に近づくにつれて最近では殴らなければ仕留められないくらいのがほぼだ。


黄泉国ってもしかして人外魔境な国なのだろうか?

魔王蝶々でざっと見て回った分にはそうは思わなかったのだが、楽しみ半分、不安半分のままさらに一月。

途中、馬車なども利用しつつプラベリアを東側へと横断、国境を超えて黄泉国の最西端。


朧村とやらに辿り着いたのである。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る