第58話 魔王図鑑Ⅲ

3章に登場ないしは変化のあった魔王の補足一ページ。

読み飛ばしてもらっても問題はないです。


名前 魔王ヨトウガ

生物強度 21

スキル 繁殖加速 食性変化 巨大化 膂力増大 毒鱗粉 頑強 再生 超フェロモン


解説 最初期の魔王として作出された魔王ヨトウガであるが、3章にて1匹残らず駆逐された。

3章で倒される段階の群れの最高匹数は9000万ちょっと。

超フェロモンのスキルで集団で高度な連携を用いて攻め入るスタイルを得意としていたが、集団で攻め入るというスタイルゆえに殺虫剤によって一網打尽にされた、ある意味、可哀想な魔王種となった。

戦果は大都市を6つに、超大都市を2つ潰した。

1つも堕とせずに討滅された魔王ゾウムシと比較して大戦果である。

農薬、もとい毒耐性を付けていればと思うかもしれないが、それをするには容量が足りなかった上に、出来たとしてもそもそもの作成者たるエルルがまるで警戒してなかったために、どのみち毒耐性は付けられてはいなかっただろう。

エルルがこの世界の農家だからこそ農薬への警戒を忘れていたとも言える。

作中にも記載したが、この世界では農薬の類はほぼほぼ存在しない。

あったにしても、ごく限られた場所で少量が使われるくらいであり、基本的に害虫類のほとんどは食用にされる。

硬くて噛み砕けない場合や、毒があるだとかそう言う物理的、生理的に食べられない場合を除いて食利用されるために、臭い匂いで身を守る草食カメムシの類や毒針を持つ毛虫ななども毛を焼き潰してから食べられていたりする。

ちなみに、家の中や洗濯物についているのに気付かずに刺激して不快な思いをしたり、農業害虫として嫌われるカメムシには大まかに2種類、肉食と草食が存在し、臭い匂いで不快にさせられるのは草食のカメムシである。

肉食のカメムシは匂いを出さないか、出したとしても弱いもしくは良い匂いだったりすることが大半である。

まあ中には例外もいて、草食のヘリカメムシはりんごっぽい匂いを出したり、同じく草食のクサギカメムシは食品であるパクチーの匂いを出すと言う。

この世界にもクサギカメムシが存在しており、その異世界産クサギカメムシのパクチーの風味を味わいたいがために好んで食べる人も一定数いたりする。

あ、一応言っておきますが、異世界産フィクションだから大丈夫なだけでパクチーの匂いを出すからといってクサギカメムシが食利用できるかと言えばそうは言い切れないので、食べないでくださいね?

まあ、飽食の今の時代にわざわざクサギカメムシを食べる人はいないと思いますが。

食べるとパクチーを尖らせた風味(トランス2ヘキセナールという成分とトランス2デセナールという成分が主な成分らしく、しかしデセナールはパクチーには少ないらしいために似てはいるが、若干違う、と感じるらしい。他にも色々な匂い成分がパクチーには含まれているというのもあるかも)と赤みがかった身の部分にキツイ辛味があるらしいですよ?

某ゲテモノサイトに詳しい食レポがありました。


名前 魔王エルル

生物強度 97

スキル リンクドール 自動リンク


解説 エルルが畑仕事ばかりの日々に刺激無いしは娯楽を求めて生み出した人形型魔王。人形、すなわちエルルが操作する前提の魔王ゆえに自我を持たず、これ単体では身に備わった本能的な行動のみをする。

魔王エルルの外見は絹糸のようにサラサラな黒髪ロングに、少し切長気味で綺麗な瞳。小さくて丸い鼻に、リンゴの丸齧りすら一苦労なほどのちょこんとした唇。

非常に可愛らしくも美人な美少女で、肉体年齢は10歳児くらい。

娯楽、すなわち食道楽のための新たな調味料を得るための旅をする上で大人の姿の方が都合は良いのだが、魔王クリエイターの制限の一つである材料の用意が大変だったために10歳の女児くらいの体の大きさで創り出された。

本体と同じ性別の男児ではなく、女児にしたのはより本体に辿り着く可能性を減らすためである。

現状からエルルに辿り着くのは奇跡でも起こらない限り無理な気もしないが、逆に言えば奇跡が起きれば辿り着けるので、その奇跡という名の僅かな可能性をつぶすためにも女児である。

エルルがそうした倒錯的な趣味を持っているわけでは無いので安心してもらいたい。

スキルのうち、リンクドールが魔王エルルちゃんを操作するためのもので、このスキルによって着ぐるみを着て動くような…いわゆるゲームのキャラクターを直接動かすような感覚で魔王エルルちゃんを動かせるようになる。

さらにこのスキルにはゼロから創り出された魔王が持つはずの「愛」を消去する効果も持つ。

エルルは1から創った魔王が愛を抱くことを現段階で気づいていないため、自我を消すスキルとしてリンクドールを付与した結果そうなっているだけではあるけれど。

自動リンクは本体のエルルの持つスキルと魔王エルルちゃんのスキルをリンク、同期(共有)するスキル。

ただし、魔王クリエイターによって付与できるスキルは対象の容量キャパシティによって決まるが、その容量までは共有できないために魔王エルルちゃんは本体と比較した場合、格段に弱い。

本体のエルルが仮に容量を100使うスキルを持っていても、魔王エルルちゃんに備わっている容量が100未満だった場合、そのスキルは共有できないのである。

そうした制限があるため、魔王エルルちゃんの使えるスキルは本体の持つスキルのごく一部となっている。

ただでさえリンクドールと自動リンクというスキルそのもので容量を食うので、割と本体と共有しているスキルは少なかったりする。

ぶっちゃけ作り出す手間隙に見合った強さは無い。

作成目的を考えればさもありなん。

自我がないために人類の天敵としてはエルルが直接操らなければならないし、色々な意味で扱いにくい魔王となる。

今後も魔王として大々的に活躍することはないだろう。

とはいえ、生物強度は97と他魔王と比べても現状では1番であり、あと少しで3桁に到達するレベル。

共有するスキルはその場ですぐに切り替えることが可能、その時その場にあったスキルを使って戦えるので、多少の制限はあっても実質本体のスキルをほぼ全て使用できるゆえに生き残り易さを示す生物強度が高い。

まあ、生物強度が高いからといって必ずしも人間に勝てるかと言えばそうはならないが。

魔王ヨトウガより僅かとは言え、生物強度が高いのに街一つ堕とせずに死んだ魔王ゾウムシさんという例もあるし。

あ、相手が悪かっただけさ。きっと。


名前 聖女見習い

生物強度 17

スキル 清貧なる母乳 格闘 広域視界 聴力 建築 農業


解説

聖女の子供救済作業の応援としてエルルが創り出した魔王の一種。エルルは人類の天敵として創った生物を魔王と呼称しているので、厳密には魔王ではないし、なんなら彼女達の材料は聖女と同じく人の死体であるが、死体から産まれたとしても彼女たちは聖女見習い(他称、もといエルルがそう定義しているだけ)である。

むしろ「ある日突然、戦火に塗れた街跡の死体から聖女が産まれ出た」と書くと、すごくそれっぽく聞こえなくもない。

むしろ聖女感が出る。

むしろ普通に人の股から産まれてないところが、逆に神秘的な気がしないでもない。

死体3人分の材料をもとに創り出された聖女と違って、死体1人分から創り出された聖女見習いは聖女の3分の1しか魔王クリエイターの容量がないために、全てのスキルが聖女であるアリア達の下位互換スキルへとマイナーチェンジされている。

マイナーチェンジされている上に、戦闘力に直結するスキルが少ないのもあって魔王ヨトウガよりも低い、現在存在する魔王中最低値の生物強度であるが、それでも人間(人間を10として生物強度は算出される)の倍近くはあるのだから、実際舐めてかかれないくらいには強い。

相手の装備によっては普通に倒されてしまうが、純粋な肉弾戦闘かつ一対一ならばまず負けないくらいには戦闘力がある。

スキル格闘は様々な格闘技を教えられずに扱うことができるスキルであり、訓練などをしなくてもバトル漫画ばりの戦いが可能になる。

弾丸だって見切って避けることが出来てしまうのだ。

見習いではない聖女アリア達の所持するスキル、超格闘に至っては音速で飛んでくる筈の弾丸を直接素手で弾くことが可能になる。

とはいえ、だからといって音速で動けるかというと動けない。

体ごと音速で動くのと、体の一部だけを一瞬…すなわち弾く時だけ音速で動かすのでは大分違うためである。

さすがにそこまではいきません。


そして、忘れてはいけないのが農業スキル。

この食料不足な世界ではかなりのチートスキルと言ってもいいスキルで、農業に関わる様々な技能や事象に補正がかかる。

スキル所持者が効果対象の近くにいれば発動する常時発動スキルで、種を撒けば発芽率の低い植物でも100%の発芽率になるし、土に対して芽が多すぎたとしても間引く必要なく生育し、肥料はいらない、収穫量大幅アップ、収穫間隔大幅短縮、水やりの頻度は少なく済み、実付きはよくなり、味わいが良くなる上に、栄養価がアップ、病害虫に強くなるという農家にとってはとんでもないスキルとなっている。

さらにこれはする。

同じスキルを持つもの同士でさらにスキル効果がアップするのだ。

真面目に農家してる人からすれば笑っちゃうくらいには夢想じみたスキルになっている。


食料難に頭を悩まされているこの世界では、農業スキルはまさに神がかった力で、普通にこのスキルだけで歴史に残る働きが可能になる。

言わずもがな、食料が増えると人も殖える、とは言い切れないが、増えやすくなるので可能なだけでやりはしない、というかできないが。

人類の間引きを頼まれているのにその真逆の行為をするわけにはいかないのである。

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