第43話

ユーリ君と戯れあったり、畑仕事をしたり、リアちゃんとほのぼの話したりしながら過ごしていると、段々とやりたい事が増えてくる。

なまじ様々な娯楽を経験した前世の記憶がある分、その思いはなおさらのこと。


まず考えたのは前世での趣味である、アクアリウムだ。

前に少し話したが、メダカを飼い始めたのをきっかけにアクアリウム趣味に目覚めた。

しかしソレは少々厳しそうだ。

まず水槽がない。

僕が住んでいるのがプラベリアの端っこの辺境だから流通していない、と言うわけではない。

この半年で視覚と聴覚を共有できる魔王蝶々を飛ばしてプラベリア中を探したり、街頭の会話などに耳を傾けて情報を集めたりしたが、そもそもの製造会社がないようである。

製造技術自体は存在していそうなのだが、どうも食料難な世界であるためか、そうした製造技術を開発する手間暇があるくらいならば

食料難に対する何かしらの対応策に注力すると言う状況だ。

もちろんのこと仮に水槽が用意できても、アクアリウムを始めるための様々な器具なんてものもない。なんなら水槽に入れる魚自体が手に入りにくい。全部食材として利用されるからだ。

なんなら簡単に手に入れられそうな魚は軒並み食利用目的で絶滅している。


趣味は無理そうと判断した。


次はゲームやテレビだろうか。

言うまでもない。

これもまたそれらを開発、販売する暇があるなら食材確保関連の技術などの開発などに時間を使うために存在しない。

今ほど人口がいなかった時代には存在していたらしいが、かなり昔のことで骨董品扱いとして流通する事がちらほらあると言ったところか。

魔王蝶々を骨董品屋に潜ませて、確認してみたがまあ、動きそうになかった。

テレビに至っては、魔法を使った異世界版の携帯があってそれで見る事が出来るのだが、少し申し訳なく思いながら魔王蝶々に他人のものを覗かせて見たのを見る限りでは、バラエティの類は一つも無く、ニュース的なものや他の人との通話で使うだけのようだ。


後の娯楽といえば賭博や酒、スポーツや劇場あたりかな?

賭博や酒は前世から興味なかったので、僕にとっては娯楽になりえないし、スポーツはあっても殺しありの殴り合いなどがメジャーらしく、もちろんジャパニーズとしてはちょっと過激すぎて楽しめなかった。人によってはむしろ過激な方が良いという人も少なからずいるかもしれないが殺しあり、と言う言葉から受ける殺伐さより、実際の戦いはさらに3割増しくらいは過激だった。

普通に内蔵やら腕やらが吹き飛ぶのはちょっと。あれです。

魔王を創っといて何言ってんだと言われるかもしれないが、毎度言ってるけど強いられてるだけだからね?

フィクションとかだとそうした何かしら理不尽なことを強いてくる存在に反旗を翻して最終的に勝つとかあるけど、今回の場合、普通に考えて無理だよね。

魔王クリエイターを使えばと?

いや、与えられた力で勝てるわけがないし、そもそもあの声の主がどこにいるのかすら分からん。

殺せるかわからないし、殺せたところで生き返るかもしれない。

そもそも、それが出来る存在相手なら逃げるかもしれないしと、少し考えるだけで無理な理由が次から次へと思いつく。

となれば長いものに巻かれるしかないのだ。

幸いなことに、絶滅させろと言われてるわけではないし報酬としてノルマを達成したらそれ以上は殺さなくていいとなっているわけだし。

従うのが結局はベターではないベストなのである。

などと湧いてくる罪悪感を宥めつつ。

あ、劇場は存在してなかったです。

過去にはあったかもしれないけど、それを見に行く暇があれば畑仕事をするのが一般市民のデフォルトなのだ。

中には見に行けるだけの余裕がある人もいるかもしれないけれど当然ながら、見に行く人が少数では劇場を運営できるはずもなし。

ゆえにそもそも劇場をやろうと言う人々が集まらない。


なんて無体な世界か。


地球が懐かしいぜ。

魔法というロマンありきでも地球の方が俄然良かったよ、これ。


となればできる娯楽など限られる。

食生活だ。

食生活を充実させよう。

今の食卓は虫と野菜とネズミが大半だ。

ちょっとこれはない。

虫と言っても時期などによって種類が異なったり、野菜は農業国家なだけあって様々なものが栽培されているが、もう少し食卓に彩りを添えたい。

具体的には魚や肉が欲しい。

いっそのことバレてしまったリアちゃんだけではなく、母にも魔王クリエイターの力を話して食肉利用目的の魔王、いや、家畜を作ってしまおうかと思ったがやはりいざと言う時のことを思うと気がひける。

というか今更だが過去に芝犬を作ろうとして失敗したのは正解だった。

どこから連れてきたんだと違和感を持たれるところだ。

カマキリのゼルエルちゃんならたまたま巨大化したカマキリがうんたらと納得させることはできても、さすがに犬サイズの動物がポッとやってくるのは違和感が大きすぎる。


せめて味を変えたい。

調味料が欲しい。

僕はそう考え、とある閃きが頭に灯る。


そうだ、醤油を作ろう。


と。




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