Ⅲ章 討滅

第42話

「どりぁっ!」

「えい」

「ぐへぇっ!?」


本日も快晴な畑仕事日和。

そんな日にも関わらず、僕ことエルルは今日も今日とて、チャンバラごっこに勤しんでいた。

相手はいつも同じ、ユーリ君。

ユーリ君との決闘騒ぎから半年ほどが経過して、僕は9歳。リアちゃんは8歳となる。

年齢が一つ増えたことだし、前に趣味で創造して栽培し始めたトマトが広まり始めて、量産するように依頼が来たり、母の両親、すなわち祖父母に会ったりと半年で色々あったりしたものの、1番の変化はこのチャンバラごっこだろう。


あの決闘からユーリ君ときたら毎日のようにチャンバラごっこをせがむのである。

人がせっかく、良心の呵責に耐えながら叩きのめしたというのにユーリ君は欠片も反省しないで、チャンバラを仕掛けてくる。

クソガキ…じゃなくて、純粋なヤンチャボーイには手っ取り早く、痛い目に合わせた方が躾になるかなと思って叩きのめしたのに、逆にムキになってチャンバラごっこをせがむのだ。

相手はヤンチャ盛りとはいえ人間なのだ。結局のところ、ちゃんと言葉で言い聞かせねば意味がないと考え、言い聞かせれば分かってくれるんだな。そう考え直して、枝が目に入ったりしたら危ないから止めようと言っても、ビビってんのかよとイキり立つばかり。

やっぱりこいつクソガキだわ。

いや、まあ、年齢を鑑みればそんな子供がいても可笑しくないし、何度も打ち負かせているのに立ち向かってくるのはなかなか根性があって素晴らしいと感心するのだが、せめて僕以外に対して仕掛けてくれないだろうか?

僕はチャンバラごっこより畑仕事の方が楽しいんだけれども。

いや、僕以外だと怪我しかねないことを考えると、ダメか。

そもそもリアちゃんと仲良くなりたいのだろう?

なぜ僕に突っかかる。

君の本来の目的を思い出せ。リアちゃんと仲良くしようとしたら既に仲のいい僕がいて気に食わないと言うのは分かるが、僕とあーだこーだしてもリアちゃんと仲良くなれるわけではないぞ。リアちゃんとこに行きなさいな。

僕としてもリアちゃんの友達が増えるのは歓迎すべきことだしさ。まあ彼のヤンチャっぷりにリアちゃんが染まらないかという心配はあるものの、わざわざ邪魔をするほどではない。存分に仲良くなってもらいたいものだが、子供らしく僕に負かされたことにムキになって目的が見当違いの方向にすっ飛んでいる。

もちろん僕とチャンバラしてもリアちゃんと友達になれるわけではないと言ったとも。

しかし、それに対する彼の答えは


「お前を倒せないのにリアと友達になんかなれないんだよぉっ!」


と叫んで枝を振るってくる始末。それ、勝手にそう思ってるだけの完全な思い込みだよ?

負けっぱなしじゃ悔しいという男の子の意地も混じってるやもしれん。

どちらにせよ、僕と仲良くなってどうする?


「はあ?てめぇみてぇなチビと仲良くなってなんかねぇし」


ツンデレみたいな物言いだが、全然そんな感じではなく、本気で心外そうに言ってくる。

ここまで付き合わせておいて、イラッとしないでもない。

さらにはチビチビと連呼しまくるので、それに関して最近は本当に腹が立たなくなってきたが別に良い気分になるわけじゃないからな。そこんとこ分かってる?


「うるせーっ!いいから勝負しやがれっ!!」

「まだ遊んで欲しいの?畑仕事があるんだけど?」

「遊びじゃねぇんだよっ!これは男と男の勝負だぞ!?」


真剣じゃなくて、枝を振り回してる時点でただの遊びだと思うのですが。

いっそのこと初めての決闘以上のガチで叩きのめす?のす?のしちゃう?

いや、しかし子供相手にそれはなあと忌避感を覚える。

いくら口の悪いクソガキとはいえども10歳児、いやこの半年で彼も一歳歳を増やして11歳になったらしいが、10歳かそこらのキッズにあまり暴力は振るいたくない。

しかし、彼ほどのヤンチャボーイともなると痛い目に遭わないと学習できないのかもしれない。

結局、その日も負けて帰って行ったユーリ君である。






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