第37話
「これがそうか」
アームズシェル部隊隊長が、最初に魔王ゾンビが発見された洋館跡地に出来た穴を覗きこみながらボヤいた。
魔王ゾンビがいるかに思われたポイントを破壊し尽くしても、魔王ゾンビの死体はおろか、銃弾をヒットさせたと思わしき痕跡すら見つからない。
早朝から開始された魔王ゾンビ討滅大作戦は手応えのないまま、午後4時ごろに終了した。
このままじゃ終われないと魔王ゾンビの潜伏先らしき倒壊した洋館跡の瓦礫などをどかしながら調査すること5時間。
すっかり日が暮れた午後9時ごろになってようやく魔王ゾンビが潜伏しているであろう巨大な穴を発見したのである。
「ちっ、かなり奥まであるみたいだな。1週間でこれ程の穴を掘るとは、もはや洞窟じゃないか。とんでもない奴だ」
隊長が穴を覗きながら、ヘルメットに装備されているライトを照らしてみても奥が見えない。
「何も見えんか。奴を倒すにはこの見通しの悪い場所に突入しなくてはならない…さて、どうしたものかね」
夜9時ごろというのもあり、なおのこと洞穴内の見通しは悪い。
完全に光が入らない洞窟の中ではヘルメットに搭載されている暗視装置も役に立たない。
ライトで照らしながら進むしかない。
『とはいえ、やれることは決まっている』
ヘルメット内部の無線機から声が響く。
「ええ、長官殿の言う通りです。アームズシェル部隊はもちろんのこと、一般兵の貸し出しも今日一日限りという条件で借り受けたもの。現場を知らぬアルファニカ上層部は魔獣討滅よりも復興作業を優先しかねない」
『分かっているようで何より。奴に時間を与えたくない。どうするか、どうなるかが分かったものではないからな。苦渋の決断であるが、洞窟内へ突入するほかあるまい。準備は入念に行い給え』
「もちろんであります。1時間後、突入することにします」
『うむ。幸運を祈る。
様々な状況を想定し、連携を確認し、必要と思われる装備の調達を行えば1時間はあっという間に過ぎた。
「よし、全員準備はいいな?」
「準備万端です」
隊長の確認に返事をするのは12名のアームズシェル部隊。
作戦会議の結果、下手に一般兵を送り込んでも洞穴という限られた空間な上に犠牲者を増やすだけだと判断されて、人数を増やす増やすよりも少数精鋭で攻めた方がいいと判断された。
「では突入っ!」
12名のアームズシェル部隊は洋館跡にある地下洞穴へと一斉に潜っていく。
そして、探索開始から早くも30分ほどが経過する。
「もう30分は経過しているな。この穴はどこまで続いているんだ?」
「1週間でこれほどの場所を作り出すなんて信じ難いですね」
もちろん警戒しながらゆっくり進んでいるため、30分といえどそんなに長い距離を進んできたわけではないが、それを差し引いても広すぎると彼らは感じていた。
ここまで広い空間を1体のみで作れるのだろうか?と。
「隊長、今、動体センサーに反応がありました」
「こちらも反応がありました」
一部の隊員から動く何かがあると言われ、彼らはそちらへとライトを向ける。
だが、それらしき姿は見えない。
「あれ?」
1人の隊員が何かを見つけたようだ。
見つけたのは人影らしき何か。
一部の隊員は周囲の警戒をしつつ、彼らはその人影に注視する。
ライトを当ててみると、そこにいたのは1人の成人男性らしき姿である。
一瞬、迷い込んだのか?と考えたが、動物じゃないのだ。
普通の人間であれば、気になったとしても真っ暗な洞穴に入り込むようなことはすまい。
しかも現在位置は入り口からそこそこの距離がある故、なおさらのこと。
本来ならば無視するか、即座に攻撃すべきところだが他に何か痕跡らしきものが見つかったわけでもなく、彼を調べてみようと1人の隊員が近づく。
瞬間、隊員に噛みつこうと起き上がった瞬間、射殺された。
「な、なんだったんだこいつは?」
「生体センサーには反応がなかった。つまり、死体だった…んだよな?」
「咄嗟に撃っちまったが、これって民間人を殺したことにはならないよな?」
「馬鹿言え、こんな場所に民間人が居てたまるか。むしろ、コイツが話に出たターゲットじゃないのか?」
「だが、聞いてた話とだいぶ違うが…」
今のは何だったのかと話し合うものの、結論は出なかった。
射殺した死体を調べてみても分からないことが分かっただけ。
だから彼らは僅かに弛緩した。
「ぐあっ!?」
「なっ!?」
「こいつはっ!?」
その隙を付いた魔王ゾンビが登場。
洞穴内の地面から巨大な腕だけを出して、1人の隊員の両足を握り潰しながら振り回した。
腕と、それに掴まれた隊員に殴り飛ばされ、アームズシェル部隊は壁に叩きつけられた。
「ヤローっ!ぶっ殺してやらぁあああああっ!!」
「ばかっ!!それを使うなっ!!」
1人の隊員が腹を立て、両腕に搭載されている電磁誘導狙撃銃を射出。
仲間を捕らえていた巨大な腕をぶち抜く。
しかし場所が悪かった。
ここは魔王ゾンビが1週間くらいかけて適当に掘った洞穴である。
電磁誘導狙撃銃によって撃ち出された弾は魔王ゾンビの腕ごと、洞穴内の壁も打ち抜いた。
当然、洞穴は崩落。
彼らは生き埋めになってしまった。
「くそっ、全員無事か?」
「ええ、なんとか」
「こっちも大事ないです」
「すいません、俺のせいで…」
「反省は後にしろ。やってしまった以上仕方がない。それよりも奴はどうなった?」
『こちら司令部!お前らっ!!今、どこにいる!?生きているかっ!?』
唐突に繋がる無線機。
司令部の長官からの通信であった。
「長官殿っ!?申し訳ありません!現在我々は…」
『生きているなら良いっ!それよりもすぐにそこを出ろっ!!戦力が足らないっ!!』
「申し訳ありませんが、我々は現状、しばらく動けない状態にあります」
『なんだと!?ちっ、どれくらいで復帰できる!?』
「10分はいただきたいところですが、何がありましたか?」
『くそったれっ!5分でどうにかしろっ!!』
「了解っ!!それで、何があったのですか?」
『死体だよっ!大量の死体が地上で暴れまわってやがるんだっ!!』
彼らは魔王ゾンビを侮っていた。
彼らは警戒心が足らなかった。
彼らはもっと魔王ゾンビに対して必死になるべきだった。
1回目の交戦時。
彼らは自身が油断していた、していなければ勝てた。そう考えた。
魔王ゾンビは違う。
彼は今のままでは足らない、今のままでは勝てない、もっと必死に強くなる必要があると考え、進化したのだ。
より強力に。
より強大に。
より強靭に、と。
まず、彼は考えた。
仲間がいると。
その渇望が彼の持つ超進化のスキルを刺激。
新たな力を得た。
死体を自在に動かし、自らの仲間を増やす力を。
それによって魔王ゾンビは1週間という時間をフルに活用して死体を、仲間を増やすことに集中した。
とはいえ、さすがにただの死体を仲間にしたところでそれが決定打にならないことは気づいている。
ゆえに魔王ゾンビはさらにさらに渇望する。
自らの体をより強くすることを。
「おいおい、たまんねーな。勘弁してくれよ…くそったれっめ」
死体が街中の地面から這い出てくる。
それだけで悩ましい問題だったのに、支部長官が見た光景は思わず頭を抱えたくなるほどのものだった。
人間の腕や足、顔や尻やらと言った様々なパーツを大量に生やした肉塊が地面から這い出てきたのである。
魔王ゾンビが進化した姿であった。
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