第36話
1週間後。
魔王ゾンビが住み着いていた洋館の周りにはずらりと兵士たちが並んでいた。
彼らはもちろんのこと、魔王ゾンビ討滅を目的として集められた人達である。
「よし、準備は万全。いつでもいけるな。長官!」
現場にて総指揮を取るアームズシェル部隊隊長が洋館から少し離れた位置に建設された仮設キャンプで軍支部長官に無線機で確認の合図を送る。
『うむ。2度目の不覚は許されん。総勢、100名の歩兵に、12名のアームズシェル部隊員。これだけの戦力で、討滅できなかったとは言ってくれるなよ?』
「もちろんです。前回の会敵から得られた情報からすれば、まず間違いなく討滅はできます。仲間の仇も討てるとあって、私含め士気も上々。あとはいかに犠牲を減らすかが課題でしょう」
『それもまた、過信だな。俺の勘ではこれでも戦力が足らない気がするくらいだ。本来なら今の倍を用意したかったのだが、さすがに無理が過ぎた。軍部だけならば黙らせれたのだが、貴族の横槍も入ってな』
「…さすがにこれ以上の戦力は過剰かと思われますが?」
『くく、さすがに臆病風が過ぎると思ったか?』
無線機ごしの長官の軽口に図星を突かれて一瞬、黙る隊長。
「…そんなことは」
『この臆病風が俺を長官なんて言う立場にまで舞い上げてくれたのさ。
…なんにせよ健闘を祈るぞ。
長官との通信が終わり、改めて気を引き締めて、隊長はこの場の兵士達に命令する。
今回の作戦はシンプルだ。
魔王ゾンビを討滅するにあたり、当初はもちろん魔王ゾンビの位置を把握するところから始まった。
アームズシェル部隊の2部隊がほぼ全滅しかかった初見の会敵時、あれから戦力を集めるのに1週間を要したためだ。
しかし、一番時間がかかるかも知れない魔王ゾンビの捜索は拍子抜けするほどに簡単に済ますことができた。
なにせ、魔王ゾンビは死体を食べ回る生態を持つせいか、死体が消えていく場所や頻度を記録して分析していくだけで大まかな位置が絞り込めたからである。
魔王ゾンビ自身の警戒心ゆえか姿こそ確認出来なかったが、痕跡は沢山発見された。
洋館周辺を住処にしたままである。これが軍部の予想であった。
いないしても、他数カ所のポイントを割り出しているため今日中には見つかるはずだ。
そして、位置を割り出せたならば後は効率的に、被害なく仕留めることができる作戦の立案だ。
様々な話し合いの結果、数で攻めるのがもっとも手っ取り早く、効率的であると決定されて100名以上の兵士が用意される。
彼らの持つ銃器は今日限りの特別製。
一般兵士の持つ銃器は兵士が持つだけあってただの市販品よりも威力は高いが、それに更なる改造を施して威力をより高めてある。
アームズシェル部隊の持つ高火力拳銃とまではいかないが、魔王ゾンビに通用するくらいの威力は出せるとのこと。
そう。
彼らの立てた作戦は至極シンプルだ。
洋館を囲って、高火力武器で洋館ごと魔王ゾンビを蜂の巣にしちゃえ大作戦である。
なにせ魔王ゾンビはアームズシェル部隊の持つセンサー類の感知速度よりも先に接近できるスピードを持つ。
下手に接近するのは悪戯に命を散らす愚行に他ならない。
であれば、近づかずに全てを瓦礫にしてしまえと判断するのは普通である。
大雑把に感じるかも知れない。
実際、軍部会議室ではいくらかその言葉は出た。
しかし、アームズシェル部隊でも不覚を取りかねない相手に悪戯に接近しても攻撃はおろか、無用な犠牲者が増えるだけと判断され、この過激な作戦で行くことになった。
作戦決行時間は早朝。
光があって視界の良い朝にやるのは当然だ。
「全員、配置につけ!」
隊長の号令で洋館を囲むように兵士達が動く。
「…射撃態勢に入れ…よし、
作戦が開始された。
四方からの銃撃で洋館が穴だらけになっていく。
沢山の穴が開くことによって、洋館の支柱などが自重を支えきれなくなったのだろう。
どんどん倒壊していく。
5分もすると一気に崩れ落ち、洋館だった瓦礫の山が出来上がる。
「止めッ!!」
隊長の号令でピタリと射撃が止む。
「…なんらかのアクションはあると思ったが…ヤったのか?」
「空振りだったのでは?死体の確認をさせますか?」
隊長の近くにいた1人のアームズシェル隊員が死体の確認をするか尋ねたが、隊長は首を横に振り
「…早朝から開始したとはいえ、奴の潜伏予想地全てを回ることを考えれば時間に余裕はない。視界の悪くなる夜になる前に肩をつけたい。次の予定地にまで急ぐぞ」
「了解」
隊長の心配はもっともだ。
なにせ、100人以上の人員が一斉に移動する。
一般兵士の持つ銃器は改造されたことにより、多少大型化しているし、普通の兵士が持ち運ぶには少々大変だ。移動にはより時間がかかるだろう。
さらには彼らはしばらく撃ち続けるだけの弾薬の運搬もしなくてはならない。
弾薬を入れるための箱があるが、みっちり詰まった弾薬箱は非常に重い。
それらの運搬、補充の手間暇も考えると割り出した魔王ゾンビ生息予定地を1日で回り切れない可能性がある。
ただでさえ、1回目の交戦から1週間もの時間が経過しているのだ。
1週間くらいでは負わせた手傷は無くならないと思うが、それも絶対ではないし、もしかしたら足跡を見失い、行方が分からなくなるかもしれない。
それらを踏まえると、出来る限り短期間で仕留めておきたいところだった。
隊長の号令が再度発信され、100人以上の人員が一斉に次の生息予定地へと移動、弾薬の補充と移送が行われていく。
次の予定地はここからさほど離れてない豪商の別荘だ。
魔王ゾンビの体は普通の人間より2回りほど大きいためか、広い家屋を拠点にしたがるようだ。
しかし。
「ここも空振りか…」
「割り出した位置が間違いだったのでは?」
「いや、それはないはずだ。割り出した位置以外はあの巨体を隠すには無理がある。目撃情報や目撃者が皆殺しになってでもない限り、その可能性は非常に低い」
「言われてみればそうですね。確か、目撃情報や新たな犠牲者がいないかの確認は支部長官が行っているんですよね?」
「ああ、ただでさえ昆虫型魔獣の被害の後始末で大変なのに良くやったものだよ。さすがと言わざるを得ない」
「あと、二箇所でしたっけ?」
「わかっていると思うが、気は抜くなよ。四方からの一斉掃射が通じなければ、奴は戦うか逃げ出そうとする。そうなれば我々アームズシェル部隊が直接対峙せねばならない」
「わかっていますよ。むしろ、やられないで欲しいくらいです。仲間の仇はこの手で討ちたい」
「滅多なことを言うな。気持ちはわからないでもないがな」
その後、魔王ゾンビが潜伏していると思われる二箇所に100人の軍人による一斉掃射が放たれたが、結局のところ魔王ゾンビらしき姿は発見されず仕舞いであった。
軍部会議室にて。
「いなかっただと?」
「はい」
支部長官と今回の作戦の指揮官であるアームズシェル部隊の隊長が対面している。
「どう言うことだ?」
「現在、調査班を送り込んでいます」
「結果は?」
「まだ、分かりません」
「なに?報告では作戦終了時間は夕方4時。今の時刻はそれからゆうに5時間経っている。まだ分からないのか?」
「奴が出てきたときのことを考えますと…」
「ああ…そうだったな。焦っていたようだ。少人数で調査すれば再度の不意打ちで不覚を取りかねないか」
「ご理解いただき感謝します。いざ、奴と出くわした時のために、アームズシェル部隊を2分隊、まとめて調査に向かわせていますので、分散させることが出来ない以上、どうしても時間はかかります」
と、話しているうちに隊長の持つ無線機に通信が入る。
調査の報告か?と通信を行えば、驚きの事実を聞かされた。
『地下に続く穴を発見しました』
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます