第31話
決闘?
泣いてたユーリ君はそう言って僕を引き止める。
色々とツッコミどころが多すぎるが、まず言いたいのがそろそろ畑に行かせてくれないだろうか。
この子たちは家の手伝いとかしないのかな?
いや、まあ僕が前世の時、家の手伝いをしたかというとしていなかったけれど。
遊び呆けていたさ。
この子たちもそんな感じかな?
特にこの世界は人が多い分、人件費はだいぶ安く済ませることができるみたいだから子供の手伝いなんてのは、そもそもいらないのかもしれない。
だが、我が家は違う。
決闘ごっこで遊びたいならそっちの2人としていてくれ。
「うるせーっ!俺はお前を絶対許さないからなっ!!明日、広場に絶対こいよっ!来なかったら町中に逃げたことを言いふらすからな!!」
そう言い捨てて、彼と他2人は帰っていった。
次の日。
もちろん無視して、というか約束自体忘れて畑仕事に精を出していたら、昼過ぎごろにユーリ君がやってきた。
他2人も一緒だ。
彼らの顔を見て、そういえば決闘がどうとか言っていたなと思い出す。
「なんでこねぇんだよっ!」
約束をすっぽかしたせいか激おこなユーリ君。
なんでと問われても、君たちと遊んでいる暇はないというか。
暇はあったにしても、中身大人な僕は決闘ごっことかそういうのはちょっとキツイかなって。
「ごっこじゃねぇっ!!ガチの決闘だ!!リアを賭けて勝負しやがれ!!」
「いや、リアちゃんを賭けるも何も、リアちゃんは物じゃないし…君が勝ったとしてもあげられないよ?」
「ンなの分かってらあっ!!俺が勝ったらリアに近づくなって言ってんだ!!」
この子、無茶苦茶言うなぁ。
近づくも何も僕はリアちゃんと一緒に住んでるし、よしんばソレをどうこうできたとしても彼にあーだこーだ指図されるいわれは無い。
最後に、決闘とか言うからには多分、何かしらの闘い的なことで勝負すると思うのだが魔王クリエイターで身体能力を著しく強化してある僕に、ただの子供が勝てるわけがない。
仮に彼が有史以来、最高峰の天凛を秘めていたとしても僕には勝てない。
なんと言うか。その。
生物として立っている段階が異なるのだ。
例えるなら沢山いるアリの中で最強の…才気煥発なアリだったとしても所詮アリはアリ。
アリにとっては巨大すぎる体を持つ象には敵うまい。
彼と闘うのはちょっと気が引ける。
あまりに差があり過ぎて。
あと、どうも言動から察するに彼はリアちゃんに惚れてるくさい。
まあリアちゃんはおそらく、辺境一の美少女だ。惚れてしまったのも無理はないし僕に決闘、ないしは喧嘩を売りたくなる気持ちもわからないでも無いが、リアちゃんが好きなら決闘とかよりその分リアちゃんにアプローチする方が良いことには気付いてないんだろうな。
キッズ特有の視野の狭さを感じて、ほっこりしたり。
畑仕事が無ければ、あるいはもう少し可愛げがある子ならもう少し真面目に相手をしてあげたのだが、そこまでしてやる気にはなれない。
君が母をババア呼びしたこと、忘れてないし。
そのことについて過剰に反応する気はないが、かと言って気分がいいわけでもない。
とりあえずお帰り願おうか。
「て、てめぇが弱虫だってこと町中に広めてやるからなっ!!」
「好きにしなよ、もう。僕は今日も畑仕事があるからさ。遊ぶなら他の子を誘ってあげなよ」
本気でそう思う。
次の日の晩。
「すいません、すいません」
「あらあら、そんなことが。いえ、大丈夫ですよ。うちの子は気にしてないようですし、良くも悪くも畑仕事にしか興味がないようで…」
「まあ、出来たお子さんのようで羨ましい限りです」
頬と目を真っ赤に腫らしたユーリ君とその母親がウチに謝りに来た。
どうやら本当に街中で弱虫がどうとか僕の悪口を広めていたらしい。
徐々にエスカレートして僕の父親は犯罪者で、その息子である僕も犯罪者であるとかどうとか。
どこで聞いたのやら。リアちゃんのお母さんのレムザあたりだろうけれど。
当然、規模が大きくなればなるほど大人の耳にも入りやすくなり、それを耳に入れたユーリ君の母親がユーリ君をぶん殴ったようだ。
よほど思いっきりイッたのか、ちょっと歯が折れてないか心配になってしまうレベル。
真っ赤に腫れ上がって、母は僕の悪口に対する憤りよりもまず彼の怪我の心配をしてしまったくらいだ。
ユーリ君の家はパン屋ゆえにお詫びとして沢山の色とりどりのパンを貰ってしまえばなおのこと。
ユーリ君そのものは好きではないが、ユーリ君のご両親は大好きになってしまった。
全部が焼き立てで、ここに尋ねる直前に焼いてきたらしい。
こんなことされたら許すしかないじゃない。
元から気にしてなかったけど。
ただ、リアちゃんは明確にあいつ、嫌いと言っていた。
どうも僕が馬鹿にされたことにめちゃくちゃ怒っているようだ。
嬉しいが、そこまで気にすることでもないといつものように抱きしめたり、撫でたりとしているとユーリ君がこちらを親の仇を見るような目で見ていた。
なるほど。まだ一悶着ありそうだ。
彼が帰ってからリアちゃんのフォローをすべきだったか。
あとついでなので彼が廃棄処分するはずのパンを掠め取ってこっそり食べていたことをユーリ君の母親に報告した。
それを聞いてユーリ君は大慌て。
その焦り様から本当だと判断したのだろう、ユーリ君の母親はその清楚な外見から想像できないような鬼の形相を一瞬だけ浮かべてすぐに隠した。
ユーリ君の母親は顔にこそ出てなかったが、怒りに満ちた気配をだしながらウチから去っていった。怖い。
一晩経過し、朝になった。
昨晩の残りのパンを食べてから今日も畑仕事だと家を出ると。
目の前には顔が色々と変形してるユーリ君がいた。
一瞬、誰か分からなかったぜ。
あの後、しこたま殴られて叱られたようだ。
当然だ。この世界では下手にカビの生えた食品を食べればあっさり死ぬ。
毎年、数人はカビの生えた食材に気づかずに死ぬ子供がいるし、大人が死ぬ年も稀にある。
母親としては二度としないように過剰なまでに叱り付けておかねば、心配でたまらないはずだ。
今までもしっかりと注意していたはずだが、それだけで足らないならまあ、ボコボコにしてでもと言う気持ちはわかる。
ただ、ちょっと行き過ぎな気もしないでもない。
「やいっ!チビやろう!!昨日はよくもチクリやがったなっ!!」
あ、全然行き過ぎじゃなかったわ。
またチビって言ったな。チビって言った奴がチビなんだぞう!?
…いや、意味がわからないな。
チビと言おうがデカいやつはデカイに決まってる。
イラッとしたけど、チビと言われたからではなく反省してない彼の態度にイラッとしただけだ。
だってチビだろうが高身長だろうが、関係ないのだから。
「おいっ!チビっ!!今日も決闘から逃げるのかよっ!?」
いくら子供でも調子に乗り過ぎじゃないだろうか。
いい加減、お兄さん激おこしちゃうぞ?
その後もまあ、僕が畑仕事をする横でワーワーうるさかったので、決闘した方が早いのではと考えてその場で戦うことにした。
方法は木の枝で殴り合って参ったと言わせた方が勝ちらしい。
目に入ったりしたら危ないよと言うとビビってんじゃねぇ、と聞く耳を持ってくれない。
ともなれば、やむを得まい。
彼が味を占めて、他の子とも決闘ごっこをしないようにしっかり叩きのめしてあげよう。
僕ならお互いに重傷を負わないように加減できるしね。
結果は言うまでもなく勝利。
結構、頑張っていたがしっかりと叩きのめしてやった。
彼やその周りの子供たちを思えば多少やり過ぎなくらいに痛い目に合わせた方がいいだろうと、泣いても引っ叩くのをやめなかったせいか号泣しながら帰ってしまったが…まあ、これで反省してもらいたい。
号泣するまで参ったを言わなかったのは少しだけ見直したが、もう二度とやりたくないものだ。
気分悪いし。
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