第29話

良いことをしたなあと自分の良心を慰めつつ、次の日を迎えた朝のこと。

リアちゃんの無表情ドアップ目覚ましを目にして今日も土いじりだ、と意気揚々と家を出ようとしたところで今日は来客があった。

あ、ちなみにリアちゃんは家事手伝いをしている。

母もそれはもう乗り気で、娘が出来たみたいと料理やら何やらと家での仕事をリアちゃんと楽しんでいるようでなにより。


そんな日々の中、やってきた客はと玄関を開けるといたのは10歳児くらいの男の子の3人組だ。

確か近所にすむ…ユ、ユ、ユ…ユなんとか君とその子と良く遊んでいる2人組だったはず。

何の用だろうか?

残念ながらと言うか、僕には同年代の友達がいない。

なにぶん、中身が大人な僕としては母一人で家事やら畑仕事を任せきりにするのは具合が悪く、畑の管理も嫌いじゃ無かったのもあって畑仕事の手伝いをしているうちに畑の管理は僕が専任することになった。

本来ならば人口の多い世界であるここで、安月給で畑の管理をしてくれる人なんていくらでもいるのだが、母はそれを望まなかった。

母は豪農の一人娘なだけあって、両親から大層可愛がられていた。変な男…つまり僕の父親に引っかかるまでは。

彼女は両親の反対を押し切って駆け落ち気味に家を出たらしいのだがその結末はご存知の通り大失敗。

両親の反対、というか忠告を無視した自分が両親から土地の用意だったり畑仕事をする人を紹介してもらうわけにはいかないと自分の貯金を切り崩して、僕が今世話している畑の土地を購入した。

当然ながら人口が多い分、土地は高い。

土地を買ってしまえば安くすむとはいえ人を雇い入れる人件費を払う余裕も無くなる。

つまり彼女は自分一人で農家をやって、僕を育てていくつもりだったようなのだ。

さすがに見てらんねぇと僕が張り切りるのも当然の話。

というか、多分、母の両親はそれとなく力を貸しているはず。

なんの実績もないポッと出の農家の野菜が売れるとは思わないし、土地代は地球のそれに比べてかなり割高だ。

彼女の貯金、おそらくこの街から追放する際に得た慰謝料的な僕の父親からの財産、実家にいた時に貰っていた小遣いの余りなどであったろうがそれだけで払えるとは思えない。

裏で大部分を母の実家が負担しているはず。

まあ、今では僕の作った野菜は魔王クリエイターのおかげもあって超好評。

美食家的な人にも話が広まりつつあるらしく、プレミア価格が付くくらいだ。

十分に自活できていると思うが。


つまりだ。

僕には同年代の友達を作る暇なんてものはない。

ちょっと前に母から畑仕事は私に任せて友達を作ってきたら?と言われたのも断っていた。

さすがに10歳児くらいの子供と日常的に遊ぶのはキツイ。

それもあって厄介事だとは思ってもリアちゃんと関わるのは止めようとしなかったのかもしれないと今更ながらに思う。

ちょっと訳ありだけど友達が出来て安心したのだろう。

リアちゃんをウチで引き取るために実家と連絡して力を借りるくらいだし、借りる条件として一度実家に戻ってくるように言われているのだとか。

もちろん孫になる僕も一緒だ。近々行かなくちゃいけない。


「おい?」


っと。

それよりも目の前のキッズ達だ。

なんでうちに来たんだろうか?


「どうしたんだい?ウチに何か用かな?お使いかな?まだ小さいのに偉いねぇ」

「は、はぁ?!

お、お前の方が小さいだろっ!何言ってんだよ!!」


おっと。

そうだった。

今の僕は8歳児だった。

しかも8歳児の中でも小柄な方。

父は高身長だったのだが、母は小柄な人だ。

僕は母の遺伝子を大分濃く受け継いだらしく、そこから察するにおそらくチビなままで終わりそう。

まあ、前世もそうだったが残念ながら恋人は出来たことがなかった。

イケメンではなく、性格も特別気が利いたわけでもなく、女性に対して積極的にアプローチしていたわけでもない。

さもありなん。

今生も多分、そうなるだろう。

そう考えると別に身長が低くても困らない。どころか畑をいじる時は背の低い植物をいじることだって多々ある。

むしろ背が低い方が腰の負担が少なくて良い。

高いところは魔法を使って翔べばいいし。

だから小さいだろうと言われても気にしていない。

ベッドだって広々と使えるし、気にしていないから小さいとか言われても意味がない。

意味がないことを何度も言う必要はないのだから2度と言わないように、と目の前の彼に言ってやった。


「お、おう」

「まあ、意味のない話は置いておいて、お使いじゃないならなんのようかな?」


目の前の男の子の名前はユーリ君だった。

ユーリ君と他2名のキッズ達がウチに何の用だというのか。

遊びに誘いに来たとか?

今更?

考えにくいな。

まあ、聞けば1発で分かることだ。

だが、再度なんのようだと聞いても3人ともがマゴついてうじうじと用件を言おうとしない。

よほど言いにくいことなのだろうか?


「あ、遊びに、誘いに来た」


まさかのそれ?

今更?

今更だからこそ言いづらかったのかな?


「悪いけど、これから畑仕事があるから…」

「だ、だれがお前みたいなチビを誘いにくるかよっ!」


かっちーん。

チビとかほぼ初対面の相手に対して失礼すぎないか?

さては、コイツ。

クソガキだな?

お、おほん。

いやはや、冷静になるのだエルルよ。

チビとかチンチクリンだとかは意味のない言葉なのだ。

チビであろうとなかろうと意味がない。

ゆえに腹が立たないし、気にしてないし、失礼でもなければ、クソガキでもないね。うん。


「じゃあ、誰を誘いに来たのさ。僕以外には母しかいないよ?まさかウチの母と遊びに来たとか?母も仕事だけど?」

「そんなわけねーだろ!?

なんで他所のババアと遊ばなくちゃなんねーんだよ!?」


この子、本当に口悪いな。

いつか痛い目に遭いそうだが、まあ同じ子供の僕に注意されたところで直るまい。

親の顔を見てみたい物だが、まあ人間の人格は環境にも影響すると言うし親だけを責めるのは酷だろうか?


「えっと、君さ。訪ねてくる家を間違えてない?」

「そ、そんなわけねぇっ!

ちゃんと教えてもらったんだからな!!ここにリアがいるんだろうっ!?」

「君、リアちゃんの友達?」


あら?リアちゃんの友達だったのか?

それにしてもリアちゃんがウチに来てそんなに経ってないのに、良く調べたな。

それだけ心配だったのかな?

リアちゃんに友達がいたのか。

それにしてはリアちゃんと遊んでいた様子を見なかったが。

リアちゃんの両親の厄介さゆえに彼らの親が近づかないように言っていたのかもしれない。

問題の両親が居なくなったと聞いて、また仲良くしようといったところだろうか。

ううむ、それってリアちゃんからしたら裏切った輩が、立場によってコロコロと手のひらを返したように思われているのではないだろうか?

僕としては仕方ないなあと理解を示さないでもないが、リアちゃんは許せない筈で、また仲良くなれるかはかなり厳しそう。

まあ、僕としてはリアちゃんの友達が増えるのは歓迎すべきこと。

とりあえずリアちゃんを呼んで彼らにあわせてみよう。











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