第28話

さっそく試してみよう。

魔王蝶々から借りた視界には沢山の魔王クリエイターの対象物がある。

そう、人間の死体という名の材料が。


正直、人として、元日本人としての倫理観が「もうやめて!あなたの倫理観ライフはもうゼロよ!?」と叫んでいる気がするが、すまない。そうすることを強いられているんだ!

現実的な話をすると、色々な生き物が食肉利用で絶滅しつつあるこの世界で8歳児の僕の行動範囲内で手に入れられる魔王クリエイターの対象は昆虫くらい。だから昆虫を使っていたのだが…

もしくはゼロから作るか、いっそのことその辺の人を改造するかだ。

ゼロから作るには8歳児の僕が用意できる身近な材料が野菜くらいしかない。

異形の芝犬もどきを作ってからその辺の土だけとか岩だけを使ってゼロからの魔王作成、ファンタジーにおけるいわゆるゴーレムみたいのを作れないのか試してみたのだが、ある程度の有機物…なんなら野菜だけで作る以上の材料を要求されたので現実的では無かった。

しかも、魔王クリエイターを生物に使うように材料も視界に収めていれば良いのかと思いきや、材料は一ヶ所に集中させないときた。

面倒が過ぎる。

では人を改造するか?と言うのも良心が咎める。

魔王クリエイターで沢山の人をアレコレしておいて何言ってんだと言われるかもしれないが、自分で直接あーだこーだするのと間接的にあーだこーだするのでは心のハードルの高低差が違いすぎて高山病を起こすってするレベル…ちょっと例えが下手だったかもしれない。


とにかく。昆虫を使うのが一番手っ取り早いのだが、今回の魔王ゾウムシがやられたことによって、このままでは不味いかもしれないと考えた。

異世界と言えば中世ヨーロッパくらいの技術の世界だろうと思い込んでいたのだが、遺伝子を確認する技術を持っているとらなると些か以上に不味い。

実は僕は前世でメダカを飼っていたことがある。

小学生の頃だったか?

大きなお店で買い物をした際にペットコーナーで見かけたメダカに一目惚れして、前世の母親に強請りに強請って買ってもらったのだ。

生き物を欲しがる子供への常套句として、ちゃんと自分で世話をするんですよと母親に言われ、喜び勇んで飼育を開始したものだが1週間もしないうちに熱が覚めてしまった。

もちろん約束を破ったので母親に怒られて、泣きながら、だったら川に逃してくると僕は母親に返したのだ。

小学生の僕にとってメダカの世話をする暇があれば携帯ゲーム機や玩具で遊んでいたかったのである。


しかし。


それを聞いて、その場にいて母を宥めてくれていた父までもが怒りだす。

無責任過ぎる、と。

なにより、もとメダカは日本にもともと存在する生き物だが、店頭で扱われているメダカは改良品種、なんなら実際に川から取ってきたメダカを別の川に流すのもいけないのだ、と。

父親はそうした野生動物の保護関連の仕事に従事していたので、メダカに限らず、見た目が変わらない同じ種類の生き物同士でもわずかな遺伝子の違いがあり、別地域の生き物を逃すと遺伝子が自然とは違う交雑を起こしてしまうことを叱りながらも僕に教えた。

最終的にメダカはその後も飼育し続け、いつの間にか魚飼育が趣味になったりもしたが閑話休題。


話が長くなったが、どこにでもいる生き物でも遺伝子を見ればどこに生息していたか分かる場合があるということがあるのだ。


そこまでの発想が無かったのか、技術が無いのか、報告がまだ無いだけなのかは不明だが、今後も我が家の周辺から採集した生き物を魔王にしていけばいずれその倒された死骸から、プラベリアの辺境に何かがある。そう気づく人がいてもおかしくない。

最終的にはだ。僕の家の野菜が急に品質が向上したことに目をつけて、その世話をしている僕という元凶に辿り着く可能性は少なからずあるにはある。

僕という元凶に気付けない可能性も十分にあるが、それはそれで僕の住んでいる辺境か、プラベリア自体が疑われ、戦争、なんてことになってしまう最悪の未来だってある。

さすがに僕のせいで戦争、というのはちょっと。

いや、まあ、魔王を創り出しといて、と思うがまあ身近に感じてしまう分、どうしてもね。

だからこそ居場所がバレるかもしれない、倒されるかもしれない昆虫を安易に魔王化するわけにはいかない。

つまり。


魔王蝶々の視界に入っている人間の死体が動き出しても致し方ないのである。

恨むのであれば、この世界を管理している上位存在的な声の主を恨んでくれ。

正味な話、僕にはどうしようもない。

ぶっちゃけ寿命が増えたし、しばらく放置で良いかな〜とも思ったのだけれど、また寿命が減らされる可能性、あまり真面目でないからと別の間引き役の投入をされる可能性、などと考えるとやはりある程度積極的にヤらねばヤバい気がする。

次に投入される人間、かは分からねど、投入される何かは確実に僕を殺せる力を与えられてくるはずだし。

少なくとも弱いことは無いはず。

そうなればプラベリアの、ひいては母やリアちゃん、ゼルエルちゃんや近所の陰気なお姉さん、仲良くしてる猟師のおじさんなども死にかねないわけで。ああ、市長の爺様も入れてあげよう。

あと、死ぬかもしれない場所に何の関係もない生き物、もとい昆虫を魔王化して送り込むというのもちょっと可哀想ではあるし。


あ、死体が動き出して別の死体をみ始めた。

ちなみに創った魔王は死体が動き出すとなるとゾンビかな?と思って、ゾンビな感じにした。


名前 魔王ゾンビ

生物強度 73

スキル 死体食い 同胞殺し 超進化


スキルはたったの3つ。

死体食いは死体を食べることで身体能力を際限なく上げるというスキル。

死体をそのまま動く形にしたせいか、やたらと動きが鈍いがそれはこのスキルで死体を食べ続けることで改善されていく。はず。

同胞殺しは死体の仲間、もとい人間と戦う際に身体能力を上げるスキル。

常に身体能力を上げるようなスキルは上げ幅によって容量をかなり食うのだが、対象を人間のみに絞ることでかなり高い強化率を低めの容量で付けることに成功した。

最後の一つは超進化。

言葉の通り周りの環境や行動によって適応し、進化する力だ。

3つのスキルともかなり高量の容量キャパシティを使用した高級嗜好試作型である。


ちょっと凄惨な光景だったので魔王ゾンビにはいつものように子供を狙わないように言っておき…今更だが乳飲み子は親がいなければ餓死するだけか。ううむ。

よし、あれだ。

前々から考えていた子供の世話用の魔王も死体から創ってしまおう。


そうして創ったのがこちら。


名前 聖母アリア

生物強度 41

スキル 聖なる母乳 超魔力皮膜 超物理皮膜 超格闘 超広域視界 超聴力 超安心声帯


死体3人分を元に作り出された聖母アリア。

死体が原料の聖母か。

何か間違っている気がしないでも無いが、あまり気にしないでおこう。

人間の死体を原料にしたおかげか言葉や一般常識はすでに把握しているようだし。

彼女にはどんな種族であれ、育てられる母乳が常時出るようにした。

母乳には病気や怪我を癒す効果すらある。

そのためか非常に巨乳な美人なお姉さんという見た目だ。

そして見た目的に男性から襲われる可能性もあるので、護身用の各種スキル。

子供の面倒を見る母親に武器を持たせるわけにはいかないので、攻撃スキルは格闘スキルにしてみました。

後は子供を回収しやすいように視界を広くし、子供の泣き声を遠くからでも聞き取れるように聴力も強化。

超安心声帯で、彼女の声を聞くだけで初対面の子供でも親近感を得やすくし、懐き易くもして完璧である。

他に2人、聖母ニアと聖母ウリアという名前で創り出して、すでに魔王を向かわせた北と南にも行くように指示。


ま、これで大丈夫だろうと魔王ゾンビが死体を食べていく姿を尻目に、気にしないことにして日常へと戻ることにした。

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