イチゴ牛乳・ウィズ・ヴァンパイア
吸血鬼が世にはびこるようになったので、人類は対抗策として血管に様々なものを流し始めた。
ようは酸素と栄養を運べて脳関にひっかからない程度に分子構造の小さい液体ならなんでもいい。酒は一番最初に規制されたもののうちのひとつで、規制されたということはそれだけ同じことを考えたやつが多かったということでもある。しばらくは街が酒臭くてかなわなかったらしい。血中アルコール濃度がそのままアルコール度数と比例する人々はそこらで指を噛みちぎって自分の体液を飲み始めるのだから困りものだっただろう。ぼくもそのうち、血液なんかよりもっといいものを体に流す予定だ。いちご牛乳とか。
閑話休題。
ともかく、吸血鬼はこれにはほとほと困り果てたらしい。そも吸血鬼というのは当たり前に俗称だ。彼らは言ってみれば極度に広範な物質に対しアレルギーがあるために食物から栄養が取得できず、正常な人々の栄養を含んだ体液と自分のそれを交換することで恒常的なエネルギーをまかなっている難儀な人たちのことを指す。数世紀前からどんどんとアレルギー体質の人が増えるにしたがって、そんな吸血鬼の割合も増えていったというわけ。
「ぼくは吸血鬼ヴァンパイアを読んだことがあるけどね、案外面白かったよ。最初の不動産屋が城に閉じ込められるところが好きでさ……」
「帰ってよ」
「む、食事の時間だから進んで来てあげたのに。まったく、君はぼくという存在のありがたさを理解していないようだね」
「いや、頼んでないしありがたくもないし、っていうか誰」
レフはつめたくぼくを切り捨てた。このつっけんどんを通り越した思春期めく拒絶にぼくがめげると思ったら大間違いだということをレフはいつになったら理解するのだろう。
「君の食餌だよ。さ、”牙”を出したまえ。そのカバンに入っているのだろう?」
「……入ってないよ。お前が来るって分かってたから」
「そんなこともあろうかと、ほら、ぼくが持参している」
「うわ最悪、本当に最悪、最悪でしかない、お前ってサイコパスなの?他人の気持ちって考えたことある?通信簿に人の気持ちが分からないって書かれてただろ」
ぼくが牙……血を交換するのに使う、一種の注射器みたいなもので、吸血鬼にあやかって巷では正式名称よりもっぱらその名前で呼ばれる……を取り出すと、レフはぼくを流れるように罵倒した。
「大丈夫だよ、君の本当の気持ちをぼくは知っているから……」
「何?本当に人の言葉聞こえてないの?鼓膜破れてる?脳がババロアにすり替わった?」
「さ、ボタンを押してくれ。ぼくはこれから貧血で倒れるから看病よろしく」
「バカ、マジでバカ、そのまま二度と起きるな。なんでこっちが嫌がってるのにお前が血を押し付けてくるんだよ、通り魔」
「えい」
レフがボタンを押しそうになかったので、ぼくは自分でぽちっとやった。途端にグオオ、とものすごい音を立てて腕に取り付けた牙が血を吸い出していく。ううん、ぶっ倒れそう。
「ばーーーーか!」
そうそう、ぼくが血を入れ替えない理由だけれどね。
人種とか差別とか福祉とか、そういう小難しいことでよくハンガーストライキして死にかける友達のためだったりする。いやあ、ぼくって本当に友情に篤いなあ。
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