35. あの二人ならば、大丈夫

 時間が無いから、とうとう無茶な手段に打って出た。俺がシステムの復旧作業を続ける傍ら、ジャックがまだ安定しない環境の中で、ロボット達のコントロールを始める。

「本当に馬鹿な事をしてくれたな」

 ぼんやりと光を放ついくつものパネルの前を行ったり来たりしながら、もう聞き飽きた台詞を吐き捨てた。

「お喋りは後だ、集中しろ」

 パネルに指を走らせながら、いつの間にか鎖の様にこんがらがっているシステムの不具合の原因を解きほぐしていく。左右にずらりと並ぶコンピューター達が悲痛な唸り声が、脳をも震わせるかの様だ。車に酔った時の様な気持ち悪さがこみ上げて来る。

「早く復旧してくれ、さもなくばツシマ君達が危ない」

 危うく聞き流しそうになったジャックの不平に、思わず自分の作業を中断してジャックの元へ駆け付けた。

「おい、今何て言った」

 ジャックの前にはM-50地区の地図が浮かび上がっており、その内一番端が、赤い点で示されている。間違い無い。防御壁が機能しなくなった事により、外の世界へ剥き出しになってしまった我が家だ。そこに黄色の点が絶える事無く流れていく。

「だから、システムがおかしくなってるせいで、対危険人物用のロボット達が過剰に送り込まれてるんだよ!」

 街の治安を守る、ありとあらゆるロボット達の指揮を執るのは、政府お抱えのキュイハン社の仕事だ。俺達が忍ばせた毒によって、会社を運営してくのに必要な秩序と共に、それも滅茶苦茶になっていた。

「僕も最善を尽くしてる。でも、システムが安定しない事にはどうにも出来ないんだ」

 持ち場にとんぼ返りした。今や全てが俺の手にかかっている。しかし、大勢のロボットにたった二人で立ち向かうジョンとエドの姿ばかりが思い浮かび、手が震えてまともに作業を続ける事が出来ない。今しがたジャックに集中しろと言ってやったばかりなのに、皮肉なものだ。

 もし、ここで俺がミスをしたら。俺がシステムを復旧させるまでに、二人が限界を迎えたら――

 サングラスをむしり取って、床に投げ捨てる。本来の色を取り戻した辺りの景色の眩しさで、幾分か自分の心に決着が付いた。あの二人ならば、大丈夫だ。そして、俺だって大丈夫。「冒険」において、様々な困難を乗り越えて来た仲間じゃないか。こんな所で尻込みしてどうする。

 漸く作業を再開する。辺りのコンピューターの凶暴な唸り声さえ、徐々に遠退いていった。最早何も考えていない。すべき事を体全体が判断して即行動に移す。まるで意識が目の前の巨大なコンピューターと同化したみたいだ。

 後もう少し。後もう少し。もう少しで――

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