33. 極秘プロジェクト
「一体俺達をどうしたいんだ」
イーライが腕を組み、今俺達が一番聞きたい質問を繰り返す。ジャックはその満足感をたたえながらも、取り澄ました顔だ。
「君の事だ、極秘プロジェクトの事で気を揉んでいるんだろう」
そりゃそうだ。イーライは勿論、廃墟の住人でないのに巻き込まれたエドも、納得のいかない顔で頷いている。むしろそれ以外に何があるというんだろう。
「安心して、あれは嘘だから」
「嘘――ってお前、随分大胆に出たんだな」
「まあね。でも、上手くやってみせるから」
ジャック・ベレスフォード氏曰く。この廃墟は、「極秘プロジェクト」という名目でキュイハン社が買い取り、管理下に置く。辻褄を合わせるために俺達のキューブも作らせるが、政府にそれが登録される訳では無く、「極秘」を騙ってキュイハン社――もとい、ジャックが管理する。これで、政府に行動を把握されることも無く、俺達が何をしようとも、それを知るのはジャックのみ。これからは政府を恐れずやりたい放題が出来る。勿論、これはあくまでも「極秘」だから、隠せる物は隠さなければならない。この混乱が落ち着いてからではあるが、イーライご自慢の防御壁も復活させてくれると言う。手っ取り早く言い換えれば、恐らくはこの地区で一番無敵なイーライの城が出来上がるという事。
「お前の独断でそんな事してもいいのか?」
「まあ、やってみるよ」
「……分からないな。何故お前がそんなリスクを背負う必要があるんだ」
まるで人生を左右する取引を行っているかのような慎重さだ。……いや、その通りと言える。これでは、こちら側が得をしてばかりじゃないか。何か裏に企んでいる事でもあるような都合の良さじゃないか。
ジャックは暫くの間、何も言わなかった。視線を落とし、何かを言いかけては、やっぱりそれが相応しく無い発言だったと気付いたかのように口をつぐむ。やがて、問に答えるのを躊躇っている自分に呆れたのか、自嘲気味な笑顔を浮かべてぽつりと呟いた。
「……僕なりの、反省という奴さ」
その時、イーライの黒いサングラスの奥、やっぱりそれは見えないから、その風変わりな同居人が一体何を思っていたのかは分からない。だが、恐らくは様々な苦労を積んできたであろう過去も、何もかもを全て引っ括めた笑みと共に、手を差し出した。ジャックもそれに応えるようにおずおずと手を差し出すが、なかなか相手の手を握ることが出来ずにいる。終いにイーライからジャックの手を取って、結局二人は握手を交わした。ジャックの指に、確かに力が入る。
かくして、数十年ぶりの仲直りが出来たのである。お互い、思う所は多々あるだろうが、とりあえずはそれらを潔く水に流すようなこの感動の一時が、埃だらけの廃墟の中で行われたという事には目をつぶろう。
「こうなりゃ、俺もお前の手助けをしなくちゃな」
イーライが一つ伸びをした。同居人が乗り気になれば、後はきっと丸く収まるだろう。それをよく知っているジャックが安堵の溜息を吐いた。
「もう時間が無い、早く行こう」意気揚々と歩き出そうとしたその時、何処からこだまする声があっという間に響き渡り、向こう側から見慣れない人間が数人、こちらを目がけて一直線に迫って来る。
「おいおい、まだいるのかよ!」
エドの言う通り、そいつらは人間でなくロボットだ。その証拠に、口々に「違反者を発見しました」と感情のこもっていない声で俺達を非難している。
「なっ、何故――指令は既に行き届いてる筈なのにっ」
「……言いづらいんだけど、これが原因じゃねえの」
イーライが指さしたその先には、息絶えたロボットが転がっている。俺にも合点がいった。ジャックがロボットを緊急停止させる前に、頭を殴った時点でそいつは壊れてしまったんだろう。そのせいで、ジャックの指令よりも、ロボット達の脅威としての俺達の情報が優位に行き渡ってしまったという寸法だ。いや、これは全く、「余計な事をしてくれた」という言葉以外、当てはまらない。
俺がロボットを注文するために町を奔走した時の事を思い出す。行きがけに一体のロボを壊したのが、帰りには何倍にも膨れ上がって廃墟への道を塞いでしまう程の有様だった。要するに、今、それと同じ事が再び起きている。ただ違うのは――今回のロボットは、あの時の下っ端ロボよりもはるかに戦闘能力が高いであろうという事。人間と同じ形をしていて、更にはそれを上回るであろう力を備えているから、当たり前だ。
自分の会社から生まれたロボットの事を知り尽くしている筈の男の、たった一つのケアレスミス。ジャックの計画の内に、機械人形達の絆の強さは、考慮されていなかった。すっかり絶望の淵に立たされてしまったジャックは悔しそうに地団太を踏むばかり。イーライも眉間に皺を寄せてロボット達を睨みつけている様に見えるが、一方で何も出来ずにいる。じゃあ、俺は、どうすべきだ?
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