21. 金さえくれれば
ウインナーのような指が器用に紙幣を数えていき、取り決め通りの枚数がある事を確認すると、漸くそれらが手渡された。
「いやあ、よく働いてくれたね。大助かりだ」
丸々とした体をスーツに詰め込んでいるような格好のその男は、あくまでも親しみやすそうな声音と笑顔で、自身の雇い人を労う。最もそれは、ある程度聡い人間ならばすぐに「上辺だけ」だと気付くような代物だが。
「当たり前でしょ。金さえくれればなんだって出来るんだから」
嘘っぽい豊かな黒髪を揺らしながら、たった今手に入った報酬をコートのポケットに突っ込む。
「じゃあ、お言葉に甘えてあともうひと頑張りしてもらおうかな」
雇われた黒ずくめの人間は一瞬言葉を喉に詰まらせた様子だったが、小さな咳払いでそれをすぐに払い除ける。
「……今度は何をしろって言うの」
相変わらず顔に張り付けたままの笑顔による笑い皺が、ますます深く刻まれた。もうすぐ完全に遂行されようとしている計画を、心の底から楽しんでいるといった感じだ。
「まあまあ、そんな難しい事じゃないから」
対して雇われ人はぴくりとも笑おうとしない。何でもない様に装いながら、男の柔らかな声音が路地裏に響く度に、ますます警戒心を高めている。
「最後に――奴らの動きを監視してくれ。特に、"キルロイ"には注意して、ね」
これは前払金だよ、と男は笑顔で再び紙幣数枚を差し出した。雇われ人は、数秒ためらったものの、結局観念したようにそれを受け取った。
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