石垣島旅行その5


 波打ち際、俺達は手を繋ぎ二人でボーッと海と雲を眺めていた。

 流れて行く雲、押し寄せる波、泳ぎもしないでその美しい海を眺めている。

 ここは時間の流れがゆったりとしている。東京とは違う時間軸の様なそんな気がしてくる。

 妹と二人で幸せな時間を堪能する。

 ずっとこのままここで、二人で居たいって……そう思ってしまう。


◈◈◈


 ホテルのプールやビーチにはいつでも行ける……日頃では絶対に出ない品数の豪華な和朝食を食べながら、俺と妹はホテルのレストランで朝食食べながら、今日の予定を話し合っていた。


 貧乏性な俺達は、せっかくの石垣島、ホテルでのんびりするには勿体ない最終日でもいいんじゃね? って事で急遽どこかに行こうって事で合意した。


「どこにしようか?」


「うーーん、川平湾?」


「ああ、まあ、有名だよね」


「でも人が多そう……」


「だよねえ」

 食後のお茶が運ばれてくる。デザートのパイナップルを食べながら引き続き今日の作戦を練る。

 だが、こんな時間も楽しいって思う。 相手は妹なのに……まるで本物の彼女との旅行気分になってしまっている。


「お兄ちゃん、これこれ、ここに行こう!」

 妹がガイドブックの特集ページに載っている写真を指差した。


「ああ、成る程離島か」

 石垣島周辺にはいくつかの島がある。

 一番遠い所で波照間島、日本最南端の人が居住している島。


「波照間島はさすがに遠いよなあ」

 船で約1時間、しかも外海に出るので波が高く酔い易いとの事。


「じゃあここで良いじゃん」


「──まあ、無難かな?」


「よし! そうと決まれば出発だ!」

 周囲を気にせず腕を高々と上げる妹……以前は恥ずかしいって思っていたけど、旅の恥はかき捨てとでも言うのか? 今は全く気にならない、寧ろ俺のテンションもその腕の様に上がって行く。


 俺達は慌てる様に、部屋に戻って急いで着替えた。


 妹は昨日の夜もそうだったけど、俺に構わずそのまま部屋で着替え始める。

 当然俺は背を向けて見ない様に心掛けているけど……。


 着替えを終えると調べていた石垣港行きのバスに乗る。

 ちなみに沖縄も石垣も基本的に電車が無い為に(沖縄にはモノレールがあるが)バスが発達しており、殆どの場所にバスで行ける。


 石垣港に着くと、俺達は船に乗船した。

 行き先は、竹富島だ。


 船の便数も多く、石垣港から僅か20分程で着くお気軽に行ける離島。


 船に乗り込むと直ぐに出港、綺麗な海を見ていると、酔う暇もなくあっという間に到着する。


 下船し港を出ると牛車観光の迎えの車が待っていたが、俺達はそれらをそのまま素通りし二人で手を繋いで島の中心に向かって歩く。


 15分程田舎道を歩くと島の中心地、ガイドブックに書いてあるなごみの塔が見えて来た。

 竹富島はほぼ平坦の島で、この塔が建っている場所が一番高く10mもないこの塔に登ると島が見渡せるらしい……が、現在は老朽化で登れないとの事。


 俺達はそのままさらに島内を見ながらゆっくりと歩いていく。

 細い田舎道、赤い屋根瓦、家の周囲には石垣、まるで違う国を歩いているかの様な気分になる。


 常にテンションの高い妹が、その光景に圧倒されているのか、殆ど喋らない。

 でも手から伝わる妹の楽しさ、そのお陰で俺も安心して見物出来る。

 気を遣わなくてもいい関係、全く遣わないわけではないが、この関係が俺にはとても心地よい。


 そのまま歩くと海岸に到着した。

 港のちょうど反対側に位置するビーチ。

 お盆とあってビーチには人が賑わっていた。


「はわああ……」

 ビーチに着くと妹からため息の様な声が漏れる。


 石垣島の海も綺麗だったが、さらにもう一段綺麗な海がそこにあった。

 まるで水面に絵の具落とした様な青色、その青い海が空に続く。

 空の青さと海の青さ、境がよくわからない、雲が海に浮いている様な錯覚に陥る。


 俺達は人混みを避けるべくそのまま海岸をゆっくりと歩いた。

 妹は終始海を見ている。

 

「この辺りでいいか?」


「……うん」

 ビーチから離れた場所にコンビニで買って来たビニールの敷物をひく。

 砂浜の後ろ、木の木陰に俺達は腰を下ろした。

 二人で手を繋いだまま海にも入らずに、そのまま眺める。


 時間がゆっくりと進む……幸せな時間がゆっくりと……こんな幸福な事があるだろうか? 好きな人と二人きりで美しい海を見つめられ、尚且つその時間がゆっくりと過ぎるのだ。


 俺達は昼前まで、そのままずっと海を見ていた。


「──暑い……」

 日が高くなり、日陰が無くなった頃妹はそうポツリと呟くと突然立ち上がった。


「泳ぐよ! お兄ちゃん!」

 そう言ってそのままスカートを脱ぐ。


「だな」

 妹の着替えは見てない……けど、なんとなく水着を着ている雰囲気は察知していた。

 なので俺も水着を着ていたのでそのままズボンを脱ぐ。


 Tシャツは着たまま、日焼けが凄い事になるので……俺達はそのまま海に駆け込む。


「ひゃあああ、気持ちいい!」


「おおおお、結構ぬるい」


「お兄ちゃんいえーーい」


「うおおおお!」

 海で水を掛け合う、ベタベタだけど、夢にまで見たその行為に俺は思わず叫んでしまう。


 妹と、こんな事をして何が楽しいのか? ただの恋人ごっこだろう? って、以前の俺ならそう思っているだろう。


 でも今は、この楽しい時間がいつまでも続けばいいってそう思っていた。

 いつまでも、いつまでも続けばって……。


 

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妹と疑似恋愛してみよう。勝つのはどっちだ? 惚れさせたら勝ちの恋愛ゲームが始まった。 新名天生 @Niinaamesyou

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