石垣島旅行その4


「うひゃおう!」

 うちの妹はよく奇声を発する。

 よくっていうか、まあ、最近っていうか……この間から気が付いたんだけど。


「まあ、旨そうだよな」


「くううう、染みる」


「オヤジか?」


「マヒでおいひいおにいひゃうう」


「食べ物を口に入れてる時に喋ってはいけません」


「らってらっておフランス料理なんて初めてだからああ」

 高級ホテルだけあって、夕食はフランス料理、中華、和食、ビュッフェと色々選択出来る。

 俺達は初日フランス料理を選択した。


「ねえお兄ちゃん、メイン料理の舌平目のムニムニって美味しいのかな?」


「まあ、ムニムニしたら美味しくなくなるだろうな」


「お兄ちゃんワインは良いの? こうグラスを持ち上げて君の瞳に乾杯ってやらないの?」


「やらない」

 酒はこのように間で懲りた。


「もう、もっと楽しそうにしてよお」

 向かいに座る妹が不満げな顔で俺を見る。


「……楽しいマジでよ」

 俺は妹を見つめ真剣な顔でそう言った。


「……そか……でもお兄ちゃんはさあ、それが駄目なんだよ? もっと喜びをこう身体で表現しないと、みたいな?」

 妹は万歳をする。


「ここじゃ嫌だよ」

 

「どこなら良いの?」


「そりゃ……って言うか……さっきのあの雰囲気はなんだったんだよ?」


「ん? 何が?」


「……もういいよ」

 何かさっき海を二人で眺めて、何て言うかこう、心と心が通じあっているみたいな、そんな雰囲気があったのに……俺だけか? そう思ったのは俺だけなのか?

 そして……俺に恋愛指南してくるのも腹が立つ……いや、元々それが目的なんだけど……でもお前は今俺の彼女なんだろ! 


「もう~~また仏頂面になるう」


「しょうがないだろ……俺ばっかり」


「ん? お兄ちゃんばかり?」


「──何でもない、ほれ、メインが来たぞ」

 綺麗な皿に盛り付けられ舌平目のムニエル目の前に運ばれてくる。

 名前は良く聞くフランス料理の定番の魚料理だが見るの始めてだ。

 白身魚に生クリームのソースがかけられていかにもフランス料理って感じだ。


「ふわあああ、舌平目のムニムニ~~」


「ムニエルだっつうの……」

 目を細め美味しそうに食べる妹……それを見て改めて思った。

 俺達兄妹なのに、ここまで感情表現の仕方に違いがあるのかって……。

 妹はとにかく能天気に身体で喜びを表現するタイプだ。

 俺はあまり感情を外に出さない……って言うか出せない。どう出して良いのかも良くわかっていない。

 でも、だからこそ俺は妹と一緒にいて楽しいんだろうなって思う……そして相手は俺と一緒にいてもつまらないんだろうなって……。

 つまらないわけじゃない感情表現がうまく出来ないだけ……。

 俺はずっと楽しんでいる。そしておそらく妹それをわかってくれている。


 俺のそういう所をわかってくれてる人となら……妹みたいな人となら……妹となら……ずっと一緒に……。

 ニコニコしている妹を見ていると凄く楽しい……そして凄く嬉しい。

 そうひっそりと思いながら俺もゆっくりと食事を楽しんだ。

 

 そしてデザートまで綺麗に平らげ俺達は部屋に戻る。


「さて、お風呂入らないとねえ」


「ああ、先に入っていいよ」


「今回は家族風呂ないねえ、でも広いから一緒に入る?」


「は、入らねえよ! いいから早く入れ!」


「ちぇ、はーーい」

 妹はそう言って自分の荷物から下着や着替えを取り出す。


「あ、お兄ちゃん見て、おニューのパンツ、お兄ちゃんこういうの好みでしょ?」


「ぶっ! って見せんな!」


「何で? 可愛いのに」

 ピンクのシマシマパンツを俺に見せつけてくる妹……。


「いいからさっさと入れって言ってるの!」


「ぶうう、もう乗り悪いなあ」


「何でだよ! どう乗るんだよ! どう言えばいいんだよ?」

 なんだ? 妹のパンツ見て誉めるのか? それともどう良いのか聞くのか? ってか恋人だとして、そんな事言い合うのか? 世の中の恋人ってそんな事してるのか?


「素敵だね、可愛いねとか言うんじゃない? わかんないけど」


「いいから早くいけ……」

 俺は手でこめかみを抑えつつ妹にそう言った。

 頭が痛くなってきたよ。

「はーーい、覗きに来てもいいよ」


「いかねえよ!」


「ほら、トイレとバスが一緒だからトイレに入って来てついでに」


「いかないから……もう勘弁してくれ……」


「あははは、じゃあお先にい~~」

 妹は俺をからかうだけからかって風呂場に向かう。

 からかい上手の妹のれんちゃんて漫画でも描くか?


「はあああぁぁ……」

 俺はこめかみを手で抑えながら深くため息をついた。


「……それにしても……」

 そう……それにしても……何であいつは……俺の下着の趣味を知ってるんだ?

 頭から妹のあのピンクのシマシマが離れない……そしてそれを履いている妹の姿を……思わず想像してしまう。


「まさか……そんな格好で出てこないよな?」

 俺はベットに腰を降ろして妹の鼻歌が聞こえる浴室の方に目をやる。

 これから数日間こんな事が続くのかと考え、俺は、ほんの少しだけ、ここに来た事を後悔し始めていた。


 

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