伊豆旅行その4
「本気?」
「今更?」
家族風呂とは通称で、正式には貸し切り個室露天風呂。
温泉宿では有料だったりするのだが、ここは無料、混雑時は予約制で1時間、今日は平日とあって空いていたが念の為予約はしていた。
「ほら時間無くなっちゃう」
覚悟を決めて脱衣室に入るも、さすがに良いのか? との思いが再燃する。
いくら兄妹でも……そう考えて俺は躊躇していたが、妹は俺に構わず目の前で平然と脱ぎ始める……。
「ちょ! ま……」
青のストライプの可愛らしいブラが見えた所で、俺は慌てて後ろを向いた。
マジかマジかマジなのか?
スルスルと妹が脱ぐ衣擦れの音が聞こえてくる。
Tシャツにスカート姿なので、もう今は……。
「お兄ちゃんお先に~~」
「え?」
そう言われ振り向くと、妹は身体にバスタオルを巻いた状態で浴室に入って行った。
「──そ、そうだよな、あはははは……」
そうか、貸し切りなんだから、タオルを巻いて入れば良いんだ。
畜生またしてやられた……と、俺もさっと脱いでタオルを腰に巻き浴室に入ると、妹は既に湯船に浸かっていた。
「お~~やっと来た~~」
そう言って笑いながら手を振る妹、畜生もう勝ち誇った顔をしてやがる。
俺は負けずと妹の入っている大きな大理石の浴槽に入ろうとすると……。
「お兄ちゃん掛け湯、掛け湯!」
「……あ、ああ、そうか……」
「もう常識だよ?」
そう言われ俺は浴槽の側にあるシャワーを出して身体に掛け、再び浴槽に入ろうとすると……。
「ああ、もうお兄ちゃんタオル!」
「……へ?」
「子供か? タオルは禁止!」
「え? いや、だって貸し切りだし」
「貸し切りって言ったってこの後他の人も使うんだから」
「そ、そうなの? そうか……でも……じゃあ……」
原泉掛け流しだけど、言われてみれば全部お湯を抜くわけじゃない、結局は大浴場とかわりない、そして良く見ると妹のバスタオルは浴槽の脇に置かれている……って、つまり今……妹は……全裸?
妹の周りで揺らめく水面の色は……肌色……。
マジか……マジなのか? いや、でもここで入らないわけには……。
俺は妹が凝視しているので、腰にタオルを巻いたまま浴槽に片足を入れる。
「だからタオル駄目だってば!」
「いや、お湯には浸けないよ」
そう言って、もう片方の足を入れ妹に背中を向け素早くタオルを外すと勢い良くお湯の中に肩まで浸かった。
「あははは、お兄ちゃんの可愛いお尻が見えた!」
「ふっ!」
おっさんか? 妹はおっさんなのか? とてもJKとは思えない発言、行動……。
「お兄ちゃんと一緒にお風呂とか、いつ振り?」
「……えっと……小学生低学年以来ってか、二人で入った事なんてないのでは?」
いつも父さんか母さんと一緒で……俺がある程度大きくなったら一人で入ってたし。
「そっかあ、初めてか~~、てかお兄ちゃん折角の露天風呂なのにずっとそっち見てるの?」
半露天風呂、窓は無く外の景色が一望できるとパンフには書いてあった気が……てか、見れるか!?
「のれん、は恥ずかしくないのか?!」
「のれん言うなし! ええ? 兄妹なんだから恥ずかしくは無いでしょ? ちょっと照れ臭いけど……てか、忘れてた!」
「え?」
「そうだよ! なんかすっかり家族旅行の気分だったけど、私達……今、恋人じゃん!」
「……今さらか?」
「だって、そもそも、それが目的でしょ?」
「いや、だってさ、これって付き合って2日目って事だろ? それで一緒にお風呂とか、無いでしょ?」
「そう? そう言う考えが駄目なんじゃ?」
「そうなのか?」
「うん、大人のお付き合いなんだから」
いや、昨日基礎からって言ってなかったか? 一気に大人って、相変わらお適当に振りに呆れていると、妹はジャバジャバと水面を叩く様に音を鳴らす。
「ほらお兄ちゃん、じゃなかった、たっくん、こっちに来て一緒に外見よ?」
「……わかったよ」
言われて俺は今度こそ覚悟を決め、あまり妹を見ない様に、ゆっくりと水面を泳ぐ様に隣に移動する。
「海に近いから風が涼しねえ」
俺が隣に来るのを確認して妹は外を見ながら目を細めそう言った……。
俺は言われて外を見ずにチラリと妹を見る。妹の肩がほんのりピンク色に染まっていた。
さらに見ると、顔は少し赤く、その赤みが首から胸に……いや、胸って言っても……全部は見えてないから!
ジャバジャバとかけ流しで常にお湯が足されているので、水面は常に波紋が浮かんでいる。
なので妹の身体はぼんやりとしか見えない。
まあ、それは妹から見た俺もそうだという事で少し安心する。
「ふふふ、たっくん緊張してる?」
「そりゃ……少しは……」
「私は楽しくて……全然」
そう言うと俺の腕をそっと掴む。
「運転してくれてありがと……ね」
「いや、俺も……誘ってくれて嬉しい……」
「あはは、まさかこんなに楽しいなんて思わなかったなあ……ねえ! 今度はもっと遠くへ行こうか?」
「もう今度かよ」
「だって……夏休みなんてあっという間だから……」
そうだった俺と妹は夏休みの間だけの恋人関係、恋人ごっこをしている……。
こうやって旅行とかするのは、この夏休みの間だけ……。
「べ、別に……旅行くらいは良いんじゃないか?」
兄妹だし、家族だし。
「そうだね……でも、どっちかに恋人ができたら……」
寂しそうな顔でそう言う妹……でも、そもそもが、そういう前提で……恋人を作る練習として俺たちは今、付き合ってる振りをしているんでは?
それも、元々言い出したのは妹の方から……。
「まあ、いつになるやら、だけどね」
俺がそう言うと、妹は俺の肩に頭をコテンと乗せる。妹が昔から甘える時の行動。
俺は昔の様に、昨日の様にまた妹の髪を撫でる。
でも……こんな事……恋人とは出来ないよなあ。
長い間知っているから、妹の事を知っているから……出来る事。
こんな事、他人と出来る様になるんだろうか?
ここまで信頼できる相手が俺に出来るんだろうか?
妹以上に……好きになる相手が、俺に……出来るんだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます