伊豆旅行その2


国道1号を暫く走り、西湘バイパスに乗る。


「うわあああああ、凄い凄い!」

 西湘バイパス、台風等波が高いとすぐに通行止めになってしまう程、海の直ぐ近くを通っている有料道路。

 テトラポッドに掛かる波しぶきまで見える絶景ドライブコース。

 太平洋を一望しながらのドライブに、はしゃぐ妹を見て、俺のテンションも益々上がっていく。


「綺麗だねえ……」

 ひとしきりはしゃぐと今度は一転して黙って海を眺め始める。

 

 美しい髪が風で乱れるのも気にせず、妹は窓を開けたままうっとりと外を眺めている。

 良かった……喜んでくれて……。

 実は元々カーナビが指定していたコースとはこことは違うルート東名高速を通るルートになっていた。

 しかし折角のドライブ、大型トラックを見ながらではあまり楽しくないと、さっき妹がハンバーガーを取りに行っている間に俺がこっそり変えておいたのだ。


 実は、たまたま某有名漫画の最新話が伊豆の話だったので、俺は仮想デートコースとして伊豆迄のコース等と少し調べていた。


 いつか彼女と……なんて妄想をしながら……そしてまさか……実践で使うとは……その相手が妹かよ! と、一瞬思いもしたけど、こうやって喜んでいる妹見ていると、調べて良かったという思いになる。


「パーキング1ヶ所あるけど、休む?」


「ううん、大丈夫~~」

 

「そういえば今日泳ぐのか?」

 行き先はさっきカーナビで確認した。

 ホテル名はわかってるので調べれば色々わかるけど、妹が言わない以上あえて調べずにいる。

 まあここまで運転しっぱなしなので調べる時間もないけど。


「うーーん、宿の近くにこれっていう海水浴場は無いんだよねえ」


「ほう……じゃあ宿に直行? 暇じゃね?」


「ふふふん、面白いホテルを取っているのだ!」


「ふーーん、じゃあ楽しみにとっておくか……それにしても早いだろう?」


「うん、この辺て渋滞多いって聞いてたから、3時チェックインだとしても早すぎるよねえ?」

 カーナビの到着時間はそれよりも2時間以上はやくなっていた。


「まあ、夏休みといっても学生だけだからなあ、お盆はまだ先だし」


「そっかあ、じゃあ……お昼をどこかで食べよか?」


「うーーん、伊豆と言ったら魚だけど、宿でも出そうだし、明日もあるし……ああ、そんじゃ、あそこに行ってみるか?」


「あそこ?」


「正面に見える山に、あれ箱根だよ」


「箱根って駅伝の?」


「そそ、温泉もね」


「おーー何か美味しそうな物がありそうだねえ!」


「箱根ってなんだっけ? 温泉まんじゅう?」


「うーーん、渋いなあ、あ、でも確かお蕎麦が美味しいって聞いた事がある!」


「ホテルとかも結構あるし、適当に入ってランチもいいかも」


「おお! いいね、いい感じ~~」


 と言う事で伊豆旅行と言っていたが、途中箱根に寄り道する事になった。


 西湘バイパスを抜け箱根新道に入る。

 くねくねとした山道、箱根の山は天下の嶮と言われる道をなんとか運転すると、やがて見えてくる大きな湖。


 ここは箱根芦ノ湖、青く輝湖が目の前に見える駐車場の車を止める。

 ついさっき海だったのに、今度は大きな湖と、景色は最高のドライブコース。

 

 ただ道路はそこそこハードだし、休日は凄い渋滞にもなるし、冬は路面が凍るし、夏は大雨で通行止めになるけど……。


「おお、涼しい~~」


「やっぱり山の上だから涼しいなあ……」

 芦ノ湖を見ながらとりあえず湖畔を妹と散策する。

 平日とあって観光客はまばら。

 途中にある寄木細工の店に入り、妹と二人でパズルの様な箱を開けてみたり、お土産屋で試食しながら歩いて行くと……。


「お兄ちゃん、ここって何?」


「箱根の関所だな、昔ここに関所があったってさ」

 入口にある看板をそのまま読むと妹は目を輝かせる。

 妹は昔から古い家とか好きだったなあ……なんて思い出していると妹は俺の手を握って言った。


「ほえええ、行って見よう!」

 いつの間に呼び名がお兄ちゃんに戻っていた事や突然手を握った事を指摘する事なく二人で箱根の関所跡に入る。


 入場料を払って中に入ると、時代劇で見た様な門や番所が立ち並ぶ。


「あははは、通行手形だよ、控えおろう!って奴?」


「それは印籠」

 子供の様にはしゃぐ妹、なんか……兄妹、恋人ってよりか……子供を連れている様な感覚に陥る。

 

 一通り見て回ると昼近くになったので、近くのお蕎麦屋さんに入った。


 妹はサラダとデザートが付いたレディースセット、俺はとろろ芋ごはんとお蕎麦のランチセットを頼む。

 2階の窓からは、さっき見て回った箱根の関所と芦ノ湖が一望できる。

  妹はその景色を見ながら俺に呟いた。


「やばいお兄ちゃん……楽しすぎるんですけど……」


「……はは、俺も」

 思わず彼女なんていらないって思ってしまう程に、妹との旅行が楽しい。

 妹が俺をお兄ちゃんと呼んだ事を指摘したくないくらいに……妹との旅がこんなに楽しいなんて……。


 その後ゆっくりとランチを堪能し、箱根旧街道杉並木を歩く。

 さらにひんやりとした杉の木に覆われた石畳の道。

 恐らく昔の人が歩いたであろう石畳は角がすっかり取れて丸くなっていた。

 道の周りには苔が生えタイムスリップしたような幻想的な光景が広がっていた。


「なんか凄いねえ、ここって昔の人が歩いてたんでしょ?」


「さっきの関所を通って、何日もかけて江戸から駿河に抜けていったんだろうなあ?」


「あの凄い坂を上って?」


「箱根の山は天下の嶮って歌があったなあ、箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川って歌も」


「あははは、なにそれ?」


「さあ?」

 二人であははは、と笑い合うと、誰もいない旧街道に笑い声がこだまする。

 俺と同じ景色を見て俺と同じ様に感動する妹、本当に妹の言った通りだ……ヤバい……ヤバすぎるくらいに……この旅は楽しい……楽しすぎる……。




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