第2戦 伊豆旅行その1
翌朝、妹はいきなり俺の部屋に飛び込んで来る。
「お兄ちゃん! ううん、たっくん! 海に行こう!」
「……は?」
「40秒で支度しな! 1泊だからね!」
言うだけ言って有無を言わさず部屋を飛び出ていく……。
「……はああああ?」
都合ぐらい聞けや! 俺にだってなあ……予定くらいは……いまの所無いけれど、友達が連絡してくる……様な奴は今の所いないけど、でも夏休み中に出来る可能性は0ではない筈……小数点以下8桁くらいの確率で……ちっくしょう。
「40秒って言っといて……」
とりあえず1泊と聞いて、海と聞いて、着替えとほぼ新品の水着を手早くバックに詰め込み慌てる様にリビングに向かうと、妹の姿は無かった。
待つ事15分、妹は小さ目のキャリーケースを手にして、リビングに降りてくる。
「遅い……ってか、どこへ行くんだよ?」
「女の子は色々用意があるの! 行き先はねえ、伊豆!」
「伊豆!?」
妹は突然伊豆まで行くと言い出す。しかも、父さんに車を借りる了承までしていた……そさらには宿泊まで手配済みとか……。
「いやいや、いつの間に? しかも車まで?」
「いいから、ほらお兄ちゃん行くよ!」
「マジでか……」
とはいえ既に予約までしてしまった以上キャンセル料金が発生してしまう事を考えれば、行かざるを得ない。
俺は妹のキャリーケースと自分のバックを持つと、家を出てガレージに止めてある父さんの車に妹と一緒に乗り込んだ。
「えへへへ、お兄ちゃんと二人で出かけるとか、久し振りだよねえ」
「いや、少なくとも、今までこうやってどこかに行くって事はなかったよ、買い物に付き合ったくらいか?」
俺が免許を取って暫くは怖いから嫌だと乗らなかったし……。
「免許あるし、車も一応あるし、お兄ちゃんがモテない原因はやっぱり経験値だよねえ、そこそこ格好……」
「え?」
ちょうどエンジンをかけた直接だったので聞こえなかった俺は妹に聞き返す。
「何でも無い、さあ行こう!」
助手席に座った妹はそう言って元気に手を上げた。
いや、俺はお前の方が何で彼氏居ないんだって思うけど……。
シートベルトを締めエンジンを掛けミラー類を合わせる。
妹は慣れた手付きでカーナビを操作し、目的地を設定した。
俺はそれを確認すると、ゆっくりとパーキングブレーキを外し、慎重に家のガレージから車を出した。
「とりあえず……どうしようか?」
「……あのね、たっくん、私達は恋人なんだからね? そう言う事を彼女に聞く?」
「いや普通、聞くでしょ? 違うの?」
「聞き方か悪いよ、お腹すいてる? とか飲み物いる? とかさあ」
「いや、めんどくさいし、押しつけがましいでしょ?」
「優しいだけじゃ駄目なんだよ? たまには強引な所も必要だよ?」
「そんなもんですかねえ、じゃあ、モックバーガーでいいかな?」
「おっけえ~~、確か高速に乗る途中にあったよね? 注文しておく」
「よろ~~」
緩い感じでそう言うと、妹はスマホで素早く注文し、途中で寄るとすぐに受け取る。
「はい、たっくん」
「お、おお」
食べやすい様にハンバーガーの包み紙を半分開いて、俺に渡して来る。
俺はそれを受取ろうとすると……。
「ああん、違うよ、あーーんだよ、あーーん」
「え、ええええ!」
「危ない、お兄ちゃん前見て前!」
「おっと、いや、それは……」
……駄目だ、妹の攻撃に俺は焦ってしまう。
でも……こんな事ではいけない……この勝負、照れたら負けなんだ。
俺はチラリと妹の持つハンバーガーを見ながらパクりとかじりつく。
「えへへへ」
それを見て妹は笑った。そして妹は俺のかじったハンバーガーになんの躊躇いもなくかぶりつく。
いや、兄妹だし、アイス半分ことか、おにぎり半分ことかしてたし、余ったおかずは俺が食べたりもしてたし、今更間接キスで照れる事ではないけど……。
何度かのアーーン攻撃をくぐり抜け、運転しながら朝ごはんを平らげた。
さらにアイスコーヒーも二人で回し飲みしているうちに、何か……ちょっと恋人同士な気分になってくる。
ヤバいぞ、楽しいぞ、一人でドライブなんかとは比べ物にならないくらい楽しい、ハンバーガーの紙を剥いて食べさせてくれるだけで、恋人と旅行してる気分になってしまう……俺ちょろいな……。
そして楽しい気分に拍車がかかる事がもう1つ。
妹は昔からよく喋るのだ、学校の話、授業の話、テレビや漫画なんかの話。
何度か聞いた事ある話もあったが、「それは聞いた」って言うのは無粋と、俺は「うんうん」と相づちを打つ。
家ならうるさいと感じる事もあるが、車の中なら何故かそんな気には全くならない。
楽しく快適に車を走らせ、カーナビの指示通り、第三京浜から横浜新道に抜ける。
そして国道1号線に出て暫く走ると、正面に茅ヶ崎海岸の文字が。
「ああ! 海だよたっくん!」
「おお!」
防砂林を横目に暫く走ると、海が見えてくる。
青く大きい海原が…太平洋が一望出来る。
「綺麗だねえ……」
「ですねえ」
俺はチラチラと海を見ながらそして隣に座る妹を見ながら走る。妹は黙って海を眺めていた。
妹は暫くして気付いた様に車の窓を開けると、ほんのり潮の香り社内に漂う。
妹は風に当たりながら、楽しそうに、気持ちよさそうに外を眺めていた。
その姿に俺はなんだか嬉しい気持ちになって来る。
楽しそうにしている妹の姿を見て、幸せを感じてくる。
来て良かった、既にそんな気持ちに……。
楽しい旅行になりそうだ……俺は……そんな予感がしていた。
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