第10話

「秋野さん、いるんだろ?」

僕は、おそらく後ろで隠れているであろう、秋野さんに声をかけた。


「やはり、気付いてた?」

「そりゃあな・・・。で、何が望みだ」

「望みって?」

「いいかげん、とぼけるのは、やめよう・・・」


秋野さんは、頭をぼりぼりかいている。


「わかった。観念する」

秋野さんは、話だした。


「私は今、危篤状態で入院しているのは本当だよ」

「うん。それは信じる」

「でも、私はこうやって器から時々飛び出して、遊ぶことが出来るんだ」

「どこかで、聞いが話だな」

「聞えない・・・」


たく・・・


「でね、クラスの子たちの普段の生活も、覗かしていただいてるんだけど」

「悪趣味だな」

「君も気がついていたんでしょ?昔から・・・」

「うん。面倒くさいので放置してた」

「冷たいな・・・でも・・・」

「でも?」


秋野さんは、笑顔で言う。


「私は、君という人間が、大好きだよ」

「どうして?」

「君は、同調圧力に抵抗している。日本人特有のね」

「うん。確かに好きではない」

「それは、私からしたらとても大事。そんな君の力になりたいと思ったの。だめかな?」


本気なのか・・・冷やかしなのかは、わからない。

でも、どちらにしても、こうやって話をしてくれるのは、ありがたい・・・


「ああ。飽きるまでいてくれ」

「うん。そうさせてもらう。じゃあね・・・といいたいんだけど・・・」


秋野さんは、糸を持つ。

切れている。


「私、本当に死んだみたい」

「明るく言うね」

「私は、普段から半分死んでいるからね」

「お父さんには何て言う?」

「もう、見てると思う」


着いて行けない・・・


「じゃあ、私は今から君の心の中に入る」

「いらん」

「だめ。もう決めたの・・・。時々は顔を出すから」

「なぜ、僕の心に住む?」

「君が死んだ時、寂しくないため」


仕方ない。

これも縁だ。


「じゃあ、行こうか。信秀くん」

「どこへ?」

「これから登る、君の人生の山へ・・・」


山の頂上は見えない。

標高はわからない。


でも・・・きっと・・・



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ツクツクホウシ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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