第8話

♪ホウシツクツク


ツクツクホウシが鳴いている。

夜中だというのにこの暑さ。


「地球が病気みたいだね」

「うん」

秋野さんの言葉に頷く。


「でも、ツクツクホウシが鳴くと言う事は、秋が近いかもね」

「ああ」


秋野さん・・・

不思議な人だ。


「さあ、ついたよ。ここに家族が眠っているわ」

木の前に立つ。


「お父さん、起きて、連れてきたよ」

秋野さんは、木の墓標に向かって声を出す。


すると・・・


「なんだよ。法子。いい気持ちで寝てたのに・・・」

「いつも、寝てるじゃない」

「死人にとって、墓は家だ。普段は働いている」

「何してるの?」

「後進の指導だ」


何の後進だ。


秋野さんのお父さんは、僕を見る。


「この男性が、そうか?」

「うん」


お父さんの霊は、僕に近づいてくる。


「初めまして。娘がお世話になっています。ふつつかな娘ですが、お願いします」

「初めまして。尾張です。仲良くしていただいております」


ウソだった。

でも、わかるだろう・・・


「しかし、幽体離脱までして連れてくるとは、彼が大事なんだな」

「うん」


笑顔で頷く秋野法子さん。


詳しい家庭事情は、訊かないのが吉だが・・・

他の家族はどうしているんだろう・・・


「お母さんたちは、普通の墓地にいるわよ」

「そう・・・」

何も言えなかった。


「法子」

「何?お父さん」

「お前はまだこっちに来るな。その理由が出来たな」

「うん。死んだ時の後悔が出来た」

「歓迎の準備に時間がかかるからな。なるべくゆっくり来い」

「ありがとう。お父さん」


和んでいる。

父子なんだから、当たり前だが・・・


「では、尾張くん。娘を幸せにしてやってくれ」

「私はもう、幸せだよ」

「そうだな。じゃあ、明日も仕事だから、もう寝る」

「うん。お休み」


今僕は、理解不能な体験をしているのでは・・・


「じゃあ、尾張くん。また会おうね」

「うん」


秋野さんは、体についている糸を持った。


「じゃあ、器に帰るね。私は、まだ生きるわ」

「がんばろう。お互いに」

「うん」


すると、あっと言う間に消えた。


・・・って、どうやって帰るんだ?

責任持て・・・


たく・・・

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