幕間3
--Confession--
一体、どこまでが現実で、どこからが夢なのだろう。
もしくは、どこまでが夢で、どこからが現実なのだろう。
何も、分からなかった。何も、見えてこなかった。
目の前のことを受け入れる準備が、わたしにはできていなかったから。
やってしまった、ということ。
やらない方が良かったのではないか、という後悔。
だが、現実は確実に、存在するのだ。
どんなに、夢のように思えても。
どんなに、辛いことであっても。苦しいことであっても。
後戻りのできないことであったとしても。
大好きな人に、嫌われてしまったとしても。
わたしには、何もできない。謝罪なんて意味は無い。人の心はそんなに単純じゃない。一度嫌われてしまったら、もう終わりなのだ。終わってしまうのだ。それが運命なのだ。過去というものなのだ。
でも。
一言、謝りたかった。
意味は無いと思うけど。
死んで許して貰えるのなら、わたしは死ぬ。
嫌われたくないから、死ねると思う。
将来? そんなもの、要らない。わたしには、必要無い。
人に嫌われてまで、何かを得ようとは思えない。思わない。思いたくない。
でも、現実には、許されることではない。
死んでも、許されることじゃない。
人を傷付けることとは、そういうことなのだ。わたしだって、許せないかも知れない。死はむしろ、運命から逃げているに過ぎない。
だからわたしは、甘んじて受け入れようと思う。わたしを憎む、全てのものを。わたしを嫌う、全ての人を。
その上で、謝りたいのだ。
神はわたしのこの声を聞いて下さるだろうか。許して下さるだろうか。
──決して、許しはしないのだと思う。
神様なんて、居ないから。わたしが信じていないから。わたしがわたしを許していないから。
許すだなんて、口先だけだ。心の奥底では、燻り続けている。
わたしは、わたしが許せない。
わたしは、わたしを憎む。
わたしは、わたしが嫌いだ。
──殺してやりたい程、大嫌いだ。
わたしなんて、居なくなってしまえばいい。消えてしまえばいい。死ぬだなんて生易しい。生き恥を晒すだけ晒して、わたしの証をリセットしてしまえ。
消えてなくなれ。
ああ神様、わたしをお許し下さい。自分を好きになれないわたしを許して下さい。
どうか。
わたしの為に、傷付いた人々をお救い下さい。助けて下さい。お願いします。
──懺悔します。
カラミティ・ジ・アースの前には、黙したまま何も語らない死体だけが残された。
未練という名の旧世界の残りカス。腐りきった膿。汚物。
そのような忌まわしい存在も今、脳天から両断され、ただのモノへと成り果てた。全ての罪を認め、甘んじて罰を受けたのだ。
結果、彼女は救われた。
「…………」
しかし、カラミティは違和感を感じずには居られなかった。旧世界は滅び、新世界が再構築されようとしているこの場所においてなお、「彼女」の存在を感じていたから。
死体が脈打ち始めた。大量の血液を吐き散らし、二つに分かれた彼女の腹が膨らんで来る。何かが生まれようとしていた。
「ありえない」
二つに分かれたままの顔。裂けた子宮の奥から二つの瞳が、真っ直ぐカラミティを見つめていた。
彼女は。いや。「彼女ら」は……何だ?
「お前達はそうまでして、運命に抗おうと言うのか」
ならば。
カラミティは、己が身長程もある大剣を振り上げる。
「浅ましきその妄執。我が太刀にて断罪せん」
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