一期一会編 その1
第4話「天国まで……逝っちゃええええええっ!」
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー。
「あっ……美沙樹ちゃ……電話鳴ってるよ」
「いーのいーの。こっちは『お取り込み中』なんだから」
「ひゃうっ……く……ぅん」
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー。
「あう。でも、まだ鳴ってるよ……? 出てあげないと可哀想だよぉっ……あああん!」
「くふ、くふ、くふふふふ。そうやって逃げようとしても駄目よ。薫子、あんたのツボはばっちし押さえてあるんだからね!」
「やあ……もう、美沙樹ちゃんの意地悪ぅ」
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー。
「くひひひひ! さあて、最後の仕上げといきますかー!」
「あっ、ダメ! それはダメだったらぁっ」
「天国まで……逝っちゃええええええっ!」
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー! ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー! ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー!
「よっしゃあっ! わたしの勝ち!」
「ふええええん。負けちゃったよぅ」
高らかに勝利宣言するわたしの眼前には、画面にでっかく「Winner Misa」と表示されたテレビがあった。
最近流行りのエロカッコいい系美少女格闘ゲーム「爆乳天国」。
アーケード版で主人公の必殺技の「昇天牌牌連撃・粗目(しょうてんぱいぱいれんげき・ザラメ)」を極めた時の快感が忘れられなくて先日購入したものだが、予想以上の出来栄えだった。
特に戦闘中ここぞという時に魅せてくれる「ハメ録り二十四時間乱舞」と来たらもう。喘ぎ声がBGMや効果音よりも激しく画面全体にシャウトする様は、圧巻としか言いようが無い。すっかりわたしは虜になってしまい、文字通り人廃と化すまで遊び尽くした訳である。
おかげでわたしのキャラは「MAXパイレベル」にまで達してしまっていた。もはや元のAカップなど見る影も無い。いやはや、立派に成長したものだ。
それで、まあ。
こんな素晴らしいゲームの良さを、我が心の彼女、薫子たんとも分かち合いたいと思い、急遽彼女の家で遊び倒すことになった訳だった。
結果はわたしの圧勝。薫子がどのような強力爆乳技を繰り出そうとも、わたしには手に取るように読めてしまう。否、意識しなくても、無意識の内に身体が動いてしまうのだ。
故にわたしに敗北はあり得ず、結果として素人相手に手加減もできずに容赦無くボコボコにするという、腐れゲーマーぶりを発揮してしまっていた。
「まあ、それはそれ。約束通り罰ゲームを受けてもらうわよん? うっひっひー、さぁて、なぁんにしよぉかなぁあ?」
「み、美沙樹ちゃん!? やだ、何か目が怖い!」
「きぃのせいよぉお。わぁたぁし、かおるぅこのこと、いじめたぁりしないもぉんん?
てなわけでぇ。いっただっきまぁす!」
「きゃあああああっ」
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー! ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー! ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー! ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー! ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー!
どかばきごすがこぉ。一際大きくなった携帯の音に一瞬気を取られたのがわたしのミスだった。
薫子に派手に突き飛ばされ、色んな大切なトコロを打ち付けながらわたしは部屋の隅まで転がっていく。死ぬ。マジで死ぬって今のは!
「……はい。美沙樹、だけど」
何とか気を取り直し(命を持ち直し)、わたしは辛抱強く電話を掛け続けた相手に一言文句を言ってやろうと通話ボタンを押した。
「ねーちゃ!? みさきねーちゃだか!?」
途端、喧しく炸裂する妹ヴォイス。
お前は一体何時代の人間だと突っ込みたくなるような方言を久しぶりに聞き、わたしは苦笑を禁じ得なかった。
「なんじゃー、理沙っちかー? 元気にしとったべさ? わしゃー蝶元気じゃけぇ。おまんのおまんこは元気かえー?」
「いっとう元気じゃきー。しともわちき、ねーちゃの声聞きとうなって電話かけたでありんす」
本当に久し振りに聴いた、肉親の声。たとえそれが電話を通したものであっても、遠い故郷を思い起こして懐かしくも感じられる。
変な方言さえ無ければ、心から感動できていたかも知れない。ホント、変な方言さえ無ければ。
「おっとうもおっかあも、じじーもばーやも元気にしとっか? そろそろでーきっちょばしとろんちうむ? そんにしても今年はほんまにでれーあちーがやー。東京さー来りゃおまん、おまんばかりになっちょろぜ?」
「でーりゃでーじょぶだー。わちき、ねーちゃのおまんみたーでしなーせん。くっともばっちもちょちょぎれて喜ぼうぜ?」
「ほうかー。ほなちょいなまくりゃーよ?」
「ほんま!? ほんまにええのんー?」
「でれーあちーがや。おまんのおまんことろとろになっちょーぜ?」
「でーりゃでーりゃ。ちんくわさーごわす」
……心から思うことが一つある。わたし達は一体どこの星の生まれだ? と。
可愛い妹との会話に夢中になってついつい方言を炸裂させてしまったが、その所為で薫子はドン引き。部屋の片隅で「美沙樹ちゃんがー、美沙樹ちゃんが宇宙人に洗脳されちゃったよぅ!」と、ガタガタブルブル震えていたりする。
「ほなのー。ずっちょむはらーせ」
「きっちょむはらーよー」
とりあえずわたしには、妹との会話を終えてまず一番最初にしなければならないことがあった。
未だに怯えて震えている薫子の頭に、空手チョップを叩き込むのである。
「はぐぁっ!?」
「なんでやねーん、と」
「ううう。美沙樹ちゃん、いきなり酷──」
と、ここまではいつも通り。
今日のわたしは、ここからが違う。
涙目になる薫子の口をティッシュで塞ぎ、勢いを利用してそのまま一緒に倒れ込んだのである! 薫子の匂いのする、ベッドの上に。
「んぐ!? んぐー!」
「ふははははっ! 助けを呼ぼうとしても無駄よ! ここは本来あんたしか居ないあんただけの部屋! 言わば聖域! いっつぁさんくちゅありなんだから! もはめどさんじゃないわよっ。ヒャッホー!」
そう、ここは聖域だ。本来なら誰も踏み込んではならないはずの、薫子の寝室。わたしが夢見た秘密の花園。そこには、侵してはならない禁断の果実が、それこそ山のように溢れていた。
例えばそれは、薫子のおぱ──おぱんちゅ! それも白や青やピンク色や──何とも大胆な黒や赤のものまであった。ウホッ。清純な薫子のイメージとは異なるものだが、これはこれで、凄くイイッ! 他にもあるぞぉ! 例えばこのキャミソール、実は胸元が(以下自粛)中にはこんなものまで(以下自粛)くおおおおっ、たまらーん!
し・か・も・だっ! 今現在薫子が着てるモノ、何だと思う!? ねぐりぢぇ! 薄紫色のねぐりぢぇですよ奥さん! 見えちゃってるよ、薄っすら見えちゃってるよ色んなモノがっ! ムッハー、わたし、女に生まれて来て良かったぁーっ!!!
「という訳だから、わたしがこれから薫子にどんな酷いことをしたとしてもハァハァ、それは薫子がハァハァ、悪いんだからね? ……ごくり」
「んーっ! んんんんんっ……!?」
「さあそれでは皆さんお待ちかねっ! これから薫子の可愛らしくてとってもエッチな、すんばらしぃお宝をご披露致したいと思います! はいっ、僭越ながらこのわたくし、美沙樹めがおみ足を開かせていただく所存でありますっ!
てかもう、死んでも良い! 死んでも良いよわたしマジでっ! ご、ご開帳ぉぉぉぉぉっ!!!」
ここで少しの間、例えば、の話をしようか。
例えば、百人薫子が居たとする。わたしは彼女ら一人一人を、平等に愛すると誓おう。しかして、愛情が百分の一になるということは無い。断じて無い。
例えば、百人の薫子が鞭を持って迫って来たとしよう。わたしは甘んじてそれを受けよう。百人全ての薫子が、わたしを憎んでいたのだとしても。わたしはそれを、喜んで我が身に受けたいと思う。そしてその痛みは、やがて快楽へと変わるのだ。
例えば、百人の薫子が(ピー)を(ピー)して(ピー)(ピー)(ピー)(ピー)(ピー)……。
「だああああっ! ピーピーうぜええええっ!」
妄想終わり! 薫子は一人! 百人も要らない! わたしの目の前でどうすることもできずにただ怯えて縮こまるだけの儚くも脆いお人形さん、それがわたしの薫子だああああっ!
「……ハァハァ。ねえ、いいでしょ薫子……? わ、わたし、優しくするから、さ」
「………」
薫子は何も応えなかった。口からティッシュをどけて指で唇の周りを弄んでやっても、何も言ってはくれなかった。
ただわたしの顔を、困ったような、悲しそうな眼で見つめているだけだ。
本当に、この娘は。その表情、その仕草の一つ一つが、わたしの心を掻き乱しているということに、気付いていないのだろうか。
もし知ってて、その上でやってるのだとしたら、何ていけない子だ。そんないやらしい娘には、お仕置きをしてあげないといけない。そう、例えば──。
「いやっ、いやああああっ!」
「そうそう、こんな風に鳴かせてみたりー……って」
「許して……お願い、許してぇ……!」
わたしと薫子は顔を見合わせる。
突然聞こえて来た、悲鳴に近いその声は。
わたしのものでも、薫子のものでもなかった。
その時、わたしは思い出していた。
薫子が言っていた、隣の部屋から聞こえて来るという、謎の声のことを。
今日の日記:
どうも、鼻血出し過ぎで失血死しそうな勢いの美沙樹です。いやホント、このまま死んでも良いかな、みたいな?(爽笑)
今回は途中で終わっちゃったのが残念だけど。この展開だと次回にも期待できそうで、今からドキがムネムネねっ(死語)
それでは、明日に続くのだっ(はぁと)
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