第22話 白くて無知で少し危険で

「つーかあんた……何者…なんすか?」


 都合よく置いてあった丸太に腰掛け、苦労して作った焚き火に木の枝を焚べている、オレンジ色の後光を浴びたカドリに問いかける。


 イブキの背後ではルーツが寝息を立てていた。どんな場所でもすんなり寝れるタイプなのか、すぅすぅと深い眠りに就いている。一度だけバチがあたるのを覚悟で寝顔を覗いたイブキは、その天使のような尊さに暫くのたうち回る羽目になったが……。


「何者……? 急にどうしたっていうんだい?」


 カドリは顔だけをこちらに向け、不思議そうに首を傾げる。糸のように細い瞳が、ひそめた眉と同じように動く。


「あんた、その……メテン…なんですよね? どうして…同じメテンの俺を襲ったりしないんすか?」


「どうしてメテンだと君を襲うんだい?」


「どうしてもなにも……だって俺自身、メテンにはえらい目に合わされてて……それに、メテンは願いを叶えるために争うとかなんとか……」


 カドリは成程と理解したように口角を上げてから更に枝を火に放り込む。真剣に問いかけるイブキに再び背を向け、ポツポツと語り始める。


「僕自身もどうしたらいいのか分からないんだ。ただひとつ分かることは……人が死ぬのは、とてもよくないことなんだ」


「……どういうことっすか」


「この世界では元いた世界むこうよりも死体を見る機会が多い。もちろん、むこうで死体なんて見たこと無かったから、初めて見た時は本当にショックだった。あんなに血が出てて……それを見るのが……とてもつらくてね」


「はぁ」

 --俺と同じだ…………


「……あんなに酷いことになるならば、今のうちにステキになるべきなんだ」


「……え?」


「ステキに生きていきたいって思ったんだよ。少なくとも他者を醜くするような愚かな人にはなりたくないってね」


「お……俺もなんです」


 思わず口走っていた。彼になら大丈夫だろう……。ホントの事のように俯きながら吐露する彼の言葉に、イブキは胸を射たれ、向かいの丸太に腰掛けた。


 燃え盛る火柱を跨ぐように2人のやり取りは続く。


「最初あったメテンは……なんつーんだろ、やけに飄々としてる奴で…“無自覚モテ男”っつーとわかりやすいと思うんだけど……」


「あまり分からないね」


「あっそっすか…すいません。で、そいつはやっぱ女の子いっぱい囲ってて……周りの女達もメロメロでめっちゃムカつく奴らで、ほんと終始ムカつきっぱなしだったんですけど……その後急に来たバケモノみたいな奴にほとんど殺されて……」


 相変わらず下手くそなイブキの説明を、カドリはただ頷きながら訊いていた。龍小屋の連中に対する愚痴がやけにヒートアップしたあたりで申し訳なくなり、会話の舵取りをカドリに投げる。


 暫くの間語り合うふたり。人との接触を特に理由もなく避け続けていたイブキが、自然とカドリに心を開いて話している。その背景には、『カドリのトークスキル』などと言った理屈的なものは関わっていなかった。


 本当に自然に、前の席に座ったという理由だけで仲良くなる純真な子供のように打ち解けていった。


「……んっ……んん……?? ひゃぁに…はなされれるん…でしゅか??」


「…………っ!!ピィゆっぽえっ!!??」


 突然の衝撃にイブキは思わず立ち上がり、脚を滑らせて丸太から転げ落ちる。心臓が飛びててくるように胸の中で暴れ回り、100m走でも全力ダッシュした後のような荒い呼吸を繰り返す。


 --やっべぇ……い、今銀髪が俺のほっぺたに……………


「あっ“あめだま”さん! ここ、なにか仕掛けてありますよ! クロさんが罠にかかっちゃいました!」


「あめだまさんっていうのは……僕のことかい? たしかに…罠といえば罠だったのかもしれないね」


『君という天真爛漫さに溢れた天然の罠がね』という言葉が喉まで迫ったところで硬く口を結ぶカドリは、追い打ちをかけるよう(無自覚)にイブキの手を引いて起こそうとするルーツと、それに対してまた感電するように身体をビクンビクンと畝らせるイブキの様子を見て、にぃっと静かに微笑む。


 --君達は……僕にとって必要な存在なんだ。やっと出逢えた……“最高にステキな仲間”に……。


 3人の談笑は、静まりかえった真夜中の山の中で明るくそして無防備に響き渡った。


 次に目を開けた時は、既に太陽(こちらの世界での太陽は元いた世界あっちでの太陽と同義なのかは不明)が結構な位置にまで昇る頃だった。要は昼過ぎまで大爆睡。元々夜型人間であり、遅刻の多いイブキではあったが、まさか自然囲まれる山の中で寝坊するとは思っておらずさすがに今回ばかりは自分自身にゾッとした。


「あ…やっべ……カドリ……起きてるか……?」


 うつろな意識の状態でカドリを呼ぶ。彼の眠っていたはずの位置には寝袋ごと無くなっており、彼の荷物は丁寧に丸太の横で小さくまとめられていた。


「……んあ? どこいったんだ……あいつ……」


「寝ている間に悪者が来なかったか見てきているそうです。 クロさんも食べますか? 携帯食として乾燥させておいた野菜を特性の出汁で煮込んだスープですっ!」


「る、ルーツ……お、おはよぅ……っす」

 --あ〜朝からかわいいなこの子は


 熱々のスープに息を吹きかけるルーツの姿にいやらしく口元を緩ませてしまうものの、一夜の談笑にしてなんとか『触れられただけで失神するレベル』からぎこちないが軽い会話はかわせる位には成長を遂げていた。


「おっおいしそうっすね……るっキミがつくったのか…?」


「みようみまねですよ? 孤児院の子たちが食べてるスープをイメージしてみたんです。飲んでみてくださいっ!」


「へぃ」

 ーーか、カワイイ……


 イブキは目の前でホカホカとした湯気を放つお椀に口をつけ、軽く口で冷ましてから口に含んでみる。


 ーーん?……んんっ??


 彼の舌から喉に、とても素朴なスープから得られるようなものでは無いザラザラした食感が駆け抜けてゆく。


 そもそも味というものが感じられなかった。強いていえばぷかぷか浮いている謎の野菜の出汁的な何か青臭いものが舌に捏ねくりこんで来るような……“ほんのりとやってくる不味さ”のみ。


「んっ……うっ……」

 ーーあ…あげぁ……まじぃ…………


「どうでしたか…??」


 正直今すぐ椀を放り投げてやりたい程のクオリティだったが……横に座るルーツはまるで芸を褒めてもらうのを待つ子犬のようにワクワクと反応を待っている。


 ーーい、言えるわけねぇ………カワイイ……


 イブキは一旦スープを置いてから軽く深呼吸する。


 ーーよしっ!


 そのまま目をきつく瞑り、まるで激辛ソースでもイッキのみするような覚悟で胃袋に謎のスープをぶち込んでゆく。


「く、クロさんっ! あんまりかきこんじゃお腹壊しちゃいますよ!?」


「い゛…い゛やぁ……だまりに゛もう゛まがっだ……がら゛よ゛ぉ……」


「ほ、本当ですか!?」


 イブキは心を殺した。


「い、い゛やぁ……このジョリジョリじだ…感触がま、まだ……いいっすね…」


「あっ分かっちゃいました? 隠し味で入れてみた自然の砂利です!」


「じゃ、じゃりぃ!?」


「はいっ! せっかく自然に囲まれた場所ですし、自然そのものを味わってもらおうかと思って…!」




「あ……なんか……山のせせらぎが聞こえてきたっす……」


 イブキは“自分”を封印した。


 ルーツの『よかったぁ』と花咲くような優しい笑顔のあと、会話が途切れる。折角設けられた二人きりの時間を無言で終わらすわけにはいくまいとイブキは大きく深呼吸をし、今度は自分から話題を振ろうと試みる。


「と、ところでるっ…キミは……」


「ルーツでいいですよ?」


「る、るぅつ……さん…その……どっかでおれ…へへっ」


「ん? どうしたんですか??」


「いや……えっと」

 ーーさ、流石に駄目だよな……“どっかで俺と会ったことありますか?”とか完全にホラーだよな? それに俺の言うどっかって夢ん中だしな? こわっ! 俺怖っ!?


 それでも会話自体は取りやめてはいけないと振り切り、代わりにあたり触りもない普通の話題に切り替える。


「るぅつ…さんって……いつからあの…孤児院で?」


「あっ……えっとたしか…二年くらい前…かな。倒れていた私を偶然子供たちが見つけてくれたみたいで……えへへ…拾われた子供たちに拾われちゃってますね。私」


「に、二年って…結構な年月っすね……アルバイト…っすか?」


「あるばいと……?」


「あ…あれ? バイト…知らない……?」


 幾ら異界の土地とはいえ、アルバイトという概念くらいはあるだろうと踏んでいたイブキの思惑とは裏腹に、何のことかと首をかしげるルーツ。


 またおかしなことを言ってしまったと頭を抱え、脳内反省会を繰り広げようとするイブキ。


「あっ! ごめんなさいっ! クロさんが悪いんじゃなくって……多分私の知識不足というか…その…」


「バイトって……俺の世界じゃ…一般的すぎるっす……」


「ち…ちがうんですクロさんっ! 落ち込まないでくださいっ! ……わかりました。私がどれだけ何も知らないか教えます」


 突然改まるルーツ。先ほどまでのふわふわした雰囲気から変わった凛とした顔立ちに、イブキはドキッとなる。


「…あ…すぅ……おお…」


「私……孤児院と出会った以前の記憶がないんです。だからその……この国の色んなことは子供たちに教えてもらってて……だからたまに…みんなとは変わったことをしちゃったり言ったりして……」


「……へ?」


 今度はイブキが固まる。突然彼女が抱える内情を打ち明けられたことに、どう返すのが正解なのかわからず目を泳がせる。


「……ね? 私は凄い常識知らずなんです。だからその……アルバイトっていうものがわからないのは私のせいっていうか…」


「いや、その…違うんす……と、とにかく! 孤児院の子供たち…が教えてくれてるなんて……いいこ……達じゃないっすか……」


「はい……! あの子たち、とってもいい子なんですよ?」


 どう慰めるべきかもわからなかった為、とりあえずといわんばかりにまだほとんど見たこともない子供たちのことを褒めてみると、ルーツの表情はぱぁっと明るくなってゆくのがわかった。


 無理に取り繕った凛とした表情から先ほどのふわふわした様子に戻り、楽しそうに子供たちについて話し始める。


「はじめはもう……私がお世話されているみたいになっちゃって…一緒に遊んでもらったり……虫取りしたり……たまにいたずらっ子な子とかがスカート捲ってきたり……胸とかつっついて来るんですけど、それもまた」


「な、なにぃ!!??」


 エピソードの後半部分が気に入らず、思わず立ち上がって吼えるイブキ。目をぱちくりさせてこちらを見上げるルーツと目が合い、『さーせん…』と小さくなる。


「ふふっ。あとですね、たまになんか…足がいっぱいある虫とかを捕まえてきて見せてきたり…女の子に絵本を読んであげてたら、いつの間にか膝の上で寝ちゃってたりとか……ほんとにかわいくて……」


「……は、はやく…戻れるといっすね…子供達も…きっと心配してます」


「あっ……はい……えへへ」


 ルーツは力なく答えているように聞こえた。どこかさみしそうに、まるでもうそこには戻れないと雰囲気で訴えているようだった。当然、イブキは『やってしまった』と焦り、必死にフォローに回る。


「あっ……違うっスそのえっとやっぱりみんなあなたのことを大切にっていうか…その…」


「いえ、いいんですいいんです! ……ごめんなさい。そうですよね。きっと心配しています……はやく、戻ってあげないと……」


 強がるように呟く彼女の表情はカーテンのように纏った銀髪によって遮られ、しっかり伺うことは出来ない。それでも明らかに様子がおかしいことくらい、コミュ力皆無のイブキでも察しがついていた。


「な、なんか……あったん…すか…? あの木箱に入れられていたのとなんか…関係が……」


「へっ!? ええっと……あの…」


 耳の後ろから伸びる銀髪を指でくるくるいじりながら黙り込むルーツ。心配に思う反面、それを自分に打ち明けてくれないことが少しだけショックだった。


 --孤児院でなにかあったのか?


 思えば孤児院での出来事を話す度に、彼女の心の奥底は徐々に暗くなっていたようだった。その上小男やオークらによって木箱の中に押し込まれ、何処かに移送させられかけていたという事実が重なる。


 どうしても諦められないイブキは勇気を振り絞り、震える手を無理矢理押さえつけてから口を開く。


「教えて……くれ…ませんか? なにがあったのか……」


 力になりたかった。メテンという偶然与えられた力を駆使して、出逢ったばかりの女の子を救いたいと考えていた。彼女は俯いたまま何も答えず、ただ首を横に振るだけ。


 それでも、イブキは食い下がった。


「お、俺は……きみとふたつや、約束してます。一個は…もう二度とあんたの治癒能力を俺の為に遣わせないってこと……それと……覚えてますか? 最初にした……約束」


 未だに表情を見せないルーツ。ただほんの少しだけ覗かせていた薄紅色の唇が、ほんの少しだけ動いているのが確認できた。


「……覚えてます。ユーミちゃんをお願いしますって……」


『覚えててくれたんだ』とイブキは表情をほころばせる。すぐに首を勢いよく振って続けた。


「だから……あ、きみが……こんなとこでサボってられたら……困るんだ」


 銀色のカーテンがなびき、今まで隠れていた彼女の表情が顕になる。


「あっ……そのいやそういうつもりじゃっ…!!」


 言い切る前に、イブキは固まる。頬や鼻を赤く染め上げ、朱色の双眸から流れ落ちる一筋の雫。少女の泣き顔は、あまりにも綺麗だった。


「ごめん…なさいっ……クロさん。そうですよね…約束……しましたね」


 彼女は持っていたポーチから取り出したハンカチで涙を拭き、ニコッと恥ずかしそうに微笑む。


「ルーツ…さん……教えてください。お、俺……絶対君の力になってみせますから!」


 儚く弱く、なによりも可憐な一連の動作にただ魅入られ、妙にテンションの高ぶったイブキ。気が付けば自分でも驚くほどに『かっこいい言葉』をかけていた。


 君の力になってみせる ──。まるでアニメや小説に出てくる主人公が、ヒロインでも守る時に言い放つ“大きくて強い言葉”。そんな魔法の言葉は、固く閉じていた彼女の口を開かせた。


「私が孤児院に戻ったら……今度こそユーミちゃんが…………」


「……え?」

 --ユーミ? どういうことだ?


 彼女の口からポロリと出てきた、一週間前に自身が孤児院へ託した半獣の少女ユーミ。ルーツは慌てて口元を覆うが、もう隠し通すのは不可能だと目で訴えてやると、観念したように俯いた。


「あの…えっと……これは、わたしだけで言っていいのかわかんなくって……その」


 ポカポカと自分の頭を叩いて呻き声をあげるルーツの愛らしい仕草にデレデレする暇もなく、イブキは頭を回転させた。


 --今のうちに状況を整理だ……。俺が孤児院にユーミを預けた時はなんの問題もなくて……そっから一週間でルーツが木箱に入れられて化け物共に売られていたって事だよな? でも気ままで無垢で可愛くて天然で愛らしくて綺麗で可愛くてかわ…まてまて拉致があかん! とにかく、ただこの子が“売られていった”だけなら、孤児院は寧ろ帰る場所として安全だし、逃げ込む意味でも真っ先に向かおうとするはずだ……。


 イブキも同じように頭を叩く。そんなことをしたところで急激に頭が冴え、名探偵顔負けの名推理が浮かんで来るはずもない。


 そこで、ひとまずユーミと最後にあった日のことを思い出してみる。子攫いに捉えられていたユーミ。偶然とはいえ、救ってくれたお礼として自分やレイにクルド、そしてシウバとかいうふざけた奴にすら感謝の証として花を渡してくれたユーミ。自身とルーツを引き合わせてくれたユーミ……。


 そんな中突如、どうでもよかったはずの二人の会話が脳内で再生される。



 ── あん? どーこが狼だぁ? どーみても10とかそこらのガキンちょじゃねぇか。


 ── うんにゃ。あたしも詳しくは無いんだけど…獣人の中でもたまーにヒトと獣の二形態を行き来出来る種がいるとかなんとか……珍しいってことでけっこー売ると高いとか。




「もしかして…本当はユーミが……人と狼両方になれるユーミが……!!」


 戦慄するようなイブキの呟きに、ルーツは『知ってたんですね』と消え入りそうな声で返答する。


「だから……私が帰ってきたら、約束が違うって言われてきっと……」


 震える唇を一生懸命に動かして、ルーツは付け足す。


 何処かでユーミの正体を知った孤児院の支配人か何かが裏のルートを使ってオーク達に接触、偶然取引の様子を聞きつけたルーツが彼女の代わりに売られたと考えれば辻褄が合っていた。


 なにせルーツは美しいだけではなく、“人の痛みを自分に移して治してしまう”という、悪用するにはこの上ない力を持っている。代用としては充分どころか、寧ろルーツの方が高値になってくるかもしれない。


 --この子は…純粋すぎる……


 純粋で利他的な彼女だからこそ、子供を売って金を儲ける根っからの悪党すらも“約束した”と信用し、こうして今も尚、正直にそれを守り続けているのだ。


 実際に悪党側がその約束を本当に守っているかどうかも定かではないのに……。


 イブキは生い茂る雑草を踏み台にして立ち上がる。横でワンピースの裾を掴みながら俯き、未だに座ったままのルーツを見下ろし、一言だけ告げた。


「……行ってくるっす」


「…………ッ! だめっ! だって…約束……」


「守ってるわけないでしょう!! そんな約束っ!! あんたを簡単にあんな化け物に売り飛ばせる野郎が人の心なんか持ってるわけねぇ!! このままだとユーミや!あんたが愛した子供達全員ッ! まちがいなく売り飛ばされんだ!!」


「く……くろ……さん」


 ぽたぽたと、ワンピースを握っていた手に熱い雫が落ちてゆく。雪のように白い肩は小さく震え、イブキの名を呼ぶ。彼を見上げる何よりも綺麗だったはずの顔立ちは、ポロポロと流れ落ちる透明な涙でくしゃくしゃになっていた。


「くっ……くぅ…ぐろ……さんっ…あぅ…った……けて……」


 傍らに置いてあったタオルに顔を埋め、暫くわんわんと泣きじゃくるルーツ。イブキはもう一度隣に腰掛け、その様子を静かに見守る(本当は優しく頭を撫でようとしたが、思い留まった)。


「…………くろさん」


 目と鼻と頬を真っ赤にした状態でもう一度イブキと視線を合わせるルーツ。無理に作ったぎこちない笑顔のあと…………。


「たすけて……くれませんか……?」


 イブキは少しだけ……それでも力強く頷く。


 彼はこの一言をずっと待っていた。メテンとかいう、ただ強い“だけ”の野蛮な力を『自分の為に』有益に使える時が遂にやってきたのだ。


「たすけさせてください……ルーツ」


 気まぐれに吹き荒れる山の突風に合わせ立ち上がる。今度は2人で同時に……決して俯かず、太陽に負けないくらいの眩しい笑顔を作って上を向く。


 瞳孔を刺す陽の光に刺激され、2人揃って大きくくしゃみをした。

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