第20話 罪には甘味 但し赦さず

 --クソッ……なんであいつがここにいやがるってんだッ!! 邪魔くせぇ!


 ゴツゴツした岩盤の影に身を潜めながら左の胸を抑える少々傷んだライムグリーンの髪を揺らす少女。まるで見た目にそぐわない顔で睨むその先は、大して目立った個性のない男が2人。


 その内のどちらかに対してはそれなりの恨みがあるらしく、徐々に込み上げてきた怒りを舌打ちで表現する。


 --あいつが居るんじゃ……“ただの”黒角兵しかつかえねぇ……。俺んとこのは強い・タフネス・絶対服従!! の三拍子がウリだっつーのによぉ……


 少女は諦めたように背を向けて呟く。


「まあいい……ひとまずは、好きにさせるっきゃねぇなぁ」




 **********


「誰って……愚問だねぇ………僕は君にエールを送った一人の男で……君は僕のエールで立ち上がったスゴい人……ね?」


「いやまじで誰っすか………?」


 特に目立つような髪型も服装でも無ければ、特別身体が大きかったり小さかったりする訳でも無いその男は、イブキの呆れたような問いかけに対しても何食わぬ顔で爽やかな笑みを浮かべてくる。その飄々とした立ち振る舞いは、なんとなくシューゲツと近いものを感じた。


 彼と決定的に違うのは、一体いつ開いてるのか分からない糸のように細い眼……。とても喜怒哀楽が満足に表現出来そうにもない瞳の奥で、じっとイブキを見つめてくる。


「な、なんすか……?」


「僕はカドリさ」


「お、おう……」

 ーーいきなり名乗った……?


 独特な雰囲気を放つカドリに思わずたじろぐも、直ぐに『そんな場合では無い』と思い出させるような恐らく小男共のであろう絶叫が奥で響き渡る。


「すんません……今あんたに……かまってる時間ないっす……」


 不思議と流血は止まったものの、一向に消える気配のない焼けるように痛む腹部を抑え、カドリとすれ違うように戦場に向かおうとする。


 そんなイブキの肩を掴むカドリの手はやけに暖かい。恐らくイブキの体温が著しく下がっているからだろう。


「その身体でかい?」


「だったら……なんだってんですか………」


「意地は張っていい時と悪い時がある。今の君は……とてもいけない状態なんだ」


「なに……いってんすか……」


「それにもう、あのちいさい人達はステキに護られているんだ。御覧なさい?」


 カドリが指さす方向を追うと、そこには透明色のガラスのようなドーム状の膜に、木箱を中心として囲われた小男共と、それを突破出来ずにいる狼共。そして一人一人丁寧に足を同じく透明色の粘り気のあるもので固定された、人型の黒角共の姿が見えた。


「……僕は今たくさんを救っている。いい事をしていると…実感しているッ!」


「はぁ……」

 ーー何言ってんだこいつ……。


「みていてくれ……僕はこれから彼らに“飴玉”をやらなければならない」


 まるで話についていけてないイブキを差し置き、カドリは両腕を龍皮化させる。


「あ、あんた……! それっ!!」


「……これが僕の力だ」


 カドリは背を向け、まるでアメンボが水面を渡るようにガラス細工のような膜に覆われた足場を進んでゆく。暫くして歩みを止めては、大地の鼓動を感じ取るように地面に手を翳し、ボソボソと何かを呟いた。


「……甘味広がる救済(サルヴェイ・キャンディ)」


「……ッ!!」


 イブキの視点は、地に語りかけるように固まるカドリに向けられておらず、ただ天を仰いでいた。


 噴水の様に吹き荒れる透明色の物質。それらは全て黒い角を生やした狼やヒトを無慈悲に呑み込んでいく。


「なんだ……? あの力は……ッ!! まさかっ!!」


 イブキは自分の腹に手を当てる。とっくに血は止まっていたものの、手には粘り気のある妙に甘い匂いのした透明色の物体が張り付いていた。


「……ッ!! うわっ!!」


 思わず尻もちをつくイブキ。反射的に動いたことで傷口がうねり、思い出したかのようにズキズキと鳴り響く痛みに悶絶しながらも、この現象を理解しようと頭を回した。


 --これ……あいつの使ってるものと同じ……! 軟膏みたいに傷の血を止めてんのか……? だとしたらなんでだ……? どうしてあいつは俺を助けてくれる?


 カドリの使用する物質に呑まれた黒い角を生やした生物達は、まるで蝋人形のように強直していた。それらは皆妙な光沢を放っており、その表情は今にも牙を突き立てんとする猛獣のような獰猛さと、身体の自由を奪っていくその力に抵抗すべく必死にもがき苦しんだ末に硬直していった見るも無惨な『最期の顔』をそのまま残していた。


 カドリは立ち上がり、腕を水平に千切るように払う。すると縮こまっていた小男共に覆いかぶさっていた透明のドームが瞬時に粉々に砕け散り、彼らを解放した。


「……す、すげぇ!!」


「あんたなにもんだよッ!!」


「龍小屋の仲間かぁ!? みねぇ顔だがよ!」


 自らを讃えてくる小男の達に対して、カドリの視線は冷たかった。『どいてくれ』と言わんばかりに彼らを退けて進み、木箱の前で歩みを止めた。


「……僕の飴は誤魔化せない」


 何かを呟いた……瞬間、右手に粘り気のある飴細工がまとわりついてグローブを生成し、木箱を木っ端微塵に粉砕する。


「ちょっ! てめぇ! 何しやがる!」


「ふざけんじゃねえぞクソ野郎がっ!!」


 手のひらを返すように罵声を浴びせる小男達をまるで意に返さず、木箱の中へと進む。


「おいっ!! 止めろっ!! 」


「アニキっ! だめだっ!! 既に足元がやられちまってるっ!!」


 小男達の足にまとわりついた飴細工は、かのゴキブリホイホイすらも凌ぎかねない粘着力を持っていた。必死に身体を動かすと寧ろドロドロの飴がより自由を奪ってしまう。


「てめぇ…! 助けてくれるんじゃねぇのかよ!? クソが!!」


「だからこそ……君達は救われなければならない」


「やめろ! そいつに触んなぁ!!!!!」


 カドリは破損した木箱の中から白い細枝のようなナニカを引いている。小男共の焦りようからするにかなり大切なものであることは間違いないようだが、少し遠くで見ていたイブキからそれがなんなのか判別することは出来なかった。


 続いて現れた、決して忘れることの無い白銀の髪がもう一度彼の胸を射止めるまでは……。




「おい…! あんた…!」


 イブキは影を伸ばし、カドリの手を掴む。腹の傷が広がったのか、かなりの痛みを有したが、それを気にせずとも止まれずには居られなかった。


 カドリが引いた白いナニカは人の腕、少し触れるだけで崩れていきそうな、儚さの具現化たる一人の少女……。


 イブキの心を一発で射止めた……“シロさん”其の人だった。


「……君はじっとしているべきだ」


「な、なんで………い、いや……あんた…その人をどうするつも……ッ!!」


 グチュりと大きく傷口の空く音がする。元から重症レベルの刺傷を受けているイブキ。咄嗟とはいえ影をロープのように使ってカドリの至近距離まで飛びこんでしまったのは、少しお調子が過ぎたのかも知れない。


「……いわんこっちゃない……じっとしていて貰おうか」


 カドリは小男達に向き直る。彼は怒りに震えていた。糸の様に細い瞳を表情筋を使って目一杯釣り上げ、手を握りしめて身体を震わせている。


 得体の知れない独特なオーラを放つカドリに身動きの取れない小男達は揃って震え上がる。うち何名かは失禁すら起こしていた。


「お、おい……やめろよ……殺さないでくれ!!」


「…………」


「聞いてんのかてめぇ!!! やめろって言ってんだよ!!!」


「……危ないところだった」


 意外な返答に思わず凍りつき、罵詈雑言を止める小男に構わずカドリは続けた。


「……この子がこのまま売り飛ばされてしまっては、君達は罪の意識から一生苦しい顔をして生きていくところだっただろう。そんな悲しい人生を送っていたかもしれないと思うと……僕は君達に“飴玉”をやらなくてはならない……飴玉は……毒の味をしている」


「訳わかんねえこと言ってんじゃ……!!」


「お、おい…にいちゃん……」


 唯一反抗していた“まとめ役”の肩を叩く兄弟の表情は困惑に歪んでいた。


「あ……あれ?」


 あれだけしつこくまとわりついていたはずの“飴”が、きれいさっぱりに無くなっていたのだ。


 混乱する小男共の視線を浴びても尚、カドリは気にせずに続けた。


「……どうか……“飴玉の味”は知らないでいてくれ」


 閉じたような細い瞳から一筋の雫が落ちる。急激な感情の変化は時として火を噴く龍よりも恐ろしい。堰を切ったように逃げ始める小男達。カドリは彼らを追うことは無く静かに目を閉じ、夕焼けに染まりかけた空を仰いだ。


「……あなたはっ!!」


 ここで初めてカドリから手を離してもらった“シロさん”は、血相を変えてイブキに駆け寄った。


「し……ろ…………ああ…………」

 --やべえ……まじで無理し過ぎた…………。


 虚ろな目で彼女を見つめるイブキ。夕焼けに染まったその姿は、彼を黄泉へと送り届ける天使にすら映った。


「その怪我……! このままじゃ!」


 イブキの手を握りしめ、祈るように頬に当てる彼女。


 --相変わらず綺麗だ……こんな子に看取られて俺は本当に…………アレ……? この最期………中々いい感じ……じゃね? 異世界も……悪く……ね……


 イブキは満たされていた。知らなかったにしろ彼女を守る為に命を張り、彼女に看取られて逝く……。


 正直もう疲れているところではあった。何度も死ぬような目に遭ってまでこんな物騒な世界に居座る意味も無い上、イブキ的に完璧な死のタイミングに出くわせたことで、これ以上無様に命に縋り付く必要性を感じていなかった。


 --あばよ……龍小屋(ばかども)……


 そっと目を閉じるイブキ。そのまま肉体から天に魂を受け渡すように…………。


 --んん……?


 肉体はイブキの魂を掴んで離さなかった。心臓がドクンドクンと鳴り響き、血流を沸騰させる。気は遠くなるどころが寧ろ荒くなり、指の感覚は失うどころか鋭くなっていく。聴覚は奥でそよぐ草花の音でさえ聴き分けられるほどに鋭く尖り、今にでも立ち上がりひと暴れしても問題ないほどに、身体が活性化していくのがわかった。


 ーーなんだ……この子に手を握られてから……急に…? でも確かに……今の俺はッ!!


 致命傷の要因となった風穴があいているはずの腹に恐る恐る触れてみるイブキ。焼き爛れるような痛みを孕んでいたはずの腹はすっかり大人しくなっており、傷口も何事もなかったかのようにふさがっている。


 ーーき、傷がッ!? あんだけ痛かった傷が嘘みたいに!!


 イブキは細腕を見つめる。柔らかくて、すこしだけひんやりとした雪のように真っ白な細腕。その奥には、下唇をかみ切るほどにまで食いしばり、蚊の鳴くような声でうめき声をあげて痛みに耐えるようなシロさんの表情。


「し……シロさんっ!!!!」


 明らかに尋常じゃないほど苦しんでいる彼女の手を咄嗟に引き寄せ、フッと力が抜けたようにこちらへもたれかかる彼女の身体を抱き寄せる。


「あ、ああ……腹が……血がこんなにっ!!」


 抱き寄せて気付く。彼女の腹部を中心に広がっていく鮮血の量は、先ほどのイブキの傷と同様に致命的なものだった。


「誰だっ!!! 誰がやったっ!!!」


「……彼女自身の選択さ」


 2人を包み込む様にカドリは告げた。理解出来ていないイブキは犬歯を剥き出しにしてカドリを睨み、右腕を龍皮化させた。


「てめぇだな……? てめぇがこの人をっ!!!」


 夕焼けに身体を預けるように背中を向けるカドリを、怒りに任せて拳を奮わんと立ち上がろうとするも、上手く身体を動かすことが出来ない。案の定下には粘り気のある飴が張り巡らされており、イブキの身体の突進を許してはくれなかった。


「……落ち着くんだ。まずは状況の整理が先……どうか冤罪をかけて人を殺めようとする愚かな男にだけは……」


「だ……だったら誰がこんなことを!! 許せねぇ……許して……たまっかよ!!!」


「い……いいの…………」


 イブキの叫びを止めたのは、彼女の蚊の鳴くように声だった。


 彼女は額にこそ脂汗を滲ませていたが、その表情には活力が戻っていた。白いドレスに付着していた赤色すらいつの間にか消え去り、元の色を取り戻している。


「な……え……?」


「不思議な力をしているね……他人の痛みを自分に移す能力なんて……“殺し合わせる為の力”として存在する龍魔力とはまるで正反対だ」


 わけも分からずにカドリと彼女を交互に見るイブキ。抱き抱えられたままの彼女は何事も無かったかのように手から離れ、代わりに朱色に染まった双眸でイブキと視線を合わせ、呟いた。


「……約束したから…………」


「おっおっおっ……ふぅ…………っす……」

 --ちっ!近い!! 近い近い近いめっちゃいい匂い近い近い近い!!!!


 至近距離の彼女は一層破壊力があったのか、イブキは心臓付近を抑えてのたうち回る。鈍感な彼女は不思議そうに首を傾げるだけに留まり、後ろで見ていたカドリは可笑しかったのか静かに身体を震わせていた。


「なるほど…なるほどねぇ……どこの世界にも甘酸っぱいイチゴ味は広がっているものなんだね」


「……え……へ……」


「素敵な彼女を取り返せてよかったね。君は勇者……ステキじゃないか」


「か……かのっ!!」


「イチゴ味……?」


 カドリの言葉に、それぞれが異なった反応を示す。彼女は首を傾げ、イブキは半狂乱でカドリに掴みかかる。いつの間にか地面に敷かれた飴は無くなっていた。


「し、シロさんは……その!! か、彼女とかそんなんじゃなくて!! い、今も偶然助けてたって言うか……」


「……偶然? 君は“運び手”から彼女を救う為に戦っていたのでは無いのかい?」


「運び手……? 俺は……あ……」


 イブキの表情が曇っていく。それは先程まで自分の行っていた事の真実を理解していく事柄でもあった。


「運び手って……なんなんすか……?」


 震える声で問うてみる。それは万が一でも“そうでない可能性”に賭ける為だった。


 カドリは驚いたように答えた。


「知らなかったのかい? 運び手というのは何処かに潜んでいる“人売り屋”から買い取った人間を運ぶ闇の業者……。売り手と買い手を繋ぐ闇のパイプさ」


「じゃ…じゃあ………」


 イブキは膝から崩れ落ちる。まさか自分が行っていた任務が、想い人を地獄へ送り届ける悪行だったとは思っても無く、激しい後悔と怒りに支配された感情を、踏みしめる大地にぶつけた。


「……俺は……わるく……」


「……ん? どういうことだい?」


「お、俺は悪くねぇ……! だって…そんなの知らなかったし……!! 龍小屋の野郎共が俺をっ!」

 --やっちまった……!! やっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったやっちまったっ!!!!!


「……なるほど。自責の念から逃れる為の自問自答か。君は特にわかりやすく表情に出るようだね」


「違う俺はっ……!!」


 イブキの背中に優しく手が置かれる。嘔吐く自分の背中を無言で摩る彼女の優しさが、今はただただ痛かった。


「おれは………おっ………」

 --わかってる……分かってんだよ……!! 色々怪しいところはあった筈なんだ……もし他の奴ならすぐに見抜いてんだろ!? 俺だからできなかったんだろ!? なんで……俺はいつも………………かっこよくなれねぇんだよ……。


「心の中で逃げるくらいならば……巻き返すんだ」


 カドリは一言だけ告げると、どこからともなく飛んできた一本の矢を龍皮化した右手で受け止め、砕く。


「彼らを挫く事が……君の贖罪だ」


「…………ッ!!」


 矢の飛んできた方角を振り返る。『誰だ!!』よりも前に、ソイツらは如何にも横暴な声色で、威張り散らかすように叫び散らかしてくるのが聞こえた。


「てめェこの野郎が! よくも俺たちの商品を台無しにしてくれたな!!! おい!!」


「てめェら三人、生きて帰れねェと思えよ?? ギャヒヒヒヒヒ!!!」


「やっちゃってくだせえ!! オークの旦那方っ!!」


 カドリの後ろで、先程逃げていったはずの小男達が短剣や弓矢、槍等を武装した状態でイブキ達を囲っている。さっきまではまるで役に立たなかった奴等が、妙に強気な態度で罵声を浴びせてくる様子に違和感を覚えたが、すぐに納得がいった。


「……で……でけえ……」


 ズンッズンッ……と大地を踏み散らかしながらこちらへ向かってくる恐らく巨人かなにかであろう化け物の三体の姿に、思わず息を呑む。


 淀んだ池の水のような色をした肌はかなりゴツゴツしており、丸太のように太い腕はギラギラの金棒を担いでいる。避けた口からは巨大な牙が露出し、常に開いた口からは荒々しい吐息が聴こえてくる。一人でも充分なインパクトだが、そんなのが三体も味方に付いているのならば、強気になるのも頷けるだろう。


 何よりおぞましく感じたのは顔の中央付近に一つだけある巨大な眼球……。オークと呼ばれたそれらは、ギョロギョロとこちらを見渡した後ギュッと瞼を顰めて睨みつけては、イブキ達3人に向けて威嚇するように問うてくる。


「貴様ラァダナ!? 俺様達ノォ買イ取ッタァ商品ヲ奪イ取ロウトスル輩ハ!!」


「コロス……ミンナ……オレノエサ…………」


「オイヨォ!! オンナヲスグ殺スノハ勿体ネェ! タップリ可愛ガッテカラジャネエトヨ! ソウダロウ!? 小鬼十兄弟ゴブリン・テン!!! べハハハハハ!!!!」


「お、俺達も良いんですか!?」


「ぎゃへへ……まじでいいオンナだから我慢してたんだぜぇ俺たちゃ……」


「うおおおおおおお!!!!! 今日はいい日だぜてめぇらぁ!!!!」


 右のオークが小男達を鼓舞するように叫ぶ。まるで肉を宙に吊るされた肉食獣のように狂喜する彼らの顔付きは、まさに欲望に溺れた醜くさの権化と化していた。


 --醜い……。シロさんをそんなふざけた目で見やがって……!!


「ナンダァ? ソノ目ェハァ!! 明ラカナァ弱者の分際デェ!!」


 煽りを利かせる中央のオーク。奴らの暴力的すぎる剣幕を知ったことかと睨み返し、彼女の前に立ちはだかりグッと拳を握りしめるイブキ。隣のカドリはそっと一言添える。


「アレらを断罪する事で赦しとするか、撲殺の末路を辿ることで贖罪とするか……どちらの結果に転ぶかは君の力次第だ」


「……どの道……これで俺は…………」


「……君の中ではね。でもそれでいい…自覚した罪の意識を払拭するには、思い込みが重要なんだ」


 不思議な言い回しで宥めてくるカドリ。そんな彼の頭上にブウンと巨大な金棒が振り落とされる。


「……ステキじゃないね。会話に割り込んでくる人は好きじゃない」


 華麗に躱してから、細い瞳を更に細めて右に位置したオークを睨みつける。


「オイヨォ!! 面白イ!! オマエハ三日前二殺シテヤッタ人間ノカップルノヨウニ……全身ノ毛ト陰茎ヲヲ毟リ取ッテ吊ルシアゲテ、横ノオンナガ俺達二汚サレテイク様ヲミセツケテカラ殺シテヤルヨッ!! べハハハハハ!!!」


 残虐極まった言い回しと共に、割って入ったオークは金棒を再び振り上げる。やけにゆっくりにみえたそれをしっかりと見据えながら、先ほどの会話に繋がるような言葉を呟く。


「難しい事言う奴だな……でも……何となく分かった気がする……」


 イブキは三度右手を龍皮化させ、高らかに吼えた。


「赦されなくてもいい……こいつらは許せねぇ……だから…倒すッ!!!!!」


 龍皮化したイブキの拳は金棒をいともたやすくへし折り、憎らしいオークの眼玉を潰すようにめり込んでいった。

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