第9話 巣穴が設ける一本道
激闘の疲れからか丸二日ほど寝込んでいたイブキ。ようやく目を覚ましたものの、開口一番に苦痛を漏らす。打撲跡や筋肉痛による鈍い痛みが寝起きの彼の表情を歪ませた。
「いってッ! ……死ぬほどいてぇ…」
幾ら龍魔力のお陰で身体能力が向上していたとしても、学校の体育の時間の時くらいしか身体を動かす機会のなかったイブキの肉体は、二日間経った今でも悲鳴をあげているようだった。
ーーどこだここ…。俺は確か、ゾンビになったシューゲツの顔を殴って…。
イブキはベットの上で頭を抱え、最後に見た光景を思い出す。
ーーあの後…。そうだ!フード被ってた女の子と茶髪のイケメンが助けに来てくれて…。
もしかしたら彼らが自分をここまで運んで寝かせてくれたのかもしれないと考えると、いち早くお礼を述べるべきだと勢いに乗って立ち上がり、当然やってきた筋肉痛に悶絶した。
「あがッ…!!まじでッ!!」
再びベットの上で蹲っていると、閉まっていた部屋のドアが開く。
「目覚めたようだな」
相変わらずの高身長にサラサラに揃った茶色の髪。猛禽類のように鋭い眼光を見ると、やはりこの男をどこかで見たことがあるとモヤモヤさせられる。
「お…ういっす…」
「早速だが、これから来てもらう場所がある。一応逃げ出さない為に両手を縛るが、悪く思うなよ?」
「え!? 縛るって…」
その時イブキは“こいつも俺と同じ存在なのではないか”ということに気が付く。もしそれが正しければ、あの時の“ドラゴンゾンビ”のように、無差別殺害を始める可能性があるかもしれない。
悟られる訳にはいくまいと大人しく両手を差し出す。イケメンはぶっきらぼうに持っていた縄で両手を縛り付けた。
ーーもうちょっとくらい優しくしろよ……。
湧き上がってくる不満は、イブキの喉元に押し留まるのみだった。
*******
打撲と筋肉痛でバキバキに傷んでいる脚に鞭を打ち向かった先は、蔓に覆われた白い大理石に囲まれた、どこか神秘的で怪しげな祭殿跡のような場所だった。所々ひび割れた白い柱が、平たい楕円形のステージを取り囲むように建っている。
「なんすかここ……」
「喋るな。返答次第では、ここがおまえの墓場となる」
「……え?」
ーーこいつ…イケメンだからって調子のってんのか……?
楕円の足場を抜け少し奥に進むと、同じように所々に蔓が覆っている白い大理石で出来た取り壊された教会のような形をした建物があった。
「入れ」
青年に言われ、恐る恐る中に入るイブキ。そこは妙にだだっ広く、外部の損傷レベルから相当淀んだ場所だと決めつけていたが、多少地面がひび割れている程度で想像していたよりもずっと綺麗だった。内装は結婚式の会場のように真ん中を通路として開け、左右に長椅子が綺麗に整列されている。中心部には檀上があり、そこら中に所々ヒビ割れたステンドグラスが張り巡らされている。
「あっ……」
檀上には見覚えのある人が立っていた。あの時、イブキを助けてくれた少女だ。彼女は前にある聖書台に頬をつき、めんどくさそうにこちらを眺めている。
「ナハハッ! そう怖がらんでもええで? ちょっと聞くだけやからな~?」
長椅子にぐったりと腰を掛けていた一人の男性が気さくに声を掛ける。どうやら、あの少女以外にも何人かいるらしい。
こちらを振り向く男性は、イブキの顔を見るや否やびっくりするように口を丸くした。
「ジブン…日本人やろ? なんか嬉しいなぁ~!」
身長はイブキより少し低め。顔に刻まれたしわの数から察するに、50代くらいだろうか。質感の固そうな黒髪に、日本人らしい焦げ茶の目。歳の割にはやけに真っ白な並びの良い歯が特徴的だった。
肌の色合いから、彼が日本人を自称する事に違和感はなかった。だからこそ、“どこにでもいるような気さくなおっちゃん”が異世界製チックな衣類を着こなしている様は、何かのコスプレのようで少しだけ可笑しかった。
「へへっ……日本人っす」
日本人の登場に少しだけ安心し、気が緩むイブキに同じような白い歯を見せるようにニィっとしながらおっさんは告げた。
「ま~こっちも拷問じみたことはあんましたかないもんでなぁ〜。優しくするからちゃんと答えてな〜? ナハハハッ!!!」
頭をわしゃわしゃと撫でまわしながら突然物騒なことを言われ、再びイブキは固まる。「どうしたん?」とこちらを不思議そうに覗くおっさん。そんな彼から放たれるなんとも言えない研ぎ澄まされた刃物のようなオーラにイブキはごくりと固唾を飲み干す。
「ちょっと!オオサキさん!!」
別の場所から、慌てふためく様な女性の声が響き渡る。わたわたとやってきた彼女はおっさんの肩を掴むなり2人を引き剥がした。
「い、いきなり物騒なこと言っちゃ怖がっちゃいますよ!!」
--あっ今いい匂いした。
揺れる桜色のゆるふわパーマの長髪にイブキは目を奪われ、舞い上がった淡い香りに思わず鼻を伸ばす。一見すると物腰柔らかな優しい雰囲気の少女に見えるものの、一生懸命おっさんを叱りつけるその様は、大きな人間に対しても構わず立ち向かう小型犬のような勇敢さをかけあわせている。
露出の少ないセーターの様なオフショルダーを着用しているが、それでも認知できる程に豊満な胸に、イブキは吸い込まれるように視線を落としていた。
「レイちゃぁん! そやったなぁ! ごめんな? ナッハッハッハッハ!!!」
「いえ、大丈夫っす…へへっ」
ーーレイちゃんっていうのかこの子…。
レイちゃんがイブキへと駆け寄る。自分に向ける下心にどうも彼女は気付けていないらしい。
「あの…大丈夫ですか!? もうオオサキさんったらたまに怖いとこ出るんだから〜」
「あっ……ぅいっす……へい」
おっおっおっおっおっおっおおっおおおおっ!!!
レイちゃんの美貌に釘付けなイブキ。背後でその様子を監視していたイケメンがデレデレするイブキの頭を叩き、いつの間にか中心に用意されていた木製の椅子を指さした。
「そこに座れ」
「……ッ!!!」
ーー畜生この野郎…抵抗しないからっていい気になりやがって……!
渋々椅子に腰掛ける。その後ろをぴたりと付くようにイケメンとレイちゃんが並んだ。恐らく逃亡を避けるものかと予測し、溜め息が漏れる。なにより、自分の監視にレイちゃんが加担しているのがイブキ的にかなりショックだった。
--なんでこんな目に……。
「えへへ〜、相変わらず冴えない顔してんね」
目の前の聖書台で頬杖を付く少女が揶揄う様に話しかけてくる。
--この子もこいつらの仲間か……。あ〜あ、周りが敵だらけだよクソッ!
「さぁて、そろそろかねぇ〜」
壇上に腰掛け、後頭部を掻きながら告げるおっさん。それがまるで呼び掛けになったかのように、洞窟中に新しい足音が響き渡る。首だけをそちらに向けると、逆光に遮られシルエットのみが見える。シルエット越しからでも感じ取れる剣幕を持った大柄の男性が、逆光を背にこちらへ歩いてきた。
「あっドンピシャで来た。こんにちは霧生さん」
その男は話しかける少女に眉ひとつ動かさず「ああ」とだけ返すと、前に座るイブキの横に並び、190センチは超えそうな身体の腰を曲げ、彼に視線を落として一言。
「……こいつか」
強力な威圧感を載せた重い一言。思わず萎縮したイブキは生唾を呑み込み、大男から視線を逸らす。
ーーやべぇ奴きた…。
しわの目立つ色黒の顔面の奧で、獲物の隙を伺う肉食動物の様な眼力でイブキを睨む。大きく膨れた鼻に、決して上に向く事の無い口角の周りに生え渡る芯の強い無類髭。七分狩りの毛髪は、金髪逆立つ獅子の毛並みの如く頭皮を覆っており、着こなすスーツの一張羅の上からでも確認出来る位まで鍛え抜かれた筋肉が、より彼の身体を大きく魅せている。
再度固まるイブキを他所に、その大男は横に並んでいた長椅子に腰掛ける。但しその視線はイブキから逸れる事無く、ただ彼が少しでも妙な動きを取れば即座に潰さんと無言で語りかけてくるような威圧感は決して緩まってはいなかった。
大男だけではない。目の前で頬杖をつきながら眠たそうに欠伸する少女も、後頭部を掻きながら壇上に腰掛けるおっさんも、後ろで自身を監視しているイケメンもレイちゃんまでもが、その視線をイブキに集中させていた。
少しの静寂を払うように、少女が口を開く。可愛らしく通りの良い声が教会中に響き渡る。
「うん、まぁめっちゃビビってるぽいしあんまり長居させるのもアレだからさ、単刀直入に訊くね」
「はぁ……」
なんだ? 俺が異世界転生してきた事を聞くつもりか…?
「キミさ、黒龍の仲間?」
「……え?」
ーー黒龍…? 何言ってんだこいつ。
予想外の問いにイブキの頭の中は真っ白になる。アクションの無いまま固まっていると、今度はおっさんが語りかけるように口を開いた。
「いやぁ〜まずそこハッキリしてくれへんとなぁ〜我々も困るっちゅうかぁ〜早い話、違うならええんやけどもし黒龍と関係があるちゅうなら……」
「ないです!! 全然無いです!!」
おっさんを遮るように叫ぶイブキ。先程彼が怖い顔をして言ってきた“拷問”という単語が頭を過ぎり、無理矢理思考を元に戻した上での否定だった。
「いや、ごめんなぁ…。俺も全然疑ってる訳じゃなくてなぁ」
また驚かせてしまったと慌てて謝罪するおっさんに被せるように、後ろのイケメンが反論する。
「だが、こいつの龍魔力は黒龍やその幹部に近いものがあった。クルドもそれは見たんだろう?」
「あたしは永久中立〜。メテンじゃないし」
「はいっ! はいはいはーいっ!」
急に元気よく存在感をアピールしだしたレイちゃんにイブキは驚く。目の前の少女は耳を塞ぎ、めんどくさそうに彼女を指さす。
「あーもううっさいなぁ……はいどーぞ。レイ」
「拷問はよくないですっ!」
「誰もするとは言ってないだろ……」
ビシッと決め込んだレイちゃんにイケメンが呆れたように被せる。見事にカウンターを決められた彼女はわたわたと手を振りながら必死に反論した。
「だ、だからそのっ! てきとうな判断で殺したり拷問にかけたりするのはかわいそうってことでっ! この人の意見もちゃんと聞かないとってことですっ! うんっ! そゆことですよねっ!?」
「なんで確認求めてくんのさ……」
「か、確認じゃなくてですねっ……この理論おかしくないよね? っていうアイコンタクトみたいなアレの……」
「……もういいだろ」
ため息交じりでレイちゃんを制するイケメン。『うぅ…』と呻きながら縮こまる彼女を差し置き、続けた。
「拷問なんかは俺も反対だが、こいつの力が黒龍に近いことは事実だ。最低でも少し拘束して様子をみるくらいはするべきなんじゃないのか?」
「それでは甘い」
聞いている限りでもそこそこ残酷だったラディの意見を『甘い』とぶった切ったのは、最後にやってきた大男。彼の一言はガヤガヤしていたはずの屋内を一気に彼の低く、無慈悲を極めた言葉だけが支配する空間へと変貌させた。
「実際にこいつが黒龍の関係者であったとして全て馬鹿正直に話す訳が無い。怪しいと思うならば情報を吐かせる。喋らないないしは持ってないのならば殺す。こいつがメテンである以上ここで逃してもいつかは殺すハメになる。ならば今のうちに芽は摘んでおくべきだ」
「……え?」
ーー持ってないなら殺す!? 待ってくれよ俺はッ!!
「まぁまちぃやキリュウ。ひとまず、この子の意見聞かんことには始まらんやろ。クルドちゃん、ジブン嘘とか見抜くの得意なんやろ? この子に弁解させる時間をやるから、嘘かどうか見てくれへん?」
助け舟をくれたおっさんに感謝しつつ、彼に指名された少女に祈るような視線を向ける。彼女はそんなイブキの視線を意に返す様子も無く『わかった』とだけ告げ、壇上を降りてイブキの前に立ちはだかった。
「はい、べんめー開始」
「え?ちょ…早くないっすか?」
「なによ。 はやい方がよくない?」
「あっまぁ……」
一瞬目を閉じ、気持ちを整頓させる。こんなことをするのはそこそこ勉強した高校受験の時以来だが、今回は命が掛かってる分、今回は本気の本気だった。
「お、俺は数日前にあの森で目覚めたんっす。そんで暫く歩いてたら……シューゲツとかいう奴らに会って、どこ向かっていいかも分かんなかったからとりあえずそいつらに着いてくことにして……」
必死に事実を整頓して話すイブキ。何故か熱くなってくる目頭を堪えながら、目の前の少女に向かって必死に語った。
その間、少女はローブの前についているポケットに手を入れたままあどけない浅葱色の瞳をこちらへ向け、じぃっと彼の話に耳を傾けていた。
「そんで…気絶する寸前にあんたと後ろのあんたが来て…目覚めたらここってわけっす」
イブキが話終わり、おっさんが『どうだい』と少女に訪ねるまで、再びの静寂が教会中に訪れた。
「ん〜、嘘は言ってないんじゃないかな。だって泣いてるし」
「え? ジブン泣いてるん?」
「いやちょっと!!」
ーーおい!恥ずかしいからやめろって!!
食いかかってくるイブキを他所に、少女は続けた。
「なにより情報量が多かった。別に目覚めたことから話せってこっちは言って無いのに1から全部話してくれたとことかね。情報量が多いって事は伝えたい事が多すぎてこんがらがっちゃってる状態なんだよ。仮にコイツがスパイを任されるような狡猾なヤツだったとしたら、まずはあたしたちに溶け込むよう“上手い演技”で“上手なアリバイ”を話してくるはず。コイツの話は最高に“伝わりづらかった”」
--え? これ庇ってくれてんの? 馬鹿にしてんの?
複雑な感情でベラベラと持論を展開する少女をぼーっと眺めるイブキ。
後ろで訊いていたイケメンが割って入るように彼女に反論した。
「だがそれも演技って可能性もあるだろう。敢えて回りくどく話すことでこちらの情報を撹乱する作戦という可能性もある」
「それも考えたよ。それはこいつの身体を調べればすぐわかる。嘘ついてる時とかに発する脈とか心臓の音とか、龍魔力の流動とかね。あたしの綿でその辺はチェック済み。根拠はこんなとこかな?」
「……今最高にお前の頭をはたきたくてしょうがない」
「ま、負け惜しむなよ! 論破された癖に」
イブキを挟んで言い争う2人を他所に大男が席を立ち、こちらへ歩み始める。踏みしめる足音が1歩ごとに教会中に響き渡り両者の喧嘩を止める。厳格な表情でこちらを見下ろす彼の視線は、相変わらず強烈な重力を持っているように感じた。
固く閉ざしていた口を開く。先程の彼女の弁護も関係ないと言わんばかりの無慈悲な一言を放った。
「……ギルドに引き渡して拘留させておくのが最善だろう。引き続き情報が割れれば対応が利く」
「え……?」
拘留という物騒な単語にイブキは震え上がる。先ほど淡々と自分を擁護してくれた少女に助けを乞うよう目をやるも、彼女は不貞腐れた表情でそっぽを向く。
これ以上はどれだけ抗弁を垂れようとも意味がない。彼の“決定”はそれほど大きなものだということを、目の前の少女の諦めたような態度が物語っていた。
「まぁまちぃや。あんたの意見で全部決めちまったら、わざわざここにみんな集めた意味が無いやろがい」
続いて立ち上がったこの男に、イブキはどれだけ感謝したかわからない。相変わらず後頭部を掻きながら気だるそうに立つその様は一見頼り甲斐のなさそうな様子にも映るが、このおっさんに至っては不思議と目の前の大男に拮抗する勢いで強者のオーラを発散させていた。
--や……やべぇ……。
ふたつのオーラをその中心点から左右に受けるイブキの心は今にも押しつぶされそうな重圧に呼吸が荒くなる。
『俺に歯向かうな』と言わんばかりの恐ろしい眼光でおっさんを睨みつける大男。対するおっさんも『お前がなんぼのもんじゃ』と言わんばかりに睨み返して見せた。
「邪魔をするならば先にお前を消すぞ。オオサキ」
「それじゃ、わざわざこの集まりを組んだ意味が無いやろが。それともその独善的なやり方が……ジブンの“正義”なんか? しょーもない」
「貴様……!!」
一触即発。強大なオーラを持った両者の激突規模の大きさは、彼らをよく知らないイブキからでも理解出来た。
--ちょ…誰かぁ……なんか言ってぇ……。
祈るような視線を残りの3名に向ける。相変わらずそわそわしているレイちゃんと黙って静観するラディ。但し、2人ともその視線は一点に集中されていた。
イブキもそれに習った方向に視線を向ける。相変わらず不貞腐れたように聖書台に頬杖を付いている少女へ……。3名の熱い視線に気が付いたのか、彼女はあどけない顔立ちをこれでもかという程に歪め、呟いた。
「うわめっっっっっちゃ見てきてるじゃんか……」
相変わらず年配の2人は睨み合う。少女は渋々握りしめる霧生の右手に小さな手を置いて腰を退かせながらも彼の説得を始めた。
「ま、まぁキリュウさん。こればっかりはオオサキさんの言う通りだよ。あたし達が集まってるのはあくまでも黒龍の野郎をぶっ倒す為なんだしさ? ここはその……あたしの話を聞いて欲しいって言うか…えへへ……」
--よく言ったぞお前!! 勇者だよ勇者!!!
心の中でガッツポーズするイブキ。後ろの2人も若干申し訳なさそうにしながらも少女を讃える視線を向けていた。
ビクビクしながらも自分の右手の裾を摘む少女を見て糸が途切れたのか、大男は虎のように睨み付けていた眼光を閉じ『なんだ』と返した。
「た、確かに…霧生さんの言う通り……こいつは得体が知れないヤツだけどさ…でも嘘はついてないのはほんとなんだよ。だから今二択の可能性があって、ほんとに知らないっていう説と黒龍に関係はあったけど捨てられたかなんかで記憶がない説っていう……。だから…暫くうちに置いて面倒見つつ監視した方がいいって言うか…記憶が戻ったら情報くれるかもしれないし…えへへ……」
見てられなくなったのか、おっさんが少女の青髪を撫で『ごめんな』と呟くともう一度大男へ向き直る。今度はオーラを仕舞い、普通の気のいいおっちゃんのような優しい表情を向ける。
「まぁ今回はクルドちゃんに免じてくれや。こんなつまらん事でジブンとケリ付けた無いわなぁ俺も! ナッハハハハハ!!!」
大男も黙って背を向け『好きにしろ』と言い残すと、そのまま教会を後にする。大男が外に出るなり、少女はイケメンに向かって走っていき、彼の腹に飛び蹴りをかました。
「ちょッ!! ラディ! お前絶対今日の飯ステーキだかんな! お前絶対今日の飯ステーキだかんな!!」
「わかった…わかったから叩くな……」
揉み合う2人を他所に、おっさんとレイちゃんがぐったりするイブキの元に集まり、彼を解放した。
「いやぁ良かったなぁ〜正直同じ日本人やし貴重やったねんなぁ! レイちゃん!」
「ど、ドキドキしました……。あっ! ていうかオオサキさんも一瞬やる気だったじゃないですかっ!」
「そやったっけ? ナッハハハハハ!!!!」
「へへっ…ういっす……」
ようやく手錠が解かれ開放感に心躍らせるイブキ。そんな彼の前に揉み合いを終えた少女とイケメンが並び、少女がイブキの手を引く。
「ほら、着替えたり色々あんだからさ。さっさと行くよ」
「んんっ! ……へい…」
幾ら年下であろう少女とはいえ、容姿の整った女の子に手を引かれ思わずドキッとなるイブキ。しかし、それ以上にこの子には感謝してもしきれない借りが2つも出来ている事に気が付き、せめてこれだけは言わなくちゃと声を振り絞った。
「あ、ありがとう…。助かった……っす」
「えへへ。その代わり裏切ったりすんなよな」
その会話を最後に、イブキ達はようやく教会を後にした。
**********
とある場所のとある古びた屋敷の中で女性の姿をした者が一人、鼻歌を口ずさみながら浴槽で濡れたライトグリーンの長髪を純白のバスタオルで掻き乱している。
少しだけヒビの入った全身鏡で青白い身体を映し、はぁっとため息を漏らす。
「こりゃダメっぽいなぁ。持って1ヶ月ってとこかぁ? こんなんならこいつの身体だけ綺麗にしとくんだったぜ…」
浴室を後にし、裸体のまま傍にあった椅子に腰掛ける。思い詰めるように顎に手を乗せて神妙に考えた後再び立ち上がり、呟いた。
「まぁ、くよくよしてもしょーがねぇ…焦らず囲みますかねぇ。今はまぁ…歩くエロビテオでも手に入ったってことにしとくか……」
彼女の脳裏にはあの時自分に不意打ちを叩き込んできた男の顔が深く焼き付いていた。
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