第四次お家戦争

リュウタ

第四次お家戦争勃発

 私は、卑しい。人の喜びを奪い、蹴落とし己の快楽をただひたすら追求している。どれだけ人が悲痛を叫んでも自分の欲を最優先してしまう。

 例え家族だったとしてもそれは変わらない。


「……あれ? ない。ない!」


 私は、屑だ。人が助けや説明を求めても何も言わずだんまりを決め込むだろう。

 例えどれだけ詰め寄られても。

 私の悪事が他者にバレていないならそのままにしておき、悪行を自ら暴露することはない。


「ねぇ、お姉ちゃん」


「……」


「私の冷蔵庫のプリン食べたでしょ」


 私は、どうしようもないヤツだ。私の悪事がバレ、その代償を要求されても無理の一点張りをすることしかしない。そんな薄情なヤツなのだ。


「ねぇ、聞いてる?」


「……」


 ただ聞いて欲しい。

 私だってしたくてしたわけではない。妹のことを思うならすべきではなかったのは分かっている。反省はしている。


 でも仕方なかったのだ。深夜二時。勉強の息抜きに何か食べようと冷蔵庫を漁ると、奥も奥、最深部に隠された黄金に輝く甘美な物体があるではないか。

 意図的に隠されているそれは私の脳に直接語りかけてきたのだ。


『私を食べて!』と。


 勉強疲れと深夜帯特有の空腹に負け、気づけば妹の名前が書かれた空の容器とやっちまったという後悔が私の目の前に残されていた。

 勢いよく口に入れてたのだろう、濃いあめ色が口の周り全体に広がっていた。

 それに気づいたのは眠気を取ろうと顔を洗いにいった時だった。鏡の私は眠そうな目、あめ色に輝くカラメルを付けていた。次に見えたのはリンゴタルトのりんごのような、ショートケーキの苺の色のような紅潮した頬だった。あめ色にりんご、苺のような赤……うん、大変美味しそうな顔色だ。


 口周りはすぐに洗った。眠気は覚めていた。


「ママは甘いもの苦手だしパパは冷蔵庫触らないから気づかないはずだし……。てかそもそも私の名前が書いてあったら二人とも食べないし」


「……」


「お姉ちゃんしかいないんだよ、犯人は」


「……」


「ねぇ、なんとか言ってよー。もしもーし?」


 私は……最低だ。これだけ問い詰められ、私しか犯人がいなくても今だに無言を貫いている。

 だがそれでいいのだ。下賤な者に成り下がろうと、ここで罪を認めれば代わりにケーキとかタルトとか、高いものを要求されるのだ。

 そりゃあ私が悪かったが、そこまで高いものを購入することは出来ない。今月は財布が寂しいのだ。


 故に私は黙秘し続けるしかないのである。


「ねぇ! ママに言いつけるよ?」


「ごめんなさい」


 母は強し。いくら私が鋼の精神を持ち、黙秘権を行使していようとも母の一言には勝てない。

 母の発言はさながら真っ赤に燃え上がる炎であり、そのお叱りは私の心をドロドロに溶かしてしまう。

 鋼は熱に弱いのだ。


「弁償。今すぐ代わりのもの買ってきて。うーん、ショートケーキで」


「……はい」


 母の名前を出されては抵抗は愚作、こうなったら行くしかないのである。

 ああ、無情。とぼとぼと歩く私は醜く、矮小に見えたに違いない。


「ダッシュ!」


「っはい!」


 妹から言われたその一言は、甲子園常連校の監督並の声量であり、私のぐうたらの精神を一瞬でかき消す。


「なんでこんな目に……」


 中身の少ないがま口の財布を持ち、私はコンビニへと出かける。

 こうして我が家の戦争とも呼ばぬ第四次プリン戦争は終焉を迎えたのであった。

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第四次お家戦争 リュウタ @Ryuta_0107

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