十文字春介の場合
上司に仕事を押しつけられた。議会が近いらしい。AIロボみたいな課長にはボロクソダメ出しされて……。もう嫌になって、赤ちょうちんでトグロを巻いた。
あの人にも会えないし。
もうヤケけじゃん!
いいんだもん!
どうせ赤ちょうちんの近くにあの人の家があるから、帰りに泊めてもらおうって思っていたのに……。
目が覚めたら高原だった。
高原?
コウゲン?
こうげん?
こ・う・げ・んんー!?
おれは身動きが取れない。
「ここっ、どこ!?」
手を動かそうとして、はったと気がついたが、手がない。
手がないだってっ!?
お、おれはバラバラ死体かなにかにされたというのか!?
あ、足は?
「あ、足、ねーしっ!」
足もない?
いや、足元を見ようとしても、首が回らないのだ。首もないのか!?
「嘘だろーーーーっ!」
大きく叫ぶと、青いグニャグニャとした滴型の物体が、ポヨンポヨンと跳ねて近づいてきた。
——あ、あれ?これって。知っているよ。これ。
「スライムじゃんっ! おれの大好きな、愛らしいスライムじゃん!」
おれがそう叫ぶと、目の前のスライムは、虚な瞳でおれを見ていた。
「なに言っているんだよ。お前もじゃん」
「お前も、じゃん?」
「そう」
「お、おれもー!?」
急に納得してしまった。おれは、スライムなんだ。だから手も足もないし、首もないのか。
——お! 本当だ。
跳ねるとポヨンポヨンと音がした。
「なあ、おれの体何色?」
おれの質問に、青いスライムはつぶらな瞳できょとんとした。
「青じゃん。一緒でしょう?」
「オマイガー! 青なんて、本当の底辺じゃん。うう。せめて赤のベスちゃんとかさ、緑の毒持っている奴とかさ、メタリックになりたかった……うう。もしかしたら、おれの上に騎士なんか乗っちゃう訳?重いよね。重い。いやだな〜。人乗せるのなんて、絶対やだ」
青色スライムってことは、ゲーム序盤に、勇者のレベル上げの餌食にされるだけだ。おれたちを潰して、あいつは鋼の剣を買う気だっ!
「なんかね。勇者って人たちが、これから来るんだって。魔王様からの伝言がきたよ。おれたちはね、勇者の最初のレベル上げのために、
「ああ。確かに、おれたちは
「でも、仕方ないじゃない?そういう役目なんだから」
役目、だって?
こんなところで死んでたまるか。
「おい。おれにいい考えがある」
「なに?」
「確か、スライムっていうのは八体集まると合体してキングになれるんだ」
「キング? 王様!? かっこいい!」
「おれは市長には興味ないけど、生き抜くためだったらキングになるっ! おい、急いで後六体集めろ」
「わかった!」
スライムだって、底辺だって生き抜く!
おれはキングを目指すのだ。
おれたちは来るべき勇者に対抗するため、仲間集めを始めた。
——さあ、十文字! 旅立ちのときじゃ!
「あ、キングスライムってぱふぱふが使えるようになるんだ……」
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