第20話 比べてわかること

 ミカと嗣道は収蔵庫の一角、広い作業台の上に二枚の浮世絵を並べていた。

 薄暗い収蔵庫の中で美術品専用のLEDが二枚の浮世絵を浮かび上がらせている。

 一つはミカが贋作工場で押収し、ミカが弾痕を付けた浮世絵。そしてもう一つは地球博物館に収蔵されていた贋作と判断された浮世絵だ。

 嗣道はミカに二つの浮世絵についてよく調査するように指示していた。

 当初は落ち込む原因になった浮世絵について調査させることでミカがさらに塞ぎ込むのではないかとも嗣道は警戒していたが、予想に反し、期待以上にミカは精力的に調査をした。

 そして、今日嗣道はミカから報告があるとの連絡を受けて急ぎこの場所にやってきたのだった。


「これか……」


 浮世絵は木版画として同じものが多量に刷られた。そのために同一の作品が複数現存していることも多い。

 同じものが複数存在していても疑われにくい。

 だからこそ、贋作工場では浮世絵という美術品を選んで贋作をつくったのだと想像されたが、そうであるならば、贋作と本物はできる限り似ている必要がある。


「ミカ、よく見つけたな」

「頑張って調べたよ。……これぐらいしか、この子たちにしてあげられることがないから……」


 今、二つの浮世絵の間には一枚の写真も張られていた。


 それは戦前に撮影された記録写真だ。

 この記録写真は、地球博物館のまだ整理もされていない膨大な記録の中から三日かけて見つけ出したものだった。

 3つの浮世絵の間には明確に違いがあった。

 それは贋作と判断するに至った色の違いではない。

 明確に描かれているものに改変があったことにミカは気付いたのだった。

 嗣道が浮世絵の一点を指示した。


「構図の中ほど、街を描いた風景の右から……三つ目の店だな? 改変されているのは、この店の暖簾の家紋ということか」


 ミカも同じ場所を見ていた。

 見比べるとそこだけ、写真に写っている作品とは暖簾の家紋の種類が変わっていた。


「うん。改変されているのは、この店のこの部分だけ」

「宮前には確認したか?」


 嗣道の言葉にミカは頷いた。


「うん、宮姉ぇも聞いたけど、記録的・写実的に描いた作品のはずだから、当時実際に存在したお店を描いていると思う、って言っていた。だから、なんで贋作を作るときに描き替えたのかは分からないって」

「なんの意図があるのか、単なる失敗か、謎が増えたな」


 嗣道は頭に手を当ててため息をついた。

 押収した、原本と思われた浮世絵すら、贋作だった可能性があるのだ。


「これは、まだ推測だが、意図的なものだろう。これはただ単に贋作を作って高値で売るという犯罪ではない」

「うん」


 ミカは少しだけ調子を取り戻したようだった。


「望月さんのところへ行く。村崎にはまだ喋るべきことがあるようだ」


 ミカと嗣道はすぐに収蔵庫を後にし、車に乗り込むと、警察署へと向かった。



 警察署に着くと二人はすぐに取調室の隣の部屋へと通された。

 ハーフミラーから見える取調室の中には望月と村崎が居た。望月が辛抱強く話しかけているようだが、しばらく様子を見ていても、村崎は固く口を結んだまま何も言わない。

 望月は話を切り上げ、取調室から出てきた。


「おう、お二人さん、来てたのか」

「村崎は口を割らないか?」


 嗣道が望月に尋ねた。


「ああ。偽物をどう作ったか、どこに売ったか、までは素直に喋ってたが、今はだんまりだ」


 先に事情を説明していたので、望月は浮世絵の原本も贋作だったという情報をもとに村崎を取り調べていたのだった。

 ミカはハーフミラーを通して村崎を見た。

 ニヤニヤと笑みを浮かべていた口を一文字に絞って結び、あの夜にみた表情とは一変していた。


(まるで違う人間みたい……)


 ミカはその様子を見てひとり呟いた。


「まるで、そういう犯罪だった、ということで収めたいみたいだね」


 村崎を一人取調室に残し、ミカと嗣道、そして望月と皇海が集まった。

 パイプ椅子を持ち寄り、四人で顔を突き合わせる。


「あの様子だと、知っているんでしょうね」


 晴斗の言葉に全員が頷いた。


「そうだろうな。よほど義理だてしなきゃならねぇ相手か、警察よりも恐れなきゃいけねぇ相手か、そのどちらかだろうな」


 望月は顎に手を当てながら言った。


「警察よりも恐れる相手?」


 ミカはその言葉の意味をすぐに理解できなかった。


「そりゃそうだ。この国のお優しい司法制度は、殺しでもしてない限り命までは取らねぇ。だが、世の悪い奴らはすぐに『始末』するからな」

「なるほど……」


 言われれば、ミカも想像できる。

 現在の反社会的勢力は戦前に比べ重武装化、狂暴化している。


「でも喋ったとしても、警察しか知らなければ問題ないんじゃない?」

「ミカ、そういう奴らの手口は単純だ。トカゲの尻尾と一緒だ。情報を流したかもしれない怪しい奴は片っ端から切り捨てて口封じ、というやり方もある」


 しばしの間の後、望月は顎に手を当てたまま唸った。


「……いや、嬢ちゃんの意見も一理ある」


 望月は全員を見渡しながら言った。


「確かに、警察内部だけに漏らした情報がとどまれば、疑われるかもしれないが、まだ口封じされない可能性はある。だが、警察に内通者がいる、と思っているとしたらどうだ?」


 望月の考えに気付いたのか、皇海が望月の言葉の後を継いだ。


「これまで素直に答えていたのも、何をしゃべったか、すべて『組織』に伝わるからあえて答えていた、という可能性もありますね」


 すると望月はポンと膝を打ち、立ち上がった。


「その線で探ってみるか」

「どうするの?」


 ミカが尋ねると、望月はふっと笑っていった。


「あいつは口を割らない。これはしょうがない。我が国では拷問もできないからな」


 そして皆に告げる。


「俺たちは思いがけずでかい山を引き当てちまったらしい。村崎はトカゲの尻尾だろうが、その尻尾からどんな胴体をもった奴かは想像できる。こいつは根が深くて、でかい犯罪だ。普通の警察官ならビビッて手をひいちまう」


 そこまで言って望月はミカを見てにやりと笑う。


「……だが、乗りかかった舟だ。晴斗、現場に戻るぞ。もう一度あの工場を調べよう。そういう黒幕がいる、っていう違った目線で探せば新しい発見もあるかもしれん」


 ミカと嗣道も立ち上がった。


「一緒に行くよ!」

「ああ。ここは合同捜査と行こうじゃないか」



 数日前に踏み込んだ工場の外観の変化は、いまだに張られている規制線程度だった。

 歩哨をする制服姿の警察官に声をかけると、規制線の一部を持ち上げて、敷地内へと通された。

 内部に踏み込むと、さすがにそこは以前と比べてがらんとしていた。

 制作途中だった贋作は警察によって証拠として持ち出され、拉致されていた美大生たちも全員が家へと帰っている。

 ミカと嗣道、そして望月と皇海の4人は手分けして工場内を見て回った。

 電気は切れて、採光の窓も小さい事務所は薄暗い。

 ミカは懐中電灯をつけ、弾痕のまだ新しい壁に手をつきながら、幹部たちの詰め所だった事務所を見て回る。


「事務机の中とか、金庫はもう調べたんだよね……」

「ああ、そこに抜かりはない」


 望月はそう言い、自分とそのチームの現場検証に自信がある分、当てはないのか、懐中電灯を片手にうろうろと歩いている。

 現場に来てみると、以前とは異なり何もなくなっていて、訪れる前とは違い、証拠が出てくるか、自信がなくなってしまう。

 隠された秘密、がこの中にあるのだろうか。

 ミカが考えながら見回っていると、小さな光を視界の端にとらえた。


「ん? あれは?」


 それは自分が撃ったであろう小さな弾痕が懐中電灯の光を反射しているのだった。

 壁に空いた他の弾痕は懐中電灯を当てたとしても、漆黒のままであるのに、その穴だけが光を反射していた。

 不思議に思ったミカは穴に近づく。


「この穴、確かに光を反射してる。……穴の先にあるのは、弾じゃない……。なんだろう」


 ミカは穴を覗き込んだ。

 ミカの瞳に映ったのは、小さな弾丸のめり込んだガラス板のようだった。


「壁の中にガラスが埋めこまれている?」


 ミカは作業場から、階下に向けて声を張った。


「嗣道! ちょと来て! あっ! ファイバースコープが要るかも!」

「わかった! すぐ行く」


 嗣道は車からファイバースコープと工具一式を取り出し、望月や皇海にも声をかけて事務所へとやってきた。


「何か見つけたのか?」

「うん、たぶん、大切なものだと思う」


 ミカが弾痕のある壁面を指さした。


「この壁、弾痕の裏に何か隠してあるみたい」


 早速嗣道が装置を組み立て、弾痕に細いスコープを差し込んだ。

 スコープの先の照明を光らせると、透明な板に弾丸がめり込んでいる様子がまず見えた。

 そこからスコープを捩じり、周囲を映していく。


「厚いアクリル板が何かを挟んでいるみたいだね」


 そこは本来ある断熱材が抜かれ、外壁と内壁の間の小さな収納となっていた。


「どうやら壁面の一部が空洞になっていて、何かをここに仕込んでいるんだな」

「でも全体像はわかりませんね」

「壁紙まで張って隠しているんだから、すぐに使うものではないのだろうが……」

「重要書類とはいえ、すぐには使わないもの、そして我々のような人間に見られて困るものってところか」


 4人は顔を見合わせて頭をひねった。


「なんだろうな、まったく見当もつかないが。売り先のリストだとか、金の流れになるものじゃないと思うが……」


 望月は、おおよそ犯人と言われる人間たちが隠したがる資料をすべて押収していた。目の前にある壁面に隠されたものは、文化財に関する知識はなくとも、犯罪捜査のベテランが見当もつかないという、そういうものなのだ。


「そうか」

「これは壁をはがすしかねぇな」

「仕方ない、慎重にはがそう。望月さん、晴斗君、手伝ってくれ。ミカ、慎重にナイフを入れていくんだ」

「浅く剥いで行くんだね」

「そうだ。爆発物である可能性を完全には否定できない。ナイフの刃先の感覚に違和感があったらすぐに止めろ」

「わかった……」


 じんわりと額に汗をかきながら、ミカは壁紙に切れ目を入れていった。

 4人がかりで慎重に壁紙をはがすと、そこには1mほど幅だけ、色見の異なる合板が貼られていた。


「厚みからすると隠し部屋でもないようですが……」

「ますます怪しいな、こいつは」

「他と比べて釘の打ち方が雑だ。素人仕事とみて間違いない」

「壁の内側が気になるよね……鋸で切る?」

「中身がわからない状態で鋸をあてるのは危険だ。時間はかかるが、一つ一つ抜いていく」

「そうだな。こっちにもくぎ抜き貸してくれや」


 望月も腕まくりをしてしゃがみこんだ。

 ミカはすかさず望月にくぎ抜きを差し出した。


「はい、望月さん」

「おう、嬢ちゃんありがとな」

「晴斗は、この様子をビデオに撮っていてくれ」

「わかりました」


 皇海が端末で映像を撮る中、慎重に釘を抜いていく。


「ここまで来てブービートラップはないだろうが、気を付けてくれ」

「おう、まかせとけ。こういうヤマは俺たちだって経験がある」

「ミカ、合板が急に倒れないように抑えてくれ」

「任せて!」


 再び時間をかけて釘を全部抜いていく。

 全員が息を止めているかのように静かな作業は、少しずつ傾く太陽だけが時間経過を教えてくれた。

 西日が差し込み、部屋が茜色になるころ、ミカの腕に合板の重みが掛かってきた。


「全部外れたな」

「外れているはずだ。……ミカ、大丈夫か?」

「うん、これぐらいなら大丈夫。ゆっくり下すね」

「ああ、ゆっくりと頼むぞ」


 ミカはゆっくりと合板を下ろし始めた。

 すると、左右に回り込んで壁内を見ていた嗣道と望月から声が上がった。


「これは……」

「こんなもん隠してあったんか……」


 合板を下ろし終わると、ミカにも二人が何を見ていたのか分かった。


「これは……贋作を作るための設計図みたい」


 壁の中にあったものが陽の光の下に晒される。

 夕日に照らされた壁内にはアクリル板に挟まれた数枚の紙が収められていた。


「ああ。これは版木の元になる主版だ」

「見て! この主版にもあの暖簾が描かれている!」

「原画として持っていた浮世絵もそうだが、この段階で書き足している。そしてこれをここに手が込んだ方法で隠しているということは、やはり単純なミスではなく、意図的なものだったか」


 ミカと嗣道の推測は当たっていた。


「この主版というのはなぜここに隠されたのでしょうか?」


 晴斗は疑問が疑問を口にした。


「どういうことだ?」

「はい、この主版というのは、偽造の証拠になるのでは? であれば、燃やして捨てたほうがいいような気がするのですが」


 確かに、証拠を隠滅するのであれば、隠すのではなく、捨ててしまったほうが良いものだったはずだ。


「たしかに、皇海さんの言う通りかも……。なんで犯人たちはここに隠したのかな」

「俺たちは犯人のバックアッププランを先回りして潰したのかもしれないな。犯人は証拠を隠滅するために隠したのではない。犯人はこの証拠を見つけさせるためにここに隠したんだ」

「バックアッププラン?」


 ミカはオウム返しに尋ねた。


「そうだ。……望月さん、この工場の元の所有者や築年数はわかっているんでしたっけ?」

「ん、ああ。それは調べたな。晴斗、わかるか?」


 晴斗は手帳をめくり情報を確認した。


「はい、元の持ち主は、株式会社丸山谷製作所です。1997年に建てています」

「あっ、それは潜入する前に私も調べたよ。でもこの会社、潰れてたよね」


 同じ社名はミカも潜入前に調べていた。


「その通りだ、嬢ちゃん。丸山谷製作所って会社は倒産している。その後はしばらく権利関係でもめたようだが、最終的にはある人物の手に渡った。そこまでは調べられたんだが、その最終的に買ったやつはどうにも関係はなさそうだった」


 そこまで言って、結末を思い出したのか、望月は頭を掻いた。

 跡を継いだのは皇海だ。


「最終的にこの山を購入した人物が、実は認知症を患っており、また遠方に居住しているため、近年この土地は管理されていなかったようなんです」

「そしてうまく化けた村崎が、丁寧に地域にあいさつ回りして、怪しまれずにこの工場を動かし始めたわけだ」


 望月と晴斗が足で稼いだ周辺の聞き込み情報が、ミカたちの推測を補強した。


「それじゃあ最初は怪しまれないようにいろいろしてたんだね」

「ああ。ここ最近は夜遅くまで仕事をしてるってんで、近隣住民は不思議に思っていたようだ」

「そうか。そうであるならば、この仮説は信ぴょう性が増す。ここでなぜ壁の中にこれを隠したのかは、分かった」


 嗣道は、壁内から出てきた浮世絵を指して言った。

 その言葉に望月は驚いた。


「そりゃ、本当か?」


 嗣道は頷いた。


「ああ。……ミカ、この土地で、この工場を建て替える、となったらどうなる?」


 ミカは工場の建て替えの話を振られて驚いたが、指折り、何が起こるかを考えてみた。

 まずは新しい工場を立ててくれる会社探し。

 そして新しい工場をどうするかを決める。

 古い工場が残っているので、解体も必要だ。

 と、そこまで思い出して、ミカは学芸員の仕事の一部として、あることを思い出していた。


「えっと、……そういえば、この辺りは、埋蔵文化財包蔵地だったよね。近くの山の山城と、宿場町があるから」


 ミカが思い出したのは、この土地に潜入する前に見た地図に描かれた記号だった。

 この工場が立地する一帯は、埋蔵文化財のある地域として記録されていた。


「よく覚えていたな。その通りだ」

「埋蔵文化財? どういうことだ?」


 望月と晴斗にとってはなじみのない言葉だったようだ。

 嗣道が二人にその意味を説明する。


「日本国内には、いたるところに地面の中に埋まった遺跡や遺物がまだまだ残っている。それはすでに立っているビルなどの下にもだ」


 望月と皇海は自分たちの足元を見た。

 埋蔵文化財はすでに立っている建物の下から出てくることもある。


「だから埋蔵文化財の埋まっていると思われる土地で建物を建てようとする時は、必ずその調査が必要になるんだよね」

「そして、この工場の立っている場所がまさにその対象地域になっているってぇことか……」


 望月の言葉に嗣道は頷いた。


「どこの博物館や機関が担当するかはわからないが、この土地に工場を建て替える際にはおそらく試掘もすることになるだろう」


 嗣道の言葉にその場にいた全員がその様子を想像した。

 工事用の仮設壁の中で進む解体作業。そして、そこを訪れる学芸員。

 学芸員は埋蔵文化財地図と見比べながら、土地を見て回るだろう。


「地図から当たりを付けて、少し掘ることもある。そうやって文化財がないか、を調べていく」


 もしかすると、その作業は職人たちの作業と並行して行われるかもしれない。


「そんな時に、ひょっこりと、この建物を解体した職人が、工場の残骸から浮世絵の主版を見つけて学芸員に差し出すとどうなる?」


 解体工事で崩された壁面から見つけられた主版は、アクリル板で覆われているため、傷もつかずに発見される。


「すごい発見だ、ってことになるよね。だって、主版っていうのは商品じゃなくて、商品を作るための道具だから、残っていることがとても珍しいんだもんね」


 ミカの言葉に皆が頷いた。その場面が容易に想像できたのだ。


「そうだ。しかも、傷も劣化もなし、と来ている。……そして、大発見に小躍りした学芸員は大々的に発表するだろう」


 今時こういった文化財の発表にマスコミは喰いつかないが、役所の資料や、データベースには公式発表として残ることになる。


「制作過程の重要な資料が見つかりました、って公的機関が保証することになるね」


 そこまで言えば、ここにそろった皆はどういうことか理解できた。

 これを壁面に隠した犯人は、まさにそれをこそ狙っているということがわかった。


「なるほど、この透明な板は、解体作業では壊れず、うまい具合にきれいに見つかるようにってことか!!?」

「そうですね、おそらく。まあ、実際どこまでを犯人がやるかはわかりませんが、解体業者まで犯人の仲間だったら、簡単に実現できてしまうことです」

「しかし、やり方が遠回りですね」


 皇海はそんな大仰な計画に懐疑的だった。


「でもその分疑われることも減るし、その場面しか知らない学芸員ならきっとそうすると思う」


 だが、ミカは学芸員の習性を傍で見ているものとして、その姿が想像できていた。


「確かに解体だなんだとコストがかかるのは事実だが、そこまでしなくて済むなら、ここに隠しておくだけで済む。そして、必要があればそれをするだけの予算のある組織がこれを行っている、ということだ」


 望月も、その計画が実際に実行に移されるとは思わなかったが、そういったことのできるように手を打つことができる組織がいる、ということに注目していた。


「しかし、謎は深まるばかりだ。どうして、そこまでできる組織が、こんな大掛かりな仕掛けを作る? なぜ、公的機関の保証を得ようとする? 誰が得をするんだ?」


 その答えは今ここにいる誰も持っていなかった。


「そうですね、これだけだと、犯人の狙いも、犯人像にも近づけません」

「くそ、一旦振り出しか」

「いったん、博物館に戻ろう」

「……俺たちも一度署に戻る。押収した資料をもう一度洗ってみる。新しい情報があったら連絡する」


 組織を越えて連携する。

 ミカは二人に感謝した。


「望月さん、晴斗さん、ありがとう」

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