第17話 戦いの終わり

「嬢ちゃん、無事か!? そんなところに座り込んで、怪我したんじゃないか!?」


 応援に来た警察車両の先頭から現れたのは望月と晴斗だった。

 慌てて下りてくる望月を見て、いつものミカならクスリと笑うところだが、ミカには表情を作る余裕もなかった。


「……望月さん、ケガはないよ」

「どうしたそんなにしょぼくれて」


 なおも望月はミカに言葉をかけるが、横から晴斗が制してくれた。


「まぁまぁ、望月さん、まずは犯人をしょっ引いて帰りましょう」

「晴斗、なんだその言い草は」

「嗣道さんもお疲れさまでした。ミカさん、何があったかわかりませんが、気を落とさないでくださいね」


 望月と晴斗はミカのそばから離れ、応援に来た警察や、救急車を整理し、規制線を張り、現場検証も迅速に開始した。


「地球博物館のバックアップで来ました!」

「助かる。押収した浮世絵の原本は博物館に持ち帰る。美専のトラックはどこだ」

「あちらに用意しています!!」


 嗣道もその中で動き回っている。

 並行して、関係者の移送も行われる。


「………」

「ありがとう、鹿嶋さん」

「助かりました」


 村崎が無言のまま、体中を拘束されて救急車に乗せられ、囚われていた人々も手配された車両に乗って工場から去る頃には、空は白み、日の出を迎えようとしていた。

 自分のしたことへの動揺でミカは後始末も手伝えず、ただ植え込みの縁に座り込み、ただ眺めることしかできなかった。


「……ミカ、帰るぞ」


 気づくと嗣道がミカの目の前へ、車を寄せて、運転席から声をかけてきていた。


「……はい」


 車が動き出し、すぐに工場は見えなくなる。

 周囲の木々は何事もなかったように揺れ、ふと今戻ったら、何事もなかったことになるのではないかとミカは考えてしまった。


「時間が巻き戻せたら、と思っているか?」

「……はい」


 嗣道の問いに、ミカは躊躇いがちに答えた。


「残念だが、時間は巻き戻せない。俺もそう学んだ」

「嗣道もそう思ったことがあるの?」

「ああ。………疲れただろう、今日は帰って寝よう」


 それから無言で二人は家に帰った。

 二人の住むバラックは朝日に照らされていた。

 周囲の家からは人がパラパラと現れ、日常を始める。

 そんな人々の流れに逆らって、ミカは自分の家へと入った。

 そしてそれぞれの部屋の前でミカは嗣道とおやすみ、とあいさつを交わし、一人部屋へ入る。

 部屋はよく寝れるようにと窓を閉め切ってあり、ミカは着ていたものを脱いで、そのまま布団に入った。 


(布団、あったかいな……)


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