妖横丁裏長屋 『二口女編』
ねむりねずみ@まひろ
【声劇台本】♂ 3♀2
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『キャラクター』
ジン:妖横丁でタマモ拾われそのまま育てられた青年。タマモから万事屋を引き継ぐ。面倒な事を嫌い、熱燗と炬燵を好む
タマモ:裏長屋の姉さん的存在。猫の妖で割と長く生きており、基本的に猫の姿でいる。
ゴン兵衛:自称妖横丁一の情報屋。おでん屋コンちゃんを営み、万事屋に手を貸す(パシられる)こともしばしば
二口女:今回の依頼人 大切にしていた首飾りを探している。自分が妖だと気づいていない
蛙:ガマガエルの妖。表と裏の顔をもち、巧な話術で相手を丸め込むのがうまい。そしてクズ。
『コピペ用キャスト表』
「妖横丁裏長屋 『二口女編』」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054919122354/episodes/1177354054919122377
ジン:
タマモ :
ゴン兵衛:
二口女:
蛙:
以下台本
――――――――――――――――
【暗闇で泣く女性が 、子共を何処かに預けている】
二口女「ああぁ…ごめんね、ごめんね、私のせいで。痛い…痛い。大丈夫…大丈夫よ。え?これを私に…っ、ごめんね…ごめんね。ごめん…なさい…」
【妖横丁 裏長屋 ジンの家】
タマモ「起きろ!おーい!起きろーってば!」
ジン「んー…」
タマモ「まったく…いつまで寝てるつもりだい。さっさと起きやがれってんだよ!この寝坊助が!!」
ジン「なんだよ、うるせえな…」
タマモ「やっと起きたのかい。ほら早く準備しないと…」
ジン「…何だ、まだ卯の刻前じゃねえか…zzz」
タマモ「おいおいおーい、寝るんじゃぁないよぉ!!この間 受けた、
ジン「…あー、そういやそうだったな」
タマモ「あんた、完全に忘れてたね?」
ジン「そんな事ねーって…ふぁ…眠い」
タマモ「しっかりおし、アンタが働かなかったら、アタイまで食いっぱぐれちまうんだからね!」
ジン「タダ飯ぐらいがよく言うわ」
タマモ「何だいその口のきき方は!!そんな子に育てた覚えはないよ!」
ジン「へいへい、はぁ…しゃーない。行くか…」
タマモ「へいへいじゃなくて、返事は、ハイ!だよぉ!」
ジン「はーい、…はぁ」
【のそのそと布団から起き上がり、長屋を出て歩き出す2人】
ジン「寒っ…みろよタマモ、まだお天道様だって隠れてるじゃねえか、もっかい長屋に帰って、熱燗でも…」
タマモ「馬鹿な事言うんじゃないよ!
ジン「そりゃあ、猫又のタマモとずっと一緒に居たらそうなるだろ。毎日飽きもせず、食っちゃぁ 寝てるんだし…」
タマモ「口答えするんじゃないよ!アンタは、この妖横丁唯一の
ジン「はいはい、ソウデスネ」
タマモ「はいは、1回だよ!しゃんとおし!」
ジン「はい、以後気をつけます」
タマモ「宜しい、そんじゃ蛙池までさっさと行くよ!」
【夕方 烏の声が響く蛙池 】
蛙「はぁ…」
蛙「はぁぁ……」
蛙「はぁぁぁぁぁ…」
ジン「いや、ため息が長ぇ」
タマモ「これ!人様に勝手にツッコミ入れるんじゃないよ!!」
蛙「はっ!?万事屋さん!どうでしたか?!見つかりましたか?!」
ジン「焦んなって、ほらよ…これだろ?依頼の品」
蛙「あー!!これですこれ!あぁ良かった、これこそ妻が気に入ってた、首飾りです!!」
ジン「ならよかった」
蛙「見つけてくださったんですね、ありがとうございます!それで、いったい何処にあったんです?」
ジン「ああ、
蛙「籠目…屋敷? 」
ジン「知らないのか?妖四丁目の路地にある屋敷だ」
蛙「何故そんな所に…私は、そんな空き家には行ったことがないのですが…」
ジン「…さあな、おおかた烏共に狙われたんじゃねーの?あいつら光り物が好きだし、ここにも沢山居るしな」
蛙「そ、そうかもしれませんねぇ。いやー、それにしてもさすがは万事屋さん、期日までにきっちりと見つけてくださって…」
ジン「それが仕事だからな」
蛙「ええ、ええ。なんにせよ、妻の無くしていた物を探してくださって、ありがとうございました」
ジン「ま、良いって事よ」
タマモ「おや?今日は奥さんいないのかい?」
蛙「え?ええ、妻はちょっと…その、出かけておりまして…」
ジン「そうなのか?」
タマモ「そいつは残念だねぇ…おや?あんた 随分良い物付けてるじゃないか!」
蛙「へ?ああ、この腕輪ですか?これは、かの有名な鍛冶師、
タマモ「へぇ、予約殺到で即完売する、あの土蜘蛛源蔵かい?」
蛙「ええ!実は私、源蔵先生の大ファンでして、新作が出る度に買い集めているんですよ!!」
ジン「ふーん、その奥さんの首飾りも、土蜘蛛先生とやらの作品かい?」
蛙「え?…ええ!もちろんです、土蜘蛛先生の作品の中でも名作と謳われる『双璧』の首飾りですよ!」
ジン「双璧…」
タマモ「へぇ、やっぱり珍しい石を使ってるだけあって…随分と値が張るんだろうねぇ」
蛙「そうなんです!この首飾りは、世界にたった1つしかありません!つまり、そん所そこいらの奴が持つのもおこがましい程の価値があります!無くした時は焦りましたよー!いや、本当にありがとうございました!ささ、これはお礼の品です。いやなに、ほんのお気持ち程度ですから、ほらお前達からもお礼を言うんだよ(数百のカエルが池から出てくる)…それでは、私達はこの辺で…」
【夜、蛙池からの帰り道】
タマモ「ふぅ、蛙さんとこ喜んでたねぇ」
ジン「一族総出で、出てきた時は、どうなるかと思ったわ」
タマモ「あっはっはっは!なんだいなんだい、腰でも抜かしちまったってのかい?」
ジン「ぬかしてねーよ。でも、流石にあの量のカエルは見たこと無かったからなぁ…数百は居たぞあれ…今思い出しても寒気がする」
タマモ「大きさからして、あのカエル達も、もう巣立つ頃だろうねぇ」
ジン「うえ…あの量が世に出てくるのか…まじか」
タマモ「ははは、まだまだ子供だねぇ。一族総出で見送るなんて、それ程嬉しかったって事さ。アンタがしたのはそういう事。少しは自覚出来たかい?」
ジン「んー…あんまし」
タマモ「そこは、したでいいだろぅ?!馬鹿正直だねぇ、あんたは。」
ジン「はは、仕方ないだろう?俺は嘘が付けねーんだ」
タマモ「そうだったねぇ…まったく、誰に似たんだか」
ジン「だとしても、あの首や腕のジャラジャラとした感じは、どうも好きになれん。それに…」
二口女「…な…ぃ」
タマモ「ん?なんだいジン、何か言ったかい?」
ジン「いや、何も言ってないが…」
二口女「…なぃ」
ジン「あっちの方から聞こえるな…」
タマモ「妖しいねぇ…行ってみるよ!」
ジン「えぇ…めんどくさい」
タマモ「何言ってんだい!困ってる人が居るかも知れないんだよ!!ほら、しゃんとおし!」
ジン「…へいへい、わかりましたよ…はぁ。」
【路地を曲がると一人の女性が何かさがしている】
二口女「ない…ここにもない、どこに行ったのかしら」
タマモ「見つけた、おや?あんた見ない顔だねぇ、どうしたんだい?」
二口女「…っ。…いえ」
タマモ「おや?警戒してるのかい」
二口女「…っ」
タマモ「いやね、こっちの方から、声が聞こえてきたもんだからさぁ…」
二口女「……」
タマモ「アンタだろう?」
二口女「っ…。私は何も…」
タマモ「そうかい?おかしいねぇ。声が聞こえた場所には、あんたしか居ないようだけど?」
二口女「…っ、何なんですか、貴方達!」
ジン「相変わらず言葉が足りないババアだな」
タマモ「おだまり!!まだ
ジン「だから!でかい声出すなって、余計ビビられんだろうが!」
二口女「あ、あの…?」
ジン「悪いね、タマモはあんたが困ってるなら手を貸そうかって言いたいんだ」
二口女「…え?」
タマモ「だから、どうしたんだい?って言ったじゃないかぁ!」
ジン「それだけで伝わる訳ねーだろ。」
二口女「…あの、貴方がたは…いったい…」
ジン「俺はジン。こっちはタマモ。俺達はこの妖横丁で万事屋をやってんだ」
二口女「万事屋…?」
ジン「いわゆる、なんでも屋ってとこだ」
タマモ「警戒させちまったみたいで悪かったねぇ、なにか探してるように見えたから、つい声を掛けちまったんだよぉ」
二口女「そうでしたか…」
ジン「んで、こんな時間に何さがしてたんだ?それと無くしたのはこの辺りか?」
二口女「…へ?あの…」
ジン「ん?依頼するんだろ?」
二口女「…え?」
タマモ「…あんたも言葉が足りてないよ」
二口女「…いいんですか?」
ジン「良いも何も、困ってるんだろ?」
二口女「はい。あ、でも…」
ジン「じゃぁ、依頼成立。あ、報酬は特に決めてねぇから」
二口女「そうなんですか?」
タマモ「依頼を達成出来たら、その人から気持ち程度を頂いてるんだよ」
二口女「気持ち…」
ジン「そういう事。俺達は金貸しでも何でもねーからな、無理強いもしないし…無理なら無理でOK。だから、あんまし一人で抱え込むなよ」
二口女「…ありがとう…ございます」
タマモ「うぅ、やっぱ夜は冷えるねぇ…そうだ!コンちゃんの所で詳しい話をしようじゃないかぁ」
ジン「あー、いいなそれ。俺も腹減ったし…な、アンタもそれでいいだろ?」
二口女「コン…ちゃん?」
タマモ「行きゃあわかるよ!あそこの屋台は絶品だからねぇ」
二口女「…はい、わかりました」
タマモ「そんじゃ、行こうかねぇ」
ジン「おし、たらふく食うぞ!」
タマモ「楽しみだねぇ♪」
【おでん屋コンちゃんの屋台にて】
タマモ「…ぷはぁ。ああ美味い!やっぱりここのお酒は最高だねぇ」
ゴン「でしょう?流石、
タマモ「んもう!コンちゃんったら、そんなお世辞言っても、何もでないよぉ!」
ゴン「お世辞じゃないっすよ!ささ、
タマモ「おや、気がきくねぇ、そいじゃぁ…がんもどきと大根 貰おうかねぇ」
ゴン「あいよー!ちょっと待ってなぁ!」
ジン「相変わらず口が達者だな…ゴン兵衛のくせに」
ゴン「おいこらジン!ゴン兵衛って呼ぶんじゃねーよ!」
ジン「いや、どう見たってゴン兵衛だろうが」
ゴン「なんだと?!おっかあに貰った大切な名前に、文句つけようってのかぁ?」
ジン「そんなら店の名前もゴン兵衛にしろって、なんだよ、おでん屋コンちゃんって…ンしか合ってねえじゃねえか」
ゴン「うるせぇ!!コンちゃんの方が女子ウケ良いんだよ!!」
ジン「いや、お前の方が 自分の名前大切にしてねーじゃねえか」
ゴン「なんだとー!」
二口女「…ぁの」
ゴン「おっと…ささ、そちらの綺麗なお姉さんも…特製おでん、召し上がれ」
二口女「ありがとうございます…えっとゴンさん?」
ゴン「ノンノン…コンちゃんって呼んでおくれ?麗しのお姫様」
ジン「おい、ゴン兵衛…熱燗くれ」
ゴン「だから、ゴン兵衛って呼ぶんじゃねぇよ!!」
ジン「うっせぇ!依頼人を口説いてんじゃねぇよこのタコ!」
ゴン「タコじゃねえ!狐だ!!」
ジン「だからそういう事じゃねぇって!」
タマモ「はいはい、馬鹿な男共は放っておいて、こっちで飲もうかねぇ。あんた、酒は飲めるかい?」
二口女「あ、はい。ありがとうございます」
タマモ「アタイのとっておき…この霊酒が最高なんだよ、ほら、たんとお飲み」
二口女「…本当ですね、美味しい」
タマモ「だろぉ?…それで、早速で悪いんだけど話を聞いてもいいかい?」
二口女「…はい。実は…大切な物を失くしてしまって。ずっと探しているんですけど、見つからないんです」
タマモ「いったい何を失くしたんだい?」
二口女「首飾りです…」
ジン「…首飾り?」
タマモ「大切な首飾りだったのかい?」
二口女「…子供の形見なんです。」
タマモ「そうかい。…辛いなら、話さなくてもいいんだよ?」
二口女「いえ…。私には子供が2人居ました。我が一族には、家族になれた日に首飾りを送るという、風習があるんです。子供達は、血のつながりは無いものの、どちらも、とても大切な我が子でした。…ですがある日、2人のうち、一人が連れ去られてしまったんです。」
ジン「連れ去られた?」
二口女「はい…犯人は元旦那でした。あの男は、子供を連れ去り、行方をくらませたんです。私は必死に探しましたが、見つける事が出来ませんでした。 連れ去られて一年が経った頃、風の便りで、あの男とあの子が死んだ事を知りました。詳しく聞くと、あの男は…あの子を売り払っていたんです。」
ゴン「なんだって?!」
二口女「売られた先はわかりませんでしたが、遺体の状況から、ろくに世話もされず…食べ物も与えられず…あの子は亡くなったと聞きました。そして、首飾りも無くなっていたそうです」
タマモ「…そうかい」
二口女「私は…自分を責めました。何故!最後に子供に会えたら、もう姿は現さないなんて言葉を信じてしまったのか!何故…大切な子供を…手渡してしまったのか。あの子がひもじい思いをしながら死んだのは、私のせいなんです…」
タマモ「わかるっ、わかるよその気持ち!…子を亡くした親ってのは、辛いからねえ」
ジン「タマモ…」
二口女「それを見かねたもう一人の子が、あの日…私に自分の首飾りをくれたんです。少しでも私の傷が癒えるようにって。なのに…私は…あの子を…うぅ…」
タマモ「大丈夫かい?」
二口女「はい。ありがとうございます…。」
タマモ「それで、首飾りが無いって気づいたのはいつ頃なんだい?」
二口女「先週頃です…」
ジン「先週…か」
ゴン「そんな辛い過去があったなんてなぁ。ほら、サービスだ。…これでも食べて元気だしな?」
二口女「コンちゃんさん…」
ゴン「さん…はいらねーよ。俺はおでん屋コンちゃん…だからな(キメ顔)」
ジン「おい、ゴン兵衛、手ーだすなよ」
ゴン「ださねーわ!俺は皆のコンちゃんなんだよ!!」
二口女「…ふふふ」
ゴン「お、笑ったな!やっぱり美人は笑ってる方がいいねぇ」
二口女「ふふ…ありがとうございます」
タマモ「やるねぇコンちゃん、流石!女性の扱い分かってるぅ!」
ゴン「へへへ、ありがとうございやす!…そういや、
タマモ「そうだよぉ!あ、コンちゃん、がんもどき、おかわりをおくれ!ほら、あんたも食べて食べて!」
二口女「あ、頂きます」
ゴン「はいよ、
タマモ「あむ…ん~流石コンちゃん!いい味出してるねぇ…」
ゴン「へへ、
ジン「はは、そうかい、そうかい。」
ゴン「お前には言ってねーよ!」
ジン「…ゴン兵衛、俺にも がんもどき一つ」
ゴン「だから、コンちゃんと呼べ!!呼ぶまでは、お前に食わせねーからな!!おっと…どうだい?お姫様…お味の方は」
二口女「…とても美味しいです」
ゴン「ならよかった、今後ともご贔屓に…な!」
ジン「おい、客を選んでんじゃねえよ」
ゴン「うるせぇ!俺の勝手だろう!」
二口女「……」
ジン「ん?どうかしたかい?」
二口女「いえ…」
タマモ「吐き出せるなら、全部はいちまいな!溜め込んだままだと辛いからねぇ」
二口女「…彼もコンちゃんみたいに、優しかったのになって」
タマモ「例の旦那さんかい?」
二口女「いえ、最近出会って…お付き合いしている方なんですけど…」
ジン「ふられたな…コンちゃん」
ゴン「うるせえやい!」
タマモ「えーい、話しが進まないよ!あんた達は黙っときな!」
二口女「結婚の約束もしていて…子供の事も親身になってくれてたんですけど…忙しいとかでなかなか会ってくれなくて…」
ゴン「なんて奴だ、こんな美しい人を射止めておきながら…冷たくするなんて」
二口女「彼、アクセサリーが大好きで、好きな物をプレゼントしたり、色々尽くしたり…していたんですが…最近は、電話にも出てくれないんです…」
タマモ「…そんな男のどこが良いんだい?」
二口女「彼は悪くないんです、私が…彼の1番欲しい物をあげられなかったから…」
ジン「1番欲しいもの?」
二口女「さっきお話した…首飾りです。まぁ、失くしてしまったんですけど」
ジン「首飾りの特徴とかはないか?」
二口女「銀の装飾に、鉱石が散りばめられていて、中央に
タマモ「じゃあ、探して欲しい物ってのは、その首飾りなんだね?」
二口女「はい、その首飾りは、祖父の知り合いの蜘蛛爺に頼んで作ってもらったんです。2人の子の為に…2つで対になるようにって…」
ジン「蜘蛛爺…。なあ、タマモ、その首飾り…」
タマモ「あぁ…多分…当たってるよ」
二口女「彼には申し訳なかったんですが、大切な子供の形見なので、手放すことは出来なくて。でも、いつの間にか無くなっていて…肌身離さず持っていたはずなのに…何処にもなくて…」
タマモ「そうかい…それじゃあ、その首飾りと対の首飾り…アタイらが探してみるよ」
二口女「…よろしくお願いいたします!」
タマモ「それで、あんたは普段どこにいるんだい?」
二口女「…四丁目の
タマモ「四丁目のって…確か、あそこは空き家じゃ」
二口女「はい、お恥ずかしながら職も何もないので、その…お借りさせて頂いております…」
タマモ「そうかい、苦労したんだねぇ…」
ジン「はぁ、真面目な話ししてたら、腹がへった…」
タマモ「はぁ…これだからジンは。コンちゃん、悪いけど、しめに何か握っとくれよ」
ゴン「あいよ!喜んで!!…あれ?」
ジン「どうした?」
ゴン「おかしいなぁ、ちゃんと米炊いたはずなんだけど…」
タマモ「どういう事だい?」
ゴン「さっきまで、あったはずなんすけど…」
ジン「炊き忘れたんじゃないのか?」
ゴン「いーや、ほら見てみろ!釜ん中には米がこびり付いてら。」
タマモ「確かに、お釜もまだ暖かいねぇ」
ジン「………」
ゴン「すいやせん
タマモ「仕方ないよぉ、そういう時もあるさ!気にしない気にしない」
ジン「……」
タマモ「どうしたんだい?ジン、さっきから黙り《だんまり》で」
ジン「いや、」
ゴン「そういや、この所 同じような事件が多発してるみたいっすね」
タマモ「同じようなって、米がなくなるってのかい?」
ゴン「そうなんすよ、
二口女「…大変ですね」
ゴン「まいったなー、ついにうちもか。んー、なんか他にあったかな」
タマモ「そうだ、ジン!さっきのアレ出しとくれよ」
ジン「アレ?」
タマモ「ほら、報酬でもらったアレだよアレ」
ジン「ああ、んー?…なんだこりゃ
ゴン「お?そりゃ高級食材の
二口女「…え?」
タマモ「そうだよ、蛙さんの報酬でもらったのさぁ」
ジン「これ、食うのか?」
ゴン「おいおい、蛙の
ジン「そうなのか……」
二口女「今…蛙さんって」
ゴン「お、お姉さんも蛙さんを知ってるのかい? まあ、蛙さんとこって言えば、子だくさんのおしどり夫婦って有名ですよね」
二口女「え?蛙さんが、夫…婦…?」
ゴン「そうそう、あそこの2人、毎年毎年、
二口女「……あの、私…ちょっと失礼します」
ゴン「あ、ちょっ…行っちまった。
タマモ「…いや、コンちゃんは悪くないよ」
ゴン「そうっすか…なら良いんすけど…」
タマモ「…ジン」
ジン「ああ、こりゃぁ決まり…だな」
【蛙池】
蛙「はぁ…やはり美しい…。流石は源蔵先生の作品。この首飾りは、あの女の手元にあるより、私の元にあった方が、先生もお喜びだろう…」
二口女「…あの」
蛙「誰だ!!…なんだ、君か」
二口女「…
蛙「どうしたんだい?ここへ来ては行けないと、言っただろう?」
二口女「…聞きたいことがあって」
蛙「すまないが、私は忙しいんだ。今日は帰ってくれないか?」
二口女「…奥さんがいるって本当なの?」
蛙「…そんな訳ないだろう、私が愛しているのは君だけだよ」
二口女「さっき…聞いたの。
蛙「…どこで聞いたのかは知らないが、そんな嘘を真に受けてはいけないよ。君は私の事を信じているんだろう?」
二口女「それは…そうだけど」
蛙「…私の事が信じられないのなら、もう合うのはよそう」
二口女「…え?」
蛙「そうだろう?君とは本気で結婚も考えて居たけれど、信じて貰えないのなら、一緒にいても辛いだけだからね…」
二口女「そんな…」
蛙「これは君の為に言ってるんだよ?」
二口女「……」
蛙「信用出来ない男の傍に居続けて、いつか傷つくのは君だ」
二口女「私と…別れるって事ですか」
蛙「そうだよ。残念だが、君との関係はもう終わりだ」
二口女「……っ」
蛙「よしてくれ、泣いた所で現状が変わる訳でもない。さあ…さよならだ、とっとと出ていってくれ」
ジン「おうおうおう、まさかと思って来てみりゃ…
蛙「誰だ?」
ゴン「おいコラ!そこのカエル!!こんな美人に対して、なんて事言いやがんだ!!…大丈夫かい?この程度の男、君の隣には相応しくない…さあ、顔をあげて?」
タマモ「いや、どさくさに紛れて口説くんじゃないよう!」
二口女「ジンさん、コンちゃん、タマモさん」
蛙「これはこれは、万事屋さん達じゃないですか。どうしました?依頼の件はもう終わったはずでは?」
ジン「あぁ、お前さんとの依頼は終わったさ」
蛙「では、お帰りください。これは、私と彼女の問題ですので」
ジン「悪いが 、今仕事中なんだ」
蛙「は?」
二口女「ジンさん…どうして」
ジン「どうしてって、依頼しただろ?」
二口女「ジンさん…」
ゴン「くっ…良い所全部持っていきやがって!!」
タマモ「あんたも懲りないねぇ、コンちゃん」
ゴン「
蛙「えぇい!私を無視するんじゃない!!」
二口女「
蛙「ああそうか、君はこの男とデキていたんだね?私は君に裏切られたというわけか…」
二口女「そんな事ありません」
蛙「良い訳は聞きたくないなぁ。君は私を騙していたんだ…最低だよ」
二口女「っ…そんな」
ジン「お取込み中失礼。
蛙「何を言ってるんですか?ちゃんと見つけてきてくれたじゃないですか」
ジン「確か、世界にただ一つしかない首飾り…だったか?」
蛙「っ…」
二口女「首飾り…?」
ジン「あぁ、銀の装飾に、鉱石が散りばめられ、見た事も無いような
蛙「…それがどうかしたんですか?」
ジン「かの有名な鍛冶師が作った傑作だったよなぁ…確か…名は、土蜘蛛…」
二口女「…え?蜘蛛爺?」
蛙「そんな者はしらん!!」
ジン「知らねえわけねーだろ、
蛙「…なんの事だ」
ジン「とぼけるなよ。あの屋敷から彼女が出かける瞬間、一瞬の隙を付いて烏に盗ませたものの、予想外に首飾りが重かったんだろうなぁ。庭に落としてしまった。大方そんな所だろう。この池にいる烏共…お前が操ってる奴隷だろうしな」
蛙「そんなもの、なんの証拠もないではないか!!」
ジン「お前たしか、籠目屋敷は空き家だって言ってたよなぁ。行ったことが無いのに、どうして空き家だと知ってるんだ?」
蛙「くっ…そ、それは…」
二口女「…嘘ですよね蛙さん、貴方がそんな事するなんて」
蛙「ええい!!うるさい!うるさい!!これは私の物だ!!邪魔をするなぁあ!!」
二口女「きゃぁっ!」
ジン「あぶない!」
ゴン「うぉっ!」
タマモ「…こいつはまた、デカくなったねぇ」
【狂暴化した大ガエルが皆を踏みつぶそうとする 】
ジン「ふぅ…あぶねぇあぶねぇ。ははは、それがお前の本性か?」
蛙「うるさい…うるさいぃぃぃ!」
タマモ「ねぇ!あれ、あんたの探してる首飾りじゃないかい?」
二口女「…え?!あれは…亡くなった
蛙「
二口女「…え」
蛙「くそっ、今思い出しても腹がたつ!!あの野郎、金が無いからと借金の代わりに、ガキを置いて行方をくらませやがって!お陰でこっちは大損だ!!」
二口女「…うそ」
蛙「何の取柄もない、使えないガキを寄こされて、こっちは腸が煮えくり返ってるんだ!!まぁ、憂さ晴らしには丁度よかったがなぁ。飯も水も与えられず、みるみる弱っていく姿は最高だった!唯一褒められる所は、源蔵先生の作られた、双璧の首飾りを持っていた事だけだな!」
二口女「…お前が……」
ジン「なるほど、どうりでおかしいと思ったんだ。その首飾りの名は双璧なのに、なんでこいつは世界に一つだって言ってたのか…」
タマモ「どういう事だい?」
ジン「こいつは最初から知ってたんだよ、自分の手元にある首飾りと、彼女がもつ首飾りが対になるって。双璧は、甲乙付け難い2つの物って意味だからな。それを俺たちに悟られないように…嘘をついたんだろう」
蛙「ははははは、みすぼらしいガキが持つなぞ、勿体ないではないか?!身の丈に合わない物を持つからこういう事になるのだ!あぁ、反吐が出る!だから、儂が貰ってやったのだ!この首飾りはどちらも儂の物だ!!」
ゴン「クソみてぇな野郎だな…」
二口女「お前が…
タマモ「…ん?何だいこの気は」
ジン「それはお前のじゃねーだろ!とっとと持ち主に返しやがれ!」
蛙「うるさい!!これは儂の物だぁぁぁぁぁ!誰にも渡さん!!」
二口女「お前が…お前が!あの子の物に、触れるなぁぁぁぁぁ!!」
【彼女の後頭部が割れ、口の形になる】
蛙「なんだと?!」
ジン「っ?!ゴン、タマモ!避けろ!!」
ゴン「うわっ!!何だありゃ!?」
タマモ「あれは、二口女…!」
ジン「…二口女?」
タマモ「あぁ。二口女、それは、自らの過ちで子を死なせ、その罪悪感から生まれた、哀れな妖怪さ」
ジン「ほう、あいつが二口女」
ゴン「いや、感心してる場合じゃねえよ!」
二口女「ぐぅうう…痛い…痛いぃぃいぃ…何か…食べ物を…」
ゴン「
タマモ「二口女は、極度のストレスを受けると、後頭部にある口が痛みだすらしい…痛みを止める方法はただ一つ、己がまま、気のすむまで、喰らう事」
二口女「あぁ…忌々しい…ぐぅうっ…痛い痛い痛いぃぃ!」
蛙「っ…何をするっ!!離せぇえ!!」
ジン「おうおう、まるで妖怪大決戦だな」
【痛みから逃れようと、蛙を食らい始める二口女】
蛙「ぎゃぁぁぁぁ!!やめろっやめろぉおお!!私の腕を食うなぁぁぁ!!」
二口女「ぁぁ痛い…痛いぃぃぃ!!痛みが治まらないっ!」
蛙「お前達っ…こいつを止めろ!!!」
ジン「は?嫌だよ、依頼された訳じゃねぇし、そもそもお前の自業自得だろ?」
蛙「なんだと…ぐぅぅっ…それでも万事屋かぁぁあ」
ジン「万事屋だからだよ、慈善事業じゃねーんだ。助けてほしかったら依頼しな」
蛙「依頼するっ、するから助けてくれぇ」
二口女「あぁぁ痛い…痛いっ…」
蛙「ぎゃぁぁぁ…早く…早くしろぉ!」
ジン「まぁ待てって、俺達はまだ彼女の依頼中なんだ、それが終わったら受けてやるから」
蛙「なん…だと」
ジン「いやぁ、そこにいる彼女が首飾りを探してほしいと依頼していてねぇ」
蛙「くっ…」
ジン「ほら、その首飾りよこしな」
蛙「くっ…確かに渡したぞっ!早く助けぬかぁぁぁ!!」
ジン「おいおい、何勘違いしてんだよ。これは形見の首飾りだろ?」
蛙「…は?」
ジン「どさくさに紛れてやり過ごそうとすんなよ、今朝渡した首飾り…あんだろ?」
蛙「なっ…」
ジン「良いのか?早く渡さないと、手足がなくなっちまうぞ?」
蛙「くそぉぉおぉぉぉ!!!」
ジン「ははは、依頼達成!…ゴン!コレもっとけ!」
ゴン「あいよ!まかしとけ!」
ジン「さて、どうすっかねぇ」
タマモ「自我を保つために食す、それが二口女の業」
ジン「…つまり、
タマモ「やれやれ、骨が折れるねぇ…!!変化の術!」
【タマモが縄に変化する】
ジン「おしっ、この縄で引き剥がす!!…今だ!…よし!!」
【縄が二口女の体に巻き付き、蛙から引き離す】
二口女「ぐぅぅぅ…あ…がっ…」
蛙「はぁ…はぁ、助かった…。よくも儂の腕を…この忌々しい奴め!!お前なぞ、死んでしまえぇぇ!!」
ジン「あ、馬鹿!今近づいたら!!」
二口女「…痛い…痛い!うぁぁぁぁぁぁぁあ!」
蛙「なっ…!!ぎゃぁぁぁぁ!!!」
【二口女に丸飲みにされる蛙】
二口女「はぁ…はぁ…ううっ…」
ジン「ちっ、折角引きはがしたのに、あの馬鹿野郎!!」
タマモ「所詮この世は、弱肉強食、喰われちまったもんは仕方ないよ、あきらめな」
ゴン「でも、姉さん。彼女、なんだかこっちを見てません?」
二口女「…痛い…痛い…痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃ!!」
ジン「くそっ暴走しやがった!!」
タマモ「まずいねぇ。このままじゃ、妖横丁ごと何もかも食われちまうよ!」
ゴン「なんだって?!」
二口女「うぁぁぁぁぁぁ!!」
ジン「おい、タマモ一体どうすりゃいい!」
タマモ「彼女は今、我を忘れてる!こうなったら、彼女の目を覚ますしかないよぉ!」
ジン「目を覚ます…。そうだ!ゴン!!さっきのよこせ!!」
ゴン「はっ、そうか!!あいよぉ!ジン頼んだぞ!!」
ジン「おう!」
二口女「痛い…痛い!!痛みが…治まらないっ!!」
ジン「おい二口女!!!お前の飯はこっちにあるぞ!!」
二口女「あぁぁぁ…痛い…うぁぁあぁぁ」
タマモ「ジン!危ない!」
ジン「痛ってぇええ!!このっ!怒りで我を忘れてんじゃねえよ!!命よりも大切な!!てめぇの子の形見だろうが!目かっぽじって、とくと見やがれぇえ!!」
【腕に巻いた数珠で眉間を殴る、よろめく二口女】
二口女「ぐぁぁああっ!!」
ジン「…ほらよ、お前さんの依頼の品だ」
二口女「あ…あぁ…
ジン「…なぁ、」
タマモ「おやめ。子を失くした親は、一生その傷を背負っていくんだ…今は、泣かせておやり」
ジン「…そうだな」
ゴン「良かった、これで一件落着っすね!」
【ゴンのおでん屋にて】
タマモ「コンちゃん!もう一杯頂戴な!」
ゴン「あいよ!
ジン「飲みすぎんなよタマモ!お前酔うとめんどくせぇんだから」
タマモ「何だい!!親に向かってその口の利き方は!!だいたいねぇ、アンタがぼんやりしてるから悪いんだよぉ?!この間だって、依頼主にあいに行くって言ってるのに、グースかグーすか寝たまま!!アタイがどんだけあんたの事を支えてるとおもってんだい!有難がられこそすれど、邪険に扱われるなんて他の誰が許そうが、アタイは許しちゃぁおかないよ!」(二口女とジンの会話が終わる時に適度に切りあげて)
二口女「(タマモのだいたいねぇ辺りから)あの…ご迷惑をおかけしました…」
ジン「あぁ、本当にな」
二口女「傷、痛みますか?」
ジン「あぁ、ま、名誉の負傷っつうことで」
タマモ「ちょっと!!聞いてんのかい?!」
ジン「へいへい、聞いてるっつうの」
タマモ「まったくもう!コンちゃん、何か握っとくれ!」
ゴン「あいよぉ!…あれ?米が…ない」
タマモ「へ?またかい?」
ゴン「おかしいなぁ、さっき炊いたばかりなのに」
ジン「おい、お前等…あれ」
タマモ「ん?」
ゴン「…あ」
【きょとんとした顔の二口女の後頭部が、コメをたいらげている】
二口女「…え?…私?」
タマモ「そういや、二口女だったねぇ」
ゴン「お嬢さん、その言いにくいんすけど…その…後頭部の口が…」
二口女「…へ?あぁぁああ!!これ、だめじゃない勝手にに食べたら!ああっ、どうしましょう!止まらないっ!」
タマモ「なるほど、二口女はストレスだけじゃなく、心が動かされた時にも喰らうんだねぇ」
ジン「ははは!そりゃ傑作だ!ま、何にせよ喜んでるならそれでいい」
ゴン「…はっ!!じゃぁ、ここ最近起きてた飯泥棒って…まさか」
二口女「えっ…まさか?!あぁあああどうしましょう!私ったら!!」
タマモ「あっはっはっは、良いじゃないかい。二口女の舌はこえてるって事にしとけば。逆に二口女に喰われた飯屋は、今後、繁盛するだろうねぇ」
ジン「なるほど、あながち間違ってねーと思うぜ?」
二口女「え?」
ジン「蛙の野郎の腕に最初に齧り付いたのはそういう事さ。珍味らしいしな、蛙の水かき」
ゴン「なるほど!!じゃぁ、二回も食われたうちの飯は、そうとう旨いってことっすね!」
タマモ「あぁ、そういうことさね」
ゴン「なんだぁ!!それなら!ささ、二口のお姉さん、たんとお食べくだせぇ」
二口女「…っ…あははは!」
ゴン「あ、やっと笑った。美しい女性に、涙は似合わないっすからね」
二口女「コンちゃん」
ジン「なーにが、美しい女性に、涙は似合わないっすからね…だ!ゴン兵衛、酒追加!!」
ゴン「だから!ゴン兵衛って呼ぶんじゃねーよ!」
タマモ「はぁ、男共は変わらないねぇ。…それで、これからどうするんだい?」
二口女「タマモさん、私…働きたい。気付かぬうちとはいえ、人様のご飯を頂いてしまった事でもあるし、働いて、罪を償って、まっとうになりたい。この子達の為にも…」
タマモ「もう一人の子は、今どうしてるんだい?」
二口女「お恥ずかしい話しですが、私一人じゃ育てられなくて。今は施設に…。ですが、お金をためて、必ず迎えに行きます!」
タマモ「そうかい、そいつはいい選択だねぇ」
二口女「はい、皆さんありがとうございました!」
ジンM「その後、妖横丁で『二口女の握り飯』という飯屋が開店した。…二口女の舌はこえている。タマモの放ったその噂は瞬く間にひろがり、当然彼女のつくる握り飯が流行ったのは言うまでもない」
二口女「
タマモ「賑わってるようだねぇ」
ジン「みたいだな」
タマモ「寄っていかなくて良いのかい?」
ジン「忙しそうだからな、まっ機会があれば、いつかまた会えるさ」
タマモ「そうさね、それじゃ、アタイ達も依頼をこなしに行くとするかねぇ!」
ジン「はぁあ…めんどくせぇ」
タマモ「これ!しゃんとおし!」
ジン「はいはい」
タマモ「はい、は1回だよぉ!」
ジン「はーい」
ジン「妖横丁裏長屋…これにて閉幕!!」
END
妖横丁裏長屋 『二口女編』 ねむりねずみ@まひろ @sibainu_uta
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