第4話 意地

バシャッ


「ブッ!ゲホッゲホゲホ………、あ?」


あれ?ここどこだ?おれはなんでここにいるんだっけか?


「やっと起きたかガキ、寝坊し過ぎだぜ〜」

「全くだ。これから楽しいショーが始まるんだからちゃんと見ろよ〜?ギャハハハハハハハ」

「お前らホントゲスすぎ!まぁおれも楽しみにしてる一人なんだけどさ〜」

「お?なんだよ反応ねーじゃん。つまんね〜

、起こし方ミスったんじゃねぇの?やっぱ殴って起こした方がもっと笑えたぜ」

「何が起こってるかわからねぇって面だなガキ。俺が一から説明してやるよ」


……………………………………。

ああ、思い出してきたわ。


「……別に説明なんて要らないよ。おれと母さんがお前ら盗賊に捕まって、今から嬲り者にする、とか奴隷として売り捌くとか、大体そんな感じだろ?」

「おー分かってんじゃねぇかガキ〜、だ〜いせ〜かーい!ガッハッハッハ!」

「お、頭いいね〜。それに顔もいいとかムカつく〜。こいつの顔今からボコボコにしませんかー?お頭」

「それ!おれも参加するわ!こいつの顔初めて見た時から傷つけたくてしょーがなかったんだよ!」

「まぁ、それもまた面白そうではあるが、今回は他の遊びをやろう。………それに、そろそろ着くはずだ」


…………、おれはどうやらあの後気絶して何処かに運ばれたらしいな。

周囲は石で出来ており、前方に重厚な扉が一枚、後ろに裏道のような扉が一枚、そしておれは手足を錠で繋がれて一定以上の動きが出来ないようになっている。

母さんの姿はないから、おれと違う場所にいるのか、どこかに連れて行かれたのか………、もしくは殺されたかだ。

だが、殺されたという線は薄いと思う。多少はおれの願望も入っているが、この襲撃での目的は多分母さんなんじゃないかとおれは思う。

こういう風なドラマやアニメ、web小説では大抵連れて行って奴隷とか嬲り者、そして母さんは綺麗だから(子供の贔屓目無しで見ても)、恐らく慰み者として連れて来られたんだろう。

だとしたらおれはついでとか?……まだ分からないことだらけだけど、こいつらに聞いてみるか。


「おれは何で連れて来られたの?あと母さんはどこ?」

「あー?その質問におれが答えると思ってんのか?ガキ」

「嫌なら別に答えてくれなくてもいいよ。その代わり、おれの推理を聞いてくれよ。子供の戯言と思って聞いてくれて構わないから。あんたらが聞くだけならいいんだろう?どうだ?」

「おいおい次は探偵ごっこかよ!か〜!マジつまんねぇー!もっと怯えてる表情とかが俺の好みだっつーの」

「まぁまぁ、いいじゃねぇか。毎回同んじようなやつばっかでちょっと飽きてたんだ。へへっ、いいぜ、その推理とかいうの聞かせてみな?」


よし、これでこいつらが何か反応すればおれの中で予測が絞られる。

お前らみたいな馬鹿は言葉よりも表情とか仕草が雄弁に語ってくれんだよ!バーカバーーカ。

………ていうか、おれ、結構落ち着いてるな?こう言う時って相手の話を聞くだけになったりするんだけど。

何でかな?……まぁいいか!むしろ好都合だ!


「じゃあ遠慮なく。あんたたちは奴隷商人の一味であり、街で美人と噂の母さんを攫いにきた者たちだ。多分、盗賊か傭兵だろ?母さんを攫う理由としては、貴族とか役人とか騎士とか、そういう偉い人に大金貢がされて、連れて来いって命令されたから。母さんに関しては簡単だ。どうせ身体が目当ての奴だろ?そしておれを攫う理由は………、商品目的か、おれをいたぶって殺すのを楽しむためか。………いたぶって殺す方が可能性としては高いかな?おれを奴隷にしたところでたかが知れてるしな。で、どうだ?おれの推理は」


間抜けな連中だ。

おれが何気なく出した質問、『おれを攫う理由』で、商品目的と言った瞬間、嘲弄するような表情をした奴が何人かいた。

つまりおれは、あいつらのサンドバックになるために連れて来られたと、そういうことだ。


パチパチパチ


「いや素晴らしいなぁ〜お前。情報によればまだ7つと聞いたが、それは誤りかな?それとも7歳というガキのくせに、そんな論理的な思考をしているのか?………まぁ、どっちでもいいか。こっちもお客様のご到着だ。お前は今のとこ必要ねぇ………、いや、いいことを思いついたぞ」


ニヤッと、そいつは笑った。

背筋がゾクゾクする、何か得体の知れない笑みだ。気持ちわりぃ。

………それに、お客様だと?誰か来たのか?


ガチャッダンッ


「おいダラス!例のものはどこだ!もう辛抱堪らんぞ!!」

「おお!これはファインツ男爵様、ご機嫌麗しゅうございます。例の品なら既に準備出来ております。……おい!待って来い!」

『はい!』


ファインツ男爵?……こいつがこの街の領主か!

ていうか、なんというかまさに悪徳貴族という感じだな。

外見で人を判断してはいけないが、こいつのさっきの言葉とここにいる状況、間違いなく母さんを攫うよう依頼したのはこいつだ。

てことは、母さんを欲しがっていたのはこの豚か。ふざけやがって……、絶対こいつは母さんを慰み者にするつもりだ。

昔パソコンで見たオークそっくりだし、絶対そうだ!


「早う早う!私は昨日の晩から興奮し過ぎて6人も女を駄目にしたのだぞ!そいつにはじっくりと責任を取ってもらわねばな〜。グフッグフフフ」

「ええ、ファインツ男爵が楽しみにしていると聞き、我々もちょっとしたサプライズを用意致しましたよ。と、その前にこちらが例の品です」


グフグフ、なんて笑い方が超似合ってる。

その笑い方と表情、やめてほしい。

同性のおれでも生理的に受け付けないとか相当だぞ?お前。

後ろからガラガラと何かを引き摺る音が聞こえて、おれの後ろの方の扉から台車に乗せられた母さんが来た。


「おお〜、サプライズとはウエディングドレスのことか!ほ〜、もっと近くで見たい。こっちへ寄せろ!」

「はい、わかりました。おい!連れて来い!」


台車に乗せられた母さんは薄く化粧をしていて、綺麗な純白のドレスを着ていて美しかった。

だが、母さんのやつれた顔が、それを無理矢理させられたのだと、わかる。

あの豚は近づいて母さんに乱暴をするつもりだろうが、そうはさせねぇ!


「おい!豚野郎!母さんに近付いてんじゃねぇよ!」


おれが邪魔するからな!

文字通り手も足出せねぇ状況だが、罵倒するぐらいならできる!

ヘイトをおれに向けさせれば、時間稼ぎぐらいにはなる!その間叫び続ければ、兵士とかも来るかも知れない!希望を捨てちゃダメだ!

案の定あの豚野郎、ぷるぷるしておれの方睨みつけてやがる。この調子でやれ!おれ!

煽りはおれの得意分野の一つだろ!

「このデブ!ハゲ!たんし

「さっきからうるさいですよ、君」


グサッ…………




………は?あれ?

なんか視界がおかしい?あれ?視界が赤い?ていうか


「ぃ、ぃいでえええあああぁぁああ!!ああぁあぁあああ!!!!!」


目がイタイ!刺された!?それとも斬られたのか!?おれが!?目を???斬られた???

ぁ、ダメだダメだダメだダメだ!!!


「うわああああぁぁぁあああ!!めが……」

「静かにしましょう。ファインツ様が嫌がられています」

「ん〜〜〜!!!ぅんーーー!!!」

「アー君!!お願いします!私はどうなっても構いませんからあの子にはどうかこれ以上手を出さないでください!!!」


おれは男に口を塞がれ、これ以上騒げば殺すぞと脅すように、首元にナイフを当てられる。

母さんの叫び声も聞こえるが、そんなことより痛い!目が痛い!焼けるように熱いし痛い!!

おれの目はどうなったんだよ!!


「へへ、たいちょー。そいつがサプライズなんであんまり虐めないでくださいね。両目が見えなくなったら楽しめなくなっちまいますよ?」

「ん?こいつがサプライズだと?何を言っているダラス?」

「ええ、それなんですがねファインツ様。最近俺たちの間で流行ってる遊びをファインツ様にもして頂こうと思いましてね」

「ほう、して、それはどんな遊びだ?」

「それはですね、このガキはその女の息子なんですがね。その子供に見られながら母親を犯すっつう遊びなんですが。これがまた楽しくてですね〜。女の嫌がる顔じゃなくて、子供が泣き叫んでるのを、母親が涙を流して頑張って耐えてる姿が、なんともそそられるんですよね〜」

「ほう!それは面白そうだ!!是非私もやってみたい!私もただ組み伏せるだけでは飽きていてな〜。嫌がる顔だけ見せられても、それを殴って遊ぶのも、もう幾度となくやったが、それはやったことがない!」

「ええ、ですからだけでも残しておいて欲しいんですよ」


くそ……。

痛い″。い″た″いよ″ぉぉ。

おれの目はもう片目しかないのかよ?

おい、なんで、なんで


「な、なんでこんなことすんだよーー!!!」


おれは喋ることでさらに痛くなったのを、目をキツく閉じて奥歯を噛み締めることで我慢し、今言いたいことを言う。


「おれの目を潰す必要あったかよ!商品価値が下がるぞ!いいのか!?良くないだろう!おれを奴隷として売りたきゃ傷なんか無しで売らなきゃいけないだろうが!お前ら馬鹿かよ!!」

「は?……………………………ブッ」

『ギャハハハハハハハ!!!!』

「おいおいお前さっきまでの話聞いてたか〜?まぁ、聞いてなかったんだよなー、そりゃそうだ。痛みでそれどころじゃないもんな〜お前は」

「さっきまで余裕で推理してた奴どこに行ったよ!?ここにいるのは今の状況を理解出来てない馬鹿だぞ!」

「おいおい可哀想だろうが、そう言ってやるなよ〜。こいつもこいつで必死なんだよ!………、でも、さっきまでとの差が……ブワッハッハッハ!!やべェ!こいつおもしれー!」

「ヒーッ!腹いてぇぜ!」


顔が熱くなる。

恥ずかしいのか、怒っているのか、悔しいのか、痛みで感覚が麻痺していて自分でもよく分からない。

くそ、くそくそくそくそくそ!!!

うるさいうるさいうるさいうるさい!!


「うるせぇーーー!!!!!」

「よっと」


ボガッガスッ


「ブッ!カハッ」


おれは蹴られて、頭の上に足を乗せられてそのままの体勢でダラスと呼ばれた男はおれに話す。


「どうやらおれはお前のことを過剰に評価していたな〜。お前は歳の割には頭の回転が早いが、それだけだ。痛みで我を忘れて冷静な判断力を欠き、俺たちの言葉も耳に入らないくらい、集中を切らしていた。論外だな。敵地にいて、痛い程度で判断力を失うとは。挙句の果てには、お前〜、さっきは奴隷云々とそれっぽい言葉を並べていたが、結局は自分が可愛いだけだったんだろう?『奴隷は傷つけたら価値が下がる』と、確かにその通りだが、お前の思考は俺には透けて見えるぞ?俺たちがその言葉を間に受けてポーションで傷を治すとでも思ったか?俺たちは元々お前を嬲るために連れてきたんだぞ?それはお前の推理の中にもあったよな?で、今お前は痛みで論理的な思考が出来ず、自分が言ったことも忘れて、俺たちに絶対やらないだろうと考えに見て見ぬふりして、傷の手当てをさせるつもりだった。違うか?」


違う!!おれはそんなこと思ってねぇ!

………いや、でも、ホントにおれはそんなことを思ってないのか………?少しも?

…………そうじゃねぇ!今は時間稼ぎをしてるんだ。目的を忘れるな!しっかりしろ、おれ!

声を出せ!痛くても、血を吐きそうでも、声を出せ!少しでも時間を………、意地を見せやがれ!!


「………ブハッ、カハッゴホッ………、ぢ、ぢがぅ、ハァ…ハァ……、ぞんな″こと、おえ″、おもっでな″い″」


踏まれながらでも、あいつの目を見てはっきりと言ってやったぞ。

やれ、もっと煽ってやれ!


「大体さ〜………、おれみたいなガキ踏ん付けてるぐらいでよく威張り倒せるよな〜。おれだったらもうその時点で結構恥ずかしいけど。で、そこから説教?………ハハハハッ、お前みたいなやつをなんていうか知ってるか?『お山の大将』って言うんだよ!良かったな!おれみたいなガキに勝って欲が満たされる、程度の低いオツムでよ〜!」

「……………………。」


何も言い返してこないな。

だがおれもノってきたところだ!煽りまくってやる!


「え?何も言い返さないの?それとも図星?………ハハッ、図星かぁ〜その反応は!そういえば知ってる?喧嘩とか争いってさ〜同レベル同士のものでしか発生しないらしいんだ〜。てことは〜、おれとお前は同レベル………あれ?お前今何歳?お前7歳の奴と言い争ってんだよ?人として恥ずかしくないの?」

「テメェ、さっきから聞いてりゃ」

「え?暴力?もしかしてこんな瀕死でもうすぐ死にそうな奴に暴力振るうの?え?ダッサー!超ダサイわ〜!おれこんな大人になりたくないわ〜」


さっきから自分で何を言ってるのか、実はわかってない。

今のおれは思考することもままならない、ただの煽る機械のようなものだ。


「………の野郎、お頭こいつをおれに貸して下さい。この俺が立場っつうもんを分らせてやりますよ」

「いや、それは俺がやる」

「俺だよ!さっきから腹が立って仕方ねぇー!」

「いーや!おれだ」

「……………クックククク、ハハハ、ハーハッハッハー!」


突然、ダラスと呼ばれる男は狂ったように笑い出した。

それは何かを期待する様に、新しい玩具を見つけた子供のような無邪気な目をして、おれに言った。


「…………いや〜、お前は………、お前は本当に面白いやつだ。どうやらお前は頭がいいだけのガキじゃなかったようだな。お前は意地のある頭がいいガキだ。そういう奴は、嫌いじゃないぞ?………ファインツ様、どうでしょう?こいつらを1日おれに預けてはくれませんか?少し俺が躾をしましょう」

「な、なんだとダラス!!ダメだ!!私はもう1日もまて」



「………いいだろう?ファインツ。1日ぐらい俺に預けても?他の奴も、いいな?」

「あっ、……………あぁ、躾はお前に任せようダラス。しっかり躾てくれよ」

「任せて下さい。しっかりと躾ておきましょう」


ダラスが語気を強めてファインツ男爵に迫ると、惚けたような顔をしてファインツ男爵はあっさりとそれに頷いた。

そしてファインツ男爵とその付き人、そしてダラスの部下たちも出て行った。

まるで、誰かに従わされているように、もしくは自我のない人形のように、無言のまま出て行く。

ダラスは全員が居なくなって暫くした後、おれから足を退けて、母さんとおれを縛っていた錠を剣で斬った。


「ふー、これで邪魔者はいなくなったな」

「アースッ、アース!!大丈夫!?大丈夫なの!?」


ダラスは母さんが近づく前に、少し後ろに下がり距離を取った。

母さんは駆けてきて、おれを抱きしめながら体の心配をしている。


「大丈夫………じゃないけど、もうあんまり痛くないし、血も止まってきたよ。そんなに心配しないで?」

「心配しない訳ないじゃない!!ごめんなさい!お母さんのせいだわ!お母さんのせいで、あなたがこんな傷を……」


母さんはおれの体を労って優しく抱きしめてくれる。

………まぁそれでも蹴られたところとか痛むんだけど。

だが、それでもさっきよりも頭が冴えてきたぞ。

さっきまではただの煽りマシーンだったが、もう大丈夫だ。

だが、冷静になったから余計分かるが、………こいつが一体何をしたいのか………、目的が分からない。

というかのは何なんだ。

実はこいつの方が立場が強かったとか、そんな感じなのか?こいつも貴族なのか?

……………いくら考えても明確な答えは見つからない、こいつは、何なんだ?


「そろそろ俺が話してもいいかー?」









 




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