第2話 7歳
拝啓
お父さん、お母さん、お兄ちゃん。最近は、暑苦しい夜が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
私は、今年で7歳になり(異世界で)、すくすくと成長しています。
そちらの状況などはわかりませんが、私の近況報告などを書き記したいと思います。
私も異世界へ転生し、7年が過ぎれば、ここと完璧に馴染み、今ではゲームの世界や、夢などとは思わなくなりました。
最初の頃は、転生して興奮したり、家族に心の中でお詫びしたり、今の母に慣れなかったり、母乳にこうふゲフンゲフン!と、様々な変化がありました。
ですが、今では前世の記憶も薄れ始め、関わりの薄かった友人の顔や名前などは完璧に忘れた今日この頃、この世界の文字を書けるようになってから、手紙を書こうと思いました。
家族のことは忘れませんが、正直、もう実感が薄れてきました。
前世の記憶はあるが、あれは別人じゃないか、とかそんなふうにに思ってきました。
だから、まだ私があなたたちの家族であると、実感があるうちに、何か残しておこうと思いました。
毎日書くかは分かりませんが、これから思い出したら書いて行こうと思います。
堀部祐太より
ーーーーーーーーー
「ふ〜、これでよし」
おれも異世界で転生して7年。
もう前世など「あ〜懐かしいなぁ」という感じで、あまり実感がなくなってきていた。
大抵こういう異世界転生の場合、主人公はいつまで経っても前世を忘れずに、「帰りたい」とかそういう風にいうのだが、おれは正直もうそんな感情はない。
もちろん、最初の頃はおれもホームシックというかなんというか、いろいろ複雑なものもあったが、7年も異世界で暮らしていると、もうこの世界の一員であるという自覚が芽生えてくる。
もちろん、なくならない感情も記憶もある。
だが、それ以上に今を必死に生きてるし、興味があるものもあるし、なりたいものもある今が大切だと思う。
と、いうよりも今は
「アース!!あんたまた掃除サボってんじゃないかい!雑巾はもっと力入れてこすらなきゃ汚れなんざとれないよ!」
「イェスボ〜ス」
「返事は『はい!』だろう!また訳の分からない言葉使って、ここの掃除あと10分でやりな!終わらなかったら休憩無しで次のとこしてもらうからね!」
「はい!!もう速攻で終わらせます!」
おれは、いま、掃除をしている。
何故かって?
それを語るには、おれの今の身の上話をすることになる。
おれの家族構成は、母が一人と、おれが一人、以上。
父親はいない。
マミーにそれを聞くと必ず嫌な顔をするので、何か事情があるのだろう。だから深くは聞かない。
おれのマミーは冒険者ギルドというところで、受付嬢をしている。
受付嬢の仕事は大変で、なんかエリートとかしかできないらしいので、常に人手不足らしい。
ゆえにマミーは、夜とかにしか帰らず、その間おれは近所のマーさん(マーリアベルという予想以上に綺麗な名前でビックリした)の家で、朝と昼は手伝いをしながら暮らしている。
夜は家に帰るのだが、まみ……もういいか。母さんは疲れているので、マーさんが作り置きしてくれているのを食べる。
母さんも料理は一応作れるのだが、作っているのを見たことは数回しかない。
それだけ仕事が大変なのだ。
おれは前世、何も親に返すことができなかったので、今世では役に立ちたいと思い、マーさんの仕事を手伝って、給料を貰っている。
「アースー!この料理そっちのテーブルに持っていってくれー」
「はーい!」
その仕事はいわゆる食事処だ。
さっき声をかけてきたのはマーさんの夫のラグラさん。
この店でマーさんと一緒に料理を作っている。
そしておれの仕事は、店の掃除と料理が出来たら持っていくだけ、と思っていたが、これが予想以上にキツかった。
体力的にじゃない。
確かに最初はちょっと足が痛かったりしたけど、それも半年以上前の話だ。
おれがキツイと思うのは精神的な話だ。
金銭を貰えることで最低限のモチベーションはあるが、それも最低限だ。
元からサボり気質のあるおれは、仕事が慣れてきたら暇があったら休み、暇がなくても休むようになってしまった。
これも悲しい生まれ持っての、いや、前世から引き継ぎしおれの最強の才能だ。
……ホント仕事舐めてた。こんなに面倒だとは思わなかった。
「こらー!!アースー!仕事サボってんじゃないよ!きびきび働きな!」
「はいはーい」
「『はい』は一回だよ!」
「はい!」
このような変わり映えのない1日を今日も過ごすのかな〜。
ガラッ
「ぉ、いらっしゃいませ〜、何名さ……ま」
空気が変わった。
これ以上の表現が見付からないぐらい、その者たちは何か覇気のような、強者の風格のような、そんなものを感じた。
「3人です。とりあえず水を一杯。注文は後でします」
「おいレン。何でこんなとこで食うんだよ。もっとうまい飯屋あったろ」
「ワタシは別に何処でも構わないけど、確かに何でわざわざ歩いてこの店に来たの?理由を教えて」
「だから、なんとなくだよ。嫌ならついてこなくていいって言ったじゃないか」
「ツレねぇこと言うなよ!パーティーだろ。俺たちは!そのリーダーについて行くのに理由なんざあるかよ!」
「ワタシはギダに無理やり連れて来られただけだけど?」
その人たちは、賑やかに話しながらテーブルへと腰掛け、料理を待っている。
この者たちは冒険者なのだろう。粗野な所が時々見られるし、何回も見てきたから分かる。
だが、なんだろう。あまり頭が働かない。
水を持ってかなきゃいけなかったり、注文をとったり、掃除もしなきゃいけないのに。
なのに、なのにさっきからおれは肌がピリピリする。鳥肌が立っている。唇が震える。全身が騒つく。
脳に雷でも落ちた気分だ。
こんな……こんな感情は初めてだ。
何故かは分からない。おれはただあの人たちを見ただけだ。
確かに強そう、とか、やばい雰囲気だ、とかなんかそんなのもある。
だが、そうじゃない。
もっと根源的な、おれの心が叫んでいるような、訴えているような。
おれは自分が何をしたいのかもわからないまま、その人たちへと近づく。
「あ、君。この店のおすすめを……」
「おれと!付き合ってください!!」
……………………ん?んんんんん!!??
あれ?おれ今なんて言った?
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