ごめんなさい、オルカブツさん。僕たち逃げます 2回目
「もー、ここまでは追って来ないだろう」
僕たちはハルト達のパーティーから無事に逃げ出すことはできた。
だけど、問題なのはオルカブツのことだ。僕たちがここまで来たのはハルト達のパーティーが倒したオルカブツの遺骸を横流ししてもらうことだ。だから、僕たちはハルト達のパーティーの近くにいないといけないんだけどなぁ。如何せん、あのハルトは陰キャっていうかバカというか。うーん。勝手に僕のことを敵対視してるんだ。
まぁ、そりゃぁ仕方ないよね。僕みたいな大きな人間の器さ。小さな人間にとっちゃぁこの僕の大きな器は怖く見えるだろうよぉ。だけどよぉ、僕の器が怖いからって襲い掛かってくるこたぁないでしょ。なんなの? バカなの? 本当に馬鹿なの? バカだから自分がこの世界で搾取されていることにも気づかずにノーノーと生きてるの? あー。もうかわいそうだねぇ。彼。でも、同情はしてやんないよ。だって、バカだもん。
「でも、どうするんだよぉぉ。オルカブツのこと。オルカブツの遺骸を冒険者ギルドのマスターに渡さなきゃぁ金になんねぇだろ」
「ボブの言う通りだ。俺たちはあのハルト? のパーティーからあまり離れないほうが良い。ハルトは俺たちの存在に気付いている。彼は俺たちがオルカブツを倒すことを目的にしているんじゃなくて、オルカブツの遺骸を横取りしようとしていることに気づいているはずだ」
「でしょでしょでしょぉ? ミヤもそう思うでしょぉぉぉ?」
「あぁ。でも、ハルトのパーティーに再び近寄れば今度は玖島の命が危ない。玖島が死んで終わりじゃない。ハルトは自分で陰キャって言ってるぐらいだ。俺たちのことは陽キャ。つまり、敵って認識を持ってるんじゃないか?」
「単純だけど、ハルトは目に映る陽キャ全て殺す気じゃねぇのかぃぃ?」
ボブのミヤの会話は当然のことだと思った。
「そこらへんは、玖島が殺されて考えればいいさ」
前言撤回。ミヤ、てめぇ自分の顔が良いからって僕を殺すなよ。何考えてるんだよ。あんたは。最低だな。本当に。
「どうしたもんかなぁ」
僕は困ったように声を出したけれど、心の中ではいつミヤをどついてやろうかと本気で考えていた。
「それなら、私に良い考えがあるわ!」
そう言って飛び出したのはダイスだった。ダイスはたかちーの前でクルリとターンをすると彼に指さした。
やめとけって。ダイス。たかちーに指向けるなって。ほら見ろ。たかちーてめぇの指を折りに来てるじゃねぇか。
「い、いいい痛い痛い痛い痛いいいいい。やめてえええええ」
たかちーもやめとけって。本当にあんたも大人げないんだから。僕はダイスを引きはがした。
「で、どんな考えがあるんだよ」
「私、たかちーのギフトがわかっちゃった」
お前なぁ、自信ありげに言ってるけど妖精だろう? ナンムの。もっと早くに気づけよ。っつーか、ボブのギフトにも気づいていないからあんたは万年うだつの上がらないしょーもない妖精のままでいるんだよ。わかってんの? 本当に。
「たかちー、あなた自身に与えられたものじゃない。あなたのその機械に与えられたのよ」
ダイスは一瞬デジカムを指そうとしたが、その手を引っ込めた。おうおう。その選択肢は正解だ。お前がデジカムに指さした瞬間、お前の体はバッキバキに潰されるぞ。
今のたかちー、自分の知らない間にナンムにギフトを与えられたことにむっちゃキれてるぞ。やべぇぐらいにキれてるぞ。言葉に気を付けろよ。あぁなったたかちーは、僕たちでも対処するのが難しんだ。あぁ。何度も経験している。大学に反省文を出したぐらいだ。
「なんでぇ? そのデジカムにギフトを?」
「言ったでしょ? この世界の技術は異世界人からもたらされた知識によって成り立ってるの。異世界人の知識をいただくためにナンム様は異世界人に素晴らしいギフトを与えていた。でも、あんたたちは魔王を倒さない。大した知恵も持ってない。なら、ナンム様が考えることは簡単よ。ゴミギフトを与えることと、たかちーが持ってきた機械でちょっとした実験を考えたのよ」
あーあー。ダイス。もう少し言葉を気を付けようなぁ。たかちーの顔に青筋が浮き上がってるぞー。
「たかちーの機械はこの世界でほとんど見ることはない。それ、なんていうの?」
「デジカム。簡単にいうと、あれで人の動きを転写することができるんだ」
「ミヤ、言葉が足りない。このデジカムはminiDV採用型のデジカム。本当は肩掛け式のデジカムを持ってきたかったんだけど、資料映像作成。下取り程度だからこの小型デジカムになった。片手だとどうしても手振れが生じてしまう。映像がぶれるからなぁ。それが素人っぽい味で良いって人もいるけれど自分は嫌いだ。大体素人っぽい味って、それは下手ってことを別に言い換えているだけだろう? 下手ってことはクォリティーが足りない。製作者側の失敗だ。素人はそこらへんを突っ込まれると、撮影したカメラが悪いとかなんとか言う。違うんだ。カメラが悪いんじゃない。撮る奴の技量が足りない。映像を取るんだろう? この小型デジカムで撮るってんなら――」
「あーあーあー。たかちー。わかったわかった。ストーップストーップ」
ほら見ろ。たかちーにカメラのことを振るんじゃないって。振ったら最後。アイツは怒るか蘊蓄を垂れ流すかのどちらかなんだ。ダイス、目をきょとんとさせるな。面倒なことになってんのは、お前たちのせいだからな。
「素晴らしい機械っていうのはわかったわ。そもそもナンム様がこの機械をどれだけ把握していたかわからないけれど、あの方はこの機械にソウル・バインダー。生き物の魂を吸い取り、自分の思うがままに使役できるギフトを与えたの」
あー。こいつのセリフで本当に僕たち異世界に来たんだなぁって思った。なんていうことをしてくれるんだよ。それじゃぁあのデジカムがこっちを向いたらなんだい? 僕たちの魂は吸い取られるの? 僕たち、miniDVの中に入っちゃうの? やめてくれよぉ。大の大人だよ。ボブなんて体重
やだよー。そんなの。僕、デジカム壊したくねぇよ。たかちーに何言われるかわかんねぇし、ぜってー殺されるから。
「ナンム様はあんたたちに興味はない。そのデジカムがどれだけ有意義なものなのかを確かめたい。その記録が欲しいのよ」
「ふざけんなよ。この大切なデジカムに余計なもんを付けやがって。どうしてくれるんだよ」
「落ち着いてたかちー。だから、あなた達はアルラトゥ様のところへ行くんでしょう? アルラトゥ様は終わりの女神。きっとギフトの終わらせ方も知ってるはず」
「壊したら承知しねぇからな」
「……。とにかく、アルラトゥ様のところへ行く前に目の前にある問題、オルカブツのことをどうにかしなきゃ。多分、ゴリリラはまだ生きている。たかちー、あんたはあのゴリリラにオルカブツを倒すかハルト達のパーティーを蹴散らすかどちらかを命令しなさい。ソウル・バインダーの影響を受けた生き物は一回だけその持ち主の言うことを聞くわ」
「じゃぁ、俺たちは残された一つを決行するしかない、ってことか」
「そう。このパーティーの中で戦力になるのはたかちーだけ。たかちーに与えられた一回を無駄にしないよう、たかちー、みんなよーく頭を使いなさい」
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