どうしましょう。敵ですよ、オルカブツさん 2話

「エルウィン、ここは俺が対応する。君はオルカブツ討伐に注力を!」

「り、リーダー! あんたはどうするのさ?」

「俺は、俺はこの異世界人に用がある。ソレが終えればすぐにオルカブツ討伐に戻る」

「わかった。リーダー、すぐに戻ってくるんだよ」


 ふぅん。エルウィンっていうのが露出度の高い魔法使いの姉ちゃんね。女の前だからかねぇ。なんで、こいつこんなにカッコつけてるんだろうねぇ。残念だけどあの姉ちゃんお前の目を見て話していたけど、意識っつーか、本当の視線はお前も僕も突き抜けて、コンコンとたかちーの説教しているミヤに注がれているから。

 ボブ? んなもん、僕以上に相手にされることはない!


「俺は、お前みたいな人間が嫌いだ」

「だーかーらー。僕ぁ、君と初対面なんだ。なーんで初対面の人間にそんな敵意むき出しにされなきゃいけないわけ? 君は僕を嫌いになる権利はあるかもしれないけど、だ。僕はいきなり初対面の人間から嫌いだって言われたら傷つくに決まってるだろぉ。言うにしても君は大人なんだ。大人の対応をしてくれよ」

「お前が言うのもわかる。俺がやっているのははっきり言って言いがかりだ」

「だろぉ?」

「でも、認めたくないんだ。俺は、前世では親友とも呼べる人間もいなかったし、イケメンでもなかった。頭もよくなかったし。思い返すだけで散々な人生だった。おまけに死に方も交通事故。まるでありきたりな死に方だ」


 知らねぇよ。そんなこと。あー、待てよ。あの女ヤクザもなんか言っていたな。ここに来る異世界人は、しみったれた死に方をした魂を慰める場所。っつーことは、この目の前にいる男はしみったれた死に方をしてナンムに呼ばれて搾取されているってことか。

 わかるなぁ。コイツがしみったれた死に方をしたの。なんていうか、顔とか全体的に「僕ちゃんは生きている世の中に不平不満がいーっぱいあります!」って言ってるもん。僕ぁ、こんな男になりたくないからね、一皮も二皮も剥けた男になったのさ。

 そーいう冴えない男が僕みたいに燦然と輝く素晴らしい男に嫉妬するのも仕方ないのかもなぁ。太陽みたいに光り輝く僕を見たら、土の中にいるモグラは目がつぶれてしまう。


「あーあー。わかったわかった。君はすごーい! すごーい! 君は元いた世界では恵まれなかったかもしれないけれど、この世界ではきっとすごい人なんだ! だから周りにかわいい女の子がいて、一緒に冒険しているんだねぇ。それは君の人望さぁ! 僕にはないなぁ。だって、僕の周りにいるのは残念な男ばっかりだもん」


 最後の方、ダイスが「私は女よ!」とか言ってきたが知らねぇよ。お前なんかカウントしてねぇよ。お前が束になってもあそこにいる露出度の高い魔法使いの姉ちゃんにはなれないんだよ。身の程を知れよ。


「……。君たちみたいな陽キャはいっつもそうだ。隠キャな僕を馬鹿にする」


 バカにっていうか。残念な人だなぁとは思うよ。


「俺たちの努力も嘲笑って、良いところだけ取って自分たちが楽しければそれでよいって思ってる。そういう人種に搾取される僕たちのことを顧みない」


 だから、知らねぇって。僕と君は初対面だっていうのに、なんで過去のことを僕にあてつけるんだろうねぇ。日本語、わかる?


「この世界で生まれ変われる。俺の死は理不尽だったけれど、この世界の人達は俺を求めている。俺は、女神様から素敵なギフトをいただき、魔王を倒すっていう確かな目的を持つことができた。まだまだ力が足りなくてみんなの希望を叶えることはできないけれど、それでも俺はこの世界で生きる意味を見つけたんだ。それなのに、お前たちは……。お前たちという人間は」


 まだ続くの? この呪詛。勘弁してくれよぉ。僕だってさっさと君たちがオルカブツを倒してその遺骸を君んとこの金庫番から譲ってもらう手はずなんだけど。それでさっさと金もらってヨクルトの町を脱出したいだけなんだよ。君がそーやって管を巻いている間に僕たちの貴重な時間が費やされていくんだよ。勘弁してくれよぉ。


「ポッと出の陽キャのクセに、俺たちのような人間が手に入れることのできないクエストをもぎとったり、何の努力もしないで外見だけで女を引き寄せたり。何なんだよ! 僕たちの楽園を君たちはまた搾取していくのかよ! 昔は、こういうことは言えなかったけれど、この世界だったら言える。この世界なら俺には力がある。力があるから、俺は排除する力で、お前たちを――」


 そういうと、目の前にいる男は、腰に下げていた剣を抜いた。やべぇって。あれ。アレ絶対にニセモンじゃねぇ。ホンモンだって。だって、光り方が違うもん。あのやっべー、すっげー尖ってる先っちょ。人を本気で殺す意思みたいなのを感じるって。

 僕を殺しに来ている。ミヤもボブも彼の雰囲気が変わったことに気づいて、こっちに駆け寄ってきた。

 二人とも口々に「やべぇ、アレホンモンだ」と口にしているし。

 マジかよ。 あいつ、本気で僕を殺しにかかってきてるんじゃね? 息も荒いし。目も据わってるし。

 止めろよ。アイツのパーティーメンバー。アイツ、僕を殺そうとしているんだぞ。人殺しはダメだよ。ってなんで言わないんだよ。やべぇって。僕が持っているギフトはダイス曰くゴミギフトだしよぉ、運動も苦手だ。剣道もやったことない。柔道はいっつもボブみたいな体形の奴に押しつぶされる。人の体を持ち上げることだって出来ねぇよ。僕ができるのは四股踏むモノマネだけだよ。ちくしょー!


「ちょ、ちょ、ちょ。ま、待てって。落ち着こう! 落ち着けって。別に僕は君たちにちょっかいを出す気はない。あの冒険者ギルドのマスターの件だって僕がどーこーしたわけじゃなく、あのマスターが勝手に討伐依頼をしただけだって。一言言っておくぞ。僕はこの討伐依頼を受けるだなんて一言も言ってない。勝手に契約して! 勝手に連れてきたのはこの妖精のせいだからな! 殺すならこの妖精にしろ!」

「ちょっ、ちょっと何やってんのよ! クシマ。あああああ。やめてよ! 私をつーかーむーなー!」


 僕はコイツが悪いと言わんばかりにダイスをわしづかみにしてあの男の前に突き出した。ダイスはバタバタ騒いでいるが知らねぇよ。お前が勝手にこの仕事を引き受けたんだろ。お前が責任取れよ。


「あ、あ、た、確か、アナタって、シンシンキェー新進気鋭の冒険者パーティー アザゼルの異世界人のリーダー ハルトでしょ? わ、悪い事を言わないわ。剣を収めなさい。ナンム様がアナタにギフトを授けたのは魔王を倒すためであって、そーいうことに使うわけじゃ――」


 ダイスの言葉を最後まで聞かないままハルトは剣を振った。剣はダイスの頭上をかすめて、僕のシャツを切った。


「お、おい!」


 ミヤは僕の体を引いて助けてくれた。ダイスは泡吹いて気を失ってる。やべぇよコレ。オルカブツはあの姉ちゃんの魔法をモロに喰らって尻に火がついて、ワタワタと逃げ回っている。あのまま燃え続けたら文字通り焼き鳥じゃね? アイツ。


「オルカブツはあいつらに任せる。俺は、お前たちを殺す。お前たちを殺さなきゃ、俺はいつまでたっても陽キャに怯え続けなきゃいけない」


 やべぇ。コイツの目、マジでいっちまってる。ヤンキーとかそんなもんじゃねぇ。コイツの目は本当に人を殺そうと決意している目だった。

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