どうしましょう。敵ですよ、オルカブツさん 1回目

オルカブツの叫び声を聞いてわらわらと人がやってきちゃったよ。ほーんと、この見る光景がね、RPGとか三流映画そのまんま。




「オルカブツがいるぞ!」


「大変だ! 誰かが襲われている」




 とか威勢良くリーダーらしき男が言ってるけど、本当にこの光景ってゲームの世界なんだよなぁ。本当に帰りたい。僕たちのようなシティーボーイはこういう所、似合わないんだよ。


 とりあえず、僕たちはこんないかにもな冒険者パーティーに叶うわけがない。僕たちは、この冒険者パーティーからオルカブツの遺骸を回収するのが目的なんだ。こんな場所に長居は無用。そういうわけだよ。すまないね。オルカブツのとっつぁーん!




「蜈育函縲∝セ?▲縺ヲ縺上□縺輔>」




 何を言いたいかこれはわかった。「待ってください、先生」だろ? ばぁか。お前の言っている先生は先生じゃねぇんだよ。女ったらしのクズなんだよ。付き合っている女から「ミヤって、感動とかの感情が薄いよね。そこがミステリアスー」って言われるような男だぞ。人格者として誉れ高い先生などという高尚な生き物じゃ断じてない。




「玖島、こっち!」




 あっ。優しいね。ミヤ。ごっめーん。僕、君の印象変わった。僕たち、逃げてるだけじゃだめだよね。そうそう。僕たちの目的はオルカブツの遺骸を回収すること。だから、僕たちはオルカブツと他のパーティーが戦っている場所をきちんと見れる場所にいなきゃいけないんだ。そこに率先と案内してくれるミヤ。素敵! かっこいい! 抱いて! っつーか、邪魔だボブ。なんでテメェは僕が座りたいと思った所に座るんだよ。少しは考えろよ。お前、横に広いだろ? お前が少し後ろの方に下がるとかすれば僕はオルカブツがどうなるかが見えるんだ。何? それじゃ自分が見えないって? 馬鹿野郎。なんて僕がお前の見れる見れないを配慮しなきゃいけないんだよ。考えなさいよ。自分でどうすればいいかって。


 で、でででででで、ちょっとやめろやめろって、たかちー。お前、ビデオ撮りたいからって僕たちを押しのけるなよ。


 あーあーあーあ! もう! たかちー! そのカメラをぶん回して威嚇するのやめなさいって。あんたいつまでそんな子供じみたことやってんのよ。早く大人になりなさいって。




「ちょっと、あんたたち! あれを見なさい」




 痛い痛い痛い痛い! ダイス、髪の毛引っ張るなって。僕のキュートな天パがストレートになったらどーしてくれるんだよ。とか言いつつも、だ。


 ダイスが指差した方向にはオルカブツと多くの冒険者たちが戦いを始めたみたい。目の前にはお尋ね者の妖鳥オルカブツがいる。そりゃぁ、彼らだって必死だ。何しろ冒険者ギルドのマスターの秘蔵っ子みたいな依頼だ。その依頼を達成すれば、実績ができるしなぁ。いやいや、もともとその依頼を引き出したのは僕だよ! 僕。悪いけれど、そこんとこを忘れてもらっちゃ困る。




「ゆけ! ファイアーボール」




 ファイアーボールねぇ。なんというか、無難だよねぇ。あの色白いエルフ姉ちゃん、いかにもってな魔法使いだし、意外性は全くない。最初は、本当の魔法! ってな感じで面白かったんだけど、こうも魔法を連発すると面白みが全くねぇ。っつーか、眠い。


 仕方なくぼーっと見ていると、オルカブツもやる気になったようだ。


 エルフの姉ちゃんの魔法を羽で払い除けると「はぁ、どすこい!」って大きな掛け声と共に弾道のような頭突きをかまして人をなぎ倒していく。


 ちょっと待て、オルカブツ、なんで「はぁどすこい!」は言えるんだ。お前、その意味知ってんのか?


 頭突きだけじゃない。オルカブツ、手は短いくせに凄まじいスピードで張り手を繰り出している。


 そのスピードが本当に凄まじくて、僕、京都の千手観音像を思い出しちゃったよ。


 千手観音はその手で地上にいる人間を救ってくださるけど、このオルカブツ千手観音は人間なんか助けてくれねぇ。助けるのは自分だけだ。男を張り手でなぎ倒し、可愛いお姉ちゃんは、攻撃するフリをしながらおっぱいを触っているんじゃねぇか? 女どもみーんな顔を真っ赤にしながら胸を抑えている。


 なんだよ! 触ったのかよてめぇ。反則じゃねぇか! それ。ずりーぞ!


 男のうめき声、甲高い女の叫び声。


 これが、妖鳥オルカブツの戦いなのか? それでいいのか! 本当に。


 なんとも、地味な映像に「どうしたもんかねぇ」と自主映画研究会メンバーらしく話を振ってみると、意外な人物から答えが返ってきた。




「つまらーん!」




 たかちーだった。


 たかちーは立ち上がり、猛然とオルカブツのもとへ走り出す。


 ほとんどの人間はオルカブツの荒唐無稽な戦いぶりに恐れをなして、いいや、ほとんどは諦めだろう。こんな奴と戦うことに意味があるのか? っていう諦めがほとんどだろうね。


 でも、腐っても相手は妖鳥オルカブツ。ミヤの恋愛講座の前なら大人しくなるだろうが、お前の撮影の為に協力してくれるかどうかわかんないだろう。ってか、本当にたかちーってこういうところ、見境がないんだよなぁ。振り回される僕たちの身になってくれよ。


 オルカブツの元へ戻ると、アレは目を輝かせていた。




「蜈育函縲∝ヵ縺ョ轤コ縺ォ謌サ縺」縺ヲ縺阪※縺上l縺溘s縺ァ縺吶?」




 あー。何言ってるかさっぱりわかんねぇ。あれの尊敬の眼差しってミヤに対してだろうなぁ。


 そんなことをぼんやりと考えている僕。ミヤはたかちーの襟を掴んで「落ち着け」って説教をはじめているし、ボブは死にそうな顔をして大地にゲロ吐いてる。汚ねぇよ。そういうのは袋で受け止めるとか、どっか人の見えない所でやりなさいよ。あんたのゲロの匂い強烈なんだから。




「なんなんだよ、お前ら」




 あー。ようやく言葉が通じる奴が現れた。って思ったら、そこにいたのは金庫番の女がいるパーティーの面々。リーダーらしき冴えない男はありゃこっちの人間じゃないわ。僕たちと同じ異世界から来た人間。だって、あいつなんかわかんねぇけど、すっげー意識高そうじゃん。


 そういう意識高い系の人間って、やっぱり異世界人って感じじゃね? おまけに明らかに僕たちに敵意を抱いている。っつーか、僕たちあんたに敵意を抱かれる覚えはないんだよねぇ。一体どうして僕は君に敵意を抱かれるわけ? 何もしてないのに。僕は善良な人間だよぉ。善良が服着て歩いているって言われるんだ。ぼかぁ、君に悪いことをしたつもりはないんだがねぇ。


 あー、でも僕の友達は君の女のパーティーメンバーにはひどいことをしたかもしれない。


 魔法使いやら回復役の女達はスタイルと顔の良いミヤに熱い視線を送ってるじゃないかぁ。そりゃぁ悪いことをした。君のパーティー、君以外は女ばっかりだもんねぇ。ハーレムだもんねぇ。うんうん。何も知らなければ、君の立ち位置を僕ぁ羨ましいと思った。


 だーけーど、知ってしまったんだよねぇ。この世界では僕たちのような異世界人は搾取される人間なんだ。可愛い顔した女が僕や君みたいな普通の人間に色気丸出しでやってくるわけないじゃないか。そこには下心があるんだよ。君は知ってるかどうかはわからないけどねぇ。


 あぁ、ある意味君んとこの女はこの世界の縮図みたいなもんさ。ミヤに注ぐ視線も。その後ろでくっそ怖ぇ顔して女どもを睨んでいる金庫番の女も。っつーか、金庫番の女怖っ。あいつ、やろうと思ったら同じパーティーメンバーでも容赦無く殺す気概があるぞ。頼むから僕たちを巻き込まないでくれるかなぁ。




「なんなんだい? 君ぃ、僕のことをそんなに睨んで。僕ぁ、多少のことには目を潰れる器のでかい人間さ。何か気になることがあるんだったら遠慮なく言うといいさ」


「うるせぇ。お前、異世界に来てすぐに小便漏らした異世界人だろう?」




 知らないなぁ。そんなことはぁ。僕のズボンは新品の綺麗なズボンだよ。いつ、僕が小便を漏らしたんだって? そんな酷い言いがかりはやめてほしいなぁ。




「なんなんだよ。妖精が欲しくてナンム様を騙したとか。お前、この世界を変えよう。この世界と共に変わろうという異世界人の誇りはないのか?」


「あのね、君ぃ、何を勘違いしているかわからないけど僕たちはそもそも異世界人って言われたくないの。僕たちはこんな世界に来たくて来たわけじゃないしぃ。可能ならば今すぐにでも帰りたい。それをやれ魔王退治だ。やれオルカブツ退治だ。とか、そういうのは全くやる気ないしさ。君がそういうのやりたいならやればいいじゃないかぁ。僕は関係ない。引き止めもしない。うん。だから、君もオルカブツ倒すならチャチャとやっちゃって」




 面倒臭い人間に絡まれたなぁ。あぁ面倒臭い。オルカブツも僕を憐れむ目で見てるし。わかるだろぉ? 君も。こういう真面目くさった人間の額縁どうりの言い分って。本当に面倒だよねぇ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る