はじめましてオルカブツ いかがでしょうか? 1回目

「ちょっとあんた達もっと前を歩きなさいよ」


 妖鳥オルカブツ討伐は僕たちの予想よりも早くに始まった。言葉を返せば、僕たちは思ったほどあの金庫番の女から金をせしめることはできなかった。

 僕たちは、護身用に使ったこともない剣を買って、あ、そうそう。僕のズボンも新調した。

 知らなかったけど、鎧とか盾って既製品がないんだって。それぞれの体の採寸を図って、重さを計量したりして作るものらしい。だから、僕たちが鎧や盾を買いに行ってもすぐには手に入らないそうだ。まぁ、それはわかる。ボブサイズ(推定体重100kgオーバー)の鎧とかそういうのって普通に売ってるわけないって。この世界、ボブみたいな体形の奴はナンム以外いねぇし。

 とまぁ、そんなこんなで僕たちは軽装のままオルカブツ討伐に来ているわけです。で、こんな格好で妖鳥とか倒せるわけないじゃないですか。

 だから、先日より、僕たちは作戦を練った。

 ミヤに頼み、あの金庫番の女とその他ブックメーカー上位予想パーティーの女に声をかけ、オルカブツ討伐をいつ行うのか。誰が行くのかなどの情報を収集した。

 上位パーティーっていうのはホットラインがあるかは知らないが、どのパーティーも同じ日にオルカブツ討伐に行くらしい。主戦力は、ここにいる現地人。止めを刺すのが異世界人っていうのがこの世界のルールらしい。

 で、僕たちは止めを刺したオルカブツの死体を横取りする。横取りって言ったら言葉は悪いが、死体を横流ししてもらうんだ。対価はミヤ。

 ミヤを一晩好きにしてよいってのを条件にしている。そしたら、面白いぐらいにみんな「協力しまーす」って言ってくるわけ。むかつくー。僕だったら絶対相手にしないのに。

 だが、ちょーっと疑問に思ったんだ。主戦力は現地人なんだろう? なんで美味しいところを異世界人の渡すのかい? って。


 そこんとこをミヤが突っつくと、居合わせた金庫番の女が教えてくれたんだ。

 こういう討伐っていうのは異世界人が持ってきた情報がどこまで通用するか。って試す実験みたいなもんらしい。だから、別に討伐が成功しようが失敗しようが関係ない。この世界の技術とか生活レベルとか、そういうのが向上して金が稼げて良い生活が出来たらそれでいいらしい。

 ぶっちゃけ、異世界人とパーティー組んでるけれど、自分の生活さえ良ければ他の事なんか知ったこっちゃない。ってのが本音。

 うーん。それを知っている異世界人はどれだけいるんでしょう。


 とまぁ、これが先日。金庫番の女より、本日討伐に出るという情報を貰った。

 で、だ。僕たちはオルカブツ討伐を見届けるためにちょーっと夜の森の中。茂みの中に隠れています。

 この国の夜っていうのはね、勢いのない白夜って感じ。お日様はでてますねー。って感じだけど二日酔いを長引かせているような、薄暗い白夜。茂みの中に隠れていても、まぁ周囲はわかる。

 まぁ、いつ始まるか いつ終わるかわからないオルカブツ討伐。

 僕たちはぶっちゃけ暇。寝てもいいんだけど、珍しいことにたかちーがミヤに女を口説く方法を尋ねだしたんだ。


「女性と仲良くなりたい? 恋人を作りたい? たかちー、それって幼稚園で習うことだよ」


 ミヤはサラッって顔をして言いやがった。むーかーつーくー。


「俺も誰かに教わったわけじゃないけれど、女や恋人を作るのって、みんなが思っているよりも簡単なんだ」

「簡単って言っても説明してもらわねぇとわかんねぇよ」


 たかちー、どうしたんだい? そんなにムキになって。君も人肌恋しくなったのかい? 

 うん。僕ぁは知ってるよ。君は好きな人がいるらしいね。文学部英米文学科のミスコン出場予定の人でしょう? あれは高嶺の花子さんだよ。僕もお友達に……。いやぁ、たかちーすまないね。僕はあの高嶺の花子さんと熱い一夜を過ごした仲でね。アヴァンチュールってやつかい? 行きずりの恋。たった一夜。僕たちは男と女という関係を捨てて動物に成り下がったんだ。そういう関係をね……。あっ。たかちー。ごめんなさい。言葉に出してないけれど僕の心を読むような眼でこっちを見ないで。嘘です。本当に嘘。高嶺の花子さんに指さされたのは本当だから。許して。


「感覚なんだけどね。恋人を作るための大前提。それは外見を良くしないといけない。人間見た目が9割だから」

「容赦ねぇよ……。コイツ」


 ボブ泣くな。僕も泣いてる。僕の天パも泣いている。


「これに反論する奴がいるけれど、考えろよ。国立大学や難関私大のセンター試験には足切りが存在する。足切りってのは最低限保障される学力を保持していないってことを意味する。大学だって、教える人間が頭悪かったら他の学生に伝染するだろう? それと同じ。付き合うにしても自分と隣を歩いて恥ずかしくない人間が良いに決まってる。つまりは外見さ。そこの外見を突破できない限り、どんなに中身だなんだ言っても意味がない。恋人を作りたければ外見をどうにかしろ。まずはそこからだ」

「ぐぅの音もでねぇ」

「仮に、見た目をクリアしたらどうするか。女をじらすんだよ」

「じらすって?」

「女の心は金庫の錠前と一緒だ。開ける番号がある。その番号を探すように会話でじらしていくんだ。するとそのうち感覚がわかる。優しく撫でてほぐして解いて。そうしていくと、ある時、心の音が変わる。興味というか、好奇心。そこに注目する」

「つまり、好奇心や興味を持ってもらえれば良いってわけ?」

「違う。好奇心や興味を持ったらそこから相手がどこに異性を感じさせるかを考えるんだ。ボーイッシュな女だったら、アクティブなことが好きなやつが多い。スポーツなら極力手を抜かずに遊ぶ。だが、相手は女だ。体力の底をつくのは相手が早い。そ、こ、で、女扱いするんだ。例えばさりげなく水を渡すとか。わざと近くに座って『大丈夫?』とか声をかけるとか。隠キャな女は外出の機会が少ない。何かの口実で外に出たらメイクとかファッションとか。そこらへんを可愛い。ってほめてやるとか。自分が女性であることを思い出させるような行動を取る」

「レベルたけーぞ。ソレ」

「高くない。お前らがやってないだけだ。そこまで行ったら次は、相手にキスしても許されるかどうかの関係を図る」


 あっ。キスって単語だけでボブの顔が赤くなってるぞ。僕? 触れるな。


「き、キスしても許される関係って、一体……」


 確信に迫る僕たち。キスってなんなんだ。キスって甘酸っぱいっていうけれど、キスが許される関係って何? そういう甘酸っぱい匂いが女性からするの? その匂いって使ってるシャンプーや石鹸で違うの? ねぇねぇねぇねぇねぇ。教えてよ! ミヤ先生。あぁぁぁ。もう、服を引っ張るなよダイス。今、良いところなんだよ。お前みたいな小児性愛対象に僕たちは興味ないって。だーかーらー。服引っ張るのやめろって。


「く、く、クシマ」

「なんなんだよ。今、大人の話してんだよ。ガキは引っ込んでろって」

「ち、ち、違うよぉ。クシマぁあああ」

「だから、なんなんだって」

「いるの」

「何がだよ」

「お、お、お」

「お?」

「オルカブツがああああああ」


 僕たちはダイスが指さしたところを見る。するとそこにはミヤの話を必死にメモを取りながら聞いている黒い三頭身の鳥。オルカブツがそこにいた。

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