情報 いかがですか 2回目

「わーい! ふわっふわのベットだぁ」


 ベットの中にダイブし、枕に頬づりしているボブ。しかし、次の瞬間ベットの足が折れてしまいズシンと床へ沈んでしまった。


「べ、ベッドがあああああああ!」


 仕方ない。体重100キロのダイブはベットの酷だ。この世界で体重100キロの耐久検査なんてできるわけないでしょ。まったく。


「この宿、気に入ってくれたかな?」

「気に入るも気に入らないもないって。ベットが、ベットがあああああああ」


 泣きむせぶボブだが、あれは気味が悪い。君がダイブするなんてこの宿サイドだって考えてないんだから。

 宿ね、気に入ったかどうか。って言えば、僕らの予想を大きく超えるグレードだよ。良い意味で。

 ベットは人数分あるし、おもてなし用の飲み物まで用意している。頼めば三食用意してくれるんだって。いやぁ、至れり尽くせり。


「彼女、パーティーでの役職は金庫番って言ってたからね。まぁ、この宿は合格点かな?」


 そう言いながらミヤは壁にかかっている絵画を見始める。

 おいおい。このレベルで合格点なのかよ。どんだけ最低点が高いんだよ。


「なぁ、クッシー。ミヤが口説いた女って誰なんだ?」


 たかちーがボソッと聞いてきた。


「ほら、冒険者職安所ギルドで言っていたじゃん。なんとかっていう有名なパーティー」

「知らない」

「うん。僕だってよく覚えていない。だけど、すげぇパーティらしくてさ。ミヤが落としたのはそこの金庫番の女」

「はぁ? じゃぁ、そのなんとか。っていうパーティーの女がミヤに落とされたんだよ」

「だーかーらー。そこの女金庫番がパーティーのリーダーに突き飛ばされてアイツが介抱してやったんだよ。その瞬間、彼女はフォーリーンラーブ」


 僕は巻き舌で最後を強調してみる。たかちーは僕の説明に納得してくれたようだ。


「へぇ。じゃぁ、金じゃなくて宿を貢がせたんだ」

「ちげぇよ。ミヤは宿の」


 たかちーは特に驚く様子はない。僕だって驚かない。だって、京都城みやこのじょうさんじゃないですか。彼ならそれぐらいできるって。


「ね、言ったでしょう? ミヤの能力ギフトは魅了し貢がせるって」


 このダメ妖精は胸を張って話を始めた。


「んなもん、ギフトでもなんでもねぇよ。ミヤは五股してるし、本命はバリバリキャリア官僚でその女官僚のヒモをやってんだよ。これぐれぇミヤ様には造作もねぇよ」

「クッシー、その言い方だと俺が悪者みたいじゃない?」

「事実だろ?」

「違うって。五股じゃなくて同時に五人の女の人を愛してしまっただけ。クッシーが言ってる本命だって、彼女が援助する。って自発的に言ったからその好意に甘んじてるだけだ。それの何が問題で?」


 問題ありありさ。知ってるよ? 僕は。君は五人の他に食い散らかしている女の子がいることをねぇ。君は、少しでも君に好意のある人をすぐに食べるんだから。


「で、クッシーから聞いたけど、この宿はいつまで使えるのさ」

「うーん。おそらく彼女のパーティー。アザゼルがオルカブツを討伐するまで。それ以降は別の町に移動するみたいだ」

「へぇ。じゃぁ、金は? どれぐらい金を手に入れたのさ」


 ミヤはテーブルの上を顎でしゃくった。そこには布地の袋があって、中には金貨だか銀貨だか紙幣だかが色々と入っている。

 円で生活している僕たちは全く理解ができなくてね。ここは仕方なくダイス先生にご教授いただいた。

 まぁ、簡単に言うと金庫番の女がミヤに渡した金は一人の成人男性が一ヶ月生活するには十分の金額。まぁ、ここには大人が四名いるから一ヶ月持つかはわからないけどな。で、肝心の港湾都市リッテへの四人分の運賃については明言を避けやがった。

 多分、行けるんだろうけれど冒険者ギルドのマスターに「こいつらに討伐させるから!」って言った以上引くに引けねぇんだろうな。

 関係ねぇよ。そんなこと。

 僕は明日にでもこの町を出たい。さっさと町を出て終わりの女神 アルラトゥとかいう奴にあって帰らなければいけないんだ。

 「こんな町に長くいられるか。もらえるもんもらってとっととズラかるぞ」って言ったんだけど、ミヤの反応は予想外のものだった。


「俺たちは、しばらく逗留したほうがいい」

「はぁ? なんでだよ」

「俺たちは、彼女から金をもらった」


 予想外だ。君は金一つで女に愛情を注ぐタイプの人間かい?


「今はタイミングが悪い。金をもらってすぐにトンズラをしてしまえば相手は騙された! ってすぐに思う」

「あ、確かにぃ」


 泣きはらした顔でボブは会話に加わった。


「意外とあぁいう手堅い女は男が離れていくのを嫌う。離れられた。逃げられた。という事実が彼女のプライドが傷つける。あとは本能さ。自分のプライドを守るために、自分は傷つけられた。あの男は最低最悪。そういう体で話を流す。あくまでも自分は被害者。これだけは崩さない」


 うわぁ。なんとなく想像がつく。


「例えどんなにバカみたいな落ち度があったとしても『えぇ〜。かわいそう! ●●ちゃん悪くない』っていう流れになって話が広がっていく。話が拡散していくと、俺や俺の周りの人間に警戒心を持つ。この世界では俺たちに逃げ場はない。逃げ場はない以上、生きるために他人の援助は必須。だから、警戒だけはされないようにふるまわなくちゃいけない」

「じゃじゃじゃじゃ、じゃぁ、どうすればいいんだよぉ」

「俺たちは逗留するしかない。幸いオルカブツ討伐っていう目標を互いに持っている。オルカブツ討伐の為に必死になって努力している姿を見せとけば、彼女は『手伝えることないかな?』って助けの手を差し出してくる。しばらくは彼女の善意に甘えよう」

「バレる可能性は?」

「否定しない。だが、彼女は金庫番だ。自分の不正は知られたくないだろう。そこらへんの数字を弄っているはずさ」

「なるほど、なるほどぉ」

「つまり、俺たちはオルカブツ討伐を目標に掲げ、彼女のそばにいる限り、彼女の懐にある金を引き出すことができる。俺たちがトンズラするのは、この町にもう二度と用はない。と断言できるまでいったときだ」


 ミヤ、僕は思ったよ。お前ってやっぱり女関係は最低だな。


「じゃじゃじゃじゃじゃぁさぁ、仮に彼女が僕たちに金を渡してくれなくなったらどうするの?」

「もちろん、それで俺たちの関係は終わり。俺たちは関係を綺麗さっぱり終わらせる為、彼女の不正を、彼女のパーティーにコッソリお知らせするんだよ。あなた、金庫帳簿見たことありますか? って。そしたらまぁ。プライドの高い女だ。男に貢いでました。なんて言えない。言葉を引き出すには時間がかかるだろうよ。まぁ、パーティーから脱退は確実。その時はもう被害者ヅラできないしな」


 本当にミヤ、お前ってクソだよ。


「お、お金はそこまでにして。ミヤ、彼女のパーティー。アザゼルは参加しているの?」

「参加している。そのことももいくつかの情報を仕入れてきた」


 さっすがミヤ! 取れるものは借金以外根こそぎ取る。転職は借金取りじゃねぇか?

 で妖鳥オルカブツとは、こんなものらしい。


 ・妖鳥 オルカブツは集団で生活していた普通の鳥の名前。けれども、ある一羽の個性が強く共食いをして妖鳥 オルカブツとなった。

 ・オツカブツは雑食。人間も動物も植物も自分が美味しいと思ったものはなんでも食べる。

 ・活動は夜。時折変な匂いを撒き散らして千鳥足で歩いている。

 ・注意。オルカブツと似た鳥でエンタルゥーという鳥がいる。


 うーん。イメージがわかない。


「あと、これは別情報だけど」


 なるほどなるほど。そのアザゼル以外に肉体的接触を図ったんだね。


「オルカブツ討伐。どのパーティーが討伐するかのブックメーカーの予想だと、金庫番の彼女がいるアザゼルが一番人気だ」

「じゃぁ、私たちは?」

「ん? 俺たち? 入ってるわけないじゃん」


 ミヤは肩をすくめて言った。っつーか、賭けまでするのかよ。やれ誰が一番人気、どれが目玉。お前たちが賭けの対象にしているのは馬じゃねぇ。人間なんだぞ。最低すぎるだろ。本当に

 プリプリと怒る僕と対照的にあのクソ妖精はほっと胸をなでおろしている。


「あー。なら良かったわ。あんたたちの名前が売れてしまったら、自分の知名度アップの為に寄り付く妖精が多くなるもの。私、そんな妖精大嫌い。私は、あんたたちをアルラトゥ様の元へ一人で連れていくの。その邪魔は誰もさせない! 手柄は私のものってきまってんだからね!」


 あー。名前早く売れねぇかなぁ。

 こんな妖精より、僕もっとマトモな妖精と旅をしたーい!

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