情報 いかがですか 1回目
かくして、僕たちは妖鳥 オルカブツ討伐に参加することとなった。いや、参加って言っても僕は自発的に参加するとは一言も言ってない。そこにいる金にがめつい妖精が全て悪い。誰の許可も得ずに「はい! 参加ぁ!」と言って崩し的に参加することになったのだから。
だから僕は仕方なくサインうぃただけなんだ。。
やっちまった悲しみで外に出ると、優しい友人たちが僕を待っていた。
「玖島」
穏やかな表情で声をかけてくれたのはミヤ。
僕を抱きしめるように両手を広げると、
「この馬鹿野郎!」
ストレートパンチが僕の右ほほを穿った。痛ぇよ。
「何勝手に決めってんだよ! ダァホ」
ミヤの背後に隠れていたたかちーが飛び出した。そのまま肋骨目掛けて飛び膝蹴り。
やめて! 僕の肋骨がフレキシブル肋骨になっちゃうううう。
「くーしーまー」
最後に現れたのは、僕の大学が誇るパワーファイター。百人乗ったらイ●バ物置崩壊確約済み。その男の名前は、信岡あああああ。
「やっていいことと悪いことがあるでしょおおおお」
ボブはゆっさゆっさと助走をつけて、そのままジャーンプ。すごーい。100kgを超えてもその跳躍力。これぞ跳べるデブ。ってか!
というか、ボブやめろ。お前の百貫プレスは命に関わる!ぐぇぇ。
僕は殴られ 蹴られ 押しつぶされ。散々だよ。友人達による一方的且つ非人道的な暴力行為をダイスは止めれば良いものの、「戦う男の姿ってかっこいいよねぇ」とかほざいている。馬鹿野郎。もとはといえば、てめぇのせいだよ。
「血と汗で語り合う男の姿。まさしく雄姿!」
「ふっ、ふざけんな。ダイスゥゥゥ、てめぇ、てめぇぇぇぇぇぇ!」
「玖島、お前は反省しろ!」
「たかちー、ひゃっ。ひゃめてぇぇぇぇぇ。たまぁ、たまはぁぁぁぁぁ」
肉体言語で語り合った僕たちを見て、周りの人はこれはいけないと思ったんだろうね。誰かが兵士にチクってくれた。兵士たちがわらわらと集まると、ミヤ達は「やべっ」と言って僕を置いて逃げ出した。
僕は兵士に「何があったのか」としつこく尋問されるしで大変。適当に話を言って解放された。
幸い、僕は「怖かったですぅ。怖くて怖くて」と涙ながらに語ることで股間の濡れ跡は不問になった。なんで乾かねぇんかなぁ。コレ。
僕が兵士に解放されるのを見るや否ややってきたよ。クズ達は。何事もなかったかのように合流してさ。
というか、兵士さーん。あんた達の目は節穴ですか? このクズですよ。クズ。このクズが僕に暴行を加えたんです。問い詰めるんならこいつらを問い詰めてくださいよ! 本当にいいいいい。
「クシマ、本当に何してるのよ。リアクションがオーバーよ」
「ダイス、てめぇなぁぁぁ」
「もぉー。終わったことじゃない。いつまでもグチグチ言わないの」
「はぁ? 僕だってグチグチ言いたくねぇよ。お前が勝手にオルカブツ討伐を受注するからこんなことになったんだろ?」
「そうそう。そのこと。今さっきみんなと話してたんだけどね。私、クシマのギフトわかったかも!」
「あ? それじゃねぇよ。僕が聞きたい言葉は。僕を置き去りにしてごめんなさい。だろ。先にくる言葉は」
ダイスはおかしな方向を向いて「あれぇ?」とか言いやがる。
僕は本気でムカついた。思わず叫んでしまったよ。
「兵士さああああん! こいつです。コイツが僕に暴行を加えた主犯の妖精でぇぇす:
僕が叫ぶとダイスはミヤの後ろに隠れた。物々しい足音に気づくと、ミヤは僕のみぞおちに深い一発を叩きこんだ。僕は不本意のまま路地裏に引きずられてしまった。
「クシマ、黙って聞きなさい。あんたの能力は話術。あんた、冒険者ギルドでデタラメ話したでしょ?」
何言ってんだ? こいつ。当たり前だよ。デタラメだよ。誰が僕の顔を見て震えがくるんだよ。今の僕の姿を見てみんなが思うのは嫌悪だけだよ。
「だけどね、あの時あの場所であなたが話す姿には妙な説得力があったの。違う。って頭でわかっていても、そうだ。って事実に塗り変わっていく。抗えば抗うほどに、私たちはあんたの話しに引き込まれていく。どんなに頭のおかしい話であっても、なぜか認めてしまう。理由なんかない。この結果はもうナンム様から与えられたギフトとしか考えられないのよ」
「何それぇ。面白い。確かにぃ、クッシーの話って作り話が9割でしょぉ? でも、面白いから最後まで聞いちゃうんだよねぇ。それに、魔法みたいな説得力ぅ? があったら……。ヒヒッ。そりゃぁお手上げだ。僕たちだって手の打ちようがない」
ボブ、なんでそこは嬉しそうなんだよ。やめろよ。照れるじゃないか。ほんわかとしたボブと僕の間に、この妖精は空気を読まずに入ってくる。
「言っとくけどね、ボブ。あんたの能力はわからないわ。与えられているはずなのに」
ダイスはボブの鼻に指を押し当てた。
「んー? この世界にやってきた人間はみんなギフトをもらえるのかいぃ?」
「そうよ。例外なくネ。魔王討伐を決めた人には有能な能力を。そうではない人間にはゴミの能力を」
おい、お前、僕のギフトをゴミって言うのかよ。
「アンタもよ。タカチホ」
ダイスはタカチホって言いにくいんだろうなぁ。アクセントがおかしい。たかちーの側に近寄り
「アンタにもギフトがあるはず。アンタ自身じゃなくて、私のカンだと、その奇妙な機械にーー」
死んでも離さないデジカムに触ってしまった。
「触んじゃねぇよ、このクソジャリがあああああああああ」
「ひぃん!」
存在感が薄い男が切れた。たかちーの地雷その一。たかちーの許可なくデジカムに触れること。
たかちーは普通の人が思っている以上に機械愛が強い。うちのサークルで埃かぶっていたこの旧式デジカムを真っ先に見つけたのは、たかちーだし、サークル費の大半を僕らの許可なく勝手に関連商品購入に宛てている。
愛情が強すぎてたかちーはこのデジカムを気安く他人に触らせないし、バカな人間がデジカムのことで、たかちーに絡むとみんな決まって泣いて帰る。
新歓コンパの時だって、酒に酔った可愛い女の子が「そのレトロなカメラなんですかぁ?」と声をかけた時、あいつ酷かったもんなー。ミヤがいなかったら大変なことになってた。
それぐらいたかちーのこのデジカム愛はすごい。
「何勝手にこのデジカムに触ってんだよ。オメェんとこのクソ女神がよぉ、俺たちをここに連れてきてからこのデジカムの調子が悪ぃんだよ!」
そして、切れた時のたかちーは誰よりも口が汚い。
「あぁ? わかってんのか? このデジカムは普通んじゃねぇんだよ。それが動かない。どう落とし前つけてくれんだ? あぁん?」
「た、タカチホ。わ、私は、多分だけどーー」
「あ? 多分なんだ? 弁償してくれんのか? 俺の! 大切な! デジカムを! 傷もんにした デジカムをよおおおおお。なんだ?
「せ、せげん……」
「てめぇみたいなクソジャリは児ポ法抵触のクソ野郎にしか需要がねぇんだよ。そんなクソみたいな金で俺のデジカムを汚すのか? あ゛あ゛?」
たかちーの怒りにダイスの心はポキッと折れた。怖さのあまりミヤのシャツの中で号泣している。高千穂さん、あなた大人げないよ。
たかちーも落ち着きを取り戻したことで、再びギフトの話に戻る。
「最後だけど、ミヤのギフトは簡単よ」
「俺?」
残されたのはミヤ。ミヤに関しては僕でもそのギフトがわかった。
「ミヤ、ちょっとあの女と話しておいて」
あの女とは、建物の影からチラッチラッとこっちを見ている人物だ。
確か、冒険者ギルドで突き飛ばされてミヤに介抱されていた奴だ。
「私のカンが正しければ、あの女は貴方の思うがままよ」
「思うがまま、ってなんだい?」
「言葉通り。貴方が願っていることを可能な限り尽くしてくれるのよ」
つまり、ミヤが頼みごとをしたらなんでも叶えてくれるってことか。そうとわかれば僕たちも協力しなきゃ。ダイスのカンが正しいことを証明しなければならない! あぁ僕って本当に友達思い。
「ぼ、僕のズボンを買ってくれよおおおお」
「ミヤ、女に金を用意させろ」
「じゃ、じゃじゃじゃじゃじゃじゃあ、ぼ、僕はリッチな宿に泊まりたいぃよぉ」
「黙れよボブ。宿より僕の服に決まってんだろ。やだよぉぉ。もうこれ以上人から白い目で見られるの」
「玖島、お前本当にバカだなぁ。金さえあえればお前の服も宿も手に入るんだよ。服や宿より金をせしめるのが先だって」
「だーかーらー。宿を外すなって。夜になったらどうなるかわかんないんだよぉ。金を手に入れたら宿だってぇ。リッチな宿と人間の回復力は比例するんだよぉ」
「ボブ、お前なぁ僕のプライドを考えろよ」
僕たちの激しい議論をミヤは涼やかな顔で聞いていた。彼は友達思いだからね。ミヤは僕たちの願いを「お前ら、クズだな」とだけ返すと本当にあの女のところへ言ってしまった。
「アンタ達、少なくてもオルカブツの情報を仕入れろとか言わないの?」
「ばーか。んなもん後回しでいいんだよ。僕たちに必要なのは、衣食住に決まってんだろ」
全く。妖精ってのはそういうのがわかってないんだから。
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