冒険者ギルド いかがですか? 1回目

「兎に角、ヨクルトの町から次の目的地を決めないとね」


 そういうと、ダイスは文字通りダイスサイコロに姿を変えた。


「良い? そこにある1~6の目があるでしょう? 出た目が次の目的地よ。さぁ、心して振りなさい」


 僕の手に転がったダイス。僕はみんなの顔を見ると、勢いよく今までの鬱憤を込めて地面に叩きつけた。

 ダイスは地面を跳ね返り、厭味ったらしく僕の顎にクリティカルヒット。そして、地面に出た目は


 4


「4」

「4ってなんか不気味だよねぇ。死。みたいな……」


 やめろよボブ。そんな不吉なことを言うの。

 ダイスはサイコロの姿から妖精の姿に戻った。鼻血を流している。そんな彼女を見て、なんとなく自分が大人げないなぁ。もっと優しく上に振ればよかったなぁと思ったよ。


「4の目……ね、4の目は……港湾都市 リッテね」


 ダイスの魔法だろうか。宙に指で文字を書くと、キラキラと光が弾け飛び、中からペラッペラなもんが飛び出した。


「うわあああ! 羊皮紙じゃないのぉ! これぇぇぇ」

「私が勝手に行先を決めている。って思われるのもイヤだから、コレが証拠よ。ほら、ここにリッテって書いてるでしょう?」

「……」


 僕たちは沈黙した。書いている文字がグチャグチャでミミズみてぇな形をしている。読めねぇよ。全く。


「だ、ダイス? リッテの町はどうやって行くんだい?」


 ミヤの声にダイスの顔色がコロッと変わる。クソッ。コイツはやっぱりメスかよ。


「まぁ、馬車でしょうね」

「馬車ぁ?!」

「いいじゃん、いいじゃーん! なんか日本らしくない。ヨーロッパって感じじゃない?」


 ミヤが本気で喜んでいる。良いねぇ。イケメンの爽やかな笑顔って。


「で、どれぐらいかかるんだい?」

「そうねぇ。あんた達の時間換算だと18時間ぐらいかな? 途中馬の交代とかで他の町にも寄るけど。それでも少なく見積もって18時間よ」


 嘘だろ。マジかよ。皆の顔が引きつっている。っつーか18時間座りっぱなしかよ。痔持ちにはきついぞ。


「それに、四人分の料金が……」

「はぁ? お金取るのかよ」

「当たり前でしょ。誰が18時間、タダで馬車に乗せるのよ。魔王を倒さないゴミのくせに偉そうなことを言ってんじゃないわよ」

「おま、おま……。なんていう選択肢を引いたんだよ! このバカアアアアア!」


 やめろ! ミヤ。殴るな。俺のナイスでキュートな天パを引っ張るな!

 ぼ、ボブ! 首を絞めるな。たかちーも!ボディはやめて。ぐ、苦じいがらぁ。




 僕はひどい目にあった。男同士、熱い殴り合いの後、一度冷静になる。

 金って、言うけれど、僕たちは無一文でこの世界にやってきたんだぞ。なんだよ。どうやって金を捻出するんだよ。あれか? 身体か? 僕たちの清らかな体を使って金を稼ぐしかねぇのかよ。俺やミヤは引手数多だとしてもだな、ボブはねぇだろ。ボブは。あいつ、100キロ越えてるんだぞ。ちょっとした場所でもすぐに眼鏡が曇るようなヤツなんだぞ。あんな奴の体、食用以外に何の価値があるんだよ。

 誰の体を売るかを真剣に考えている時、このダメ妖精ダイスが口を開いた。


「まぁ、とりあえずオーソドックスだけど冒険者ギルドに行きましょうか」

「冒険者ギルドぉ?」


 ダイスにつられて僕たちは仕方なくヨクルトの町を歩く。時折、ミヤに黄色い声が飛ぶ。僕には「恥知らず」って声が飛ぶ。なんだよ。ちょっと股間が濡れてるだけだろぉ。大げさなんだよ。みんな。


「冒険者ギルドって、実在したんだ」

「まぁね」


 たかちーの疑問にダイスは答えた。


「ギルドって中世から近世にかけてできた職業別組合だろ。冒険者ギルドってファンタジー的だけど、ギルドは元々独占的。排他的なもの。そんなギルドがほいほいと第三者を受け入れるっていうのがなんかしっくりこないんだよ」


 たかちーはボブと同じ史学部在籍で歴史学科。歴史は好きだからこういう重箱のスミをつつくようなことを空気を読まずにするんだよなぁ。


「たかちーが言うのは最もよ。というか、よく聞く話。私たちもギルドっていう概念は無かったの。でも、異世界人が『ギルドってかっこよくない?』みたいなノリで出来たのが冒険者ギルド。だから、あなた達の世界のギルドとここのギルドが違うのは当り前よ」

「へぇ、意外とお前と知識を持ってるんだな」

「そりゃそうよ。沢山の異世界人と一緒に旅をしたからね」

「ふぅん。じゃぁ、旅慣れしているんだな」

「そうよ。何人もの冒険者が私との別れを悲しんで『ダイスと別れたくない』『一緒に旅をしたい』って縋りつくのは日常茶飯事。別離の言葉なんて聞き飽きたわ」

「ふーん」

「まぁ、私に魅力があるのは仕方がないし。将来有望っても言われているから。それぐらいの誉め言葉は大したことはないわ」

「へー」

「あんたたち、良かったわね。私と旅ができて。私と一緒なら、アルラトゥ様の元へ行くことは約束されているようなものよ」


 何言ってんだ? こいつ。

 そうこうしているうちに、僕たちは居酒屋みたいな場所 俗にいう冒険者ギルドに到着した。

 扉を開けると、そこには僕たちみたいな『異世界人』と呼ばれる人間がそこらへんにゴロゴロいる。みんな、エルフだ、ドワーフだ、ファンタジーめいた人を沢山従えている。彼らの格好は僕たちと違い、強そうな剣やら盾やらを持ってる。すげぇ。多分、彼らが魔王を倒す人なんだろうね。ご立派ご立派。


「お、ダイスじゃねぇか。久しぶり」


 そう声をかけたのはカウンターにいる髭を蓄えた爺さんだ。


「久しぶり。マスター」

「お前、また新しい異世界人と旅をしてるんか? つい先日も別の異世界人と一緒だったじゃねぇか」

「そ、そうだったかしら?」


 声裏返ってるぞ。こいつ。


「っつーか、お前何組目だよ。異世界人と旅するの。いい加減、異世界人の一人や二人、アルラトゥ様の元に連れて行けよ。そうじゃねぇとお前万年平妖精のままだぞ」

「ま、マスター。マスターが知らないだけで私は海千山千。もう数えきれない異世界人をね――」

「お前、いっつもそう言うけどよぉ、異世界人をこの町から他の町に連れ出した事ねぇじゃねぇか。おまけに異世界人から技術も盗めてねぇし」

「ほ、ほらぁ。他の異世界人は軟弱だったから。こ、今回は違うわよ。今回は!」

「言ってもよぉ。前回はひどかったぜ。お前、異世界人を置いて逃げ出したんだろ? 『ダイスと別れて旅なんてできない! 別れたらだめだ!』『一緒に旅をするって言ったのに! 置いていかないで』って断末魔、この町じゃ有名だぞ」


 なんか聞いたぞ。そのセリフ。


「マスター?」

「ちょ、ちょっと! 何よクシマ! あっちに行ってて!」

「僕ですねぇ、このダイスちゃんの口から聞いたんだけどねぇ」

「や、やめてよ! こ、こぉらぁ! 人の頭を突くなってって。あぁ! クシマ! お願い! ちょっ、やめ、やめ、やめてえええええ」

「他の異世界人は『ダイスと別れたくない』『一緒に旅をしたい』って縋りながら別離の言葉を言ったって聞いたんですけどぉ」

「イヤアアアアアアアアア」

「なんだそりゃ? 別離っちゅーか、永久の別れだろ?」

「つーまーり?」

「あぁ。こいつと旅する奴はみんなこの町周辺で死ぬんだ」

「アアアアアアアアアアアア!」


 ダイスが地面に落ちる。

 僕たちの冷ややかな視線。騙しやがったな! この平妖精め!

 こうして僕たちとダイスは生き物としてのレベルはそう変わらないことを知るのでした。

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