ヨクルトの町 いかがですか? 2回目
「あんた達、本当に何してんのか分かってんの?」
前略 お母様。僕は大学に進学して念願の自主制作映画を作れると思ったら異世界にやって来て、クソうるさいメス妖精から説教を受けてます。
「恥ずかしいったらありゃしない。ナンム様の依頼じゃなきゃあんた達と旅なんかしたくないわよ」
「僕だって、別にお前について来いとか依頼した訳じゃないぜぇ。あの
「良いこと? あんた達はナンム様の部屋で何を言ったか覚えてる? 元の世界帰るためにアルラトゥ様に会いたい。って言ったでしょ?」
「そうだよぉ!」
「じゃぁ、なんで魔王を倒すって選択肢は選ばなかったのよ」
「そりゃぁ、決まってるだろぉ。僕はだね、別に魔王に恨みもないし、魔王を倒さなきゃいけない義理もない。この世界に対してだ。義理も人情もない。っつーか、恨みしかない。僕たちはこれから映画制作に忙しくなるの! それなのに、こーんな馬鹿みたいな場所に連れてこられてさぁ! 君ぃ、わかるかい? こういうことをね、拉致って言うの。犯罪だよ。犯罪! 今頃僕達の家族は、安否を気にして警察に被害届をだしているはずだ。お母ああああああさん。僕たちは今、クソない世界にいまあああああす。早く、弁護士を雇ってこの世界から助けて下さああああああい」
怒り心頭。弁護士を雇って今すぐ訴えてやりたいぐらいさ。あぁそうさ。僕以外にも被害者がいるんだ。
「女の子のレベルも高くないしねぇ」
流石ミヤ。彼のお眼鏡にかなう女はこの世界にはいない。
「美味しい食べ物にも出会えてないなぁ」
ボブ、僕たちは何も食ってないだろ。てめぇはカスミでも食ってろ。太いんだから。
「うーん。僕は魔王を倒すよりこの世界の風景や動物を撮影する時間に使いたいなぁ」
うんじゃぁ、今撮れよ。たかちー。てめぇのビデオは飾りか?
まぁ、でもいいや。僕ぁ安心した。みんな気持ちは一緒だ。魔王を倒すつもりはない。というか、見返りもないじゃんかよぉ。倒したところで。
「あっっきれた」
現地人が呆れても僕たちは呆れられる道理はないんだがね。
「もうヨクルトの町まで来たんだからどうしようもないけど……。あのね、この際だから言っておく。あんた達、魔王を倒さないって選択肢を選ばなかった時点でこの世界では詰んだわ」
「は?」
「この町、よーくみなさい」
ダイスに言われて僕たちは町の周囲を見る。異世界と言えば中世ヨーロッパを連想させる街並みが主流だが、この世界は違う。中世ヨーロッパより近い。昭和初期ぐらいの技術で町は作られていた。
「この世界はね、異世界の人達の知恵によって発展してきたの。その背景にいるのが魔王よ」
「はぁ?」
「順を追って説明するわ」
いや、最初からそうしろよ。わっかんねぇだろ。
「私たちは普通に生活していたの。私たち妖精も人間も、たくさんの神様に感謝しながら生活していたの。でも、そんな生活の中で人間の中からありえない能力を持った人物が生まれたわ」
まさに僕のようじゃないか。こう見えても僕はね、高校の時はケンカに明け暮れていたんだ。ケンカのセンスは誰よりもある。当時の番長は新入生の僕を見てビビっていたねぇ。小便漏らしながら「許してください」って言ったんだ。いやぁ、わかる。その人物。特別な人間っていうのは大変なのさ。
「人間はその人物を中心に集まり、神への信仰を忘れていった。信仰こそが存在意義の神にとって、その人間が現れたことは大きな脅威になる。だから、神様はその人間を魔王と名指しして糾弾をし、迫害対象にしたの」
「じゃぁ、あの女が言ってた魔王っていうのは、その人物のことかよぉ?」
「えぇ、そうよ。神は魔王を敵視すれど自分の手で殺すつもりはない。でも、倒さなければならないとは思っている。だから、その兵士として異世界の迷える魂をこの世界に引き込んできたのよ」
はっはーん。なるほどねぇ。
ハイリスクローリターンに神様だってチャレンジしたくない。だから、いつでも使い捨てられる僕たちのような異世界人を引き摺り込み魔王退治に行かせた。
いやぁ、女神様も考えがすんばらしい。
僕が言うのもなんだけど、本当にクズだよ。あの
「魔王は、自分の身を守るために粉骨砕身って言うのかしら? 身を削って異世界人を返り討ちにしていったの。そんな彼の姿を見てね、ここの人達は心を打たれたわ。なんとか魔王を守ろう。そう躍起になってね」
おうおう。神様の反逆ってやつか? かくいう僕も高校時代に神様(教師)に反逆したさ。反逆の結果赤点を貰ったわけだがね。
「一つ言っておくけれど、私たちみんなが神様に歯向かおうとしているわけじゃないの。ほとんどの人は、魔王VS異世界人 この構図に商機を見出したわ!」
エグイ。
「魔王を倒すために、異世界人に武器を売る。異世界人に沢山武器を買ってもらうために、魔王側の人達にわざと負けてもらうようにお願いしているの。それに、異世界人は私たちの知らない知識をたーくさん持ってるし! その知識をたくさんもらって新しい武器を作って、異世界人に売って。私たちは多くの知識をもとに独自に発展していったのよ!」
「……」
あ、ボブは何かを察した。顔が死んでる。
「つ、ま、り! 魔王を倒すって選択をしてもらわないと武器は買ってもらえないし! 武器を買ったことを口実に異世界人に近づかなきゃ知識も引き出せない。つまり、私たちにとってそのまま現地に帰る。っていうのは、私たちの武器を買わない。情報を与えない。って意味になるの。そういう異世界人って、この世界じゃ何の役にも立たないじゃない。クズ、ゴミ、クソ。唾棄すべき存在。ウ●コ製造機。そう呼ばれて誰も相手にしないのは当たり前よ」
もういいさ。わかった。この世界はア●パ●マンシステムなんだろ? ●ン●ン●ンが活躍するためにバ●キ●マンはわざと負けて、マッチポンプ式のアレ。そのマッチポンプに乗っかからない僕たちはイラナイコってなわけなんだね。
あーあー。わかったよ。いいさ。そっちがそのつもりなら、僕たちは君たちのマッチポンプを無視して元の世界に戻っていくさ! こんちくしょうめ!
「どうせ
本当に信用ならねぇなぁ。こいつ。
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