24●ラノベ残酷物語④…オッサンだって、まだラノベを卒業していない!?

24●ラノベ残酷物語④…オッサンだって、まだラノベを卒業していない!?



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 そこで、現実的な対策です。


 二十代以下の若者市場は、今後二十年は量的にしぼんでしまう運命。

 にもかかわらず、2023年の現在においても……

 ラノベのコンテストでは、「十代後半の読者のために」とか「十代~二十代に向けた」といった読者層が謳われています。


 コンテスト主宰者がいまだに「ラノベのマーケットをささえる年代層は、二十代以下の若者だ」と判断されている、ということですね。


 しかしさすがにもう、これからは無理でしょう。

 “若者向け”のラノベが衰退することは、歴史の必然と認めたうえで……


 どうすればいいのか……


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 結論から申し上げますと、こうです。


「四十代から六十代の中高年層をメインターゲットにして、三十代以下は、“ついてきてくれればラッキー”程度とする。具体的には、ラノベの表紙や体裁は若者向けとするが、中身の小説は、四十代から六十代の読者を惹きつけるものとする」


 要するに「もう、若者でなく、年寄り(四十代以上)を相手に売った方がいいでしょう」ということです。


 “若者向け”のタテマエで、ホンネは“中高年向け”に売るのです。


 以下、理由を述べていきます。


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 現在も、ラノベの読者ターゲットは頑ななまでに「二十代以下の若者」と公言されています。

 これ、いまどきもう、頑固すぎると思いますが、そうなってしまう理由も納得はできます。


 まず、この「二十代以下の若者」をメインとする根拠として……

 小説投稿サイト「小説家になろう」の登録ユーザの年齢層が大きな影響を持っているかと思います。


 「小説家になろう」の「登録ユーザの年代は、2019年4月時点で20代が44%と最も多く、以下30代が24%、10代が14%、40代が12%と続く。同じく男女比率は、男性が約6割、女性が約3割(残りは性別未登録)。」(ウィキペディアから引用)


 二十代以下が58%、およそ六割。

 残り42%のうち「30代が24%」ですから、四十代以上は18%以下となりますね。

 若者が圧倒的に多く、中高年は少ない。


 なるほど、ラノベ市場の主要年齢層は「二十代以下がメインだ」と判断していいように見えます。


 しかしこのデータ、に受けていいとは思えません。

 ある種の圧力バイアスで、歪んだものになっていると思います。


 若者の参加が多い理由としては、読むのも書くのも「タダである」ことが大きい。

 いわば無料の同人誌即売会です、コスパの良さが買われていることでしょう。

 「面白いかもしれない、とりあえず参加しておこう、タダなんだし」です。スマホに無料アプリを入れるのと同じです。膨大な作品の中から、商業出版へと“出世”する作品もありますし、過去の商業出版作品が再録されたりもします、コンテストともなれば、“推し”の作品を応援する楽しみもありますね。

 若者にとって、気軽に参加しやすいのです。


 しかし、これまでプロ作家のファンタジーやSFを大量に読み込んできた中高年層から見たら……

 「なんだ、所詮は素人のネット同人誌か」となり、言葉が悪くてすみませんが、「読む価値のない駄文の一大ゴミ捨て場」という強烈な偏見が存在することも事実。

 無料の投稿サイトに作品を上げている……とカミングアウトしようものなら、フフンと鼻で嘲笑されることが、しばしば。侘びしいなあ。

 中高年の諸氏には、小説投稿サイトなんて、いまだに、趣味としてすら、まともに受け取めていただけない方が多いのです。

 当然、参加者も少なくなりますね。


 むしろ、より実態に近く、ラノベのマーケットを推し量る材料としては……

 下記のデータが参考になりそうです。

 投稿と読者獲得に、非常に積極的な参加者様をあらわすデータになりますから。


●カクヨムのリワード(広告および読者課金収入)で利益を得た、作者ユーザーの年齢層(株式会社KADOKAWA プレスリリース 2022年11月4日 より引用)


   10~20代:32%、 30代:30%、 40~60代:38%、


 「10代の作者が5%で170人」とされているので、リワードで利益を得られた全体の人数は3400人と推定します。


 どなたも、熱意を持った意欲的な書き手であり、同時に読み手でもありますね。


 四十代以上が、およそ四割を占める。


 これが、ラノベを支える年齢層の、現実に近い姿ではないでしょうか?


 そして今後、若者は間違いなく減っていく。


 かたや、おカネをより多く持っている、お財布の中身が豊かなのも、中高年層。

 可処分所得でみれば、50代が最も豊かです。

 ちょっと古い、2014年時点の統計ですが……


●世帯主年齢階級別の等価可処分所得の年次推移

    世帯主が29歳以下:201.7万円

    世帯主が50~59歳:360.7万円

      (厚生労働省「国民生活基礎調査」より)


 ラノベを買っていただくのは、やはり中高年をメインとすべきなのでは?


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 さらに、こちらのデータにも目を向けてみましょう。


●コミックマーケット参加者の年齢層(ウィキペディアより)

「コミックマーケット公式の調査によると、参加者の年齢の中心層は中学生から30代ぐらいまでであった。にあり、2013年8月のC84サークル参加者データによると、サークル代表者の平均年齢は男性31歳、女性32歳であった」


 参加者が概ね固定されたまま、年齢が持ち上がっていく……という傾向が顕著だというのです。

 上記は十年前のデータです。平均年齢がそのまま持ち上がったら、現在は四十代に届いているでしょう。

 もっとも上記のデータは「サークル代表者」の平均年齢なので、同人誌を買う「参加者」の年齢層は、もっと若い十代二十代なのかもしれません。

 しかし2018年の下記ニュースでは、コミケ参加者の高齢化が衝撃的に報じられています。


ネットのニュース

●コミケにも高齢化の波? 出展者に聞く変化と課題

  ORICON NEWS 2018年.08.11

世界最大規模の同人誌即売会『コミックマーケット94』(C94)が10日、東京ビッグサイトで開幕した。初日の来場者は約16万人、約1万6千の一般サークルが出展した。アニメや漫画、ゲームなどを扱う同人活動というと、ある程度若いうちにハマる人が多いと思われるが、現在のコミケは世間一般の例に漏れず“高齢化”の波が押し寄せているようだ。

今や40年以上の歴史を誇るコミケだが、その出展者ブースを見渡すと意外に“大人”が多いことに気づく。東方Projectのブースを出展する40代の男女の2人組は、ともに20年以上コミケに参加。

かつて一斉を風靡した『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)で同人誌ブームが巻き起こってから、すでに20有余年。当時20代だった出展者、参加者も、いまや40代、50代を迎えている。過去には“30歳を越えたら同人は卒業”といった合言葉もあったが、現在では年齢が壁になることは少なくなったのかもしれない。


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 注目すべきは、かれらは“卒業しない”ということです。

 むしろプロのコミック作家が年齢を経て現役を引退してから参加していくので、高齢化は進む一方で出品作品の質は明らかに向上し、限りなくプロ級に迫っているわけです。


 コミケではアマとプロが錯綜し、その境界線が年々ぼやけていると思われます。

 アマとプロの区分けすら、そこでは意味がない、カオスでファジーで不可思議デカルチャーな超文化空間が生まれているということかもしれません。


 小説投稿サイトも、その傾向がみられます。

 現役を退いたプロ作家の参加。

 それが良いことか、悪いことか、是非の議論は別に置いておくとして、それが「カクヨムのリワード」という新しいカテゴリーを産み出す刺激になっているのではないかと思われます。


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 20~30年前の20世紀末あたりに、小説好きな若者のサブカルチャーを担って花開いたラノベ文化。

 20世紀末の当時、ラノベ文化を支えた20代、10代の若者たちのかなりの部分が、じつはそのまま年齢を重ねて、高齢化してきたと考えてよいのではありませんか?

 意外と多くの人が、ラノベを「卒業」せずに、「留年」を続けてきたのでは?

 もちろん現在、中高年層のオッサンなんかが、あのロリコン的セクシー美少女の表紙を纏ったラノベを、嬉しそうに書店のレジに差し出すのは、ちょっと勇気が要りますね。

 そこはそれ、救いの女神はネット通販です。

 パソコン画面でポチッとやるだけ。

 電子書籍を買って画面で読むという方法もありますし。


 20~30年昔の20世紀末、ラノベ文化華やかなりし時代にラノベファンとなった中高年層は、かならずしもラノベ文化を卒業していません。

 実態は逆に、「ラノベは10代~20代の若者が読むものだ」という固定観念によって、出版する側から門前払いされていただけ、かもしれないのです。




【次章へ続きます】


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