23●ラノベ残酷物語③…「人類とラノベは衰退しました」の時代が到来では?

23●ラノベ残酷物語③…「人類とラノベは衰退しました」の時代が到来では?



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 ここ8年で4割も減少した、文庫本のマーケット。

 基本的に文庫本で世に出るラノベにとって、まさに地獄の到来です。

 白亜紀の末、恐竜が絶滅したあの時代の予感です。

 8年で4割減、となるとあと12年で10割減、市場はゼロに? ……というほど極端ではないまでも、あと10年で6割~7割減となる恐れは十分にあります。


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 ニッポンの人口ピラミッド(2022年現在、国勢調査等 GD Freak!まとめ)を眺めてみましょう。

 ラノベのコンテストでは、「十代後半の読者のために」とか「十代~二十代に向けた」といった読者層が謳われています。


 で、人口ピラミッドの数字は……

   (データは5歳分まとめた刻みで記述されています)

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65~69歳  男性:約379万人、女性:約399万人  計778万人

60~64歳  男性:約366万人、女性:約372万人  計738万人

55~59歳  男性:約392万人、女性:約340万人  計732万人

50~54歳  男性:約476万人、女性:約467万人  計943万人

45~49歳  男性:約495万人、女性:約480万人  計975万人

40~44歳  男性:約419万人、女性:約404万人  計823万人

35~39歳  男性:約380万人、女性:約365万人  計745万人

30~34歳  男性:約340万人、女性:約322万人  計662万人

25~29歳  男性:約330万人、女性:約311万人  計641万人

20~24歳  男性:約322万人、女性:約306万人  計628万人

15~19歳  男性:約288万人、女性:約274万人  計562万人

10~14歳  男性:約279万人、女性:約265万人  計544万人

5~9歳  男性:約264万人、女性:約250万人  計514万人

0~4歳  男性:約228万人、女性:約217万人  計445万人

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これを10歳ごとに、男女を合算してまとめてみます。


60代  :1516万人

50代  :1675万人

40代  :1798万人 (いわゆる団塊ジュニア)

30代  :1407万人

20代  :1269万人

10代  :1106万人

09歳以下:1059万人


 着々と減っていきますね。

 とりわけ、団塊ジュニアの「45~49歳」と、直近に出産した「0~4歳」を比べてみると……


45~49歳  男性:約495万人、女性:約480万人  計975万人

0~4歳  男性:約228万人、女性:約217万人  計445万人


 なんと半減以下です。

 少子化の影響、モロですね。人口数がこのまま持ち上がれば……

 今は1269万人いる20代の人口が、20年後には1059万人、つまり2割減となります。


 出版科学研究所のデータを振り返ると、文庫本の推定販売金額が……

      2006年:1416億円

      2021年:831億円

 15年で4割減です。

 今や、文庫ラノベの売り上げは危機的なものがあるでしょう。

 今からさらに二割も読者人口が減ったら、いよいよ壊滅的ではないかと。


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ニッポンの若者人口減少をあらわす最近の記事。


ネットのニュース

●私立大の新設を抑制へ、少子化で「定員割れ」相次ぎ…学生確保の見通しを厳格に審査

2023 4/4(火) 5:00配信 読売新聞オンライン

文部科学省は、私立大学を新設する際の審査を厳しくし、大学全体の規模を抑制する方針を決めた。少子化の進展で入学者数が入学定員を下回る「定員割れ」大学が増えていることから、学生確保の見通しを客観的なデータや分析で示すことを大学に義務づけた。

同省の大学設置・学校法人審議会はこれまで、教員体制や施設、教育課程などに法令上問題がなければ大学の新設を認可してきた。

その結果、大学は増え続け、文科省や日本私立学校振興・共済事業団によると、1992年に384校だった私大は、2022年に620校となった。一方、18し、同年5月時点の定員割れ私大は半数近くに上る。


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 おカネさえ払えば、どこかの私大に確実に進学できる時代。

 進学できないのは、おカネの無い若者だけ。

 ……というのが、この国の現実であることを物語りますね。


 こんなに大学進学が楽な社会なのに、おカネのあるなしで運命が分かれる。

 十代の少年少女の心の内は、ずいぶんと不幸になりつつあるような。

 異世界へスパッと転生してチート力をもらって無双しまくりたい気分、解らないでもありません。

 しかし、それは現実から逃避するだけではないでしょうか?

 そんな現実逃避気分を後押しするのがラノベの役割なら、それまた虚しいことではありませんか?

 本来は、18歳から手にする一票を選挙に投じて、少しずつでも、現実を変えていった方が、回り道でも近道だと思うのですが。


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 さらに加えて、地方における小学校の統廃合や、児童館や児童公園の廃止、幼児施設の減少は、ネット検索すればその深刻さが理解できます。

 一方で、TVやネットでの、高齢者向けCMの増加。

 美容、ダイエット、健康食品や健康器具などが、どうみても50代以上をターゲットとして訴求されているのが実感できます。


 若者減少と老人の増加、ソーリが「崖っぷち」と発言するまでもなく、この国から若者や、次なる若者となる子供たちが消滅しつつあります。


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 事程左様ことほどさように……

 文字通り「崖っぷち」の若者減少。

 ならば、これから十年、二十年と、現在のラノベの売上を維持することは、まず不可能。

 そうでしょう?

 ラノベ市場には、すでに死亡フラグが立ち上がっているのです。

 では、対策はどうするのか。

 急激にしぼんでゆく市場マーケットに直面する渦中で、収益を確保するには……

 それって、30年前のバブル景気の崩壊で、突然の大不況に経営が行き詰まったニッポンの企業が遭遇した、蟻地獄と同じような環境ではありませんか?

 当時の企業の対策はどうだったでしょう。


 20世紀末のバブル経済の崩壊、そのとき、ニッポンの企業はどうしたのか。

 なんとも愚かで安易な手段に走ってしまいました。

 それは、人件費の削減をメインとする冷酷なコストダウン。

 かのカルロス・G―ン氏もそうでしたが、徹底したクビキリ経営です。

 転職をあっせんする企業から、余剰人員と目される社員を自主退職に追い込むクビキリエージェントが、左前となった企業に乗り込んで、まさに魔女狩りの勢いで、スッパスッパと中高年の職業生命を斬首していったわけでして。

 他社の人間のクビを切って儲ける輩が跳梁跋扈するとは、世も末ですね。

 あ、K滅の刃のK殺隊じゃないですよ、見た目は似ているかもしれませんが。

 でもなぜか不思議なことに、不動産事業にクビ突っ込んで大損失を出したヘボ経営者はけっこう無事で、平気で会社に居座れたのですが。

 あのころ、有能な人材が続々と国内の企業を追い出されて、C国やT湾へ渡っていきました。その結果、今やGDPでC国に抜かれ、半導体など電子産業でT湾に及びもつかなくなったこと、なるほどと思います。


 ここがバブル崩壊以降の、ニッポンの「失われた30年:安い30年」を作り出した国内企業の致命的な悪癖でした。人材への投資が欧米各国に比べて、圧倒的に少なく、徹底的に削られていたのです。


 これをラノベの出版世界にあてはめると……。


 おそらく、「コンテストで売れる作品コンテンツを発掘して伸ばし、売れない作品コンテンツは続編を出さず、大胆にスパッと切る」ことになるだろうと思われます。たぶん、もう、実際にそうなっているのでは……?


 ここで、伸ばしたり切られるのが「作者」でなく「作品コンテンツ」であることがミソです。

 重要なのは「売れる作品」であって、「作者」ではないのです。

 「作者」は「作品」という製品を生産して出版社に納品する「製造業者」という認識になると思われます。

 アーティストでなくアルチザン。悪く言えば、下請け業者ですね。


 そう仮定すると、ラノベでは、「作者」が誰であっても、現在の市場環境で価値を持つのは「売れる作品」だけとなります。

 だから、作者が二作目を提案しても、編集サイドは「その新作をサイトに投稿して、再度、驚異的なPVを出して下さい。そうなれば購入しましょう」と答えた……という“怪しい噂話”が、妙に真実味を帯びてくるわけです。


 これを、さらに恐ろしく冷たく解釈すれば「作者の将来に関係なく、すぐれた作品さえ購入できればそれでよい」となります。

 そこまで出版社様がコールドに対応しておられるのかどうか、私にはわかりません。

 ここではNHKの特集番組などでレポートされた、ニッポンの「失われた30年:安い30年」における、国内一般企業の方向性をそのままあてはめてみただけです。すべて私の勝手な妄想的推論、暗澹たるディストピアの空想です。何卒お許し下さい。


 さてしかし……

 「売れる作品」を絞り込んで二十代以下の若者市場に供給していったところで、これからも毎年、市場マーケットの分母たる対象人口が着々と減っていくのですから、どう見ても焼け石に水、泥縄ビジネスの域を出ないことは明らかでしょう。

 「二十代以下の若者」をターゲットに据えている限り、お先真っ暗の蟻地獄で、いずれ万策尽きてしまうはず。如何ともしがたいのです。




【次章へ続きます】



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