09●破壊神・図書館! そして恐怖のダンジョンクエスト。

09●破壊神・図書館! そして恐怖のダンジョンクエスト。





 “オール電子本”は私たちを救うのか?


 しつこくてすみませんが、もう少し考えてみることにします。


※何度も繰り返しますが、このエッセイは筆者の個人的感想と想像にもとづくホラ話でありホラー話です。内容の信憑性に責任は持てません。想像上のSF(出版フィクション)としてお受け取り下さい。

くれぐれも本気になさらないように。


      *


 さて、ここからしばらくはファンタジーです。

 電子本の普及が拡がり、紙の本が急速に数を減らし、とうとう世界の本のすべてが電子本に入れ替わってしまった……ということになったとしましょう。

 紙の本はブラッドベリの『華氏451』以上にレアモノ化しました。

 焼かれたわけではありません。

 だれもが、紙に印刷された文字を読まなくなったのです。

 特に高齢者がそうでした。

 「字が小さくて読めない!」と放り投げたのです。

 わかります。老眼の身には、文庫本の活字ですらめんどくさいのです。

 パソコンの画面なら、拡大できますしね。

 最も革命的に変身したのは、図書館でした。

 巨費を投じて紙の本を巨大書庫に封印し、最新ピカピカの“電子図書館”に様変わりしたのです。

 すぐにできますよ、お財布は税金ですし。

 建物はなくなってクラウド化。

 電子本のデータベースとオンラインで万事オッケー。

 本の貸し出しは登録した市民へのオンライン閲覧で足ります。

 市民は自分のスマホかパソコンで図書館のホームページを訪問し、目当ての本を検索して、画面で閲覧します。

 誰でも、どこでも、いつでも、望む本が読めるようになりました。

 自宅でも通勤中でも、オンラインで電子書庫の電子本を閲覧し、貸出期間が過ぎたら閲覧機能が閉じるだけ。実物の本を持ち歩く必要もなく、簡単カンタン。

 しかもタダです。


 このシステムがオープンした日……

 この国の書店と取次店さんが絶滅しました。

 だれひとり、本屋さんで本を買うことが無くなったのです。

 同時に出版社もことごとく倒産しました。

 だれひとり、おカネを出して本を買うことが無くなったのです。

 事実上、出版産業は消え去りました。

 巨大隕石の衝突……あのジャイアント・インパクトで恐竜が絶滅したように。

 公共図書館の完全電子化は、出版産業にとって、戦後の貸本屋の廃業と、世紀末のゲーム台頭による読者減少に続く、致命的なサードインパクトになったのです。

 どうです、破壊神たる図書館、怪獣並みの威力でしょう。


 これは来世紀の話か、それとも二十年ほどすればやってくるクライシスか、それはわかりません。

 私たち読者、すなわち書籍の消費者のたゆまないニーズの追及は、“いつでも、どこでも、そしてできるだけタダで”読みたいということであり、『図書館の自由に関する宣言』、縮めて“図書館宣言”の前文第二項に示された「すべての国民は、いつでもその必要とする資料を入手し利用する権利を有する。この権利を社会的に保障することは、すなわち知る自由を保障することである。図書館は、まさにこのことに責任を負う機関である。」がついに文字通りパーペキに実現したのです。


 万能にして絶対の、公共電子図書館の完成によって。


 出版社がことごとく潰れたことによって、路頭に迷ったのは作家たちでした。

 だいたい、小説を書くしか取り柄の無いマニアックな人間が多かったからだと言われています。

 窮乏した作家たちは、自分たちが丹精込めて書き綴った作品を二束三文で図書館へ叩き売るしかありません。

 電子データの作品ですから、そのまま電子本とされ、図書館の無料貸出システムに載せられます。


 それでも作家たちは、さほど不満に感じませんでした。

 大半の作家はもともと生活が貧しく不安定であり、社会の底辺にうごめいていましたので、どうにか食べていく程度に作品が売れて、読者の反応が得られれば幸せだったのです。かれらは自分の作品をコンビニのコピー機に付加された電子製本機能で“自炊”し、図書館へ売りに出掛けました。


 しかし、このような現状に屈従するのをよしとしない英雄たちが立ち上がりました。勇気ある無名作家の男女です。

 公共電子図書館には、地上のあらゆる出版物が電子アーカイブに収められている……という定めになっていましたが、じつは意外と大量の書籍が紙の本のまま、電子化されずに、国立中央図書館のマンモス地下倉庫に眠っていることが判明したのです。要するにお役所の怠慢ですな。

 これぞ放置プレイ。

 まあ、ラノベですから、あってもなくてもどうでもいい……と考えた偉い人が多々おられたようです。

 ちょっと地味な映画作品がビデオ化されたもののDVD化されずに、世界から消え去っていくのと同じ現象ですね。


 地下に眠る、膨大な未電子の紙の本。

 書店なき今、一般大衆の目に触れることは未来永劫ありません。

 まあ大半が、“売れなかった本”ですから、もともと日の目を見ていませんが。

 そこは、まだ読める本の墓場です。無名作家の共同墓地とでもいうのか……

 “図書館宣言”に定められた、図書館の“資料収集の自由”と“資料提供の自由”を逆手にとって、図書館には“資料の収集と提供の自由を行使しない権利”もあると拡大解釈し、「勝手に本を捨ててもいい」と閣議決定だけで勝手に決めて実行した悪魔的な黒幕がいたのです。

 あらゆる資料を黒塗りの海苔弁当に変えてしまう、隠蔽の魔王。

 その名は、“資料の死霊”…ドキュメントキョンシー…。


 そして、ドキュメントキョンシーを倒すことができ、“世界の綴じ紐を解く”ことで世界をひっくり返すとされる秘本……八冊からなる“八連続のラノベ”と呼ばれる魔法書が、地下倉庫の奥底に隠されていることが判明します。


 無名作家の英雄たちは、国立中央図書館の地下倉庫へ侵入します。

 半ば崩れた超巨大書庫。何百層にもわたる、果てしない書架のダンジョン。

 ここには無数の紙の本に宿った小さな神様…すなわち紙の本の神ペーパーフェアリーの魂が浮かばれることなく、文化的死神カルチャー・グリムリーパーに没落してゆらゆらと浮遊し、不気味な魔法に支配されていました。

 ダンジョンの障害をクリアするには、ハタキをふるって襲い掛かる“店主の亡霊”をかわして決められた本を立ち読みしなくてはなりません。本を読むとその内容が3Dで具現化し、新たな世界への扉が開き、あるいは活字型の精霊騎士テングーベルクを呼び出して難関を突破できるのです。

 ただし、いかに魅力的な本に遭遇しても万引きしてはなりません。次なる難関で、盗んだ本は赤灯を回転させる白黒の魔獣に変わるのです。

 山のように重なって石灰石状の地層と化した、絶版ラノベの膨大な亡骸。

 クソゲーノベライズの谷やテンプレファンタジーの砂漠を抜けて、ついに無名作家の英雄たちは、ラスボスが控える超難関の東大王山トーダイキングスピークに到達します。

 かれらはそこで“ドグラをマグラ”し、“黒死館でヒトを殺”し、“虚無への供物”を捧げねばなりません。

 かれらの前に立ちはだかるのは、サド侯爵、ソドム将軍、金瓶梅キン・ベイバイの三大異端貴族。

 しおり形の売上スリップを魔剣に変え、栞紐しおりひもをムチに変えて、ナントカジョーンズばりに奮戦、並み居る敵を打倒した英雄たちを迎えるのは……

 18金のボールを掲げ、金色の裸体もまぶしい超絶美貌の夜叉姫、その名は“禁十八フォービダン・エイティーン”。

 しかし英雄たちの背後には、資料の死霊ドキュメントキョンシーが放った悪の特殊部隊“紙衛隊しえいたい”の精鋭がせまりつつあった……


 さてはて英雄たちは“八連続のラノベ”の秘宝を手に入れて、世界をひっくり返すことができるのだろうか!?


 わっ、また、つまらぬ脱線をしてしまいました。きっと酷暑のせいです、お許し下さい。


      *


 とにもかくにも……


 公共図書館が電子本でネット貸出を大規模に始めれば、出版市場は崩壊します。

 一般大衆読者(消費者)のニーズを追求し、それを現実化した結果……

 紙の本が滅びるばかりか、ひとつの業界が消滅の危機に陥るということなのです。


 そうなると、理屈理論の合理性ではなく、政治的かつ力関係パワープレイによるオトナの事情で、“出版社は必ず紙の本を出し、図書館は紙の本だけを貸出しし、オール電子の出版はご法度である”という鉄壁の仁義ルールを定めることになるでしょう。


 あ、これは私個人の創作的妄想ですよ。確固たるエビデンスの無い、無責任なSF(出版フィクション)です。

 虚言妄言で出版社会を乱すつもりは毛頭ありません。

 一素人である私が無人の部屋で、壁に向かってブツブツとつぶやいた独り言であることをどうかご理解下さい。


      *


 となりますと、「ラノベはオール電子でどう?」という私の思い付きは、全く実現性のない、意味のないものになります。

 しかし、少しプロセスを迂回すれば、2020年の現時点でも可能な、たったひとつの冴えないやり方とでもいうべき発想はある……と思います。


 不可能、とは言えないのです。


 具体的には……

 次章に続きます。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る