08●巨大なるお客様、図書館! その増殖のミステリー。
08●巨大なるお客様、図書館! その増殖のミステリー。
出版界に救いの女神の如く現れた“電子の本”は、書いて読む日々を送る私たちを救ってくれるのでしょうか?
考えてみましょう。
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※ご注意! ……このエッセイはあくまで筆者の“個人的な感想”でして、それ以上のものではありません。私はマーケティングの専門家ではなく、業界の内幕を深く経験した者でもありません。一素人の主観的な妄想です。真偽のほどは責任を持てません。事実ではなく、想像に基づいて書いたSF(出版フィクション)とご了解下さいますよう、お願い申し上げます。
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電子出版は不況の出版界を救うのか?
……と、私ごときが今どき騒がなくても、出版社様はとっくの昔に手を打っておられます。
ネットを探せば次々と、電子本を販売するサイトに遭遇。
実際、たちまち十、二十とヒットしますよね。
たいていここ十年以内に、雨後のタケノコのように、にょきにょきと出現したみたいです。
“電子本”を売るブックストアは、おおまかに二つに分かれます。
ひとつは、書店が運営する電子の書店です。“電子本の本屋さん”ですね。
もうひとつは、出版社が運営する電子の書店です。“出版社による電子本の直売所”ですね。
要するに運営母体が、書店(電子本専用のバーチャル書店も含む)であるか、
出版社(その関連会社も含む)であるか、という違いですね。
電子本の市場は有望です。
今を去る八年前、2012年の第17回ACEI(国際文化経済学会)国際大会における招待論文では「Born Digital と呼ばれ、初めから電子書籍 として企画・制作がなされた作品の市場が生まれること が大切である。これまでの紙の制約から自由になることにより、電子ならではの作品が数多く生まれることが期待される」とされ、「印刷書籍の 2/3 以上が電子化され、さらに Born Digital eBook の市場が誕生すれば、印刷書籍との相乗効果により書籍の利便性が高まり、国内の出版市場規模が再び 2 兆円を超える可能性についても期待ができる」というのです。〈2012 北川雅洋『電子出版の台頭により変化する出版産業の今後』より〉
結果として、出版科学研究所による2019年1~12月の出版市場は、紙と電子を合わせると1兆5432億円。2兆円にはまだ遠いのですが、減り続けてきたグラフが、何とか下げ止まりを見せてくれました。
一足飛びにはいかないまでも、書籍の電子化はいよいよ進んできた、という実感は漂いつつあるようです、
そこで私は前章で、ラノベは本の製作から販売まで、「オール電子でどう?」と申し上げました。最初から電子媒体として企画・制作がなされた、すなわちBorn Digital の電子本が理想的ではないか、ということです。
しかしこの提案には、致命的な障壁がございます。
少なくとも下記の二点が想像されます。
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ひとつは、取次店(書籍流通業者)さんや書店さんを通さない直接販売となることです。もちろん取次さんや書店から猛烈に叱られるということですね。
書籍の販売価格の分配率(取り分)は、出版社が六割(印刷費等を含む)、著者印税が一割、取次さんと書店で三割と言われます。
出版社がオール電子で出版し、読者に直接、電子媒体のまま販売しますと……
出版社にしてみれば印刷費用が削減でき、取次さんと書店が取得する“販売価格の三割”も削減することができます。計算上はウハウハに儲かる、と思われますが……
これをやると、印刷会社と取次さんと書店はカンカンに怒りますね。
こっちの立場はどうしてくれるんだ! と。
かりに法律的に問題なくても、業界の仁義として許してもらえないと思われます。
まずは“紙の本”を作って書店に流通させる。電子本を売るのは、それからにしてくれ。……そう、クギを刺されるでしょう。
事実、電子本として売られている本は、ほとんどすべて、紙の本として流通しているもののようです。まず紙の本を作ってから、電子本を作って、ネットの書店で併売しているのですね。
最初から最後まで電子本だけ……というのは、なにか特殊な事情による、極めてまれなケースではないかと思えます。確かめたわけではありませんが……
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もうひとつは、図書館の存在です。
今のところ、おもに紙の本を収蔵し、紙の本を貸し出していますね。
少し考えて、ゾッとしました。ある種の恐怖です。
図書館の持つ怪獣性、〇ジラ並みです。
公共的な図書館は2018年現在、全国に3360館。(文部科学省2018年度社会教育統計)
ここでナントカ大賞を取るような、世間に評判の本が出て、一館五冊ずつ購入したらどうでしょう。
図書館だけで1万6800冊売れることになります。
これ、出版社と書店にとって、無視できない顧客です。
ハードカバーのお高い本でも、気前よく買ってくれるからです。
お財布が税金だから。
しかも驚き、館数が年々増えている!
バブル景気の1996年度は、2396館でした。今、3360。
22年間で1.4倍に増えている!
その間、世間はずっと不況にあえいでいたのですよ。
今どき信じられない“右肩上がり”。
同じ時期に、本の市場は右肩下がりで半減したというのに!
図書館は世紀末バブルのまま、増殖し続けているのです。
なんでだろう?
ニッポンの人口は日々減っていくというのに!
これ、ミステリーです。
しかし近所で図書館が増えたという実感はありません。
そうか……人口減少→死者の増加→未成仏の幽霊の増加→幽霊が暇をつぶす図書館を増設→文部科学省はこれも統計に加えた。お役所ですから。
幽霊図書館が増えたのだ。冥途の彼方へ旅立つ前の亡霊に、道すがらの慰めとなる本を貸し出しているのであろう。あちらの世界はきっと猥褻な発禁本も、ご法度の危険思想書も、よくわからん理由で“閲覧禁止”にされた絵本とかも娑婆の法律に関係なく好き勝手に読めるのである。
いつか、ホラーのネタに使ってやろう。
それはともかく、このほかに……
大学・短大・高専の図書館:約1700館
高等学校の図書室:4887室
中学校の図書室:10222室
小学校の図書室:19738室
計、3万6547カ所もあるではないか!(2019年度)
これらの図書委員たちによからぬ催眠魔法をかけて一冊ずつ買わせ、先の公共図書館で5冊ずつ買わせた数字と併せれば……
5万冊以上、売れるではないか!
一万部売れれば御の字のご時世に、五万だゾ!
しかも、お財布は税金だし。
……とまあ、捕らぬ狸の皮算用でして、大学にも小学校にも等しく売れる本があるとは思えません。しかし、あの怪しげな経済政策ABノミクスのスカしっ屁みたいな実感のない景気の中で、力強くバブリーに増えた図書館こそ、いまや貴重なマーケットであることは確かでしょう。
それなら、本を図書館に買ってもらうのだ。どうすれば……
そうだ、図書館を舞台にするのだ!
タイトルも『図書館〇〇』として、図書館愛にあふれた本好きマニアの戦闘美少女を主人公に据え、図書館に忖度して、図書館を守って、図書館に媚びへつらって命を捧げるのだ! 本のために死ぬ殉職者も出して、その
どうだ、これで全国の図書館に買ってもらって、5万部は固いぞ、ベストセラーだ! 笠原くん!
……え、そんな感じの本、とっくの昔にあったって?
さて、それとは別に……
もう十数年は過去のこと、図書館が話題の本を一度に何冊も買って貸し出すものだから(『〇リー・〇ッター』とか)、誰も書店で買わなくなるじゃないかと本屋さんが怒り、社会問題になったことがあったと記憶しています。
これきっと、図書館vs本屋さんの元祖図書館戦争だ!
でもいつのまにか戦争は終わり、今は平和な38度線です。
そりゃそうでしょう。図書館で予約順番待ちをしてまで読む人は、何があっても絶対に、書店で正価の本を買うはずありませんって。それがポリシーなんだから。
それよりも、図書館が気前よくまとめ買いしてくれるなら、そっちの方が実利的だという結論になったということでしょう。5冊買うなら10冊どうぞ。
お財布は税金だし。
つまり本屋さんにとって、今や全国の図書館は上得意様なのです。
加えて、出版社にとっては、ベストセラーを生み出すブースターとなる、これまた上得意の読者様ということなのです、たぶん、ね。
で、図書館にぎっしり詰まっている中身はいまだ、“紙の本”。
図書館が買うのは紙の本です。
となると、最初から最後まで電子でこしらえた“オール電子本”は、図書館には相手にしてもらえません。
だから、いったんは“紙の本”を作らねばならないのです。
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リアル書店は紙の本を売るから、紙の本が必要。
図書館は紙の本を買い集めて貸し出すから、紙の本が必要。
たぶん……そういうわけで、これからも当分は、紙の本は滅びることはありません。それは確かです。
だから“オール電子本”のビジネスは成立しにくい、のでしょう。
うーむ、納得です。
しかしこれって、利便性や合理性とは別な、いたって政治的な理由ですね。
いわゆる、オトナの事情。
理屈理論だけで合理的に考えれば、オール電子本の方が便利で余分なコストがかからないし、現実にコミックは電子本の方が優勢になっている。
いずれ、いつかは紙の本が消えて、電子本だけになる日が来るのでは?
そう考えて、ゾッとしました。
図書館の怪獣性です。
次章に続きます。
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