第12話

「おいっ!」

「ああ、マクラ君かい?今日は何の用だい?」


あいも変わらず乱暴な声掛け。

この声はマクラ君だな!と名推理をしながら声の方を見るとやはりマクラ君だった。

まあ、そもそも僕たちの部屋をわざわざ訪ねるような獣人族はマクラ君くらいなもので、他の子供たちは何故か僕に恐怖を覚えているらしく、声をかけてきたことは一度もない。

前にも言ったが10歳の成長期に入るまでは男女ともに美少女のような見た目をしているため、美少女に怖がられているようで少しばかり傷付く。

ちなみに10歳以上の子は城にはいない。

成長期に入ると、戦いは実戦で覚えるとばかりに戦場と言う名の略奪行為へ明け暮れる日々を送るからだ。

男は略奪のため、女は男たちの略奪行為を見て強い男を探し、気に入った相手がいれば妻になるべく様々な手段でアピールするのだとか。


「今日も勝負しようぜっ!今日はウェスパが剣を使えよ。おれが槍を使うからさ!!」


君は友達がいないのかい?

眩しいほどの美少女顔をこれでもかと見せつけて、微笑んでくれるのはこちらとしても悪い気分にはならないのだが、最近は僕とばっかり遊んでいる気がする。

友達がいないのかな?と少しばかり心配だ。

子供は小さなうちに子供同士の会話や遊び、喧嘩などを通して、様々な対人能力の基礎を築くと言う。

僕が死ぬ前の日本は隣人同士のコミュニケーションが年々減っているだとか、引きこもりがどうたらとか、ぼっちが増えているとか、色々と人同士の結びつきの弱さが問題とされてきたが、はてさて、彼はどうなるのだろう?

ボッチな主人公が出てくる物語の受けが良い傾向にあるのもそういう時代背景があるのかもしれない。

パーティプレイ…協力プレイ…リア充…連絡先数…既読スルー…うっ、頭がっ。

ちなみに僕もぼっち気質。

と言うか、友達が欲しいのに自分から行けず、相手から来るのを待って結局友達が出来なかったタイプである。

内向的なのだ。シャイなあんちくしょうなのだ。

なんにせよマクラ君には友達100人作って、毎日楽しく、パーリィして過ごして欲しいものだ。


だから、毎日こなくても良いのよ?

この子、徐々にエスカレートしてきたのかここ最近は毎日のように遊びに誘ってくる。

普通に嫌なんですが。

もちろん先も言ったように、僕は自分から行けなくて相手から来てもらうのを待つタイプだ。

だから、彼のようなグイグイ来てくれる子というのは本来凄くありがたい。

夏場のアイスよりも有り難みを感じる。

が、それも蛮族の子供でなければ、だ。


子供でも彼らは立派な蛮族なのだ。

最初は母からの獣人族と仲良くするな禁止令にげんなりしながらも、僕は喜んでいたさ。

これ、もしかしたら友達できるんじゃない?

修学旅行でまず最初に組もうぜって言えるぐらいの仲の良い友達できるじゃね?余り物で組む微妙な班割防止できるんじゃね?と。

なんなら親友になれるんじゃね?と。

異世界で親友出来ちゃいます?と、割と大興奮。

美少女な彼女が出来るのと同じかそれ以上に憧れちゃう存在、親友ってやつが出来ちゃいますね?と。

お互いの精神年齢を考えるとちょっと…と思わないでもないが、成長と共にその差は縮まるはず。

毎日がワクワクしていた。

夕陽をバックに殴り合いとかやっちゃうのかな?とか一緒にお風呂に入って好きな子を言い合ったりとか、ここは俺に任せて先に行け!なんかも出来るかもしれない。

蛮族の国だと言うことも忘れて、毎日が大はしゃぎだった。

だが、さすがの蛮族さん。

そんな浮かれポンチを沈むポンチにする事件を起こす。

いや、日本人的には事件でも蛮族的には日常茶飯事な事件だったのだけど。

それは母と抱き合いながら、僕の力の秘密を聞いて数日が経ったくらいの曇り空の日。

母は僕が獣人族の子供と何かしらのコミュニケーションを取ることを極端に嫌がる。

獣人族に対して恨みがあるからだと思っていたが、僕の力の秘密の話を聞けば然もありなん。

しかし、あの日からは多少仲良くする程度では特に何も言われなくなった。

理由を聞けば


「貴方は何があっても味方でいてくれるのでしょう?」


と笑い掛けられ、少しばかりドキッとトキめいてしまったのは母には秘密。恥ずかしいので。


「それに、あまり口煩く言うのも妻としてはいかがなものかなと。

旦那様を信じていますので」


アッ、ハイ。


なんて一幕もあったりして、特に問題なく、なんなら蛮族に転生して1番楽しい時期を過ごしていたのだが、残念ながら子供とはいえど蛮族だったのだ。


「おい、今日もやるよな?」

「…やるよ、母ももう何も言わないって言ってくれたし」


いつものように遊びと言う名の手合わせに誘われた日のこと。

その日はいつもあるはずの武器が無かった。

あれ、どこだろうと疑問に思うもマクラ君はすぐに原因が分かったらしく、彼はまたかよとボヤきながら武器を取りに行くと言う。

マクラ君だけに取りに行かせて1人で待つというのも、気が引けたので一緒に取りに行ったのだがそこは何故か武器庫ではなく、召使が普段住んでいるらしい区画だった。

何というか、ゲームだとかアニメや漫画で見たことのある拷問部屋を彷彿とさせる区画だ。

壁や床に血だと思わしき黒ずみや肉片らしき黒ずんだ何か、骨のかけらだったりと非常に殺伐とした雰囲気溢れるインテリアではないか。

これで拷問器具もあれば完璧である。

召使さん達らしき魔力をちょこちょこ感じたり、衣服らしきものや召使の物らしき私物などが所々に散乱しているのでもなければ、彼らの区画だとは分からなかっただろうね。なんなら未だに確信までは抱いていない。

なぜ彼らに与えられたはずの区画でこんなに血肉片が…あまりの劣悪な環境によるストレスで殺し合いでもしてるのかな?と思わせてくれる。

拷問部屋に行くとかじゃないんだよね?

たまたま武器庫に行くのにここを通るんだよね?信じていいんだよね?マクラ君。

映像ならともかくとして、現実に目の当たりにすると痕跡から予想される痛々しさに恐怖する。


「ここだな」

「ここが武器庫なの?」

「はあ?なにいってるんだよ?おれが武器庫の場所を知ってるわけないだろ?」


目の前には大きな扉。廊下はまだ続いているようだが、ここが目的地らしい。

扉の先には召使さんらしき魔力を沢山感じ取れる。

扉が大きい分、中の部屋も広いらしく沢山の人が集まっているようだ。


どばんっ、と。

マクラ君が思っ切り扉を開けると、やはり中には沢山の召使達が。

ちなみに奴隷扱いな召使は割と綺麗な身なりをしている。

なぜならここでは長生きできないから、悲しいことに身なりが悪くなる前に真っ二つにされてしまうために、自然と身なりは整っているのだ。


「おいっ」


いつも僕に対して声掛けしてくるマクラ君に対し、ぶっきらぼうだと感じていた物だが、彼が召使に対しての声掛けと比べると大分親しみを込めていたんだなあと実感できるくらいには冷めたマクラ君の声掛け。


それに気の毒なくらいに怯えながら、1人の年配の男がマクラ君の前に出てきた。彼が相手をするようだ。

一番近くで、目まで合っていたからね。

仕方ないね。

ちなみに、召使にほとんど男はいない。

獣人族はあえて女だけを攫ったり、献上させたりしているらしい。

昔は気にしなかったらしいのだが、そうしていたらヤケクソになった連中が、どうせ死ぬならとエロエロな行為に耽っていたことがあって、色々な体臭でイラッときた獣人族が皆真っ二つにしたと言うエピソードがある。

臭いからとりあえず女を選ぶのだとか。

それなら男でも良いのでは?と考えるかもしれないが、そしたらそしたで美少女な見た目の獣人族の子供や、僕の父の沢山の愛人やら奥さんやらに襲いかかるだとかでウザいらしく、女性になったのだとか。

もちろん、襲った男たちは女だろうが子供だろうが獣人族に敵うはずなく、皆真っ二つになったという。






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