第11話
「そうは言っても事は単純ではありません。龍神族の肉体、龍神族を元に改造を行うなど不可能です。まず捕らえることができませんし、捕らえて改造できたとしてもその力を組織の人間に振るわれてお終いですから」
「しかし、私たちは諦めなかった。獣人族の…できれば龍神族の子種をもってしてそれ専用の調整をした私が子供を産む。そうして生まれた子供に対して獣人族への憎しみを植え付けつつ、超人化術式を刻む」
「これが現在進行形で行なっている獣人族からの支配から逃れるための作戦の全貌です」
「貴方は…他の獣人族はウェスパが寄り仔として産まれたと思っていますが、違います。私の身体には獣人族の血を引き継ぎ易くするだけではなく、引き継がれる性質をより強くしつつも見た目に反映させずに生み出す加工もしてあるのです。つまり、貴方は潜在能力という面では、数百年に渡り頂点に居続けるあの父すらも超えているのです」
「さらには、貴方が産まれてから刻んでいた魔法術式。あなたは私が何らかの妄執に取り憑かれて意味のない行為をしていると思っていたかもしれませんが、あれが超人化の術式です。貴方の体質、成長に合わせて体に馴染ませていました。最近やっていなかった理由はすでに馴染みきったからなのですよ」
これが貴方の力の秘密。
そして、軽蔑したでしょう?と母は最後に締め括った。
正直、一度に入ってくる情報が多過ぎて、意外とアレな理由で産まれてビックリだ。
昼寝に対する眠気なんて全部吹き飛んでしまった。
まとめると獣人族に対抗するべくバイオ技術的なもので生み出された母がいて、でも母ではうまくいかなかったから僕を産んだってことらしい。
追い詰められている人間の現状を考えるとまあ、やむを得ないかなという印象だ。
「察しの良い貴方のことです。もう気付いたでしょう?
獣人族に対する恨み辛みを貴方に語って聞かせ、あえて寄り仔に生まれるようにして獣人族に好意を持たせないようにし、貴方もまた私達の逆襲劇に巻き込もうとした。到底、許されることではありません…分かりますか?私は私を母と言いながらも、貴方を自分の子供として見てはいません。あなたは兵器…です。獣人族を討ち果たすための道具として産み出しました」
母は異常なほどに美しい顔を痛ましげに歪ませて、懺悔するかのように決定的な一言を口にする。
「母は…私たちは蛮族と蔑む獣人族にも劣る畜生だったのです」
母から、私、と一人称に変えてまで言う言葉。
自らを自らで母に相応しくないと言っているようだ。
だが。
「でも、僕は知ってる」
母が眠った僕の顔を見て実はニヤニヤしていること。
母が語って聞かせてきた獣人族の恨み辛みは少なくなりつつあり、刷り込みからただの愚痴のようなものになっていることを。
母が何らかの事情で僕が外に出るたび、部屋の中でやたらとソワソワして心配気にしていることを。
母が僕が何か話すとどんな時、どんな内容でもしっかり聞き入れてくれることを。
僕は知っている。
確かに産まれて暫くは作戦に
でも、今は愛してくれている。
何故なら、こんなにも…
「手、震えてるじゃん。なんでこんなにふるえるの?」
「寒いだけですよ」
「抱き合っているのに?」
「ええ」
「僕に嫌われるかもしれないって怖いから?」
「寒いだけです」
「それに、わざわざここまで赤裸々に話す必要なんてないのにさ」
「お喋りな気分になる日もありますとも」
「黙っていられなかったんだよね?道具であるはずの僕に対して愛情が湧いてしまって騙し続けるのが苦になったんでしょう?罪悪感でさ」
「…母に対しては敬語を使いなさい」
「葛藤だね。嫌われたくないから喋りたくない。でも黙って何食わぬ顔で接するには情が湧き過ぎて黙っていられない。話して罪悪感から解放されたい」
「黙りなさい」
「しょうがないよ。人は孤独に戦い続けられるようには出来てない。唯一の味方に情が湧くのは自然だ。例え喋って嫌われたら全ての作戦が無駄になっても」
「おねがい」
「きっと、僕が考える以上に葛藤したはずだ。なにせ産まれて数年の僕と、作戦にかけた様々な思いや年月を天秤にかけたんだ」
「だまってっ!」
僕を抱きしめる彼女の力が強まる。
そこから先は聞きたくないと言わんばかり。
彼女自身、自分で何がしたいのか分かっていないのかもしれない。
喋るつもりのないことも、つい喋ってしまっただけかもしれない。
彼女はこの城での孤独な戦いに疲れ果て、誰かに終わりにして欲しかったのかもしれない。
彼女ではない僕には分からないが、しかし、これだけは言える。
「僕は母が大好きだよ。だから、大丈夫。何があっても味方でいる」
「…許されない。私は…貴方を…」
「…なるほど。母はずっと怒られたかったんだね」
蛮族を、好き勝手する行為を蛇蝎の如く嫌う彼女のことだ。
自身のしたことはいくら人類のためと言えど、許されないと考えたのかもしれない。
僕を愛するがゆえに僕に裁いて欲しかった、ある種の甘えだろう。
だから、僕は思いっきり彼女を叱ってやる。
「こらっダメでしょ」
「…もっと」
「ダメだぞう?」
「…もっと」
「ダメなんだからねっ!?」
「…もっとっ」
「お尻ぺんぺんだっ!お尻を出しなさいっ!」
「…うん」
うぅええっ!?
ちょっ、それは流石にどうかなって思う!!
そこは、もっと、じゃないんかい!?
などと思いも寄らぬ返事にあたふた…いや、あたふたしているように見せて実は見たかったとか止めようと思えば幾らでも止めれたでしょと言えなくもない。
でもほら、母は超美人だし、前世の記憶を持つ僕は彼女のことは母と言うよりはある日急に同棲することになった美女という認識の方が強いし。
下着を脱ぐ彼女のソコが気になってしまい、止めるための意思が弱いのは致し方ないことだろう。
あっ、色々見えちゃったです。下着を脱ぐ必要あるのかな?とは頭の片隅で思っていたが、なぜか口には出せなかった。なぜかね。
結局、お尻ぺんぺんはしたし、一児の母とは思えない色気に思春期に入っていないことに感謝した。
そんなこんなで次の日。
「ウェスパがこんなにエッチな子だとは思いもよりませんでした」
「母よ、それは酷い風評被害というものです」
「…責任は取ってもらいます」
「…母よ、それは嫁入り前の娘が言う言葉です」
「母は愛人扱いなので、嫁入り前ですよ?」
「まあ、どのみち親子なので結婚は出来ないでしょう?」
「実は貴方の父には特殊な術を掛け、子種だけを回収しました。それを選別、私の血と魔法反応を起こさせ、エルフの形質的特徴が出るようにした上で、私の胎に魔法で直接受精させました」
「…急にどうしました?僕が父の戦闘力を色濃く、引き継ぎながらも寄り仔として産まれた理由を語り出して」
「私は処女のまま妊娠、出産をしたと言うことです。つまり、産まれるために私の膣を通ったウェスパが私の初めての男となります」
「今までで1番の驚きなのですが」
となると僕は産まれると同時に童貞を喪失していた?
なんというパワーワード。
産まれた瞬間から童貞卒業?
アホくさ。
あと、一応言っておくと驚いたのは処女がうんぬんとか童貞がうんぬんという部分ではなく、人工授精を普通に魔法でやっている点である。
魔法ってすげー。
「つまり、責任を取って私と結婚するしかないわけです」
「流石に無理がありませんか?」
「…いや、なのですか?」
嫌なわけがない。
産まれたときから中身成人なのだ。
母親であると言う認識もあるが、異性であるという認識もまだある。
あと、なんて目で見てくるのかと。
母ほどの美人にそんな目をされたらこう言うしかない。
「僕が成人しても母の気持ちが変わらなければ」
「…ですか。では、その日を楽しみに待っていましょう。幸い、私は強化エルフです。寿命的にはまだ赤子レベル、貴方は獣人族の血を引いている分、あと数年で大人になるはず。その頃には作戦の進退もある程度見極めることができるでしょう。場合によっては2人でどこか誰も知らない場所で…」
それからの母は恨み辛みを言っていた時間が、子供は何人欲しいだとか、家の間取りは幾つが良いとか結婚してからの生活に関する話に変わったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます