第6話

して、僕にとってのアンラッキーボーイ、マクラ君のことに話を戻す。

彼との出会いはいつの事だったか。

重ねて言うが、獣人族は寄り仔に…厳密に言えば同族の弱者に対して特段、絡むと言うことは無い。

彼らは生物として圧倒的強者に位置するため、良くも悪くも弱者に対する興味が薄い。

道端で羽虫を見かけたからと言って、いちいち「おっ?俺様の前を許可なく横切るとは…無礼千万、問答無用で縊り殺してくれるっ」と羽虫を追いかけ回して殺して回るような人間は普通いない。

いたとしたら狂人の類くらいなものだ。

あれ、でも人間を真っ二つにして回ってるじゃん?と思ったかもしれない。

良くも悪くも、と言ったのはそこに理由がある。

先の例えをもう一度、使うが、羽虫を生涯に置いて一度も殺さないかとそんなことは無いはず。部屋に侵入して目障りだからとか、血を吸うからだとか、農業害虫だからとか何かしらの明確な理由があったら例え羽虫であれ積極的に殺すことはある。


獣人族にとっての人間もそうだ。

自らが喧嘩を売ることはなくても、相手から売ってきて周りをブンブン飛び回っていたら真っ二つにするし、命を狙って自分の部屋に侵入してきたら目障りだと真っ二つ、自分にとって価値ある物を持っていたら良心の呵責無く分捕り逆らえば真っ二つにするし、なんなら新しい武器の試し斬りだと真っ二つにだってする。


獣人族は多種族に対し害意を持って襲うことは実はあまり無い。

彼らにとって人間族や妖精族は虫けらとまでは行かないまでも、お気に入りのおもちゃ感覚程度の価値しかないために。


これが同族だと、同族ゆえの薄い仲間意識が芽生える。

弱者扱いの寄り仔の僕がいまだ真っ二つにされてないのは同族の血を引いているし、一応群れのボスたる王から生まれた王子だし、という部分が大きい。

獣の文字が入るだけに彼らは上下関係を大事にする。

これはおそらく生物として繁栄するための本能行動かと思われる。

なにせ彼らは蛮族なのだから上下関係は絶対、くらいの最低限かつ絶対の掟でもなければ今頃同族同士で真っ二つにし合って、絶滅危惧種くらいにはなっていたに違いない。

子供が極端に可愛らしく生まれるという生態も含めて闘争本能が同族に向かわないようになっているらしい。

まあ、それも絶対ではなく群れの長たる王やその決まりが気に食わなかったら下克上が始まったりするらしいのだが。

実に蛮々ばんばんしているね。

あ、蛮々ばんばんしているとは僕の造語で実に蛮族的な様、を指す言葉である。なんてね。

閑話休題。

話を戻すが、目の前のマクラ君と出会ったのは彼らが遊んでいた場所にたまたま僕が迷い込んだ時のことだ。

基本的に僕は自室であり母の部屋でもある場所から歩き回ることは無い。

あまり良い目で見られないし、一応、王子といえど沢山いるうちの1人かつ寄り仔だ。

なにかの間違いで真っ二つにされても「おっと、ついヤッちまったぜ…ううん、まあ、寄り仔だし別に構いやしねぇか」となりそうで怖かったし。

しかし、ある時トイレのために部屋を出た帰りのこと。

目の前で四肢を裂かれている遺体と、そうした張本人がいた。

彼はガガーサル。

本来なら、弱者に対して必要以上の興味を持たない獣人族であるがどこにも例外は存在する。彼は弱い物虐めが好きで、普通の獣人族ならば真っ二つで済むところを敢えて悲鳴が聞けるように四肢を切り落とす、というエグい殺した方をする。

当然、そんなヤバいやつに近付きたいわけがない。

何かの間違いで僕を殺しかねない奴の筆頭がこいつだ。

幸い、同族を殺したという話は聞かないが寄り仔は分からないし、いずれ父を殺して俺が王となると公言しているのもヤバい。

王子であり寄り仔の僕程度では気まぐれでヤられそうだ。

なので彼を避けるべく大回りして自室に向かおうとしたのだが、結果迷ってしまった。

あまり獣人族に話しかけたくないが、こうなれば誰かしらを捕まえて聞くしかないと思い声のする方へ向かうと、集団で遊ぶ子供達の姿。

子供相手ならいくらか接し易かろう、さすがの蛮族と言えどもそこまで蛮々ばんばんしてるまい、と考え安易に近づいて全容を把握した途端にドン引きした。


死体切りしとるやん。


思わず手近な子供に聞いてみると、うわっ寄り仔だみたいな目線を向けられたものの教えてくれた。

子供特有の要領を得ない説明を要約すると、この城内広場では真っ二つにされた人間族や妖精族の死体を使って、子供達に武器の扱い方を学ばせたり運動させたりするのが目的のようだ。

ご丁寧に腐りにくくなるよう内臓は抜いてある。

獣人族はそんな面倒なことを自分でしないから誰か召使にやらせたんだろうなぁ。

命じられた召使は色々な意味でたまったものではなかったろうに。

それはそうと…この光景を見てそれはそれと流せる自分の感性に怖くなりながら…2つほど気になる点がある。


僕も王子のはずなのに呼ばれてないよねってことと、武器の扱いを学ぶとか言うわりには教師となりうる大人の獣人族が1人もいないことだ。

いや、前者はまあいい。

寄り仔だから呼ばれてないのだろうし、呼ばれたところで嬉しかったかと言われればもちろん否だ。

後者はどうなのだろうか?

子供達だけで武器の扱いを学ぶとか無茶では?

なんなら大怪我しそう。蛮族ならではの粗暴さが発揮されてのことかな?

適当に武器を振るってれば自然と覚えるじゃろ?的な。


そんな感じのことを話しかけたキッズに聞いたところ返答は実にシンプルで蛮々ばんばんしていたよ。


「振ってみれば、大体わかるでしょ?」


と。

何言ってんだこいつみたいな目で見られた。

その目はどちらかというとこっち側のものだから!

振るだけで分かるわけないじゃん!?


実際は分かってないのに分かった気になっているだけか、たまたま話しかけたこの子が天才肌だっただけだろうと死体切りに精を出すキッズ達を見てみると、おっふ。

確かに彼…か彼女かはあいも変わらず見た目では判別がつかないがとりあえず、彼の言う通り素人目にもキッチリ振れてるように見えた。

なんなら達人の演舞かな?と錯覚するレベル。

…錯覚か?すでに達人レベルに至っているのでは?

恐ろしい。

どうやら僕はいまだ彼ら獣人族という名の蛮族どもを過小評価していたらしい。

骨どころか魂の髄まで戦闘民族してやがる。

10に満たないキッズで人骨を物ともしない剣閃を繰り出す民族にただの人間が勝てるわけがない。

この世界において獣人族一強な理由が実によく分かる一幕だった。


そして聴きなれない声に反応したのかキッズ達がチラホラこちらに気づき始める。

初めは何で妖精族が?という怪訝な目で見られ、僕と目を合わせ、爬虫類のような紫色の縦瞳孔に気づいて寄り仔か、と下に見る目線に変わる。

とりあえず本題に入ろう。

あまり部屋に戻るのが遅くなると母が心配するかもしれない。


「自分の部屋に戻れなくなってさ。道を教えて欲しいんだけど…」


と言うと、周りのキッズ達が一斉に笑い出した。

自分の家で迷ってるのかよ、情けねーみたいな感じで口々に嘲り笑う。

見てくれは天使と見紛うほどなのに、中身がクソガキ過ぎてそのギャップにこっちが笑いたいところだが…何、こちとら見た目は子供、頭脳は大人なコナ○キッズよ。

静かな水面を思わせる寛容さで貴様らのクソガキっぷりを流してやろうじゃないか。

親から習わなかったか?

人を嘲笑ってはいけませんと。

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